表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
34/60

三十四発目

先週の投稿を飛ばしてしまい申し訳ないです。

遅くなりましたが、三十四発目投稿です。

 森の中にある不思議な家。

 その家のベッドでは、ジントが恐ろしい夢でも見ているかのような表情を浮かべる。その近くにイチカと、皮肉めいた表情のモリちゃんが一人いた。 

 心配そうなイチカが見る先には、体に流れていた血は拭き取られ、血が付いていた服が綺麗なものへと変わっているジントがいた。


「……ジント苦しそう。大丈夫かな?」


 ジントを覗き込みながらイチカが言う。


「さあ? 分かりませんが、傷は塞ぎました。私の上で睡眠もとって体力も回復したことでしょう。どんなに苦しんでいても、後は目が覚めるのを待つだけです」


 ジントの方を見ながら皮肉るようにモリちゃんは言う。


「…………」

「……どうしました? 急に黙り込んで?」


 モリちゃんは自分の答えに反応しないイチカを見る。


「なんだか悪夢に苦しんでるジントの顔もいいなって思って」


 モリちゃんの目の前には、ジントの表情を恍惚の表情で心配そうに眺めるという人間離れの荒業をやってのけるイチカ。

 モリちゃんは少々の負の感情のこもった声音で話す。

 

「……何ですか、悪趣味ですか、苦しんでいる表情が好みなんですか?」

「悪趣味なんてひどいなぁモリちゃん。私はジントの苦しそうな顔が好きなだけだよ!」


 イチカはいつもの様子でそう言う。


「……うう……ぅぐ」


「それが悪趣味だって言うんです。ほら、英雄さんだってこんなに……苦しそうに…………!?」

「……ここまで心を揺さぶるような顔ができる人はジントだけだね。そう思わない? モリちゃん」


 イチカはモリちゃんの意見は聞こえていないようだ。


「…………そうですね。不本意ながらこの顔を見ていると何か昂るものを感じます」

「でしょ! ジントのこの顔の良さを分かるなんてさすがモリちゃんだね!」


 モリちゃんもイチカに共感してしまった。『苦しそうに』の後の間で何か昂るものを感じたのだろう。


「そ、そうでしょうか」


 モリちゃんは、戸惑うようにそう言う。


「……さすが……ですか。かけられたことの無い言葉ですねでも悪い気はしませんね」


 『さすが』と言われたのは、なにに対してか考えていないようだがモリちゃんはどこか嬉しそうに微笑を作る。

 何かに気づいたモリちゃんはイチカに話しかける。


「さすがと言うのなら、私以外には分かってもらえなかったんですか?」

「う~ん……ジントは分かってくれなかったね~」


 その答えにモリちゃんは顎に指をあてる。


「……それは、本人だったからではないでしょうか? 本人に分からせるため、英雄さんが苦しんでいる表情を鏡で見せるというのはどうでしょう」

「モリちゃん!」


 モリちゃんはいきなり自分の事を大声で呼ばれ、肩がビクッと動く。


「それ名案だね! 今度試してみようよ!」

「そうですか、名案ですか、ありがとうございます」


 モリちゃんは声を張り上げることはなかったが、イチカに『名案』と言われたのが嬉しかったのか僅かに声のトーンが高くなっている。

 

「今度と言わず英雄さんが起きたらすぐに試してみませんか?」


 見た目では分からないがモリちゃんは興奮している。


「そうだね! そうしよう!」


 イチカも興奮している。


 この状況……この家の中ではジントを守れるのはジント自身しかいないようだ。だが、ジントは英雄。非凡な事をなすから英雄なのだ。この状況もきっと……。


 興奮の中イチカは重大なことに気づく。


「モリちゃん! 大変! 鏡がない、鏡が無いよ! 私も持ってないし、モリちゃんだって……」

「そんなことありませんよ鏡はここにあります」


 なぜか慌てているイチカに妙に冷静なモリちゃんが言う。

 モリちゃんの言葉にイチカは見回す。


「モリちゃん何もないよ」

「まあ、待ってください。今出てきますから」


 モリちゃんがそう言うと、天井の中心部が滴るように変形し、天井が一滴したたり落ちた。落ちた一滴は、一瞬のうちに形が変化しイチカの背と同じくらいの姿見になっていた。


「これで鏡は用意できたね」


 鏡が現れたことにより、冷静さを取り戻しイチカはそう言う。


「それで、苦しみの顔を見せるにあたってある程度の苦痛を与えなければいけません。苦しみを与えるならば……」

「……私のマッサージだね」

「……そうです」


 『マッサージ』と言うときの嬉々としたイチカの表情をみて、モリちゃんは苦虫を噛んだような表情になる。


 これで、イチカとモリちゃんの二人はジントに、ジントの苦しむ顔を見せる準備を終える。どこからジントが苦しみを与えられるというおかしな道にはいったのかは分からないが、イチカもモリちゃんも楽しそうにジントの目覚めを待っている。


「……何でかな? お客さんには好評なのに、ジントとかモリちゃんとかに酷評されちゃうんだよな~」


 イチカは、マッサージ用弾丸を込めた銃を片手に自分のマッサージの評価を思いながら。


「……! あのマッサージが好評!? 確かにコリはしっかりと取れますが……あれが好評……どんな人たちなんでしょうか……」


 モリちゃんは、イチカの言葉に驚きと興味を持ちながら。


  ●  ●  ●


 ――パンッ……一発の弾丸が撃たれた音が森の中に虚しく響く。その音は、その後に響いた音にかき消された。


「いてぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」

「ほら、ジント見て見て! ほらほらいい顔してるから!」

「……やっぱりその顔いいですね」


 やはり家の中にはジントを守るものはいない。ジントは無残にもイチカのマッサージの餌食となってしまった。

 だが実際、イチカのマッサージは人畜無害な代物で、何度も受けても命に別状はない。そして、マッサージの痛みによるストレスもマッサージの効能により無かったことになる。つまり、何度受けても問題ない! と言う事なのだが……


「おい! イチカ! 何で目覚めて一番にその弾丸が飛んでくるんだ! 目覚めたばかりに眠るところだったぞ!」


 いかんせん痛すぎて眠る人もいるとかいないとか……。


「どうだった? ジントの苦しむ顔、心にグッとくるものだあったでしょ!」

「そんなもんあってたまるか! ただ自分の苦しむ顔見せられたところでなにも嬉しくねーよ!」

「…………え!」

「……え! ってなんだ! え! ってのは! なんだ意外だったのか! どこに自分の苦しむ顔見せられて喜ぶ奴が居るか!」

「そう……ジントは分かってくれないんだね」

「分かるわけねーだろ! 分かりたくもねーよ! この前元気づけてくれたのは何だったんだ!」

「……あれは、ジントが悩んでたから」

「……悩みも苦しみの一つだろ……」

「違うよ! 私は純粋に苦しむジントの顔がいいんだよ! 悩みで苦しんでいるジントの顔は嫌い!」


 ジントは少し考えるように頭を抱える。


「どう反応したらいいのか分からねーよ!」


 ジントが叫ぶと、タイミングを見計らったかのようにモリちゃんがジントに話しかける。


「おはようございます英雄さん」


 相変わらず皮肉るように言うモリちゃんをジントはジト目で睨む。


「どうしたんですか?」

「モリちゃんも俺の苦しむ顔が、いい顔だと思うのか?」

「…………気のせいです」

「……思うのか?」

「……気のせいです」

「おも……」

「気のせいです」


 ――カチャ

 ジントはこの質問では、ぼろが出ないと判断し質問を変える。


「何でモリちゃんは俺にそのことを隠そうとするんだ?」

「…………………………」

「何でモリちゃんは俺にそのことを隠そうとするんだ?」

「……………………」

「何でモリちゃんは俺にそのことを隠そうとするんだ?」

「……何となく」


 モリちゃんも用心したようで、普通では聞こえないほどの大きさでボソッと言う。この声の大きさでは普通の人だと聞こえない。


「確かに聞こえた。『何となく』か……」

「……!」


 モリちゃんは皮肉るような表情から驚いたような表情になる。


「……さっきのが聞こえたんですか!」

「……ああ、はっきりとな」

「……普通じゃ聞こえないはずなのに」


 ジントは不敵に笑い質問を続ける。


「モリちゃん。『何となく』ってのは自分でも分からないからなのか? それとも何かを誤魔化すためか?」

「…………」


 ジントは笑みを崩さないまま言う。


「そうかそうか『誤魔化すためか』何をだろうな? 俺への好感度が下がることを危惧しているのか? それで、何か不都合があるのか?」

「…………」


 ジントの質問にモリちゃんは今まで黙ったままでいる。だがジントは確信を持ったように言う。


「そうか、両方か。何が不都合なのかわ分からないが、好感度が下がると不都合が起こるのか? ……俺が好きとか? ……嫌われたくないとか?」

「…………」


 モリちゃんは、黙り込んで俯くがジントは続ける。


「一と三……二は多分違う……そうか……分かった」


 ジントはモリちゃんにベッドの上から手を伸ばすが、やめた。その代わりに、


「俺は、そう簡単にモリちゃんを嫌いにならないからある程度近くに来てくれ。話やすいように」


 と、ジントから少しずつ離れているモリちゃんを優しく近くに来るように促す。

 モリちゃんは意を決してジントに促されるまま近づいてくる。

 話しやすい距離までモリちゃんが近づくとジントが種明かしを始める。


「ごめん、少し驚かせたかなモリちゃん。実は、」


 そう言うと、ジントはイチカとモリちゃんには見えないようにしていた銃を見せた。その銃に込められているのは〈究極〉だった。


「〈究極〉を使って、モリちゃんの小さな声や、呼吸とか表情からモリちゃんの考えてることを読んでたんだよ」


 そこまで言うとジントは皮肉るような表情を作る。


「言ってただろモリちゃん。読まれやすいのは良くないって」

「ほ~気づかなかったな~」

「私としたことが……英雄さんに気を取られ過ぎていました。私の中にいたのに……失態です」


 「それで」と言い、ジントが始める。


「重要度が低そうな、俺に嫌われたくないってのは、不都合が起きるからでいいのか?」

「…………」

「あれ? それ以外があるのか。いきなり詰まるのは予想外だな。で、どうしてだ」


 ジントは単刀直入に言う。


「デリカシーのない人ですね……嫌われたくないのは…………あなたが好きだからです」

「……えっ!?」

「……へっ!?」


 モリちゃんの一言で、ジントとイチカの驚きの声がシンクロする。

 ジントは思った答えと違った表情で驚き、イチカは戸惑うような驚き方だ。

 少しのパニック状態になっているイチカが何かを口走る。


「ジントが好きなのはわた……」


 言い終わる前にイチカは自分の口を自らの両手でふさぐ。


「……ん~!!」


 口に手を当てたまま何かを叫びながらイチカは家の中を転がる。

 ジントとモリちゃんはその様子を横目で見るが、そのままにしている。

 そんな中ジントが改まってモリちゃんに言う。


「俺が質問したときは違うと思ったんだけどな」

「それはあなたの質問と、私の答えが違うからでしょう。あなたの好きは、雄と雌の関係の好きですよね」

「雄と雌って……まあそうですが……」


 モリちゃんがジト目でジントを見る。


「……やはり変態さんでしたか」

「やはりってなんだよ!」

「私みたいな幼気の少女を交尾の対象として見ていることがです」

「……いや、そういう意味では……」


 ジントは言葉を詰まらせる。


「いずれはそういう事にになるという関係という意味ではあったでしょう」

「……はい」

「変態さん」

「……ぐうの音も出ません!」


 ジントがモリちゃんに向かい頭を下げて強めの風が起こる。細かいことを気にする様子もなくモリちゃんは言う。


「まあ、そんなことはどうでもいいんですけどね。私自身数多くの雄から交尾されそうになることがありましたので。誰にもさせませんでしたが。……最近知ったのですが、人の世界ではこのような話をするのは恥ずかしい事なんでしたか?」

「まあそうだな……? なんかおかしくないか?」


 違和感を覚えるジントだが、モリちゃんは一人で話を続ける。


「何度聞いても驚きですね。交尾することは子孫を残すための行動の一つ。食事や排せつと同じように動物として当然の行動だというのに。それが恥ずかしいと……とても不思議です」


 モリちゃんがそう言っていると、何度目かの冷静さを取り戻したイチカがジントに質問する。


「ねえジント! 交尾って何?」

「お前は節操ねーな! いつもこの話を聞いた途端放心してたじゃねーか! どうなってんだよ! お前の語彙は!」

「そんなに捲し立てなくても……もっと優しく教えてよ」

「ご、ごめん」


 好奇心旺盛なイチカから、急に可愛いイチカに変化し戸惑ってしまったジントを見かねてモリちゃんが説明に入る。

 明らかに年齢が少ないモリちゃんにイチカが交尾について説明を受ける……とてつもなくおかしい絵になる。

 そんなことを気にせずモリちゃんはイチカに説明を始める。


「交尾を別の言葉で表すと『契る』とも言います。肌と肌を重ねて新たな……って、この説明の仕方くどいですね」

「……?」


 イチカは小首をかしげる。


「分からないんですか? 簡単に言うと子作りです」

「………………………………ふぁぁぁ」


 イチカの口から空気が漏れる。


「ど、どうしたんですか?」


 モリちゃんの驚きも当然の如く。イチカは『子作り』という言葉を聞いた瞬間に、ポケーという効果音が似合う表情で放心している。

 その様子を見ていたジントが、モリちゃんに説明するように言う。


「イチカはなぜか『子作り』って言う言葉が出ると、見ての通り放心するんだ。これが元に戻るには少しかかるかな」

「……不思議です」

「……全くだ」


 イチカが招いた数分の静寂の後、ジントとモリちゃんは話しの続きを始めた。


「……という事で、私の好きは。雄と雌の関係ではないんです」

「男と女の関係ではなく、親と子のような関係の好きという事か。なら、少しのずれがあったのもうなずけるな」


 ――パンッ……と手を鳴らし、一つ話に区切れをつける。イチカはまだ放心状態だが、ジントは次の話に入る。



「それじゃあここからが本題だ。俺のモリちゃんに対する好感度が下がると不都合が起きるって言う事ってなんだ?」


 ジントがそう言うと、モリちゃんは天井を見上げる。すると、姿見が床に沈むように消え、天井がしたたり落ちる。すると、山のように盛られた女性服の山に変化した。


「私が、町にいた理由。私が、動物たちを使い、この服を集めた理由。それはある人を見つけるため。とっくにお気づきでしょうが私の体が……いや、私が人間ではない理由。それはある人に向かうのです」

「……その、ある人とは?」


 固唾をのみジントはモリちゃんの言葉を待つ。その時、イチカの放心状態もとけた。

 そのタイミングでモリちゃんは言葉を紡ぐ。


「……私を生んだ……私のお母さんです」

書き方を少し変えさせていただきました。

今後は、このような書き方で物語を進めていきたいと思いますが、読みづらいなどあればコメントしていただきたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ