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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
37/60

三十七発目

お待たせしました。年明け初めての投稿です。


「それでいいのかよ……てか、どうしてそうなった」


 ため息をつきながらジントはその光景を眺める。そこでは、二人の女性が重なる女性服を漁りながら、次々と着替えている。この場合二人の女性というと、イチカとモリちゃんだ。もちろんイチカの姿はいつものままだが、モリちゃんの姿がいつもと違いグラマラスに……いや、いつも以上に幼く……いや……とにかく着替えるたびに代わるのだ。

 ……それが異質さを感じさせているのかも……いやそれではなく……


「ママ、これの着方はこれで会っているんですか?」

「そうそうそんな感じ……うん、小さいモリちゃんもかわいいね似合ってるよ!」

「そうですか、ありがとうございます。じゃあ……次はこれでお願いします!」

「おお、なかなか奇抜なのを選ぶね」

「……そうですかね?」


 二人の会話を聞くジントが小声で言う。


「……いやいやいや、その服を奇抜ってもんじゃないだろ。ほとんど隠れてないだろその服! 来たところでほぼ丸出しじゃねーか。というか隠す気があるのかよその服……どこから持ってきたんだ? それよりも、イチカ! 奇抜だねってなんだよ! 奇抜すぎて奇抜すぎて異常になってるから! それにモリちゃんも『そうですかね……』って……そうですよ! 奇抜を通り越してそれ以上ですから! ……そういえばこの服って、町から動物たちが持ってきたんだよな……誰が着てたんだよ! それに……」


「ママ、来てみました!」


「どうしてママっていう呼び方になったんだよ!」


 ジントが違和感を叫ぶ。

 モリちゃんが元々姿を変えられるのは分かっていたことだ。そのうえで違和感というのはモリちゃんがイチカのことを「ママ」と、呼んでいることだろう。

 だが、ジントの叫びはもう何度響いたことか……無視される。


「おー……なかなかすごいね。体の局所的な場所を見えるか見えないかの最低限の布を纏うことによって、その豊満な体の魅力を最大限に引き出す……うん、似合ってる」


 イチカはじっくりとモリちゃんを眺め、評論家のような芝居めいた言い方をする。


「ママすごいです! この服はそういう特徴を持っていたんですね!」


 表情をぱあっと明るく変えモリちゃんはイチカにきらきらとさせた目を向ける。


「すごいなんて、そんなことないよ。さっきのもある人からの受け売りなんだ。聞いたときはなんだかよくわからなかったんだけど、他人のを見てみると理解できた気がするよ」

「……ということは、ママもこれを?」


 うなずいてイチカが答える。


「それと同じようなのを着たことあるね自分の姿だったからね何とも思わなかったのかな?」

「私もママとおんなじ体験ができたんですね! それはうれしいです! それで、そのある人とは?」

「私のお客さんだよ。いつも一枚しか服を着ていない人」


「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! ……はぁ、はぁ、」


 無視されていたジントは我慢できなくなって息が切れるほどの大きさで叫んだ。

 その声を聴いて二人が顔をムスッとさせてジントを見る。


「うるさいよジント静かにしててよ」

「英雄さん、ママとの楽しい時間を邪魔しないでください」


 二人にそう言われて弱々しくジントが言う。


「……邪魔する気はないんだが……」

「ならなんでそんなに叫ぶの?」


 イチカは心底不思議そうな顔で可愛らしくそう言う。


「お前らの着替えている服のお前らの感想がおかしいんだよ。他にもあるが……まずはそこだ」

「そうですか具体的に何がおかしいんですか?」


 モリちゃんがジントに言う。


「何がという前にまず俺はこう言いたい『お前ら恥ずかしくないのか』と」

『「何が恥ずかしいの?」

「何が恥ずかしいんですか?」』


 二人は真顔で即座に言う。


「他人に着替えを見みられること、特に男に見られることや。そんな着ているのかどうかも分からない服を着ているところを見られることは、普通は恥ずかしいものだろ」

「……? 私はお腹を触られない限り何され……特には」

「……? そうだったんですか初耳です」


 二人は嘘をついた様子もなく言う。ジントはあきれながらも言う。


「なんだよその反応は……もう少し恥じらいってものがあればもっと二人の魅力が上がると思うんだけどなぁ」


 ジントがそういうと三人を囲む空気が張り詰める。近くの森ではその緊張感が伝わったのか上下左右あらゆる方向に向かって鳥が飛び立ち、小動物たちは隠れ、食物連鎖の頂点付近の動物たちは警戒心を高める。


「ねえジント、」

「英雄さん、」


 イチカとモリちゃんは目をぎらつかせながらジントに迫る。


「「その話、詳しく教えて」」


 自分に迫ってくる二人の迫力に押されながらも、ジントは話し出す。


「まずは……離れてくれないか?」


 ジントを押し倒さんと言わんばかりのイチカは「おっとごめん」と言い話しやすい距離に離れ、覆いかぶさらんと大きくなっていたモリちゃんは、小さくなりながら「おっ」という表情になるだけで何も言わずちょこんという擬音が似合いそうなかわいらしい座り方をする。

 まともに話せるようになっていることを確認するとジントは口を開く。


「ひとまず、恥じらいとは……」


「「とは?」」


「恥ずかしがることだ!」

「聞いた通りだね」

「それだけですか?」


 二人は拍子抜けも甚だしく無愛想にそういう。

 そんな二人の態度を気にすることなくジントはまくしたてる。


「そう、恥ずかしがること! それこそ言葉通りだが、実際では言葉以上の破壊力を持つことがある。一つの例えとして、何事にも動じず一度も恥ずかしがることを知らない奴が何かの拍子に恥ずかしがる。それによって日常とのギャップが生じ、その人を魅力的に感じると……」

「英雄さん! いいですか?」


 ジントが調子よく話し出すとモリちゃんが止める。


「途中だがしょうがない。どうしたモリちゃん?」


 モリちゃんは十分に呼吸を整える。


「それは人間での話ですよね。私たちは人間じゃないんですけどどうしたらいいですか?」


 長い長い静寂があたりを包んだ。


「………………そんなことは気にするな! ひとまずイチカは恥じらいができるからモリちゃんよく見ていろ」

「はいっ」


 モリちゃんが歯切れよく返事する。イチカは「……へっ?」と拍子の抜けた声を出すと、ジントに手を取られ目を覗きこまれる。


「イチカ、いつ見ても思うがお前の目はきれいだ。この小さく華奢な手も可愛いらしくて俺は好きだな」

「…………。」


 ボンッという音が出たかはわからないが、ジントが言い終わるときにはイチカの顔は真っ赤になっていた。


「……えっ……急に……な……きれい? 好き? 冗談? ……見本……冗談だよね?」


 イチカが状況から真っ白だった頭を整理し始めると一つの答えが出始めたがジントは容赦なく追い打ちをかける。


「イチカ、何言ってんだよ冗談なわけがないだろ。本心で言ってるんだ。俺は無理が嫌いだって言ったよな。そういうことで、俺は無理しても嘘をつくのは嫌だ」

「……と……いう……ことは?」

「本心だよ心の底からの……やっぱり言葉にすると嘘っぽいか?」

「あっ……やっ……ほ、本心? 嘘では……ないっ!? ……えっ? ……えっ! ……えっ!?」


 今度こそボンッ、というかドスンという音を出してイチカは顔を真っ赤にしながら倒れた。


「……あらら、やりすぎちゃったか?」

「英雄さんこれが恥じらいですか? ……私にはいつも通りのお二人にしか見えなかったんですが」

「…………そう! いつも通り! いつも通りでいいんだよ! 変に何かするよりいつもどおりが一番だ! というか俺が恥じらいを語るなんて無理があったんだ」


 ジントは何かに気づき意見を一八〇度変える。それを聞いたモリちゃんがジントに問う。


「……じゃあどうすれば魅力が上がるんですか?」


 どこか不安げな表情のモリちゃんは光を見失ったかのように下を向いている。


「なんでそんなに光を求めるんだ? 何かにすがっても人の魅力は上がらないと思うぞ」

「……光ってそんな大げさな……」

「俺もそう思うが、モリちゃんがそういう顔をしているんだからな」

「私ってそんな顔してるんですか?」

「俺が、魅力が上がるといったことに反応したみたいだな。そういえばイチカも反応したな。何気なく言ったことだ」

「……魅力が上がれば」


 モリちゃんがぼそりと言う。


「俺に好かれるとでも思ったか?」

「……っ!」

「ヒヒッ……図星か? なんにせよ俺に好かれたいと思ってくれるのは嬉しいな」

「……そんなことは……」

「……ないのか? ……そうか……俺の思い上がりか……」

「そんなことはっ! ……ない! ですが……」

「そんなに必死に否定しなくても、直接お前の口からきいてるから俺のことが好きなんだろ家族として」


 モリちゃんは黙って頷く。

 しばらくして静寂が包んだ後、モリちゃんが静寂を破った。


「英雄さんはママのことをどんな風に思っているんですか?」


 ジント一瞬フリーズし、そして口を開く。


「この空気を壊してしまうようで申し訳ないが、もう一度確認したい。なんでモリちゃんはイチカのことをママって呼ぶんだ? モリちゃんを連れだしたのがママだろ。でも……イチカが助け出したってことではないんだろ」


 はあと息をつきモリちゃんは、これで最後とばかりに懇切丁寧に言葉を紡ぐ。


「その通りです。ママが助け出してくれたわけではありません。それで、最初に断っておきますが私はお母さんの匂いしか覚えていません」

「それは分かった」

「では……先ほど私の中で私が涙を流した時ママが持っていた服があったでしょう。それには、かすかに、極々わずかに、お母さんと同じにおいがついていました。ですが、それは服の持ち主本人のものではなく、その人とかかわりのある人の匂いでした。その人は、ママのお店に通っていたらしいのでもしやと思いまして、ご飯を食べた後に私の体に嗅覚を持たせて嗅いでみたところ案の定イチカさんの匂いがお母さんとほぼ同じだったのでつまりママだったということです」

「ちょっと待て……最後がわからん。イチカが助けたわけではない。だが、匂いは同じでだからお母さん?」

「違いますママです」

「……違いがよくわからないんですが……」

「ママならわかってくれたのに……」

「イチカはママと呼ばれてうれしくて気にしていないだけだと思う。呼ばれるととっても嬉しそうにしてたし」

「…………簡単に言うと、私を連れだしたのがお母さん、そのお母さんと同じ匂いを持つイチカさんがママということです」

「モリちゃんの言うママとお母さんを別人と考えればいいのか」

「そういうことです。やればできるじゃないですか」

「俺は馬鹿にされているのか……まあいい。……ということは、ママといればお母さんの手掛かりが見つかるということでいいのか?」

「そうですね。そういうことです」


 「ふう」と一仕事終えたようにモリちゃんが言う。


「さて、続きです。無駄に時間を食いましたが、もう一度聞きます。『英雄さんはママのことをどんな風に思っているんですか?』」

「……雰囲気が……」

「はい、見事にぶち壊されましたね英雄さんに。先ほどの空気感ならいい雰囲気だったんですけどね」


 皮肉るようにモリちゃんは言う。

 自分の作り出した状況にため息をつきながらジントはイチカのことをおもう。


「……今思い出してみると最初会った時から変な奴だと思う。もちろん今も変な奴だよイチカは。普通の時の力は俺より強いし、裸になっても恥ずかしがらないし。でも、なぜかお腹を触ると恥ずかしがるし、さっきみたいに言葉をかけても恥ずかしがる。いろんなところがおかしいよイチカは。さっき恥じらいを持てって言ったのは、こんな変なところで恥ずかしがらなくてもいいんじゃないかって、普通の人のように恥ずかしがっても可愛いんだろうなって思ったからなんだよ」

「…………」

「俺は別に今のイチカが魅力がないと言っているわけではないんだ。今でもイチカは可愛いしあのマッサージをされるのは痛いけど、それでも一緒にいるのが楽しいんだ。……一応言っとくが俺はⅯじゃないからな。どっちかというとSの方だぞ」

「最後の情報はいりませんどっちでも気にしませんし。……そうですか。……では、……」


 モリちゃんが話を切ろうとするがジントはそれを許さなかった。


「それでさ、俺は思うんだもっとイチカのことが知りたいなって、この世界のだれよりも」


 話を終わらせようとしたモリちゃんだったがしぶしぶ続ける。


「何ですかその臭いセリフ……」


 モリちゃんは皮肉るように顔を歪ませて言う。


「……知りたいというのは、全知全能の神様よりもですか」

「ああ、そうさ。全知全能だろうと何だろうとそんなものより……いや、違うな人を知ることには際限はない神様より……とは言わずどこまでもだ」

「どこまでのろけるつもりですか。英雄さんはいつも……」

「のろけているつもりはない。今までもさっきの言葉も俺の本心だ」

「…………」

「そして、俺はモリちゃんを知りたい。世界のすべてしか知ることができない神様ではなく神でも知れないその先までモリちゃんのことが知りたい。俺のことを好きになってくれたお前のことを俺は知りたい」


 ジントが言うと、モリちゃんは夕焼けのごとく生き生きとした赤色へと頬を染めた。


「英雄さんは馬鹿です」

「いきなりバカ呼ばわりとはひどいな」

「正真正銘の馬鹿です。後ろを見てください」

「……後ろ?」


 ジントが振り向くといつ気がついたのか倒れる前より頬を染めて表現できない感情を体内に滞留させたような表情をしているイチカがいた。どうとも表現できない感情の一部は固く握られたこぶしで見て取れるがそれだけでは当然足りない。


「……ジント、どうしたらいい? ジントを全力で抱きしめるか、全力で殴るか……選んで」

「……選べというのなら抱きしめられたいけど、全力!? 死んでしまいますが……ていうか、どこから聞いてた?」

「私、気絶してないよ。落ち着こうと、頭を冷やそうとしてただけだから」


 モリちゃんはいつも通り皮肉るように言う。


「馬鹿ですね。まあ、死なないようにはしますよ。……さっきの言葉は嬉しかったですから」


 モリちゃんが小声で言ったことと、イチカが今にも抱き着こうとすることでモリちゃんの最後の声はジントには届かない。だがその言葉が届かなくともモリちゃんは行動で示す。イチカの、この行動も一種の感情表現だがちょっと物騒だ。本気を出せば人が死ぬから。


 そうして森には悲鳴なのか? 呻きなのか? とにかく人間の叫びが轟いた。


  ●  ●  ●


 モリちゃんに会うために森に来たジントたちは、モリちゃん及び森の仲間たちに大歓迎され、歓迎会が終わった後もだらだらと会話を続けながら森で過ごしていた。だが、森で過ごす時間も数時間ほど。時間が来れば工房へと帰る時間となる。そういうことで、帰りに向けてジントたちは支度をしている。


「支度といっても弁当の片づけくらいだから時間はかからないんだよな」

「そうだね。ほらジント、その箱はここに積んで」


 イチカが指す先は空になった重箱が包まれることがなく積まれている場所だった。最初は小さくまとめられていたのに雑に置くとここまでの幅を取るのかと思うジントだがふと思う。


「ここに積んでどうするんだ? まとめて包まないのか?」

「最初は包んで持ってきたけど、帰りは中身がないからね。これが使えるかなって思ってさ」


 イチカは一つの弾丸を取り出し見せる。


「これは〈収納〉っていうんだけどねこれを打ち込むと、当たったところから半径一メートル四方をこの弾丸の中に収納できるんだよ。まあ重さはその分重くなるから極端に重すぎるものとかはあまり持ち運べないけどね」

「……これも親方から?」

「そうだね前にもらったんだ。狩りの時にも持ってたけど重いから使えなかった、というより生き物は入らないようになってるんだよ。この中で生き物は生きてられないからね」


 ジントとイチカが話していると準備を済ませたモリちゃんが森の奥のほうから風に乗ってあらわれた。

 姿は最初の幼げな姿に戻り、白いワンピースと涼しげな麦わら帽子をかわいらしく着こなしていた。そして、髪と目は目立たないように黒く染まっている。準備をしているのは、お母さんの手掛かりであるイチカと一緒にいるために森を離れるのだ。そのための挨拶を動物たちにでもしていたのだろう。

 モリちゃんは二人のもとに来ると、二人の持っている弾丸が気になったようで観察し始めた。


「モリちゃんどうしたの? この弾丸が珍しい?」

「珍しいというか、珍しくないというか……」

「どういうことだよ……」

「ちょっといいですか?」


 そう言いモリちゃんは弾丸を手に持ちさらに感触を確かめる。口に入れようともしたがそれは二人が止めた。


「こんなもんですかね。ありがとうございました。これは閉まってもいいですよ」

「この弾丸はこれから使うよ」

「この重箱をしまうんですよね。任せてください」


 そういうモリちゃんの言う通りイチカは自分のベルトに弾丸を戻す。

 ジントが言う。


「何をするつもりだ? モリちゃん」

「まあ、見ててください」


 モリちゃんはそういうと銃を顕現ではなく、手のひらから創造し、弾を込めることなく引き金を引く。

 ――パンッ……という子気味良い音とともに重箱は一つの弾丸の中へと吸いこまれた。


「うまく重箱だけが入るようにしました」


 そう言うと、モリちゃんは落ちた弾丸を拾う。そして、二人の前で無邪気で不敵な笑みをみせる。


「さあ、これは私の能力の一つです。もう少し時間もあることですし、改めてお話でもしましょうか」


 モリちゃんは拾った弾丸を渡しながらそう言う。渡された弾丸は人のような温もりはなく只々無機的な冷たさがあるだけだった。

少々遅くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。

今年も張り切って投稿していこうと思います。

よろしくお願いいたします。

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