四十八発目
四十八発目投稿です。
――ザァーザァー、ザ、ザァーザァー
工房の中にうるさくノイズを響かせる箱がある。
その箱の一面、俺たちの方を向いているガラスの面は砂嵐が映し出されているかのようだ。
その箱を見てみると、親方の字で『ブラウン管テレビ作ってみた』と、ガラス面下部に張り紙で書かれていた。
得体のしれないこの箱を起動させたのは、その紙の裏にあったスイッチらしきものを押したから。ほかにもまだスイッチはあり、それを押すと切り替わるような挙動をしたが砂嵐から切り替わることはなかった。
一通りスイッチを押し終わると、俺は銃を顕現させる。
ベルトにしまっていた弾丸を取り出しもう一度銃に込める。
そして、
――パンッ
ガラス面の中心に撃ち込んだ。
するとその面に映されていた砂嵐が消え、カラフルな色が映し出され揺れる。
そして、徐々に人の姿が映し出されていった。
その箱の中には親方がいた。
● ● ●
その少し前、俺たちは準備をしていた。
俺たちが正気になった後、モリちゃんが持ってきたイチカの髪で〈捜索〉を使った。すると、〈捜索〉から出る球状の投影から示された光が二箇所いや、正確には三箇所を指した。
その中の一つはハッキリとした光でイチカのマッサージ屋を指し、もう一つはほぼ見えないくらいの光が街の方を指していた。
そして三つ目はイチカを指す光より少し弱くなったような光が街とは別方向を指していた。
この光の様子から予想はつく。
カケラは三つあるが反応は未だ二つしかない。その二つの光も反応には差がある。
ということは、記憶の移動はカケラ三つ同時に起こっているわけではないということになる。
こうなると単純思考だが光が強い方から探しに行けば良いということだ。
頭の中を整理しているうちに長々と説明っぽくなってしまったが、まあいい。
とりあえず俺が行くのは街とは別方向、最初にイチカと【森】を目指した方向と大体同じだ。
俺はいつも付けているお気に入りの弾丸収納ベルトを腰に巻きつける。流石に愛用で使っているだけあって体にフィットして安心感を与えてくれる。
そして足元の壁には、中身が詰まった大きなリュックが立て掛けてある。モリちゃん曰く「英雄さんが向かおうとしているのは【森】ではないですね。その少し手前です」ということだが、森に行かないにせよ街外れということには変わらない。寝泊まりすることろがないので、もし一夜を過ごすことになった時のための装備だ。その辺りには【森】にいるような強力な動物たちはいないが、それでも襲われれば大けがする程度の動物はいるのでそのための弾丸も入っていたりもする。
そこにモリちゃんが居ればいいのだろうが、モリちゃんはイチカのそばにいてもらうことにしたのでそれはできない。モリちゃん自身も「ママの辛さの片鱗を見たのでそばにいたい」ということだったのでそうしてもらうことにした。
そういうことで俺は一人でカケラを探しに行くことになったのだが、すぐに帰れる保証もないので、とりあえず気になることを聞いてみることにした。
「母さんに聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたのジント?」
「そこにある箱、何?」
俺は食卓の上にある無駄に幅を取っている箱に向かって指を指し、単刀直入にそう聞く。それを箱と言っているが完全な箱にはなっていない。所々にいろんな形の凹凸がある。
母さんはそれを見るとあやふやな口調で話しだす。
「それは、あの人が置いていった物なんだけどね……」
「『ブラウン管テレビ作ってみた』の字を見ればまぁ、そうだろうな。と思うけど……こいつの用途は? あの親方がこのタイミングで余計な物を置いて行くとは思えない」
「それは……」
俺はブラウン管テレビなる物をボンボンと叩きながらそう尋ねる。
母さんは言いあぐねるようにしていたが、決心した様子で口を開いた。
「ごめんなさいジント、どこにあるのか分からないの」
「……? 話がつかめないんだけど」
俺が訝しむような顔で首をかしげると、申し訳なさそうに母さんが話し出す。
その様子を見ていると、なんかとてもよろしくないことをしている気分になるが、今はそれをぐっとこらえて耳を傾ける。
「これは、テレビよ」
「……うん、ここにそう書いてるしね、それは分かるよ」
見覚えのないこのテレビというもの。忘れているだけかと俺は自分の記憶の中を漁ったが、これは俺の記憶に存在するテレビとは似ても似つかない。
「でも、テレビってこんなんだっけ?」
「あの人が言っていたわ。これは、テレビだけどテレビじゃない……今の世界に存在するはずのなかった物らしいわ」
「それは、随分と昔の世界にあったという意味?」
「少し合ってるけど、違うわ。時代とかは関係なくて、この世界になる以前の世界のもの。これは以前の世界でも昔のものだったらしいから、『別の世界の昔のもの』だったら合ってるわね」
なんだかわけがわからなくなってきた。
確かに親方なら、別の世界のものを知っていても不思議はない。が、なんでこのタイミングでそんなものを置いていく? ……まさか別の世界にでも連れ去られているのだろうか……それって、親方を助けることになっても助けられなくね?
「あ、そう言えばこういうことも言っていたわ『このテレビ自体が何かのヒントになることはない』って」
紛らわしぃな! 変に勘ぐったぞ!
「そして、これは前置きね」
本題じゃないのかよ! じゃあこのくだりいらなくね?
「……そうね」
あれ、心読まれた?
「何年あんたの母さんやってると思ってるの?」
「……また読まれた……って! イチカに時間がない時にこんなどうでもいいことを!」
そんなやり取りをしていると、イチカのことが脳裏によぎり苛立ちが起こった。それで俺は声を荒げたが母さんは動じる様子はなく俺の頭を撫でてくる。
「……なんで撫でる?」
「ごめんね。あの人のことだからもっと茶番になるわ」
「……全く話がつかめない」
「さっき私が『分からない』って言ったわよね」
「な、なんか急だな……『どこにあるか』って言うくらいだから……何を言ってるのか分かんなかったけど、何かが無いんだろ」
「そう、このテレビも元々の物とは少し違うものらしくてね、線がないみたいなの」
「……線?」
「まあ、それは気にしなくていいみたいだから」
「……気にしなくていいのかよ!」
「弾丸よ」
「またまた急だな……で、それがどこにあるのか分からないと」
「そう。この部屋にあるとは言われたけど、見つからなくて……ジントが帰ってきたら弾丸を使って映像メッセージを見せてやれって言われたけど……さっき、探してもなくて……まるで見えないみたい」
「ほう……で……見えない……見えないねぇ…………〈忍〉、か?」
俺はなんとなく閃いたものを口ずさむ。そしてそれまたなんとなく、さっき気になっていた壁に空いている穴の前まで進んでいた。
「……〈忍〉で認識されなくなったものは直接触ることで認識できるようになる」
そう口ずさみながら滑らせるように壁の穴に触れる。
自分の手で隠れていた穴がもう一度見えた時、そこに穴はなかった。そこには最初からそこにあったように弾丸が詰まっていた。
「……あ、あった」
弾丸は壁と一切の段差がなく詰まっていたが、穴の大きさが弾丸よりわずかに大きかったため苦労なく取り出すことができた。
俺の声を聞いた母さんが俺の方を向く。
「あったの? どこにあったの!?」
母さんは驚きの声を上げる。俺が「壁に見えなくなって刺さってた」と言うと、落胆した表情になり「確かにあの人なら……くっ! 私もまだまだね」と言っている。こんな時に夫婦で何を競っているのだろうか……?
そんな母さんをよそ目に俺はその弾丸を銃に込め、ガラスの面に向かって引き金を引く。
だが、何も起こらなかった。その様子を見ていた母さんが言うには、テレビを起動してからでないと使えないらしい。
なんだよそれ! と思ったが、俺は弾丸を外してベルトに収納し、銃を消滅させる。そして、とりあえず親方の字で書かれた『ブラウン管テレビ作ってみた』の紙をはがそうと手を伸ばすと、
――カチッ
指で何かを押した感覚がした。
すると、
――ザァーザァー、ザ、ザァーザァー
と騒がしい音が鳴り響いた。
今回はいつもより少し短めですが、もう少しでもう一展開起こりますので……
とまあ、御託はもういいとして、これからも面白く語れるように精進します!
ご精読ありがとうございました。




