四十発目
お待たせしました。四十発目投稿です。
またまた書き方が変わってしまいました。どの様な書き方がいいのか未だに模索中です。
モリちゃんの工房見学は、モリちゃんが親方を半殺しにしたりはせずに終わった。
正直なところ、あの親方と親方を目の敵にしているモリちゃんを二人だけにすることは気乗りしなかったが、モリちゃんと親方が二人だけにしろというのでしぶしぶだった。
それでも、何もなかったことはよかったと思う。
それに、出てきた時のモリちゃんは親方のことを見直していたようだ。モリちゃん曰く、「あの子の体を余すことなく、かつ優しく丁寧に使ってくれていたので少しは見直しました」と言っていたから。
……見学が終わった後、モリちゃんが親方の足を思い切り踏んでいた。親方が余計なことを言ったのだろう。
○ ○ ○
モリちゃんの見学が終わった後は、みんなで夕食だった。
すっかり家族のようになっていた俺たち三人を見て、母さんが興奮していたようで、夕飯は豪華だった……って最近食事が豪華すぎる! 豪華だと量も多かったりするから普段通りのが食べたい気分だ……まあ、おいしいからいいのだが……いや、爆食娘が何とかしてくれる! ……そう思ったら、
「普通だよっ!」
「普通ですっ!」
「んもう! ジントったら」
殴られた……ついでに母さんにも。
デザートはソフトクリームだった。爆食娘二人のせいで、ソフトクリームはブラックホールに吸いこまれるように消えていった。
爆食娘たちは「これは別腹だね」「そうですね」などと、軽い感じで話しているがその量が尋常じゃない……マジでシャレにならない量である。隣の方で「あぁぁ!」というごっつい声が聞こえるが無視することにしよう。
○ ○ ○
そんなこんなで夕食も終わり、イチカが帰ることになった。それもそうだろうイチカが工房に居座る理由はない。なんだかよくわからない親方の依頼に乗り、なぜだか俺が報酬として貸し出されたのだ。モリちゃんがついてきて依頼を達成した今となっては帰るのは当然のことで、俺と一緒にいる理由もない。少し寂しくなるが、イチカにも仕事があって客もいるんだ。帰ってからも掃除などがあるだろうから、たまには手伝いに行ってやろうと思う。
「英雄さん、寂しいですか」
モリちゃんがにやけ交じりにそう言う。
「おまえらといると騒がしいが一緒にいて楽しいからな。確かに寂しくなる」
モリちゃんは、俺の顔を除いて頬を膨らます。
「……なんだ、つまらないですね。顔色一つ変えないなんて」
「……ジ、ジント!」
イチカの顔がほのかに赤い。肌ざわりがよさそうな肌に、艶やかな唇……
「……ジント?」
……この潤いが艶につながってるのか触り心地も……
「どうしたのジント?」
「……っ! ごめんイチカ、つい」
「……? 別に私の唇ならいくらでも触ってもいいよ」
「いくらでもって……イチカ……」
「顔赤いですよ英雄さん。恥ずかしいことは躊躇なく言うくせに……んふふ」
「う、うるせぇ!」
イチカの声が俺を呼ぶ。表情は硬くこぶしを握っている。
「どうした? イチカ」
「……ジント……たまには……私の……私の手伝いに来て! それに……」
「……ん? ああ、たまには手伝いに行こうと思ってるよ」
「……手伝いじゃなくても来ていいから。遊びにでも……ちょっと寂しくなるし……って……ああ……あれ? 来てくれるの?」
その光景を見て、モリちゃんが笑う。
「ふふっ……今度はママが真っ赤です。まあ、いつものお二人ですね」
○ ○ ○
そんな他愛のない会話を終えてモリちゃんとイチカが島を出た。
モリちゃんはイチカにマッサージを教えてもらいたいとのことでイチカについていった。モリちゃんならあのマッサージを覚えることはできると思う。それに、モリちゃんが覚えれば、イチカの負担も減ってイチカからしても助かるだろう。まあ、モリちゃんがいれば言葉の通りの百人力だろう。
「寂しくなるな」
親方にそう言われた。そう言って親方は工房の中へと歩いて行った。
俺はかけられた声に何とも答えなかったが、二人がいなくなった工房はひどく寒く感じた。母さんも親方もいるっていうのに、体温が無くなったかのように……。
工房の中に戻ると、親方が待ち構えていた。
「さあ、ジント! これから忙しくなるぞ」
「なんでいきなりそんなにテンションが高いんですか」
「お前も、イチカちゃんがいなくなったからってそんな顔すんなよ」
そんな顔って、どんな顔だ? そう思った。多分凍死しそうなときの人間の顔だろうなとなんとなく思った。……ほんと、どんな表情だよ。
「ジント、一生の別れってわけじゃないんだから。元気出せとは言わないが、もっとしゃんとしろ」
「……そんなんじゃない。初めてできた親しい人間だったからちょっと感傷に浸ってるだけだし」
「その程度で感傷に浸るなんて……さすがボッチだな!」
「うるせえよ! 俺は……ボッチ……だな」
「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。だが、これは言っておく」
「どうでもいいって……はぁ。で、何ですか?」
「この程度で揺らいでちゃこの先大変だ」
「……そりゃ」
「ということで、この先一年分の仕事を一週間でやる! 気張れよジント!」
「……ハイハイ……? …………はい!?」
何を言ってるんだこの人は? 一年分って……どういうことだ?
俺の中に変な緊張感が走る。
「まあまあ、そんな顔しなさんな。材料はある。腕の立つ職人もここにいる。おいしい飯を作ってくれる美人妻もいる。これでできないわけがない!」
「…………」
「まだ必要か? このゴリラたちはこのためのものだ。ゴリラ一匹でもかなりの数が作れるからな。それに、おれとおまえでやるんだ。できるだろ」
「いやいやいや、そんなことよりなんで急にそんなことを? 一年分なんて普通じゃありませんし」
「ジント、これは予定通りのことなんだ。まあ、俺の頭の中だけで立てた計画だから言ってなかったけどな」
親方はニッと笑う。
「それにしても一週間って短いですよ。その期間でさすがに一年分は……」
「できる! お前は〈究極〉が使えるだろ。それを利用する。何度か使って細かな動きもできるようになってきただろう。俺の見立てでは、今のお前の〈究極〉の精度なら問題ない」
「でも、イチカがいないのならそうやすやすと使えませんよ」
「それも問題ない。〈究極〉は最終日の仕上げに使う。それまでは下準備だ」
そして、親方は言う。
「いつもとは違ってこの一週間は配達も注文も受けない。今後一年の間に来るだろう注文を俺が予想してこの一週間でそれを仕上げる。だが、仕事はなおざりにしちゃいけねぇぞ。職人として完璧な仕事をするって……どうしたジント」
腕を組み訝しむような眼を親方に向ける。
「……なんで一年分なんですか?」
「それはな……」
親方はもったいぶるようにして言う。
「新婚旅行に行くためだ。結婚してから一度も言ってないからな」
「あっ……そう……ですか」
鳩に豆鉄砲を食らったようになってしまった。何か重大なことかと思ったが、そういうことなら最初に言ってほしい。そういうことなら俺としても協力してもいい。というかしたい。いつからかは覚えていないが俺のことを育ててくれて、俺が覚えている限りでは仕事で母さんと親方の時間がなかった。まあ、たまにはそんなこともいいだろう。
(……でも、一年分か……少しばかり長めの旅行にでも行くのか? それなら、いろんなところを回ってきたっていうモリちゃんに面白そうな場所を知っているか聞いてみるのも面白いだろう)
なんだかさっきまで俺の中で走っていた緊張感がどこへやらって感じだ。
気が抜けた俺は、ぼうっとしながら頭を働かせると、視界の隅に母さんの姿を見た。
そんな母さんの顔がどこか苦しそうに見えた。
多分気のせいだろう。
● ● ●
それからの一週間は地獄だった。毎日朝から晩まで弾丸作り。二、三日で過労死するんじゃないかと思うほどだった。
それでも、毎日夜更かしはせず、母さんの俺たちの健康を考えた料理を食べていたからなのか自分が思ったよりも仕事がはかどった。
そして最終日、午前中は昨日と同じような作業をする。そこで下準備は終わった。あとは徹底的に仕上げていくだけだ。今日の午前中までで繊細な部分は全部仕上げていた。あとは最終段階だけだ。
「ジント準備はいいか」
銃に〈究極〉を込め、答える。
「問題ない」
「競争するか?」
「勝手にしてください」
――カチャ……俺は自らの頭上に銃口を向ける。
「そうか、じゃあ……最終仕上げ、はじめだっ!」
――パンッ……
親方の掛け声で始まった仕上げは、俺の勝ちだった。半分ずつ同じ量のそれだった。勝ったのは俺だ。だが、親方との差は一秒程度だった。俺は〈究極〉の制限時間いっぱい使って仕上げたのだが、それについてくる親方もたいがいだ。親方が弾丸作りの天才なのは分かっていたが技術だけでここまで迫ってくるのは正直驚いた。化け物である。
思えば俺の近くには化け物じみた人が多い気がする。
俺も知らぬうちに熱中して白熱した弾丸の仕上げ競争は、わずか三十分程度の出来事だった。準備にかかった時間は、ほぼ五日近く。終わったのは一瞬。出来栄えというと俺が見る限りは完ぺきに思えた。親方からはギリギリ合格点といったところらしい。今回作ったのは、一年分。とは言っても、日常的に必要になるものばかりで、製作難易度が高いものはそこまで多くはなかった。
「……一年分って一週間でできるものなのか? ……今更だな。ああ、疲れた」
そんなことをおもいながら、痛む体を引きずり自分の部屋へと向かった。
○ ○ ○
「これからのことなんだが、ジントはどうする?」
俺が横になっていると、親方が部屋に入りそう話しかけてきた。
……急に何だろうか?
「どうするって、そりゃ店番してますよ。親方たちが旅行しているんですから」
「……そうか……なあ、ジント」
「何ですか?」
俺が、痛む体をどうか動かし親方を見ると、突然なことを言ってきた。
「イチカちゃんのところに行ってこいよ」
「何ですか急に?」
「俺たちが旅行に行くのも何日か先だ。それまでにその体を治して来いよ」
驚いた。俺の心が浮足立つのが感じられた。
「でも、今俺動けませんよ。イチカも忙しいんじゃないんですか」
「体のことならこの弾丸を使えば問題ない。イチカちゃんの所に着くまでは持つ。イチカちゃんも大丈夫だろう。あの子は手際がいいから」
この人はいつも通り準備がいいらしい。この人はいつも怖いくらいに何でも知ってるように思う。でも、そんな思いはすぐに消えた。
……なんかソワソワする。
そして俺は軽口をたたいた。
それに親方も軽口で返す。
「そんな問題ですか?」
「そんな問題さ。簡単だろ」
「何がどう簡単なのかわかりませんが……言葉に甘えさせていただきます。では、今から」
「おう、行ってこい」
俺が顕現させた銃に、親方が弾丸を入れる。
――パンッ……
と、小気味よい音が鳴り体の痛みが引いた。親方によるとこの弾丸は一定時間痛みを感じずらくなり、多少の疲れが取れるらしい。だが、イチカの弾丸マッサージには遠く及ばないという。
「どんな弾丸でも作れそうな親方でも、マッサージには及ばないのか……」
廊下を歩いていると、母さんがいた。母さんの姿に何かを感じたが、胸のソワソワがかき消す。
「母さん。ちょっとイチカのところに行ってきますね」
「……分かったわ」
「母さんどうしたんですか」
「何でもないわ」
「……そうですか? では、行ってきます!」
「……行ってらっしゃい……できるだけ早く帰ってきて……ジント」
母さんが何か言ってたようだけど、なんだろうか? 追ってこないし、帰ってから聞いてみるか。弾丸の効果時間がギリギリだったら怖いしな。
俺は、そんな調子であのマッサージを受けに行くのであった。
今回の話は、モリちゃん編(?)の完結と、新編の導入といったところでしょうか。
最近話が滞り申し訳ない。同時に投稿が遅れてしまい申し訳ない。
なんだか投稿するたびに謝っている気がします。本当に申し訳ない。
あらら、また謝ってしまいましたね。何度も謝ることを嫌う方もいると思うのですが、自分が納得できず謝ることばかりですね。
どうか笑い飛ばしてくれると嬉しいです。
ご精読ありがとうございました。




