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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
39/60

三十九発目

二週間ぶりにこんにちは! そしてこんばんわ!

遅くなりましたが、三十九発目投稿です。

「お前たち! いつの間に子供を作ったんだ!」


 町外れの一つの島を、ごつい声で震わせる。驚きを隠せないようで、声は続く。


「いや、正確には作ったではなく作っていたか? でも、この前見た時にはその傾向は見られなかった……いったいどういうことなんだ? 待てよ、俺が会わせるまではお互いに知らないはず……」

「おめでとう二人とも。あらあら、かわいい子ね。……でも二人には似ていないようだけど」


 ごつい声に続いて可憐な声も聞こえる。


「そういうこともあるだろう。子供は親の遺伝子の半分ずつをもらうわけだが、親の遺伝子の中にも幾人もの人の遺伝子が詰まっている。たまたまその中の誰かに似たんだろうな」

「そうなの? ……もしかしたら成長すれば似てくるのかもしれないわよ」

「確かに。まだまだ成長途中だしな」


 ジト目にさらされながらも二人は止まらない。


「あ! この子がいるってことは私はおばあちゃんになったってことね。なんだか実感が湧かないわ」

「俺もそうだよ。いきなりおじいちゃんになったって言われてもな」

「そうよね~出かけていた息子が帰ってくると子供ができてるなんてね」

「子供ができるほど家を空けてないってのにな~」



「なら、違うだろーーー! そもそもの前提からおかしいから!」



 ジントはしびれを切らしたようだ。


「なんで俺の子供だってことになったんだよ! この子を見てわかるだろ、俺とどこが似てるよ! 遺伝のせいにしても似ていないだろ!」


 それに賛同するモリちゃん。


「そうですよ! なんで私がこの顔に似ないといけないんですか! 見るのはいいですが自分がなるのは死んでもごめんです! なんでこんなにさえなくて普通な、目立った個性もなさそうな顔にならないといけないんですか!」

「……あの、モリちゃん? 少々傷つくんですが……」


 徐々に芝居がかった言い方になるモリちゃん。


「見るのはよくても、こんなに友達がいなさそうな……いや、友達もできない顔にならなければならないんですか!」

「モリちゃん止めて! 俺の心が……黒ずんだ心が砕けちゃう!」

「……なぜ英雄さんが? ここはママが英雄さんをかばうのではないのですか?」


 「いつそんな打ち合わせをしたんだよ」と、内心ジントはそう思いながら胸を押さえている方とは逆の手で指をさす。


「イチカなら今はあの状態だ」


 工房の方から振り向き、ジントの指さす先には卒倒しているイチカがいた。その奥には先ほどまで乗っていたスクーター。歩いてきた途中で倒れてきたと見える。


「ママはまたあれですか」

「いつもなんなんだろうな。子作りって聞くと突然……さっきそんなこと言ってたか?」

「最初に言ってましたよあの人が」


 モリちゃんは工房の方を向きその方向にいる男を指す。


「あれが親方ですか?」

「ああ、そうだ。あの人が俺の親父それで隣にいるのが母さんだ」

「あの二人は夫婦なのですか? ……釣り合っていなくないですか?」

「そうなのか? 俺は最初からあの二人を見てるから違和感ないな」

「……美女とおっさん」

「美男美女よりは目にやさしいと思うな。そうだとしたら目が悪くなりそうだ」

「何ですかその変な例えは……あっ、それなら英雄さんとママはそんな感じですよね」

「……それどういう意味だよ」

「そのままの意味です」

「……その意味っていうのを詳しく」


 モリちゃんは視線を足元に流す。


「……痛めつける人と喜んで痛めつけられる人……」

「俺は、ドMじゃねー! 『喜んで』ってなんだよ! まるでそうみたいじゃないか!」

「……だから控え見に行ったんじゃないですか!」

「控え目って……言い方じゃねーか! 言うなら内容を控えめに言えよ!」

「控え目なら言ってもいいんですか!」

「よくねーよ!」

「そうですか!」

「そうだよ!」


 叫びの応酬が巻き起こる中、豪快な笑い声がそれをかき消す。 


「ガハハハッ、いい親子じゃねーか」


「親子じゃない!」

()()違います!」


 二人は息をそろえて言う。


「……え、まだって?」


 そして、ジントの口から空気が抜けるように言葉が出た。


  ○  ○  ○


「ということでこれで依頼の達成ってことでいいですか? ていうか、あなたがこんな依頼をすることにメリットはないですよね」


 と、イチカが言う。


「依頼は上出来。それに俺にもメリットはある。お前たちの中がよくなるってことだ。ジントは今まで俺たち以外の人とはほとんどかかわっていなかったからな。まあ、俺が仕事を手伝わせていたことも理由の一つではあるが……イチカちゃんみたいなかわいい子があわよくばジントの嫁さんになることがあればいいなって思ったり……」

「…………」

「あなた、何言ってるの? しどろもどろになってるし、イチカちゃんが困ってるじゃない」


 どう答えたらいいかわからなくなっているイチカに助け船が入る。


「お母さん」

「ごめんねイチカちゃん。この人ったら変なこと言って……あのねイチカちゃん私も変なこと言うようだけど、あなたの前ならジントも心から笑えているように見えるのよね。お嫁に来ても来なくても、ジントと一緒にいてくれると私もありがたいわ」

「いえいえ、私もジントと一緒にいるときは楽しいので。……私だって、『お母さん』と呼んでいるのでもうお嫁に来ているようなものですかね……」


 イチカは顔を隠すように下を向いて言う。


「イチカちゃん?」

「何でもありません。失礼しますね」


 そういうとイチカは表情を見せないように踵を返す。


「もう帰るのか?」


 親方が椅子にふんぞり返って言う。


「ジントとモリちゃんの様子を見に、ついでにちょっと外の空気を吸ってきます。あ~熱い熱い」

「それなら、数十分くらいしたらここに呼んできてくれないか? その二人とイチカちゃんも」

「わかりました」

「それと、赤くなるくらいならわざわざ変なこと言わなくていいぞ」

「……熱いです」


  ○  ○  ○


「英雄さんはママが突然倒れることをどう思いますか?」

「なんだよ突然いきなり」


 工房の外では、ジントとモリちゃん二人だけがいた。

 イチカと親方は、依頼の件の話があるということで工房へと消えていき、ジントの母さんも親方だけじゃ心配だとついていった。

 ジントとモリちゃんは工房の外で待機ということで落ち着いたようだ。


「ていうか、それよりも聞きたいことがあるんだが」

「何でしょうか?」

「さっき、『いい親子じゃねーか』って言われたときなんて言った?」

「なんでいまさらそんなこと言うんですか?」

「いいからなんて言った?」

「……はあ、しょうがないですね。『()()違います』と、そう言いました」

「まだって、つまりそういうことか?」

「何ですか? わかってるじゃないですか。そういうことです。じきに私と英雄さんは()()()()()ということです」

「……それで母親は?」

「……? ママに決まっているじゃないですか。当然至極です」

「……また、なんで?」

「またまたおかしな質問をしますね。あなたたちお互いを好いているではないですか? つまり事実上夫婦のようなものでしょう」

「いや、待て待て、それはおかしい」

「何がですか? お互い好きなのですし、ついでに私という娘までできているのです。いいじゃないですかできちゃった結婚ということで」

「何ができちゃった結婚だ! ていうか、なんでお互い好き同士ってことになってるんだよ! まだ会って少ししかたっていないんだぞ」

「何言っているんですか英雄さん。好きになるのに時間は関係ありませんし、見ればわかります。ていうか、のろけまくっているじゃないですか」

「いやいや、そんなことは……」

「あります!」

「…………むぅ」


 ジントが答えあぐねたところでモリちゃんが、口を開こうとするが、その前にジントが口を開く。


「そういえば、モリちゃんは親方を嫌っているんだろ。さっきそんな様子はなかったようだけど」

「そうですか? そうでしたか? あの時は英雄さんと話してただけですよ。それに、わざわざそんな様子を見せることはありません。そもそもあの人と一言も交わしてませんし」

「そういうもんか?」

「そういうものです。態度は話す相手によって変わります。意識的にも無意識的にも」

「ふ~ん……無意識的にか……」

「そんな英雄さんは、無意識的にもママへの愛情がありました」

「ぅえ、そうなのか!?」

「まあ、そんな気がするだけです」


 「そうなのか~」と、腕を組んで思考をめぐらすジント。

 そのジントの腕組を強引にほどいてモリちゃんは目をのぞき込む。


「それで、どうなんですか? ママが倒れることについてどう思いますか?」

「それについてはよくわからないな。俺も原因についてはさっぱりだ」

「なんでですか?」

「なんでって言われてもな……イチカの行動についてはよく分からないことが多いしな」

「確かに、ママには不可解なマッサージと身体能力がありますが……」

「マッサージか……そういえば、マッサージでおばあちゃんをなんとかかんとか……」

「……もしや、殺したんですか!? いや、私ですらあれほどの痛みを……あり得ますね」

「ちょっと待てモリちゃん! そうじゃない! そうじゃないから」

「じゃあなんですか? あれほどの痛み、老齢な人では死ぬでしょう」

「いや死んでないから。むしろ助かったから」

「ほう、そうなんですか」

「なんだかモリちゃん。俺やイチカが死ぬかもしれないと思った時と反応が全然違うな」

「……? 何当然のことを言ってるんですか。私が一番大切に思っているのは、お二人だけですよ」

「まだ会ったばかりでそこまで言うか」

「何言ってるんですか。英雄さんだって同じじゃないですか。会ったばかりのママが好きなんでしょう」

「それは……」

「先ほども言いましたが、言わせていただきます。好きになるのに時間は関係ありません。むしろ好きではなくても、長い時間一緒にいればなろうと思えば好きになります」

「……そうなのか」

「というか、そもそも好きの定義も私にはよくわかりません。一目で好きになることもあれば、長い時間をかけて好きだと気付いていくこともあると聞きます。そして、その時に感じる感情も誰もが同じものだとは限りません。相手に感じる感情を、本人が好きだと思えば好きだし、嫌いと言えば嫌いです。それと同じように、第三者が二人の行動を見て、その人の目からお互い好きと思えば好きだし、お互い嫌いだと思えば嫌いです。私から見て英雄さんと、ママは好き同士です。まあ、私の定義なんですけどね」

「俺の定義は……なんだろうな」

「わからないならそれでもいいでしょう。決めることを急かされはしません。でも、私はお二人が好き同士であることを言い続けますよ。ほかでもない私のために、私がそう望むから、そうなるように願って。……フフフッ」

「……かわいいな皮肉のないその笑顔」

「舐めないでください。それでどうですか? 誰にも負けないこの笑顔」

「一つ前のセリフで感想を言ったばっかりだけどな」

「足りないです。もっとください」

「俺の少ない語彙力が露見するんだが」

「かまいませんよ。そんなもの私が笑ってあげますから。さあさあ」


 ジントは美しい黒髪のモリちゃんをまじまじと見つめる。モリちゃんも嫌がることはなく、むしろ自分を見せつけている。

 ジントの頭の中に浮かんだ言葉が、つたないながらも一つずつ繋がる。


「……少し冷ややかだが、繊細で美しさとかわいらしさが引き立っている。確かに誰にも負けてないな。でも、勝ててもいないな」

「……何ですか、前半だけも……よかったのにな……」

「勝ててもいないが、負けてもいない。イーブンだ」

「……ママですか?」

「そうだ。イチカの笑顔は力強く、豪快で破壊力、温かさがあった。さっきのモリちゃんとは逆な感じかな。だからどちらともいえない」

「なら、どちらかを選べと言われたらどっちですか?」

「……どうしても選ばなきゃダメか?」

「フフフフッ」

「どっちも選びたいな」

「英雄さんは欲張りですね。フフッ……そんな英雄さんを私は嫌いではありません。むしろ好きです」

「へへッ……どうもありがとさん」

「はっ! 嬉しくてつい話がそれてしまいました。えっと……何の話をしてましたか?」

「俺に聞くのかよ……確か、イチカが倒れることについて話をしてたよな」

「思い出しました! おばあちゃんが死んだんでしたか?」

「死んでないよ。……それで、思い出したことなんだが……」

「おばあちゃんが凄腕のソルジャーだったんですか?」

「それは分からないが、イチカはマッサージ屋を開く前までおばあちゃんと暮らしていたらしいんだ」

「ほうほう、そのおばあちゃんがママのことを調教したと」

「なんでそうなるんだよ!」

「そのくらいしか考えられませんが?」

「いや、ほかにもあるんじゃないのか? 誰かにトラウマを……」

「トラウマ? ……その言葉は嫌いです。いつかの国でトラウマがなんとかかんとか言って、何もしない人々がいました。その人々を見ていると、とてもイライラしました」

「そんな人達もいるんだな。へぇーどんな国だったんだ?」

「なんで聞くんですか?」

「いや、まあ何となく」

「……滅びました」

「……今なんて?」

「その国は滅んだと言いました。まあ、国民全員がトラウマだなんだと言って何もしない国でしたので……むしろ滅んでくれた方が資源が無駄遣いされることがなくて世界には優しいでしょう」

「……厳しい意見だな」

「イライラしていたので清々しましたね。ほかの国が攻めてきて抵抗することもなくその国はなくなりました」

「なんか野蛮だな」

「ここが平和すぎるだけです。あの家にいる親方という人とのおかげかもしれませんね」

「確かに、親方はお偉いさん方から人気だからな。そのおかげかもな」


 ジントとモリちゃんはどれだけ話していただろうか、いつの間にか空は赤く染まっていた。血のように赤くただ赤く。世界が照れて赤くなっているようである。

 この例えはちょっと無理があったかな?


「ジント、モリちゃん」

「イチカ、話は終わったのか?」

「ママなんだか顔が赤いですね……何かありましたか?」

「モリちゃん、そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ何もないから私がちょっと……」

「また赤くなりました! 何かありましたね……親方っていう人ですか……」

「大丈夫だから! そんな顔しないで、それとモリちゃん元に戻って! 原形をとどめてないよ」

「ママがそこまで言うなら……分かりました」

「それじゃあ二人とも、親方が二人を呼んでるよ」

「何の用なんだ?」

「さあ、わかんない。私も呼んで来いと言われただけだから」

「それなら行ってみましょう。お二人のためなら私は罠にでも飛び込みます」

「罠ではないだろ」


 ジントは苦笑いでそう言いながら、先行するモリちゃんにイチカと歩調を合わせてついて行く。


  ○  ○  ○


「来たなお前ら。ではこれから工房見学をさせてやる」


 工房に入ると待ち構えていたのは親方と、そんな巨体がどこにいたのかゴリラが横たわっていた。


「これは、イチカが狩ってきた……」

「そう、正解だジント。こいつを今から弾丸に加工していく。それをそこにいるお前らの娘っ子に見学させたいんだがいいか?」

「私たちに聞くよりこの子に直接聞いたらいいと思いますよ親方さん」


 イチカはモリちゃんの肩に優しく手を置きそう言う。

 親方が言う。


「どうだ、見るか?」

「……ママがこの子たちを……そうですか……」


 モリちゃんは目を瞑り、胸に手を当てる。


「……どうだ?」

「……うるさいですね気安く話しかけないでください」


 目を瞑りながらも、睨まれたかのような緊張感が走る。だが親方に動じた様子はない。


「…………」

「お祈りはこれで十分です。それではあなたのお仕事を拝見させていただきましょう」


 そう言いモリちゃんは飛び切りの気持ちを込めて、親方に笑顔を贈った。

今回は、ほとんど会話になってしまいました。読みずらかったら申し訳ないです。お読みいただきありがとうございました。

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