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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
45/60

四十五発目

大変遅くなりました四十五発目投稿です。

 ……痛い……痛い……痛い……


 ――ただひたすらに……痛い……


 ――腕が動かない……右腕が丸々無かった。辛うじて残っていた左手も小銃を握っているので精いっぱいだった。足も動かない……背中のあたりが痛い。背骨が折れてる。


 何が起こったか、どうしてこうなったか――確か……試練の途中で……それで……どうなったっけ?


 ――んぐっ! 喉の奥から何か熱いものが……


「カハッ」


 乾いた咳をすると手元に血が……朧げな視界の中、ポタポタと滴っている。自分のだった。


「……アハハ……内臓も……私、もうダメみたいだね……」


 全身が痛い。体の中も、体の外も、ただただ痛い。

 痛みにきしむ体を動かすと自分が木に寄りかかっていることに気づいた。


 ――この木、つるが巻き付いて……あっ、私、目もまともに開いてないよ。


 眼元に力を籠める。痛みがあるが構わず目を開くと、眼前に花畑が広がる。

 暖かな香りに包まれた気がした。


「嗚呼……」


 もう殆どこんな体じゃ感じられない……


「……こんなんじゃなかったら……気持ちよさそうな場所だなぁ」


 花畑の上には快晴が広がっていた。


「死ぬ場所くらい見てやろうって目を開けたら……こんないい場所なんて……ひどいなぁ」


 もう痛みも感じなくなってきた。

 空を仰いだ。

 視界の端っこを寄りかかっているのとは違う木がかすめる。

 動かない体を強引に動かし振り向くと、そこには木が立ち並んでいた。どこまでも続く木の壁だった。寄りかかっている木はその壁からは少し離れた場所に一つ、ポツンんとたたずんでいた。

 寄りかかっている木を見上げる。


「……フフッ……どうして君は一人でいるの? ……うまくいかなかった? ……のかな……」


 自虐的な笑みだ。そう確信できた。


「……君も……私も同じだよ……どうすればいいのかな? また、誰かが……何とかするのかなぁ」


 幹に頬を近づけ寄りかかると、頬に何かが触れる。もう感覚もないはずなのに、その感覚だけははっきり感じた。

 目を向けるとそこには、ラッパみたいな形の花が咲いていた。


「……この花知ってる……私の大好きな……」


 その時、ザッザッ、と足音がする。

 花に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。


「……何にも匂いがしないね……ああ、食べたいなぁ……あの冷たくて、甘くて……」


 足音の主……彼に話しかける。


「……君も食べたいでしょ」

「…………」


 彼は何かを言っているようだがよく聞こえない。だが、銃を向けられているのは分かる。自分がちゃんと発音できているかもわからないが、かまわず続けた。


「……ソフトクリーム」

「…………」


 やはり彼が言っていることは分からない。でも何をしようとしているかは分かる。


 ――彼にはちゃんと注意をしないと……今までだめだったけど最後くらいは……


 私は終わりかけの命を使い、心の底から湧いてくる笑顔を見せる。


「ちゃんと眉間(ここ)狙ってよね」


 右肩は動く。でも、腕、手が無く、指でその場所は示せていなかった。だが彼の視線は眉間に向いていた。


 ――パンッ ――パンッ


 二発の銃声が花畑に響いた。

 弾丸は彼と私に一発ずつ放たれた。

 彼は自らこめかみを撃ち抜くことで即死だった。私は眉間を外された。

 代わりに左腕を撃ち抜かれていた。


「この距離ならどんな奴でも当てられるでしょ……」



「……へたくそ」



 左手の銃はもう使えない。もともと腕は動かなかったけど無理をすれば……でも、それもできないようだ。

 もう、自殺もできない。


 ――ああ、綺麗な空だなぁ。


 どこからともなく銃声が聞こえた。


 ●  ●  ●


 ――体が……動かない。


 痛くはないけれど、自分の体ではないように言うことを聞かない。今は意識したところで自分の思ってもいないところに力が入る。

 それに、意識がはっきりしない。


「……うぅぅ……んん……」


 ――私は、花畑で……


「……うぅ……うぅ……ハッ!」


 ――撃たれ……て……


 体が動かなくても、目は開けることはできるようで、薄目を開けると前には天井が見えた。

 ここは自分の部屋だ。

 さっきまで居た花畑とは似ても似つかない……


「……花畑? ……あっ、私寝てて……変な夢だったなぁ」


 ――夢の内容はいまいち覚えてないけど、私、銃を向けられてた……


「……ジントとのデートの時のデジャブって……でも、こんな夢見たことあったっけ? ……まあ、夢は忘れるものだからね……って」


 ――ジントって……だれ……


「……っ! じゃない! ……ジントは! …………なんだっけ……」


 全身の体温が下がる。冷汗が首筋を伝わる。

 体中を這う恐ろしさに体を丸めようにも言うことを聞かない。

 意識的な動きはできないのに、無意識的な身体の機能は皮肉にもちゃんと機能しているらしい。


「……はわっ!」

「ふぇ!」


 手を握られただけだった。あまりにも体を動かすことに気を取られすぎたようだった。

 体がびくりと動き、それに合わせて気の抜けるような変な声が聞こえた。身体が動いたことでの反動で都合よくその声の方に顔が向いてくれた。声の主は、かわいらしい女の子だった。


 ――名前は……


「驚かせてすみません。そんなつもりはなかったのですが……その……悪夢にうなされていたようだったので……つい」

「謝らなくていいよ。手を繋いでくれて心強いから」

「……そう……ですか」


 ――やっぱりこの子の名前が出てこない。


「もうちょっと繋いでてくれるかな」

「……はい」

「ありがとう。……手、あったかいね」

「…………」


 さっきからどうしてだかこの子の表情が晴れない。


 ――この子には笑ってほしい……と、そう思うのに……


 今の自分には、この子のことが分からない。手を握り返してあげることも、頭を撫でてあげることも、抱きしめてあげることもできない。

 目を閉じて考える。


 ――どうしてそう思うんだろう?


 結論は……出ない。


 思考のために閉じていたまぶたを開くと、目の前の女の子は困り顔でほほ笑んでいた。肩には白いヘビが巻き付いている。

 その子は、右手を繋いだまま左手でヘビを撫でた。


「……あっ、噛まれっ!」


 その子は噛まれることなく、撫でていた。


「なんで私からのご飯は食べないくせにこんなに甘えてくるんですか? ……フフッ……しょうがないですね」


 どうして噛まれると思ったか分からなかったが、そんなことより目の前の女の子が笑ってくれたのが嬉しかった。


「その子がそこまでなつくなんてね」


 なんとなくそんな言葉が出た。


「ああ、すみませんママがこんな状態なのに……私……」

「そんなこと気にしなくていいよ。笑ってくれていた方がいいし、手はずっと繋いでくれていたままだったから……ね。笑ってて」

「でも、ママ……」


 ――まぶたも動くなら、顔だっていける……


 私は笑顔で言う。


「ママは暗い顔より笑ってくれた方が嬉しいよ」


 この子に「ママ」と呼ばれることに違和感は感じなかった。


 ――だからこれで大丈夫


「……ママ」


 目の前の女の子は、少しの間うつむいて、そして顔を上げた。


「……はい、私もママのように笑顔で頑張ります」


 ――ママのように……それはちょっと違うかな……


「無理にじゃなくて、笑いたいときに笑ってくれればそれでいいよ。さっきから必要以上に暗い顔をしてたからね。白蛇(その子)を撫でていた時みたい……って、私が言ったらダメだね。とりあえず、そんな暗い顔をしないでって言うこと」

「……難しいです」

「大丈夫。私の体のことを心配しているなら、それこそ大丈夫だよ。心配ないからね」

「……英雄さんのことをそこまで信じているんですね」

「……英雄さん?」

「……! ……そうですか……」


 その子は表情なく言う。


「英雄さんとは、ママのために記憶のカケラ(無くしたもの)を探しに行っているジントという人のことです」

「…………ジント……」


 その子は思い出したような声を出した。


「そうです。言い忘れていましたが、私の本体も今、英雄さんと一緒にいますので、ここにいる私は肉体だけの分身体です。ですが、精神的には同一ですので。頭の中で独り言を言っているような感覚と言えばいいのでしょうか? まあ、そんな感じなので別に私は本体に戻ってしまっても消えてしまうということはないので悪しからず」


 その子は、「それと……」と続ける。

 申し訳なさそうに私を見てくる。なんだか申し訳ないような気持になる。


「英雄さんのところに行く時に、ママの髪を少し切りました。ごめんなさい」


 そんなことかと私はホッとするが、彼女はそうは思っていないようだ。その姿がどこか滑稽で、


「ハハ、そんなことでそこまで頭を下げられてもね……ハハッ」

「……でも」

「髪を少し切られただけじゃ怒らないよ。私の体を戻すのに必要ならなおさら謝られてもね……」


 そこで、頭に映像が浮かんでくる。何かの動物の毛を刈るような映像が徐々に変わり……自分の髪が無残なことに……

 そんなことはない……よね……?


「じゃあ、鏡になりますので……それで確認を……」

「……べ、別にそんなことしなくていいよ! 髪はまた伸びるから大丈夫だから」

「でも、自分で見ていた方が……」

「嫌……じゃなくて、自分の姿はあんまり好きじゃないから……」

「そんなこと言わないで確認してみてください」

「や、や、止め……」


 今の状態じゃ手で顔を隠すこともできない。目を瞑っていても目の前の気配が徐々に近づいてくる。

 恐る恐る目を開くと目の前には、


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」

「わぁあああああああああああああああああああああああああ!」


 お婆ちゃんがいた。


 私のお婆ちゃんになった姿ではない。完全な別人……でも、よく知っているはずの人……確かこの部屋の写真の……だけど、今は何よりもその人に対する恐怖が湧き上がってきた。

 顔をふさぐことはできず、体は硬直し、まぶたを瞑る。


「ど、どうしたんですか! 急に! この鏡に何が……あ、あれ? これ鏡じゃありません」

「そ、それ見ても怖くないの?」

「あ、はい。これは、私が持っている〈分析〉の応用で、相手の恐怖の対象になっているものを映し出すものですので、自分には……」

「と、とりあえず……しまってちょうだい」

「あ、すいませんでした」


 そう言うと、目の前の女の子は興味ありげな表情を見せてくる。


「……あ、あの……こんな質問どうかと思うのですが……何が見えたんですか? ママがそんなに怖がるなんて」

「……お婆ちゃんだったよ」

「お婆ちゃん? ママのですか……何でそれで恐怖を?」


 私は首をかしげる。身振り手振りはもちろんできないから口で言う。


「さあ、わかんない」


 女の子の顔が暗くなる。


「……まあ、今の状態ですし……」

「そんなことないと思うよ。こんなんになってなくても覚えてなかった気がするし」

「……そうですか」


 女の子が表情を和らぐ。


「ママのお婆ちゃんってどんな人なんですか? ……って、今聞くことじゃないですよね」

「……でも、写真くらいならこの部屋にあったはずだよ」


 私がそう言うと、女の子はゆっくりと部屋を見回す。すると、一つの写真立てを見つけたようだ。


「見てもいいですか?」

「いいよ」


 彼女は私から手を放し立ち上がった。すぐにその手をつかみたくなったが、結局つかむことはできないし、つかめない。

 女の子は写真立ての前に立つと、驚愕の表情を浮かべる。


「……お……お」


 何かに飲まれる感覚に襲われながら、彼女の表情に違和感を覚え声をかける。


「どうしたの?」

「はっ……な、何でもありません」

「そう、ならいいけど」

「はい、今は私のことよりもママのことです」

「……?」


 彼女の言っていることがしっくりこなかったものの、彼女の肩に乗っていた白ヘビが、また彼女に甘えだしたことで聞くことはなかった。

 彼女は私の手を握り、白ヘビを撫でながら困り顔になる。


「この子、お腹減ってるようなんですが、私からはごはん食べてくれなくて……やっぱりママじゃなきゃダメなんですかね……でも、ママは今」

「まともに動けないもんね……手ぐらい動かせればいいんだけどね……」


 私がそうつぶやくと「あっ」と、ひらめいたように彼女が声を上げる。


「どうしたの?」

「思いつきました! 私が、ママの手を動かしてみたらいいんです」

「……?」

「私が直接ママの手に命令を送るんです」

「もしかして……手の神経に直接?」

「はい、私ならそれができると思います」

「それって大丈夫なの? 危なくない?」

「大丈夫です。痛くはないようにしますし、体の操作なら私の十八番ですから」

「……そうだね、こんな状態を少しでもなんとかできるのなら……お願いできる?」

「……はい、やりましょう」


 白ヘビを見ると何かを怖がっているような表情に見えた。蛇の表情なんてあるかどうか定かではないけど、今は確かにそう感じた。


 ●  ●  ●


 イチカが悪夢から目覚め、モリちゃん(分身体)と体の動かし方を模索するちょっと前、ジントとモリちゃん(本体)は工房に着いていた。


 ○  ○  ○


「な、何だこりゃ!」


 工房に帰ると、中は荒らされていた。家具の位置などはほとんど変わった様子はないが、何かを探していたように引き出しはすべてひっくり返されている。だが、金になりそうなものなども一切取られることはなく、親方と作った山のような弾丸もそのままだった。

 それに、争った形跡もない。

 俺は顎に手を当てる。


 ――幸か不幸か親方と母さんが旅行に出た時に……違う。


 ――店のこともあるし、俺がいないときに旅行に出ることはないはずだ。それに、母さんは帰ってきてと言った。なら、旅行はたぶんその後だろう。


 ――親方と母さんは部屋を荒らした奴らと会ったのか?


 ――そもそもなぜ何も取られていない?


 ――目的は果たせなかった? そんなわけがない。目的が果たせなかったのならわざわざりゅうさんの体を使って俺に帰れなんて言わないだろう。


 ――そもそも、あの存在が何かは分からない。この状況はそいつの仕業か?


 ――それなら目的は……それに、何で引き出しが……目的は一つじゃない?


 部屋を見ながら思考をしていた俺は、服を引かれ意識を引き戻される。


「何だ? モリちゃん」

「避難していたんでしょう。床下にいます」

「……! 親方か! 母さんか!」


 モリちゃんはコクリとうなずく。


「親方の方はいませんが……」

「……っ!」


 急いで邪魔な家具をどかし、床下の部屋を開く。そこには母さんがいた。手を伸ばし、引き上げる。引き上げると、母さんは息つく間もなく口を開いた。

 開口一番母さんが言った現実は、俺の全身に衝撃を走らせる。


 ――あり得ない! そんなことあるのか……まさか……


「……親方が連れ去られたって……」


 母さんは無言で首を縦に振る。

 その一つの動きが、


 有無を言わさず事実だと理解させた。

前回前々回と何か宣言していましたが無様にも……

とまあ、ぐちぐちと言ってもらちが明かないのでやめましょう。


話は変わりますが、最近「アルネの事件簿」というゲームの実況が面白くて楽しみになっています。ゲーム自体の内容も面白いのですが、同じく実況者の方も面白いという……次はいつ配信されるでしょうか……


では、これくらいで。まったく別の話も入りましたがご精読ありがとうございました。次回の予定は決まっていませんが、また近いうちに……

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