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宮廷料理は食べ飽きた

作者: ほうとう。

実質いろいろスタイル実験中



豪華絢爛と言えば聞こえはいいが。

みているだけでおなかいっぱいというのが多分健康な人間の感想だろう。

いくら実家が食い物屋でも人間、毎日食べられるものと食べられないものがあるというもの。

脂身たっぷり濃厚な味付けこってりでどれもこれもテカテカしているフルコースを前に、厳かに告げられる一言が耳を打つ。

「ではお願いしますねバジル」

「はい」

胃液がこみ上げてきそうなのをどうにかこうにか飲み込んでそれでもそうと返事はするが、その調子が露骨に不機嫌な返しはもう自分にとっていつものことだ。

単純に私の方の引っ込みが付かなくなっているの半分、心底イヤだと思ってるの半分。

だから頼んできたーー命令したことに対してメイド長のローズマリー様はむしろ申し訳なさげな目線を送ってくるだけで、行儀が悪いと叱りつけてくるようなこともない。

彼女は普段の仕事のミスならともかく、このお役目に限って言えば同情的なのだ。

立場上はなにもできないので形だけだけども己がしている命令がどういうものであるのかちゃんと理解していらっしゃる。

しかし同じようにここにいるメイドたちは私の不満や不機嫌なんて何一つ理解できないんだろう。単なる見物者でしかない故に安全が保障された立場もある。

大半が私の(身分もなんだろうけど)態度が気に入らないとばかりに露骨に顔をしかめたり、バカにしたりに近い目線を投げてくるのがみなくてもわかる。わざわざ真っ正面からみせてくださったのも一度や二度じゃないので。それなら代わってクダサイよマジで。

一部うらやましそうなのはもうそろそろ半年、一度も何も起きてなくて油断してる人かな。まぁ結果がないならそうもなるかもね。

まさにそりゃそうだ。私はこのメイド長の「お願いしますね」で事実上シネと言われている。

正しくは死ぬかもしれないごはんを食べろと命令されている。

いや、このラインナップ食い続けてればたぶん普通に死ねるけど。

残念ながらというべきか、それともおかげさんでというべきか、実際には一発KO死はない。

毒耐性どこか状態異常耐性、味覚分析スキルを持ってる私は毒じゃ苦しむことすらないし死にゃーしない。

せいぜい少し舌がしびれる程度の違和を数秒ばかり覚えるだけだ。

だから命令されている。される立場になってしまった。

こっちは一切合切頼んでもいないのに。

うん、順番で言えばこちらの方が正しい。毒耐性があるから毒味係としてこの城で働いているーー働かされている。

毒耐性があるからという理由だけで、朝だろうが昼だろうが夜だろうがくっそ脂っこい胃にくる肉メインのバリエーション少ない食い物を胃に収めさせられている。

ところでマイ・スキル。肥満は状態異常に分類されますか?


***



真っ当な立場である貴族の次女・三女が主体となるはずの王宮においてメイド教育どころか未だ成人していない庶民な私がこの城につれてこられたのは半年前。

それまでの自分は城下町のどちらかというと労働者たち相手がメインの定食屋の看板娘だった。自分でいうのもアレだとは思うんだけどね。毎日毎日かーちゃんととーちゃんが作ったごはんを運んで運んで食べて運んでつくるの手伝ってやっぱり運んでを繰り返していてそれなりに充実した生活を過ごしていたのだ。自分も食べることは好きだったし食べる人をみるのもまた好きだったのもある。ぼんやりとここは自分が継ぐんだろうなぁと考えていてそれが楽しみでもあるし少々不安でもある、そんなある日。

見慣れないお客さんがいるなぁとか思いながら注文通りのものを出してさて次はと身を翻したところで腕を捕まれた。

びっくりして振り返った先で酷く真剣にこちらをみるお客さんは「どうしてこれを使っている」という一瞬意味の分からない言葉をたかだか看板娘に聞いてきた。

どうしてという言葉が何にかかっているのかさすがに最初はわからなかったが、注文品にあぁと理解できた。確かに「食べられない実」のにおいがすれば不安にもなるだろう。

「それはちゃんと毒抜きしてありますから大丈夫ですよ」

失礼は承知だったが他のお客さんも食べてますしというとその人は再度戸惑ったような顔をしてからどうやって、とうめくようにいった。

どうやってもなにもそんなの試行錯誤だ。香りはいいのに食べると腹痛を起こすというこのイムの実を加熱したり干したり塩漬けしたりして保存食になることを突き止める努力をしたのはかーちゃんだ。

あれはこれはと聞かれながら、いろいろな方法を試したのを食べさせられた。

できあがったものは結果的には鬼のように酸っぱいが、風味に使うと食べやすくなる上に疲労回復につながるので、安価で手にはいるが敬遠されがちな癖の強い青魚の煮込みは今では店の看板メニューの一つになっている。おすすめマークが付いていたからこの人もたぶん頼んだのだと思うけれど。

「イムの実の無毒化は宮廷におけるトップシークレットの一つだぞ」

「はぁ?」

意味がわからずに声を上げた私はたぶん悪くない。実際いきなりそんなことをいってもこちとら実験経過を文字通り身を以て体感していたのだからうろんな声にもなる。

「それとも客を使って実験を」

「するわけないでしょ!だったらウチの店こんな繁盛してないわよ」

そもそも加熱すれば毒性がほとんどとれてしまうのだ。ちょっと好奇心が強ければ結果は誰にでも出せるのにトップシークレットとは片腹痛い。そもそもでトップシークレットすぎてトップシークレットと言うことすらこちとら知らん。

うちはむしろ製法隠してないし聞かれれば応える程度だ。まぁみんなちまちまヘタだの種だのとるのを面倒くさがってやらない結果、おかげさんでこう忙しい日々をおくっているのだけど。ちなみに一番人気は強めの酒に漬けた果実酒です。

不愉快な客に優しくする気はないので気にくわないのでしたらでてっていただいて結構ですと切り返す。誰か常連が「まぁバジルちゃんには毒耐性があるもんなぁ」と自慢げにいった。いやあんた関係ないっしょ。隠してもいないことだからその時はそんな切り返しですませた。それがまずかった、ということだ。

「毒耐性?」

「状態異常耐性です。味覚分析も可能です。だから安全ですよ」

再度うちの店にはなんの落ち度も後ろめたさもないということをアピールしただけのつもりだった。

実際その人はその後普通に食べて普通に帰って行った。もちろん普通に支払いして。騒いだ分くらいチップはずむくらいすりゃぁいいのに。

だがもっとはた迷惑だったなのは後日。私の身柄を王宮にて預かり、国王の毒味係にするという勅命にあのクズが誰だったのかと聞けば城の料理長だと応えたのは更なるクズだった。

王の側近を名乗り、王のために命を懸けられる私を憎らしいとまでいってのけた変態っぷりの顔だけ美形。

もちろん私にも保護者たる両親にも拒否権はない。なにせここは「王都」だもの。

別に断ってもなにを仕掛けてくるわけじゃなかろうが、そんなものは表向きの話だとことの成り行きを見守るほかない誰もが察していた。

店の営業許可を取り消すことも、無実の罪をでっち上げることも難しいわけではないのが「権力」なのだと知っている。今の王がいくら賢王と評価されていても、過去の経験が私たちから抵抗と希望を奪う。


そんなわけで単純に毒味係だけかと思ったら、飯時以外は暇なのだからとメイドまでやらされることになったのがバジルという私の経過。

基礎知識と能力ないから本当に下っ端仕事だけど。むしろ荷物運びにあんなへっぴり腰なお嬢さん方が理解できない。あんたら腰痛めるぞ、と。

それと一応どうやら他の娘よりも給料はいいらしい。まぁ向こうは命は基本かけてないもんね。当初から露骨にぶーたれながら「はいはい」と返していたから詳細は正直頭にはいっていないしそもそも使う機会がないのだが。大体命を給料で計らせられてる時点でなんていうかアレだし。どれ。

とはいえ。なにせ異常耐性は確かに比較的貴重な人材だ。

だが。だからこそ権力者にとっつかまった時点で飼い殺しは確信している。

っていうか知ってしまった。今となってはあの酔っぱらい常連を責めても詮無いのだがこんな状態が明確である中、将来いろいろ考えていた小娘が笑顔でいろいろ対応できるわけがない。偉いとか偉くないとかも関係ない。仕事はしていたが成人していたわけではない。せいぜいお手伝い程度の認識だった正真正銘の「ガキ」なのだ。それも庶民の。貴族なんぞろくな仕事もできないクズの集まりなんでしょう?って考えが一般的だった層の。

「でもガキなのは事実だけどもうちょっとうまく世間渡ったらどうかなぁ?」

「無理イヤ不可能。そもそもこっちを人間扱いしてない上司とか嫌悪しかないし」

「まぁそうだよね。そこは本当にごめんね、としかいえない」

昼のお勤め(毒味)が終わり、一応ある休憩時間。私の居場所は城の東にある小さな(といっても実家の面積の4、5倍はあるが)林の中にある平らなスペース。行動目的は実用を伴う気分転換だ。

ささやかな、ベッド4つ並べたくらいの小さな畑だ。脇にある大きな石の上で器用に座っている見物人が同情ともあきれともとれぬ反応でこちらを見下ろしてる。暇なら手伝ってくれてもいいと思うのだけどこの人の服にも指にも土なんぞつけたら大騒ぎだ。

「その上司はまともなんですけどね」

あくまでも「比べれば」という点では。自分の立場をわかってるから、頼めば手伝えることはしてくれるのを私は知っている。

ちょっとくすぐったそうな、うれしそうな顔も悪くない。彼が賢く「まとも」なのはいくら貴族嫌いでも市井で過ごせばよくわかる。

「水、いる?」

「おねがいします」

「はいよー」

ゆるーく、白い高級布をふんだんに使った服の袖からその腕をさらりと踊らせる。腰の高さくらいのところに畑全体を覆う雲が生まれ霧状の雨がざぁっと畑をぬらし、土のにおいを濃密なものにしていった。一度鉄砲水みたいなのをやられて叱ったら調整するようになった結果だ。いつも通りなら30分くらい降っている。

「で、なにをつくってるの?」

「二十日大根とサニーレタスと。あと大根と」

「大根好きだね」

まぁ否定はしないが、効率とかあるし。

「時期の問題です」

「なるほど」

この辺はあんま理解してねぇな。多分。仕方ないっちゃぁそうなんだけど。

「取れたてを生でパリパリ食べるとジューシーでおいしいですよ」

「楽しみ」

とれたてなら毒味もいらないしね。にこにこと国王がいった。

そう、国王。

私の毒味のあとを食べる立場の人であり実質国における最高上司。

だが実際には同じ釜の飯を食う仲というか。なんか違う気がするが、それがきっかけで彼からこちらにこっそりと会いに来て以来、謝罪とともに友情もどきのような上下関係を保っている。

一番確かなのは私同様、宮廷料理の偏りっぷりにうんざりしている人という点だ。

「とりあえずあのクズの思考回路どうにかならないですかねぇ上司」

「ムリだよ。あの人僕の話聞いてないもん。あの人が仕えているのは国王で僕じゃない」

「国王でしょう、あーた」

どうもつっこみは敬語じゃなくなる。

しかしなんとも難解な話だな。どゆこと?

「だから。国王っていうお題目に仕えているんであって僕の意見は興味ないんだよ。平たく言うと国王に仕えている俺かっこいい思考」

「あぁなるほど」

本当にクズの話だった。

なんでもあのクズの家は王気の血をうすーく持っているが今までなんだかんだと一族郎党パッとせず、現在のように才能を見出してくれた目の前の人を盲目的に信仰しているそうだ。

おかげで成果を上げようと周囲が見えずに暴走する傾向にあるという。いや使うなそんなん。その暴走被害のひとりなんですけど現実問題。

とはいえ国として機能しているならまぁいいのかな?実際やりすぎるようなことはないようにと目は光らせてるとのこと。発案は出来ても決定権は一応国王にあるからね。

じゃぁ私は、といえばとっくに謝られている。実際のところ毒味役を探していたのは事実で、みつかったっていうからじゃぁ交渉してといったのはこの王様だ。

交渉が脅迫となんらかわりなく、命令どころかかっさらいにしかみえなかったのはもう貴族という階級が刷り込まれているせいとしかいいようがない。ここら辺りは認識の違いとしかいいようがないだろう。悲しいかな自分が中途半端な時に解雇されれば逆に店の評判に響くのも事実だった。そしてその能力故に自意識過剰だったり死亡フラグ乱立だったりする貴族がこぞって自分をどうにかしようとするのも目に見えている、と。王様に謝られながら諭されて気づいたけど。そうやって口先だけで行動して結果迷惑を被る人がいてそのフォローに王様が奔走することも少なくない。

「そりゃその国王もサボりますわ」

「そゆこと」

悪びれもなく返すか、そこで。

「ごめんねバジル。5年、5年だけつきあって。そうしたら任期満了て形にするから」

「能力消えるわけじゃないからどーなんでしょうね」

この人が諭した通り、敵の多い貴族に引き渡されそう。払い下げ?っていうか思春期の五年をなんと心得るか。てか恋愛要素も皆無だとしか思えないんだがこの展開。

「そしたらバジルとふたりで誰もしらない土地で野菜メインの定食屋さんでも開こうか。あ、ちゃんと畑もやるよ」

「はぁ?」

なにをバカなことを。あなたはこれからもずっと王様でしょうに?

呆れたような間の抜けたような返しに、彼はにっこりと宣言した。多分、超絶トップシークレット案件を。

「王政廃止する方向でがんばってるから」

「は?」

それは多分、的確な答えとしての言葉だったのだろう。

が。おまえなにいってんの?いやいや実は。いやいやまってまって。

「国なくなっちゃうの?」

「王国って意味じゃぁね。目標は民主政治」

それってそんなこと進めようとしてる王様殺そうってあの手この手が増えるってことで理解はあってるんだろうか。いや、みんしゅせーじがなんだかわかんないけど、そういう理解でいい気がしてきた。

だって貴族が国守るのは自分が貴族であるためでしょう?

「なんでまた」

「あれに王様って言われるのさすがに疲れちゃって」

そんなんクビにしろや。最高権力者。

「あとバジルのごはんなら毎日食べたいからかな」

「はぁ」

まぁ食べ飽きてるよね、宮廷料理。

んー、今度実家連れてってあげるかぁ。




















以下思いつきシーン

連載予定だったんですよ当初は

裏設定にあらず



「お前がバジル?はじめまして、クミンだ。王様の護衛やってる」

「大変でしょう」

「その心の底から同情するような一言に答えたらアウトなのわかってるか?」

「否定しない時点で同類だと思うですけどね。えーっと」

「あぁターメリックです。お見知り置きを」

「ローリエともうしますわ。よろしくお願いします、バジル」

「ハッカクと申す」

「よろしくお願いします、クミン様、ターメリック様、ローリエ様、ハッカク様」

「様なんかいらねぇよ。気ぃ張らないでくれ」

「いやそーゆーわけには」

「だって俺ら全員貴族じゃねぇもん」

「はぁ」

「あのお偉いさんが考えそうなことでさ。王様に取り入られても後ろ盾なけりゃ調子に乗らないだろう、と」

「それ同時に王様にも力のある貴族とのつきあい制限させてるってことだよね?」

「だから貴族ぶっつぶす方向がんばってるんだろあの人」

「クミン!」

「だってこいつの頭じゃ黙ってる方が失礼っぽいからな。うん、気に入った。回転早いわ」

「日々面倒なのに晒されてるからねー」



**



剣を切り結ぶ音。

乱れた息づかい。

お手本のような殺意。

物語のワンシーンそのものの襲撃は、形式美という言葉がよく似合う。

「こいつら、身体強化かなんかしてる?!」

「安全な身体強化なんてないぞ」

王様の声にハッとする。つまりドーピングという名の「状態異常」。

「くそっ、不利だ。向こうとこっち、準備も覚悟も違いすぎる」

大きな舌打ちには同意するがズルなら私にーー手がないわけじゃない。

「こなくそぉおおっ、魔力使うからやりたくないっぞっ、と!!」

「バジル!!」



「他人の状態異常も、キャンセルさせられるって?」

「バフも状態異常っていうの?この場合」

「身体の負担という点において作用してくれたみたいです」

「おいおい。教会辺りが聞いたら強制的に聖女だぞ」

「騎士団辺りでも監禁させられますね」

「娼館とか共有財産にされそう」

「やめて本当に死んじゃうそんなの」

「死んだら殉職扱いだからな。早ければ早いだけいいんじゃねぇの?あっちの感性だと」

「ろくな組織がないっ!うちの組合にかえりたいよぉ」

「権力ある人間って基本クズしかいないからなぁ」

「うぉい最高権力者!」

ついつい流れが戦記モノになりそうになるんだがそれはそれでしんどい

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