八発目
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……と音が等間隔に鳴り、俺の体には緊張感が走る。画面を見ると音と合わせて線が波打つ。この波がなくなった時に……ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピーーーーーーーーーーガシャッ。
「はい、弾丸屋です」
その音が終わり聞こえたのはごつい声だ。俺は聞きなれているどこか安心するような声。
「もしもし、親方ですか」
「おお、その声はジントか。ブツは届けたのか」
「ブツって、俺はどこかの闇商人じゃないんですよ。てか親方、俺にどんな人に渡すか言ってなかったですよね」
「そうだっけか」
なんか親方、適当だな。
「まあいいや。親方、いまイチカという人と一緒にいて、その人がやっているマッサージ屋に居るんだけど、その人に渡せばいいんですか」
「あの痛ーいマッサージ屋で『天に昇りたいならここに来い! イチカの弾丸マッサージ!』って看板があるところなら間違いない」
こんな看板があるところは二つとないだろう。天国に送ってあげますよって言って、実際に客はそんな感じになってるらしいしな……。
「……ここで間違いないようです。親方、ありがとうございました。じゃ、切りますよ……」
「まあ、ちょっと待て」
「なんですか」
「あの子可愛いだろお前のいい出会いになればって……な」
「な、じゃないですよ! 轢かれかけ……いや、轢かれましたし」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なんですか」
「俺も轢かれた」
お前もか! イチカも人を轢きすぎだろ!
「でも可愛いから許したし、仕事の依頼も入ったからな。可愛い子に会えてそんでもって仕事ももらえて一石二鳥だ」
「あんたきれいな奥さんいるじゃないすか」
「でも娘はいない」
「そうすか……何の話ですか?」
「お前も轢かれたと言っていたけどそこまで怒ってるわけじゃないだろ」
「まあ、そんなに怒ってないですけど……怪我もなかったし」
「ならいいじゃねーか、その女もらっちまえよ」
「……何言ってるかわからないんですけど、話の流れから考えてそのセリフ出てきませんよね!」
「いいかジント、これはチャンスだ。イチカにはお前を轢いたという強い印象があるんだ。それをそのまま……『ジントが好き』に変換しちまえ」
俺の話は無視ですか……ていうか……。
「いきなり何とんでもない暴論ぶち込んでんですか。俺はそんなことできませんよ……万が一やるとしても付き合ってる男とかいるんじゃないんですか……可愛いし」
「いや、それはないみたいだぞ。というか今まで付き合った男もいないと言っていた」
「そんな話いつ聞いたんすか……」
「この前電話でな。……ぶっちゃけ、俺が轢かれて初めて話した時からジントとくっつけるといいんじゃねーかなって思ってたんだ」
なんで親方が恋のキューピッド的なものになろうとしてんだ!
「いや、ぶっちゃけすぎですよ。……何で俺にそんなこと言うんですか! やるなら、影から見守るようにやってくださいよ!」
「まあまあ、お前も俺の弾丸の目利きを知っているだろう。で、その俺が言ってるんだ相性は抜群だろうよ!」
「……どうしてそんなに自信を持って言えるんですか。まず、弾丸と人とは違うのに……」
「いいや、違わない」
「なんでそこまで断言できるんですか」
「それは、俺の嫁もその目利きで決めた」
「……え」
「この女が俺の嫁になる女だと見えたから結婚した」
………………え?
「いやいやいやいやいやいや、そんなんで母さんを選んだんですか」
「いや違う決めたんだ。そしたらいつの間にか俺はあいつのことが好きになってあいつも俺を好きになってくれたんだ」
「……いや、そんな自信もって言われても。まあ、それは分かりました。で、母さんをどうやって落としたんですか」
「結婚してくれって言ったら『いいですよ。ちょうど私も探していたんです、いきなり結婚を申し込んでくれるような人を』って言われてOKだったぞ」
………………え?
「……いやいやいやいやいやいやいいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、母さんはそんな二つ返事で結婚を決めたんですか」
「まあそうだな。『好きになるのは結婚してからでも遅くないですし、でも夜の方はもっと時間が経ってからですよ』とも言われて、実際にそれを実行して好きになってくれたから、軽い想いで結婚したわけではないだろうな」
「すごいですね母さんも親方も」
「まあ、俺がすごくない訳はないがな。でもお前の母ちゃんのほうがすごいかもな」
自分がすごいことは否定しないんですか……そういう人ですよね親方は。
「そりゃ、親方の所見プロポーズを二つ返事でOKしたんですもんね」
「いや、俺も気になって話を聞いたことがあるんだが、二つ返事というか俺の事を見た瞬間に俺が心の底から本気でプロポーズしてることを見抜いていたらしいんだよな。心の底から本気じゃないなら受けてなかったって言ってたし……なにより直感で今日告白されるってわかってたらしいんだ」
「それはいくら何でも……」
「だよな、俺もいくらなんでもそれはと思ったんだが、あいつは嘘をつくことが苦手だ……というかつけない」
「俺も嘘をつけないことは母さんから聞いてますね……嘘をついてはいけないとも」
「だから本当の事なんだろうな」
……また、あの話か。
「信じてるんですか」
「そういうことだな。ということで、案外お前も心に底から告白したら行けるかもよ。結婚してからイチカを好きになってみたらどうだ」
「……親方もしかしてですが、俺が神様からもらったっていう弾丸の事を知りたいからそういうこと言うんじゃないですか」
「……ま、まあ、それもあるが」
「……あるが?」
「孫の顔が見たい」
「……」
いや、話飛びすぎだろ!
「孫の……」
「聞こえてるよ! 気が早すぎるんじゃないのか親方!」
「そうかもな、でも最後に言っておく」
「……何ですか」
「人を好きになるには選ぶのではなく決めることが大切だ! じゃ、孫の顔を待ってるぞ」
「……ちょ、おい!」
切りやがった、親方の奴。てか、今待たれてもな……なんか帰るとき気まずそうなんだが……まあ、気にしててもしょうがないか。……さてと、イチカにこれを渡しに行かないとな。
連絡をとるために少し痛む体を引きずり廊下に行っていた俺は、弾丸を渡すためにイチカの部屋へと戻る。
「どう、私で間違いなかったでしょう」
「まあ確かに、ここにいるイチカで間違いないようだったな」
「それじゃあ」
「……はい、ご注文の品お届けに参りました」
「今更そんなに改まらなくてもいいよ」
「……そうか、なら。……これでいいか」
そう言い俺はイチカに弾丸が入ったケースを渡す。イチカはその中身を確認して、問題なく注文した物は全て入っていたようだ。そしてまた笑顔を作り……。
「ありがとう」
太陽を超える笑顔を俺に向ける。
「……その笑顔、なんか良くない物が寄ってきそうだな」
「……なに、私の顔が不気味とでも言いたいの」
イチカはあからさまの不機嫌そうな顔になる。
「違うその逆だ。お前の笑顔が可愛すぎるから、悪い男が寄ってくるんじゃないかって思ったからさ」
「そ、そんなに可愛いの」
イチカは恐る恐るといった感じにそう言う。
「いや、お前のこと可愛くないという人がいたら俺は文句を言ってやるね」
「えへへへ、ありがとう」
また、笑顔に戻り顔を赤らめながら嬉しそうにしている……あれ、何で俺こんな恥ずかしいことを平然と言ってるんだ……まあ、事実なんだが。
「でも、大丈夫だよ今までそんな人と会ったことがないから」
「そうゆう人は案外近くにいるもんなんだよ、気を付けておけよ」
「そうなの……分かった、覚えておくよ」
「その方がいいと思う」
「……近くの人か……もしや……」
「……なんで俺を見る」
「……近くに……男の人が」
「俺は悪い男じゃねーぞ!」
「自分で言うのが怪しい……あ、私の部屋に……」
「はあ、お前が部屋にあげたんだろ……はあ」
「ああ、そんな顔しないで……ね、ちょっとやってみたかったから」
「……そうですか」
「……ちょっとね」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が訪れた。するとイチカが棚の方で物を探り始め小さな箱を取り出してくる。その箱には救急箱と書いていてその中には手当てをするための弾丸が入っていた。イチカはそこからいくつか取り出しこっちへ近づてきた。
「そ、それじゃあ少し擦り剥いているようだから手当てしてあげるよ」
「いや、必要ないよこんなのほっといたら治るし」
「ダメ、ちゃんと手当てしないと……それに、轢かれて擦り傷だけって珍しいんだから」
「まあ確かにな、でもその言い方……俺を轢く前に誰かを轢いたことがあるような言い方だな」
「……それは」
まあ、誰を轢いたかは知っているがな! ……今の俺少しゲスイ顔してにやけてそうだな……なんか今日の俺おかしいような気が……ああ、轢かれたからか……そうに違いない! あと、イチカが可愛いからいじめたいとか……どこの子供だよ!
「……しょ、消毒するよ」――パンッ。
答えに困った一華がいきなり俺の怪我に消毒の弾丸を撃ちこんだ…………………………いてええええええええええええええええええ! なんだこの痛さ普通の消毒の痛みと全然違うぞ!。
「……くそ痛ぇ」
「……」
イチカは俺の顔を呆然と見つめている。
「……おいイチカ俺の顔そんなに面白いか」
「……いい、これ好き」
何がだ、どういうことだ?。
「おい、どうしたイチカ」
「…………あ、ごめんぼーっとしてて」
「どうしたんだよ急にぼーっとして」
「それはね、君の……あれ、そういえば名前聞いてなかったね」
そういえばそうだった。俺はイチカにぶつかって成り行きで連れてこられて自己紹介なんてしている時間なんてなかったな。しょうがない変なタイミングだが……。
「紹介遅れたが、俺は綾目仁人。弾丸屋で見習いとして働いてる親方の息子だ」
「改めて私も、私は天森一華。このマッサージ屋の主人をやってる」
そうしておかしなタイミングで自己紹介を終えた二人。
外にはまだ活気はなく、人々の目覚めはもう少し後のようだ……。




