四十四発目
毎日午前7時投稿を予告していたくせに二日目からそれを破ってしまうワタクシです!
遅れて申し訳ありませんが! 毎日は投稿しますので遅れても温かい目でお願いいたします!
四十四発目投稿です。
『人は記憶を失うとどうなるだろうか?』
よくある疑問だが、そもそも人は記憶を失わない。
忘れているというのはただ思い出せないだけで、消えてはいない。
俗にいう記憶喪失というものも、物忘れのさらにひどいもの考えていいだろう。一概にはいえないが、その場合は憶えているだけで命に関わるようなストレスのかかる記憶であるということだ。
本当に記憶が消える時は、体のどこかにある記憶が保存されている部分ごとえぐられた場合など考えられるが、そも記憶というもの自体の原理はわからない。
普通に考えればその体に記憶情報が保存されていると考えられるが、体というものは常に移り変わっている。自我を意識し、記憶を自覚し始めた頃と数十年経った体を構成する粒子は全くの別物になっているだろう。だが、人は記憶を失わない。
体を形作っている粒子が全て入れ替わったとしても消えない記憶……もしそれが消えたとしたら、人はどうなるだろうか?
――少なくとも俺は……肉体が生きていたとしても『その人間は死んだ』と、定義するだろう。
イチカは……
⚫️ ⚫️ ⚫️
俺はイチカの島を飛び出し、町の外れに来ていた。親方の工房ともイチカのマッサージ屋とも違う方向にあり、工場に囲まれたこの場所は刑務所だ。調べた情報によるとりゅうさんはここにいる。
正直言って脱獄したばかりのりゅうさんに面会できるかは分からない。もしかしたらイチカの事を伝えてりゅうさんに合わなくてはいけないと言っても、面会できるかも分からない。
「イチカちゃんがそんなことにぃ! それにあんたこの町の英雄で、あの弾丸屋の息子かぁ! それなら仕方がねぇ!」
なんだかすんなり面会できることになった。なんだかあっけないというか……なんというか……まあ、りゅうさんと話せることはありがたい。
話によると、この刑務所でも親方の弾丸は活躍しているらしい。だが、面会ができるようになったのはイチカのおかげのようだ。ここで働いている全員がイチカのマッサージにお世話になっているからだという。そんな理由で「イチカがマッサージできなくなった。それを治す情報をりゅうさんが持っている」と言ったらすんなりだったというわけだ。
面会の準備が終わるまで看守のおっさんとの世間話(?)が始まった。
「イチカちゃんのマッサージは、痛みがあるのがいいんだなぁこれが。あんたもイチカちゃんの知り合いならいくらかやってもらったことがあるだろう」
「まあ、何度となく」
俺は顔を歪ませて答える。
マッサージについては痛い以外の記憶がない。確かにメリットも大きいが、その……痛みが……何というか……やばい……としか言いようがない。
「ここの看守たちはな少し前まで、囚人たちに暴力ばっかりしてたんだぁ。だがな、イチカちゃんのマッサージを受けたことで、」
「……他人の痛みを理解して囚人に優しくなったと」
「……?」
「…………?」
「なぁに言ってんだぁ? 英雄さんヨォアンタも冗談が上手いねぇ。優しくなるわけないじゃないかヨォ」
「…………ん?」
「看守たちは優しくなっていないぞぉ。でもヨォ問題の暴力はなくなったんだヨォ。看守たちが暴力しようとするたびに、マッサージを受けているところを思い出してハア、ハアって顔赤くして息を切らしてヨォ、まともに殴れなくなっていたんだぁ」
やっぱりドMじゃねぇか!!!! なに? イチカのマッサージってドM化させるの? なにその副作用!?
「もちろぉん俺もその一人さぁ」
なにを考えているのか、目の前にいる男は何かに興奮し始めた。
……うっ、その顔はキモいからやめてほしい。いや、ほんとに……
そんな世間話(?)で少し(おっさんの顔芸で)気分を悪くしていると準備が整ったようだ。俺は中央を透明なガラスのようなものに仕切られ、天井壁床にかけて透明なもので作られている部屋に入った。その部屋の周りには、上下左右に看守の姿があり一目見ただけで厳重にされていることがわかる。
顔芸のおさっさんの後は、本当にゲイのおっさんだ……俺もう疲れたよ。
そのゲイのおっさんというと、両手を広げ俺を歓迎していた。
「どうだ見てくれこの警備を! 全く見事なものだろう!」
「そりゃそうだろ……って、りゅうさん何者のつもりなんだよ!」
「俺は……いや、俺様は俺様だ!」
……うん。何を言ってるのかは分からんが、ホモのおっさんが俺様キャラになろうとしているのはわかる。もともと堂々としている人だから似合うだろうが、ホモで俺様……正直めんどくさい。
「嗚呼、愛しの英雄! 俺様は考えた。それで結論を得た『俺様キャラでリードすればいけるんじゃね!』と」
……ほらきた面倒臭い。
「俺様が出所するまでは寂しいと思うが待っていてほしい!」
誰が誰を待つのだろうか? こういうのはほっておくと面倒なことになるだろうから……ここの時点で折る!!
「りゅうさん。言っとくが俺はアンタに興味は微塵もない。りゅうさんのことなんかはまたないし、そもそもなんでそんな話がでたんだ? あんたからの愛なんて最初から求めているわけないだろ。どういう思考回路してんだよ」
俺、何でこんなことを言っているのだろうか……
「俺があんたの愛に応えることなんざゼロだ」
何にせよここまで言えば……
「……クッ、まだだ! まだ俺様は諦めん!!」
俺がりゅうさんにさらに追い打ちをかけようと口を開こうとすると、りゅうさんはそれよりも早く顔を歪ませ口を開いた。
「そういえば英雄さんよ、あんたがここに来た理由聞いてなかったな。俺の顔を見たくて来たのかと思ったがそこまで言うなら違うんだろう」
「俺が何が悲しくてお前の顔を見に来なきゃならんのだ。……その通り。あんたの言う通り俺の用はあんたが持っているだろう情報だ。断じてお前に会いにではない」
「つれねぇな俺様に会いに来てもよかったんだぜ」
「断じてゴメンだって言っただろ。でだ、その用ってのは……」
「あの嬢ちゃんを撃った弾丸について、だろ?」
りゅうさんは手を銃の形にしてそう言う。
「分かっているなら話が早い。その弾丸についての情報を教え……」
りゅうさんが人差し指を立て俺の言葉を止める。
「タダじゃ教えられねぇな俺様に利点がない」
「……なにがほし……やっぱな……」
「お前からの愛が欲しい!!!!!」
……やっぱなし……やっぱなし……なし……なし……な…な…
俺の言葉が虚空の彼方に吹き飛ばされた。
「……いやだ」
「それじゃあ俺様は情報を渡せないな」
「てか! お前はイチカを撃った弾丸の効果を知ってるのかよ!」
勢いでこんな質問をしたが意味はない。持っていたとしても、持っていなかったとしても、その情報のためにもう一つ要求できる。それに、その情報を渡す義理はりゅうさんにはな……
「知ってるぜ」
「……!」
「……ここではぐらかして、俺様が情報を持ってないと思われればそれだけで要求も聞いてくれないことになるからなぁ。一つ要求を聞いてくれればそれでいい。だからそれだけは教えといてやるよ」
りゅうさんは歪んだ笑みを浮かべる。
「俺様からの要求だ」
りゅうさんの真剣な雰囲気に俺は固唾を呑む。
「俺と一度だけデートしてくれぇ!!!!」
れぇ……れぇ……れぇ……れぇ……
周りの看守の目が痛い。正直言って帰りたい。念な勘違いをされいそうだから……というか、もうとっくに後戻りできないところまで勘違いされてる気がする……でも、ここで引いたらイチカを戻すことができなくなるかもしれない。
ーーああ、やっぱりモリちゃんに弾丸をくすねて……って、そんなことして問題が起こっていればばイチカを戻のは遅れるかもしれない。だから……これでいい。
俺は、覚悟を決めてりゅうさんの顔を見る。
「お断りだぁぁぁぁぁ!!」
りゅうさんは何も言わずに席を立ち俺に背を向ける。
「……と! 言いたいところだが! 他ならぬイチカのためだ! してやろうじゃねーか!」
りゅうさんは上半身をこちら傾け頭をひねり顔を俺に向ける。
その顔には凶悪な笑みが張り付いていた。
「口約束だが……言ったな。約束は半ば強制にでも守ってもらうからな」
「お………………おう、わかった」
やっぱり断っておけばよかったと、心の中で猛省する。もとより踏み倒すつもりだったが、りゅうさんの半ば強制という言葉に予感が走ったからだ。
――その時になったら、イチカとどこか遠くに高飛びするかな?
――ああ、何でおっさんなんだろうな……せめて可愛い女の子だったらな……って、女の子助けるために他の女の子とデートってないだろ。
そんなことを考えていると、りゅうさんは弾丸を渡されたところから話し出す。だけど、受け取った経緯は大体わかってたので、そこを聞き流して弾丸の効果だけを頭に叩き込んだ。
「……そして、最後に一つ。その弾丸に撃たれてから移動が終わり、繋がりが切れるまではちょうど三十日かかる」
「……な! タイムリミットは一ヶ月って短すぎるだろ! たったそれだけの期間で見つけられるわけ……! ……いや、アレがある。アレを使えばもしかして……」
――ゴンッ
俺は立ち上がり、中央の板を破らんばかりの勢いでりゅうさんに顔を近づける。
「その三つの記憶のカケラは、本人と同一の存在として考えられるんだな」
飄々としてりゅうさんは答える。
「ああそうだ。移動させ終わるまでは、物質的に離れていても対象とつながっている。俺様はそう聞いた。ということは、お前のように考えて問題ないだろうな」
「そうか分かった。でも、よくそこまで聞いていたな」
頭をぶつけて少し頭が冷えた俺は椅子に座り、弾丸について聞いていた時に浮かんだ疑問を言う。
「俺様は臆病なのさ。よく分からないものを使うのは嫌だからな。それに、愛しの英雄……お前が標的になっていたんだ。撃ち抜いたらどうなるのか聞くに決まっているだろう」
「……そ、そうか」
ハッと思い、りゅうさんの方に近づいていた椅子を引く。
「で、でも、何でその弾丸で俺を撃ちたかったんだ? それにりゅうさんの後ろにいた二人はなんだったんだ?」
「質問が多いな。まあ、デートしてくれるからな教えてやろう」
俺はさらに椅子を引く。
「後ろの二人は、俺様の恨みが強い時を再現したからだ。それ以外に意味はない」
「誰でもいいのかよ」
「そうだ誰でもいい」
「…………」
りゅうさんは続ける。
「お前を狙う理由、それは『理由が知りたい』らしい」
「何だそれ?」
「さあ? 俺様にもわからねぇ『なぜ究極に染まらないんだ』とか言っていたが何のことだかさっぱりだ」
「…………………」
「どうした? 思い当たることがあるって感じか」
興味深げにりゅうさんは俺を見る。それを無視し、俺は立ち上がる。
「情報はありがたくいただいてくよ」
俺は振り返り、扉の方に足を向ける。
カカッと笑い、りゅうさんは俺に言う。
「デート楽しみしていろよ」
少しの間の後、俺が出る直前に呼び止められる。
「あ、それと俺様からも聞きたいことが一つ」
俺は歩みを止めりゅうさんの言葉を待つ。りゅうさんは満足げにニヤリと口角を上げる。
「何でお前は……イチカ、だっけか。その嬢ちゃんを何とかしたいと思うんだ?」
背中を向けながら俺は答える。
「目の前で〈記憶〉を撃ち込まれたんだぞ助けるのは当然だろ」
「当然……か。それは、誰でもいいってことか? 誰が撃たれたとしてもお前は、純粋に相手のために助けようと思うのか」
――なんだ? りゅうさんは何が言いたいんだ?
「お前連行される時に見えなかったからな。その時は、お前じゃなくて女が話をつけてた。もしかしてそういう面倒ごとが嫌いなのか? そんな奴がどうしてまあ今回の嬢ちゃんのために動くんだ?」
「そりゃ目の前で……」
「汚いおっさんでもか? どんなクソ野郎でもか? ……いや、これは極端すぎか」
間ができる。りゅうさんは何か考えているようだ。
りゅうさんは話し出す。
「もし、可愛いらしい女がお前の目の前で得体の知れないものを撃ち込まれたとしようお前はどう思う?」
――そりゃ助け……
りゅうさんは不敵に嗤う。
「そりゃ助けるよな。助けた後に何かあるんじゃないかと期待を込めて」
「…………!」
りゅうさんは嘲笑う。
「まあ、仕方ねぇよな。人間ってそういうもんだ。中にはそんなこと思わない慈善家も居るだろうが……」
りゅうさんは俺を指差し言う。
「少なくともお前は違う」
俺の体に衝撃が走る。そう感じた。
「…………確かに……その通りだな。俺は何かを期待しそうだ。でも……」
「『今は違う』だろ。見返りなんて求めないで嬢ちゃんに何かをしてやりたいと、そう思ってる」
「……ああ、そうだ。イチカが怖がってた。イチカのあんな顔、俺は嫌だ」
「俺は……か、嬢ちゃんに対する利他心がお前のエゴか」
りゅうさんは立ち上がり俺の目を見る。豪快に笑いりゅうさんは声を張り上げる。
「利己的に利他心を持つ……俺はそれを『愛』と呼ぶ!」
片手を上げりゅうさんは扉に向かって歩みを進める。
その背中から顔を背け、振り返って俺は言う。
「じゃあな。それに、最後の最後で俺様忘れてたぞ」
⚫️ ⚫️ ⚫️
りゅうさんとの面会が終わり、刑務所の島の出口に向かう途中でずっと胸ポケットに入れていたモリちゃんを取り出し肩に乗せる。
「ずっとポケットの中で苦しくなかったかモリちゃん」
小さいモリちゃんは俺の肩をサイズからは考えられない力で掴んでいる。
「苦しいに決まってるじゃないですか。それに服の中は少し臭かったです」
「……冗談とはいえ俺も少しは傷つくぞ」
「冗談ではないですよ」
「…………」
少し滞った会話の後モリちゃんは見上げて俺に言う。
「そんなにクンクン自分の匂いを嗅がなくてもいいですよ気にしませんから。で、これからどうします?」
「気にしなくとも俺は気に……って、こんなこと気にしてる時じゃないよな」
俺は歩きながら確認するようにモリちゃんに話しかける。
「モリちゃんも聞いていただろ〈記憶〉の効果」
「はい聞いていました。今は時間が惜しいですね。それなのに、ホモのおっさんに『愛』の教えを受けてましたよね」
「ま、まぁ、結構いい話だったし。俺としても気持ちが……」
「気持ちが? どうしたんですか?」
「……う、うっせぇ。それで、次に行くとこは俺ん家だ」
「……? それは後回しなんじゃ……」
「使いたい弾丸が俺の部屋にあるんだよ。……家の様子が気にならないこともないし……ともかく! そうと決まればモリちゃんも来てくれ。イチカの髪を少し切って持ってくるのも忘れずにな」
モリちゃんは首をかしげる。
そのとき島の端に着く。
「とりあえず来ればわかるさ」
俺はモリちゃんにそう話しかけると、島から飛び降りた。
言い訳するときほど人は言葉を詰め込んでどうにかしようとしますが、当の本人はそれを言い訳とは思っていなかったりします。理由はちゃんとあるんだと言いたいのです!
まあ、ワタクシのことなのですが‥‥‥
言い訳しない人ってすごいですね!
お読みいただきありがとうございます!
では、数時間後にまた来ます。




