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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
35/60

三十五発目

こんな遅くに申し訳ないです。

三十五発目投稿です。

 モリちゃんは真剣な表情になりベッドに顔を向ける。向けた方向には、ベッドから起き上がる格好になり少し赤面しているジントがいる。その隣には、ジントの背中を背もたれにしているイチカがいる。

 家の外には、三人がいる家を中心に動物たちが集まっていた。


「結論から言うと、私はお母さんを一緒に探してほしいのです」


 と、言いモリちゃんは始める。


「それと俺の好感度と何の関係があるんだ?」

「それは……好感度が低いと頼みを聞いてくれないと思ったので……」


 モリちゃんが声を落として言うと、ジントは笑い出す。イチカもつられるように笑う。特にイチカは抱腹絶倒の様子だ。


「な、なんで笑うんですか!」

「なんでって言われてもな……アハハハハ」

「なんですか! 笑わないでください!」

「はあ―……ごめんごめん。なんだかくだらないことを心配してたから、なんだかおかしくなってな」


 笑いを殺すように腹を抑えながらジントは言う。それでもジントの口から少しの笑いがこぼれる。


「いつまで笑っているんですか! そして、あなたも! どこがそんなに面白いんですか!」


 モリちゃんはイチカにも笑われるのが不服のようでイチカに叫ぶ。


「いやぁ面白いとかそう言うわけじゃなく、ジントが笑ったから何となく」

「なんで何となくでそこまで爆笑できるんですか!? あなた、英雄さん以上に笑っていたでしょう!」

「そうかな? ジントの真似をしたんだけどなぁ」


 イチカがそう言うと、ジントは少し顔を歪める。


「おい、イチカ。俺はそんなに派手には笑ってないぞ。俺は、モリちゃんをあまり傷つけないように抑えて笑ったぞ」


 何言ってるの? という雰囲気を醸し出しイチカは言う。


「ジント、私はちゃんとジントの真似をしたよ。という事は、私はモリちゃんを傷つけないように笑ったことになるよ」

「それでもあの笑い方にはならないだろ。……イチカ、お前モリちゃんのどこかに何か気に入らないところがあったりするのか? まあ、人には相性があるし……」


 ――パンッ

 ジントがそう言うと突然乾いた音が家に中に響く。


「……クッ……イチカ! 急に何しやがる! これ結構意識たもつのきついんだぞ!」

「……ジントが見当違いのこと言い出すから」


 プイッとイチカは顔をそむけるようにする。

 元々背中合わせに座っているので、顔を向けるような姿になっているが本人は気にしていないらしい。

 ジントはイチカの方に首を回す。


「見当違いの事って何のことだよ」

「…………」

「どうなんだ? なあ、イチカどうなんだ?」

「…………」

「……イチカさーん?」

「……知らない」

「知らないってなんだよ」

「……知らないよ~だ」


 明らかに不服な表情でイチカは答える。今のイチカは幾ら話しかけても取り合ってくれない空気を作る。

 その様子を見て呆れ気味にモリちゃんが言う。


「そんなにイチャつかないでください。それに、先ほどから聞いていると、私を傷つけないようにと言っていたようですが笑われた時点で多少は傷ついているので。そして、さっきの会話を聞いているだけでその傷を広げられました! 英雄さんどうしてくれるんですか!!」


 尻上がりに興奮しだしたモリちゃんはそう捲し立てる。


「どうしてくれるって……」


 モリちゃんの鋭い眼光がジントを貫く。

 それはそれは恐ろしいモリちゃんの眼光。それは、貫かれた者は抗えない恐怖に襲われるようなものであった。だが、英雄であるジントはものともしないだろう。巨大なうえに音速で移動し、音速で糞を投げるゴリラとタイマンをしていたのだから……英雄なのだから。


「すみませんでした! 何でもしますから許してください!」


 ――なんでしょうかこの英雄。

 ジントはモリちゃんにむかってそれはそれは見事な土下座(心を込めた謝罪!)……いや、床下座(究極の謝罪?)をする。

 ジントは今〈究極〉を使用中。少し動くといろいろな物を破壊してしまうが、家の中では風が起き、積まれた服が飛び散るだけで、なにも壊れていない。だが、不自然に一つ倒れるものがあった。


「……はっ……モリちゃん何で俺の上に倒れているんだ?」

「知りませんよ。しいて言えば貴方のせいです。お腹がズンってなりました」


 モリちゃんは皮肉るように言う。


「…………」

「…………むふぅ」


 どこか満足げな表情になっているモリちゃんにジントが話しかける。


「……モリちゃん俺が動くと大変なことになるから降りてくれないか?」

「……嫌です」

「降りてくださいませんか? あの~」

「嫌です。もう少しこうさせてください」

「もう苦しいんですが……体を起こして腰を下ろしたいんですが……」

「起きたいなら起きていいですよ。私は大丈夫ですから。ちゃんと私の中で受け止めますから」

「……何を?」

「ビチャビチャと飛び散るものですよ」


 モリちゃんはそう言うと、ジントの上からゆっくりと退ける。


「満足しました」

「何に満足したんだよ」

「なんでもいいでしょう」

「……そうかよ」


 ジントは曖昧なモリちゃんの答えに疲れた様子で答える。そして、視線を感じその方を向く。


「イチカそれでお前のその目は何だ?」

「な、何でもない」

「そして、そのイチカを見てにやけるモリちゃんも何なんだ!」

「何でもないです」

「ここにはハッキリものを言う奴はいないのかよ……」


 ジントはどこかに救いを求める様にそう言うが、もちろん救いはない。

 モリちゃんが口を開く。


「そろそろいいですか? 全く話が進まないんですけど……」

「それは……俺のせいか……俺のせいか!?」

「英雄さんのせいです」


 モリちゃんはキッパリと言う。


「……始まりは俺だけど……俺のせい……」

「英雄さんのせいです」


 被せる様にしてモリちゃんは言う。


「俺のせい……」

「……です」


 ジントはモリちゃんの眼光に貫かれた。


「はい! 俺のせいです! 話を続けましょうかモリちゃん」

「英雄さんがそこまで言うならそうしましょう」


 モリちゃんは幼い胸を張り邪悪な笑みを作り満足げに頷く。と、その時ジントが「はっ」と何かから覚める。


「また体が勝手に……もしかしてこれが動物たちを使役するモリちゃんの力か!」


 ジントは一つの謎を暴いたかのような表情になる。そのジントにモリちゃんが言う。


「違いますよ私はちゃんと話し合って協力して頂ける様にしているだけです。暴れん坊のお方にはまあ……そうですね……」

「……何しているんだよ」


  ○  ○  ○


「それでは気を取り直して始めましょう」

「そ、そうだな」


 変な空気になり、数分の静寂を越えモリちゃんが始める。


「という事で、私はお母さんを探してほしいという頼みを聞いてもらうために英雄さんの好感度を気にしていましたが、言質は取れましたのでそこは解決ですね。あ、あなたにも頼みたいのですが……」


 モリちゃんはイチカに言う。


「大丈夫。私は問題ないよ」


 不思議そうに首を傾げジントは言う。


「あれ、相性があまりよくないんじゃ……」

「……」

「……」

「な、なんで二人ともジト目を俺に向けるんだ?」

 

 ジントの言葉を聞いて呆れてモリちゃんとイチカが言う。


「私たちは相性が悪いというわけではありません」

「また見当違いの事を言うと……撃つよ」

「……どうして怒られるんだ……?」


 そんなジントを無視してモリちゃんは話し出す。


「お願いは聞いてもらえるようなので、これまでの事を簡単にお話ししましょう」


 ジントとイチカは最初のようにお互いを背もたれにするように座りモリちゃんに顔を向ける。


「私にあるお母さんの記憶はほぼ匂いしかありません」

「ほぼってことは少しはあるんだな」

「はい、それについてはこの後話します」


 ジントは聞く姿勢に戻る。


「なので、私は匂いを手掛かりに捜そうと思いました。この町に来る前にも、いくつかの町や国をめぐり捜してきました。ですが、どの町をめぐってもお母さんの匂い……それと似た匂いすらありませんでした。ですが……」

「この町に似た匂いがあったと」

「その通りです英雄さん」


 顎に指を添え思い出すようにイチカは言う。


「そうなんだ。……匂いと言えば血生臭いジントがさっき運ばれてきたよね」

「そうですね。私は英雄さんが血だらけで私に運ばれるのを知っていたので匂いを嗅がないようにしていました。あなたが来る前くらいからですね」

「俺ってそんなに臭かったのか……」


 多少のショックを受けるジントを気にせずモリちゃんは話す。


「それで私は町の近くにあるこの森に住みつくことにしました。町にいて誰かに保護されるのは何かと不都合があったので」

「それは何でなの?」


 イチカが問う。


「私が人間じゃないのがバレるのが不都合ですから」


 「そっか」とイチカは納得する。


「そして、森を拠点に私は何度か町に降り立ち、お母さんを探しました。ですが、お母さんは見つからなかった。気が付くとその頃には森の動物たちと仲良くなっていたりしていました。そして、そんなころ森に訪問者がいました」

「……俺たちの事か?」

「そうです。英雄さんたちが森に来たんです。あの頃は英雄とは呼ばれていなかったですね。まあそんなことはいいんですが。その時なのです英雄さんに一目惚れをしたのは」

「……へっ!?」


 ジントから変な声が出る。

 それもそうだ。真剣に話を聞いていたというのに、急に一目惚れされたと言われれば誰でも驚くことだろう。

 ――パンッ


「落ち着いてジント大丈夫だから」

「痛ッ……って、俺が大丈夫じゃねーよ! ……どうしてそんなふくれっつら?」

「大丈夫。気にしないでジント」

「……そうですか」


 モリちゃんは「災難な日だな」というジントの声を気にせずに進める。


「一目惚れとは言い過ぎでしたか? まあ好きなのは事実ですし」


 ジントの顔が歪む。

 ――痛い、痛いから……何でつねってくるんだよ!

 その声はイチカには届かない。それは、ジントが言っていないのもあるが、言っても届かない。


「理由を言うとすれば、私と同じものを感じたからですかね。惚れたという話はこれくらいにして……その時のことです。お母さんと似た匂いが強く感じたんです。私は、あなたたちがお母さんと同じような匂いをしていた人と近くにいたんじゃないかと。なので、動物たちの協力を仰いだんです。まあ、あんなにぞろぞろと大群で行くつもりではなかったんですけど。その時にですねゴリラ達が敵討ちをしたいと言ってきたんです」


 ジントは思い出す。


「……あの音速ゴリラか」

「そのゴリラは大きかったですか?」


 ジントはうなずく。


「じゃあその子ですね私が大きくしてあげたんですよ。あのカメさんと同じです」

「……どうやったんだ?」

「まずは、流れに沿って聞いてください。じきに出てきますから」


 ジントは「そうか」と言う。「そんなことは置いておきます」と言いモリちゃんは続ける。


「それで、私はついでに匂いのついたものを持ってくるように頼んだのです」

「それが、その服という事か」

「そうですが、動物たちは人間の顔やとってきた場所なんて覚えていないということを考えていなかったので失敗でしたね。まあ、匂いのついたものがあったら持ち主を探しに町に出ようとも思いましたが持って行ったところで、なんと思われるかが分からないんですから危険性を考えてやめようと思っていました」

「それで匂いのついたものはあったのか?」

「一つも……いや、微かについたものはありましたね。でも、微か過ぎて信用ができないのでもっと確実なものが手に入れば動こうかと思っていました」


 服の話をしたからだろうか、イチカがのそりと立ち上がり女性服の山に手を突っ込みあさり出した。ジントは「何やってるんだよ」と言いたげだったが、モリちゃんに話を続けるように促す。話が進まなかった事でせめられたことを引きずっているのだろう。


「そうして、服を集めても手掛かりが乏しいので私は町に出ることにしたんです。その時にまた会いましたね」

「そうだな」

「あの時、町の子供たちの近くにいたのは、怪しまれないためですね。このような幼女の一人歩きは怪しさ満点ですよね」

「自分を幼女という時点で怪しさが飽和してるな」

「ま、まあそこはいいとして……その時に近くにお母さんと似た匂いを感じたんですね……ですが、お友達の動物を殺したことと、一目惚れしていた英雄さんと会ったことで、あなたしかしか見ていなかったので、『あとで思い出すと』という前振りが入ってきますが」

「そうか」


 モリちゃんは可愛らしい困り顔を作って言う。


「まあ、こんなところですかね。退屈なお話を長々と聞いてくださりありがとうございます。それでは……」

「お前の話だな」

「そうですね……どこからが始めましょうか」


 モリちゃんは少し静止する。

 どこから話すか決めたようだ。


「そうです。まずはお母さんの記憶の話から」


 モリちゃんはそう言うと、合唱するように手を合わせる。次の瞬間手を開くと、その手の中には親子を写したらしき写真が写真楯に入っていた。モリちゃんは愛おしそうにその写真楯を眺めている。


「これがお母さんでこっちが私です」

「これ……お母さんの顔が……」

「……はい、見えません。記憶にある顔も、靄がかかったようになって思い出せないんです」

「何見てるの? 私にも見せてよ!」


 さっきまで女性服を漁っていたイチカが興味を持ったのか近づいてきた。そして、写真を見ると首を傾げる。


「イチカどうした?」

「この人どこかで見たことあるような……気のせいのような……」

「なんだよそれ」

「他人の空似だよ気にしないで」


 イチカはそう言うと服漁りに戻る。そしてモリちゃんは話しだす。


「この写真を見るたびに思い出すんです。手を握っていた温もりを……それと同時に何か怖いものから逃げていることも……」


 モリちゃんが明らかに怖がっているが、ジントは承知で話を聞く。


「その怖いものって何なんだ?」


 「それは」と言いモリちゃんが固まる。少しすると覚悟を決めモリちゃんは言う。


「とある組織です。名前は知りませんが弾丸の研究をしていて、私は実験体だったようです。記憶がほとんどないのですが生まれてから数年そこに居たらしいです」

「それはどこからの情報なんだ?」

「その写真の裏に書いていました。多分お母さんです。私を連れて逃げ出して、少しの間一緒にいたのですが、私にその写真を渡して居なくなりました」

「だから探していると」

「そうです。お母さんの顔も思い出せないなんてこんな悲しいことないじゃないですか」


 弱々しい笑顔を作りモリちゃんがジントにそれを向ける。それは誰が見ても泣いていると分かる顔だった。それもそうだ。生まれてすぐに実験体にされ、生まれてからまともにお母さんと過ごしたこともない。町や国を回ったことでそれを如実にそう感じただろう。

 脱線しながらの話でジントにかかっていた〈究極〉も数分前に切れていた。

 ジントは優しくモリちゃんの頭を撫でる。


「英雄さん?」

「泣きたいなら泣いてもいいんだぞ。なにも我慢することはないんだ。そんな小さな体でよく今まで頑張って来たな」

「英雄さん……うぅ。うわああああああああああああああぁぁぁぁぁん」


 モリちゃんの泣き声はあふれ出すように……そして、家も呼応するようにモリちゃんの嗚咽と合わせたかのように胎動する。


「私は、いろんっ……な国を回っ……ていろ……んなものを見て……きました。その……中でも一番好きだったのは……はぁ……家族が集まって楽しそうに……している姿です。お母さんと……お父さんと……兄弟と……仲良さそうに……でも……でもっ!」

「私にはいないってか?」

「ぅう……そう……です。私には! 家族……が……いない。泊めてくれ……た家があっても」

「本当の家族じゃないからと、それで虚しくなって悲しくなったと言う事か?」

「……うああああああああぁぁぁぁぁぁん」


 ジントの言葉でさらに感情があふれ出したモリちゃんを、ジントは優しく抱きしめる。


「大丈夫だ。俺もイチカも親の顔は知らないんだ。俺は養子として親方の子供になった。イチカは、ばあちゃんに育てられたって言うしな。なんか俺たちは似た者同士って気が……いや一番きついのはお前か」

「…………!」

「厳しいことを言うとすれば、自分の心持ち次第ってことかな? 親がいなくとも……いや、分かっててもそれは厳し過ぎるか」


 モリちゃんは何も言わなかったが、落ち着くまでジントに抱き着いていた。今まで感じられなかった暖かさを感じる様に。その隣には薄い服を片手に持ったイチカが座りモリちゃんの背中を優しくさする。その時の三人の姿はさながら家族のようであった。


「イチカ、なんだその服?」

「知り合い……というか、私のお客さんにこの服にそっくりなの着ている人がいたからね。ちらっと見えてね、気になって探してたんだ」

「それはその人も災難だったな」

「この服を着ていたお客さんはこの服でいつも来てたんだよね。この一枚だけ」

「……という事は」

「脱がされるとすっぽんぽんになるね。アハハハハ」

「それは災難だな」


 二人が会話をしていると、落ち着きを取り戻したモリちゃんが顔を上げる。


「それは……」

「この服がどうかしたの?」


 首を傾げ、服を見せる様にしてイチカはモリちゃんに言う。


「いえ、何でもありません」


 モリちゃんは短くそう答える。そしてジントが聞く。


「言いたくなかったら言わなくていいが、モリちゃんが実験台にされたのはどんな実験なんだ?」


 モリちゃんは「それは」と前置きをして言う。


「人間の体に直接弾丸の効果を持たせるようにするという実験です」

「……それはどういう?」

「例えるなら、人間の細胞一つ一つを弾丸にしようという事です。そして、それを自由に本人の意思で使うことができるようにする。そういう研究です。そして……」


 モリちゃんは間を置き話し出す。


「それができるように最初に私に打ち込まれたのが、死人シリーズの〈変態〉という弾丸です。これを打ち込まれたせいで私は原形を持たない怪物になりました。まあ、これも写真の裏に書かれていたことです」


 モリちゃんは微笑む。


「こんな感じでどうでしょうか?」


 それは何の確認だったのか……それとも私は怪物だとアピールをしたいのか軽く両手を上げて可愛い困り顔をする。すると、またジントに抱き着きモリちゃんは眠りについた。イチカは少し不満げだったが、ジントと二人でその寝顔を眺め続けていた。


 何を思っているかも分からない動物たちは、家の周りで心地よい風に吹かれていた。

土下座とか床下座とかはあまり気にしなくていいですので。

それでは、お読みいただきありがとうございます。

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