五十五発目:姉御が描くものは・⓶
営業停止中のマッサージ屋の中、ジントとモリちゃんは対座していた。
賑わいのないマッサージ屋は寂しいと言うほかない。
姉御はイチカと二人で話したいということで今はいない。
姉御がいなくなってからというもの、モリちゃんの熱烈な視線を受けていた。
それはもう愛おしいものを見るようなものから、何をどうしたらそんな怖い顔ができるのかが不思議なものまで。
それはそれは居心地が悪かった。
「……なぁ、モリちゃん」
俺はたまらず話しかける。
「何でしょうか? 今忙しいんですが」
「忙しいようには……見えないけど」
「そう思うならそうかもしれません」
話しかけてもこれか。
「なぁ、モリちゃん」
「何でしょうか? 世界の滅ぼし方を考えているので忙しいのですが……あ、間違えました。どこかにいる貞操の緩い誰かさんの滅ぼし方を考えていたのでした」
「……物騒だな……どこの誰のことなんだ」
「そうですね、どこの誰のことなんでしょうかね?」
「…………」
いまだに熱烈な視線はやまない。
俺は気を紛らわすように〈捜索〉を使う。
赤い光は三本。イチカと他かけら二つだ。まだもう一つは反応しない。
その光の一つが町の中心部のほうを向いている。
俺が姉御のデートに乗ったのもこれが理由。
姉御の意見を変えるより本人の言うとおりに待っていたほうが早いという判断で後回しにし、街に出るというのならそれに乗じて調べられる。
罪悪感を感じるが、イチカを助けるためだ。
まあ、姉御も冗談で言っているだろうしな。
町の地図と光の方向を照らし合わせて目星を付ける。
この光のライン上には……人が多ければ、欠片になるものも多いだろうし……人が多そうなのは映画かん……………………ああ、もうだめだ。モリちゃんの視線に耐えられない。
「なぁ、モリちゃん」
「……何か言いたいのならどうぞ」
「姉御ってああ見えても結婚してるみたいなんだ。俺とおないくらいなのに」
「それは人それぞれでしょう。別に不思議はありませんよね」
「だからってもな、もし自分が、とか考えても実感わかないんだよな」
「まあ、そもそも口約束みたいなものですしね。言ってしまったもの勝ちみたいな。したからって実感がわくかといえば……やっぱりしてみないと分からないかもですね」
「そうかもな」
「もういっそ英雄さんがママと結婚してしまえばいいんじゃないですか?」
「なんの冗談だよ……でもまあ、それも面白いかもな。別に好き同士じゃなくてもできるしな」
「その言い方、ママに好かれる自信がないんですか英雄さんは。それに英雄さんがママのことが嫌いと言っているようにも聞こえますが」
「そんなことはないさ」
「ならしちゃってくださいよ。そうして私を養子として迎えてください。周りの人みんなからちゃんと家族として認められて暮らすんです。きっと楽しいですよ」
「モリちゃんのお母さんのことはどうするんだよ。そもそもイチカの記憶を取り戻さないとそんなものはただの夢だぞ」
「だからこそですよ。だからこそ今、英雄さんに言うんですよ。英雄さんがちゃんとママを助けられるように言っておくんです」
「そうなれたらいいよな。夢じゃなくて現実で。ほんと、出来たらいいと思うよ」
「何ですかその言い方は、なんか投げやりじゃないですか?」
「そんなことはないさ。でも最近なんかな」
「ママを助けられないかもとか思ってるんですか? ほんと何を言っているんですか英雄さん。大丈夫ですよ英雄さんはちゃんとママを助けられますから」
「……何だよその自信……まあ、俺も助けられないなんて思っていないさ。そうじゃなくて、最近体の調子がな……なんというかうまく動かないような」
「ママのこともあって疲れてるんですよ。あんまり溜まりすぎないように気を付けてくださいね」
「…………ん? ああ、うん」
「ほんと大丈夫ですか英雄さん」
俺はモリちゃんの心配にも返事ができずに椅子にもたれかかった。
少し意識が飛んでいた。
モリちゃんの声で戻ってきたようだ。
「あの、英雄さん。お姉ちゃんのことなんですが」
「……お姉ちゃ……ああ、姉御のことか」
「ふと思ったのです……あの、英雄さんはお姉ちゃんの旦那さんは見ましたか?」
「なんだ急に?」
「とりあえず答えてください」
「見てないけど」
「……そうですか」
「ほんとに、なんなんだ急に」
「お姉ちゃんは本当に結婚しているのかなぁと思って」
「なんでそう思うんだ?」
「雰囲気というか、匂いというか……なんか結婚している人ではないような気がするんですよね」
「でも指輪してたぞ。左手の薬指に」
「それは……もしかしてカモフラージュとか?」
「何のために?」
「……それは、わからないですが……」
「それに姉御の家には、姉御とその旦那用の皿もあったぞ」
「……むぅ、それなら違うんでしょうか?」
「ていうかそもそも、なんでモリちゃんはそんなこと気にするんだよ」
「それは当然でしょう。お姉ちゃんが本当は結婚していなかったのなら、隙を見て英雄さんがとられるかもしれません! 私はママと英雄さんと家族になりたいんです!」
「そんなことかよ……」
「そんなこととは何ですか! それとも何ですか? 英雄さんはそんな未来は不服ですか?」
「どんなわけないだろ」
「言いましたね。じゃあこの質問にはっきりしっかりと答えてくださいよ。私が文言を二つ言うので、質問の答えとして自分の気持ちに正直に選んで、一字一句違わずに答えてください」
「ああ、分かったよ」
「もし、英雄さんが告白するとしたら
一つ目、ママに寄り添い『結婚しよう』
二つ目、お姉ちゃんの手を取り『俺の分の指輪も必要だろ』
なお、選んだほうを実践してもらいます」
「……おい」
「まったくなんですかその目は、冗談ですよ」
「俺には冗談で言ったようには聞こえなかったぞ」
「それでは質問です」
「……無視かい」
「英雄さんが選ぶならどっち?
ママ
お姉ちゃん
なお、何をどういう基準で選ぶかは英雄さん次第です」
「選択肢だけ聞くと何かとんでもないな」
「時間稼ぎですか? 御託はいいですからさっさと答えてください。お姉ちゃんとは会ったばかりだ、とかみたいな話はなしですからね」
「……はいはい」
俺は答えようと呼吸を整える。
何かを感じる。それが何かはわからない。だが、俺は間違えなくその何かを答えるようだ。
口を開く。
――ガタン……バタン
俺の口から答えが出ることはなかった。
「もどったよジントくん」
姉御は飄々と話す。
「イチカちゃん可愛かったね。心配されないように頑張っていたみたいだったけど、苦しそうだったよ。不謹慎かもだけどゾクゾクした。心の底からイチカちゃんの絵が描きたくなったよ」
そこで姉御は、パチン、と両手をたたく。
「さて、彼女の時間も限られてるみたいだし……ジント君」
姉御は俺に笑顔を向けると手を引いてくる。
「デートに行こうか」
俺はそれに逆らわずに引かれていく。
もちろん姉御のけがを心配してだ。
俺はそのまま何も言えずにイチカのマッサージ屋を後にした。
コクリとお辞儀をしてモリちゃんは俺たちを見送っていた。
久しぶりにキュン死寸前になるほどの漫画と出会った。
それは今期のアニメ。
CMを見ても特に気になっていなかった。
今思えば何か感じるものがあったような……気がする……が、それはその時に気づけなかったことから来る悔しさによるものだろう。
アニメを見て何かを感じ、発売されている分の漫画はすべて購入。
読んでみると面白い。読むほどにその世界にハマる。そしてトキメキを感じる。
この感覚は“とらドラ!”以来だ。
冬に発売されるというその漫画の十巻。
読んでしまえばとてつもないトキメキに呑まれ精神的に死にかけるだろう。
そんな話に出会えたこと、とても嬉しく思う。
その漫画というのは“ハイスコアガール”だ。
本当にハマる物語に出会えたことに感謝を。
※個人の意見です。全ての人類に当てはまる訳ではないのでご注意を。
※トキメキが止まらない!
※注意書きに“トキメキが止まらない!”との表記がありますが、注意書きに関係ございませんのでご注意を。
本編と全く関係のない文章申し訳ありません。
読んでいただいたのなら感謝を献上いたします。
本編は圧倒的にモチベがトンデモナイことになっているので、もうヤバイです(語彙力)。
それでもライジングブレットの執筆は意地でも諦めるつもりはございません。それはどっかの新人賞で、これ以外の作品が受賞したとしても(送る作品が全然完成しない・ネタしかない)。
よくわからない一人語りをここまで読んでいただけたのなら。画面に向かって全力の土下寝をしたいと思います(確かめる方法が……ないのですることはない……と思います)。
では、この世のすべてに感謝を……すみません違いました……読んでいただいた皆様と心に震災を起こしてくれたクリエイターの皆様に(他にも居るそんな方々に)全力を込めて感謝を。
ありがとうございました!




