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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
彼女と記憶とまた彼女と
58/60

五十八発目:姉御が描くものは・⑤

 映画館の前にはブーとラザーの兄妹が見える。


 リーダーの姿は見えない。アトリエの警備だろう。


 なんの偶然か、妹のラザーが兄のブーに映画を見たいとせがんだらしい。


 その映画館の中では、受付嬢がジジイと呼ぶ中途半端に禿げたおっさんと、ジントと姉御が顔を合わせるところだった。

 ――殺意に呑まれた王子と鎧に呑まれた姫―― 上映終了。


「面白かったね~。ねぇ、ジントくん」


「そうだな。特に、そんなんで生きていけるのか!? ってほどに優しかったあの王子が、殺意に呑まれてしまうシーンが良かったな。あ、それと、殺意に呑まれてからの破壊描写が見てて楽しかった。次から次へと町や国をめちゃくちゃに破壊して回るのが、快、感。だったな」


「なになに~? そんななりで破壊衝動を隠してたの~?」


「たまには作るだけじゃなく、壊すのもやってみたいってのはある」


「ふ~ん。他には……あ、そうそう。王子と姫が持ってたあのおま……り? ジントくんどうしたの?」


「……二つ目の記憶のカケラはあいつが」


「ジントくん!」


 俺の事を姉御が揺さぶってくる。俺の体からは力が抜けていた。首が痛いくらいにグワンと動き俺の意識は姉御に戻った。


「あ、ごめん姉御。話とぎって」


「もう。いいよ。イチカちゃんのためなんでしょ。ほんとに……ああ、私にもジントくんの愛情を少し分けてほしいよ」


 なんだか少し気恥しいなその言い方。しかもそのセリフ、もう、ダメだろ。


「何言ってんだよ。愛情なら俺なんかより旦那からもらえよ」


 何言ってるんだよと言いながら、オレもこの状況でこんなセリフを吐く俺にも、切実にそうツッコミたい。


「隣人愛だよジントくん。隣にいるものを愛せ。そう、愛というものは特定の人にだけ向けるものではないのだよ。隣に居れば、隣人だろうと愛人だろうと愛する対象になるのさ」


 姉御は両手を大きく広げて大きく息を吸い込み、いかにも尊大な感じで言った。そのタイミングで、映画館の大きな入り口からの光が後光のようになって、姉御が何とも神々しくなってる。


 いや、いくら神々しくても言ってることはめちゃくちゃだろ!


「そんな大仰に……てか、姉御が言っていいことじゃないだろ!」


「ふひひっ。ちょっとした冗談だよ」


「冗談に聞こえなかったんだけど」


「冗談じゃないしね」


「……へ?」


 姉御は真顔でそう答えた。


 嘘言っているようには見えないし、そんな気もしない。もしかして……ほんとに言ってる?


 そんなことを考えていたら、周りを回りながら俺の顔を見ていた姉御が破顔一笑。とてもかわいらしい笑顔になっていた。今の時間帯の建物の外から入る光が姉御のその表情を明るく照らしている。笑顔の輝きが目に見えるならこの光景のことを言うのだろう。


「なに驚いてるの? 冗談だよ」


 姉御はそう言うとさっさと歩きだす。


「さあ、行くよジントくん。キミの愛しの彼女を助けるためのカケラを手に入れないとね」


 姉御はまた、とんでもなく気恥ずかしいことを言う。もともと恥ずかしいことを言われても、多少の恥ずかしさを感じることはあってもそれ以外何も感じることはなかったのだが、今は少し顔の辺りが熱く感じる。


 姉御の隣まで歩くと、そのまま揃って受付嬢のところまで歩を進めた。


 ○  ○  ○



 受付に付いた。


 受付嬢は俺たちに「ジジイはここに置いておくから勝手にやってくれ」と言うなり仕事に戻っていった。


 受付嬢がジジイと言っていただろうおっさんは俺たちをそれぞれ一瞥すると、姉御を二度見。


 そして、開口一番突拍子もないことを口にした。



「あ、あなたは! イ、イイイ!」


 なんだ急にこのおっさんは。この形相、捕まってるおっさんと違う意味で気持ち悪い感じだ。


 こいつがイチカのカケラを……てか、さっきからこいつ姉御の方ばかり見てないか?


 姉御も姉御で、どうしたんだろうか? 顔に余裕が無いように見える。


 姉御はおっさんの前に何かを言おうとしたようだが、その前におっさんが言う。


「イファさん!?」


 ……イファ? 言い方からして名前か? 姉御に向かって、姉御の名前か?


 そして、特に俺が入る余地もなく会話が始まった。


「……はい。そうですけど」


 姉御は、どこか恐る恐るながらも、少し安堵したような表情をしているように見える。


 姉御の感情の推移が全く分からない。多分これからも分からないだろうなと思う。


「やはりそうでしたか! あなたのような方がここを利用していただけるなんて光栄でございます」


「そんなこと言われても何も出ませんよ」


 姉御は俺と話すときの口調とは違って、とてもできた人みたいな話し方になっている。


「そんなそんな、何かをせびろうなんて気持ちはこれっぽっちもありませんから。それで、ご用は倉庫ですよね」


「あ、それはわたしではなくジントく……」


 ――ペッ……ペッペッ……ペッ!


 なっ! ……このおっさん唾吐きやがった!


 そんで自分ではいた唾を自分で処理してる。


「は! 申し訳ありません無意識に、つい」


 無意識って、拭くところまで無意識かよ!


 ていうかなんでそんなことを……


「イファさんの隣に立ってい――ペッ、るだけでも腹立たしいというのに、客と――ペッ、いうことで大目に見ているが、名前を呼ば――ペッ、れるなんて……は!」


 は! じゃねぇよ! どうしたら話しながら唾吐きながらそれを処理できるんだよ! 傍から見ると床磨いてるおっさんにしか見えないぞ。


 てか、どんだけ唾吐かれるんだよ、俺。何かしたっけか?


 ……でも、これで俺と話したら嘔吐しそうな勢いだな。 


 ちょっと話しかけてみるか。


「……あ」


「……うっ」


「……あのぅ」


「……うっ、ぅぅおっ、お、おお、オ、オェ……う」


 はい! もう無理だな。よく耐えたぞおっさん。吐かなかったのはよかった。


 俺の心がとても悲しい気持ちを吐き出しているが、実際に吐くよりはましだ。よくやった。


 ここは姉御に頼むしかなさそうだな。


 俺は姉御に耳打ちをする。近くで唾を吐くような音が聞こえたが無視だな。心が痛む。


 姉御に反応がない。俺の耳打ちは聞こえていなかったようだ。おっさんの変わりように驚いて呆然としている。


 俺は、姉御の肩を軽く叩き、気づかせまた耳打ちをする。


「姉御、何が何だか分からんが、このおっさんは俺の声を聴くと吐き気を催すらしい。だから、ここは姉御に任せたい」


 ――パンッ


「〈捜索〉を渡しておくから、上手いこと交渉してカケラを探してくれないか? モファ、姉御の名前だろ。今まで通り俺は姉御って呼ぶけど。んで、姉御と話してるときあのおっさんの態度を見れば行けるかもしれない。頼まれてくれ。なぁ、姉御」


「……ジントくん怒らないの?」


 ああ、そんな顔してほしくないな。別に怒りたくないわけじゃないけどな。


「この様子じゃ、怒っても俺とあのおっさんが話せるようになるわけじゃないだろ。それに、怒ったら……いや、今はどうでもいい。頼めるか?」


「……分かったよ。やってみるよジントくん。」


 俺と話せない人がいるなんてな。そんな人がいるなんてわかるわけないだろ。


 姉御がいてくれて本当に助かった。いなかったらどうなっていたことか……もしかしたら〈究極〉とかを使っていたかもしれな……! そんなこと……しないだろ。


 どうにかできるだろ!


 ……


 ……


 いや……ありがとう。イファ。


 俺がやるよりずいぶんとスムーズにできそうだ。


 姉御がここまで協力的なのは少し驚いたが、今はうまくいくことを祈ることだけしてればいいだろう。


 姉御の交渉は本当にスムーズだった。それも、ご都合主義もいいところな感じでスムーズだ。


 受付嬢が言っていた「最近ほしい物ある」というのも、姉御の絵の事だった。あの受付嬢は、絵が趣味ということで近づいてみたらという言い回しだったが、その絵の描き主がいるんだからそれ以上に事が早く進むのは当然のことだった。


 最終的に、姉御がこの映画館に入る前に観察していた映画館のデッサンをサラサラとおっさんの前で描くことで倉庫に入ることできるようになった。覗いてみてもその絵は、一言でいうのも惜しいが見事というものだ。


 さらには、そのデッサンを本格的に絵として描く約束を書面でしたことで倉庫の中身の一つだけを持ち出すのを許してくれた。あくまで貸し出しだけだが、それで十分だった。


 そういえば、このおっさん「何かをせびろうなんてこれっぽっちも考えていない」とか言ってなかったか? ……まあ、いいか。


 姉御は、俺に手を振りながらおっさんについて行った。俺はついていくことは許されなかった。


 ○  ○  ○


 ――倉庫の中――


「こんなおっさんと二人きりで倉庫の中なんて怖かったりしないんですか?」


「ジントくんのためだから。それに、あなたに害意はなさそうだったから。わたし、絵を描くときによく観察して書こうってよく見るんで、なんとなく見る目はあるんですよね」


「そうですか。でも、あの男のため……ですか。あの男とは一緒にいない方がいいと思いますけどね」


「それはどうして?」


「分かりません」


「……分からない? 何言ってるか分からないんですけど」


「あの男が嫌いだからとでも言いましょうか? 話によれば、この近くにあった二回目の動物たちの襲撃に対応したらしいんですけど。誰も頼んでいないのに図に乗るなって思います。まあ、誰もというかはこの映画館の受付が頼んだらしいんですが、その人もその後すぐに辞めたので。今となってはここの人間が頼んだということではな……」


「破綻してます。何ですか? どうして、どうしてそこまで!」


「英雄と呼ばれたりするあの男を見たときには、いつのなのかとてもむごくて最悪でいくら吐いても楽になりもスッキリもできないそんな映像が浮かんでくるんですよ。嫌いなのはそれが理由ではないですが、それも理由の一つですね。それに、羨ましいのかもしれません。英雄と呼ばれてみたいじゃないですか。まあ、今言えることは一つですね。何があってもあの男の助けは、いらねぇ、と断るということです」


「…………」


「…………」


「……光の先…………これ? これだね記憶のカケラ」


「古い映画のフィルムですね。とても貴重なものなので丁寧に扱ってください。これでイファさんの絵に繋がるのであれば」


「そういうことになってましたね……さっさと戻りましょう」


 ○  ○  ○


 姉御が倉庫から記憶のカケラを持って出てきてから俺たちは映画館を後にした。


 デッサンはプレゼントしたらしい。


 姉御には文句の一つでも言いたい。


「完成品を渡したいんじゃなかったのか?」


「ちょっと描きたかったから描いたもんだし」


「なんだそれ」


「気持ちの整理のようなものだよ」


「だからなんだよそれ」


「もうそろそろ画材を買いに行こうかな。荷物持ちお願いね」


「はいはい」


 とりあえず一つ目の記憶のカケラは手に入れた。後は姉御のキャンバスと、反応しない一つだけ。


 その一つも本当にあるのかを断定はできていないが、出来ればないものであってほしいものだ。


 俺は姉御と並び、姉御から渡されたフィルムを大切にしまい画材を買いに行く。

水曜日投稿にしていたはずなのに今日は木曜日……いや、もしかしたら水曜日?


そうだ! そういうことだ! いつから今日が……飽きました。


飽きたのは上二行の茶番の事ですので。気にしないでください。


転スラアニメ化を心より祝福し、ここで締めさせて頂きます。


御精読ありがとうございました。

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