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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
25/60

二十五発目

あらすじを書き直してみました。

 暴風が吹いていた。とても強く、少し油断すると吹き飛ばされてしまいそうなほどに。そんな強風の中、動物たちはそんなもの意に介した様子も見せず闊歩する。動物たちが過ぎ去った後は……なんというか……その……服が剥ぎ取られた人たちが縮こまっていた……これ以上は可哀そうだから言わないでおこう。……その中にはオッサン……もとい男性は一人もいないので問題……ないわけではないな……多分問題大ありだ。


「ジント……何に見とれてるの?」

「え……いや……寒くないのかなって思って……」

「……ふーん、そう」


 ――パンッ……ジト目のイチカが顔をこちらに向けている。だが、銃口だけは襲い掛かってくる動物たちに向けて一発も外さずそして殺さずに行動不能にしていた。


「……なんでずっとこっち見てるんだ?」

「……ジントを襲いに来た動物がいたらジント対処できないでしょ」


 ――パンッ……


「ごもっともだ……俺も〈究極〉があれば戦えていたんだけどな……」

「それは、あってもやめたほうがいいんじゃない? ……こんなに人がいる場所で使ったらどうなることか……」


 ――パンッ……


「……確かに、俺が掠るだけで腕が飛んだり足が飛んだり……動物たちの被害より俺の被害の方が多くなりそう」

「……それは楽しそう……」

「何か言ったか?」


 ――パンッ……


「おっと失言」


 ――パンッ……

 ――パンッ……

 ――パンッ……


「……イチカ、さっきからお前だけ狙われてないか?」

「そんなことない……ジントを狙ってるんじゃない?」


 ……動物たちの行動を見るに、女性の服ばかり剥ぎ、男性は狙っていない……この状況を見て分かるよな……そうでなくともイチカなら動物たちのターゲットにされているのがどっちかなんか簡単に分かるだろうし……まあ、どっちが狙われていたとしてもこの状況は変わらないか。


「なあ、イチカ」

「なに、ジント」

「お前、見る限り一回も殺してないよな」

「そうだよ、依頼で狩る分以外は殺さないようにしてるんだ。無益な殺生は好きじゃないからね」

「食べる分とかは?」


 我ながらおかしな質問をしてるな……いつの時代だよ! って感じだ。随分と前に狩猟と採集の時代は終わりましたよ……いや、まだ狩猟や採集いる人がいるかもしれない……世界のどこかに。


 自分の質問に自分で文句をつけていると、イチカはいつも通りに愛嬌をにじませながら普通に答える。


「それは必要だからね。まあ、お店から買うから私が殺してないわけだしね」


 ――パンッ……

 ――パンッ……


「さっきから思っていたんだが、何でこの状況で俺たちは普通に会話しているんだ?」

「会話できるからでしょ」

「まあ、そうなんだけど……イチカばかりに負担をかけるようでなんだか……」

「そんなこと気にしなくていいよ、私もほとんど反射で動いているから問題ないし」

「……それ、人間離れし過ぎじゃないか?」

「エヘヘ、便利でいいでしょ」


 もはや「便利でしょ」のレベルではなくなってくる。


「……どうすればそうなるんだか」


 呆れ交じりため息交じりで俺はそう答えた。

 その後、俺の行動に何かを見たのかイチカは急に胸を張り俺に宣言する。


「ジントは私が絶対守るよ!」

「……お前、そのセリフを言いたいがために自分が狙われてるのを誤魔化してたりしないか?」

「そんなことないよ」

「……そうか」


 ――パンッ……

 ――パンッ……

 ――パンッ……

 ――パンッ……


 不自然な間を生めるようにイチカが引き金を引いていた……


「ほんとさ、よくこんなに話をしながらあの山のような動物たちをさばき切れてるよな……しかも見てないし」

「そんな褒めないでよ……」


 俺の言葉のどこが褒めがあったというのだろうか少し呆れていただけなのにな……そう思いながらも、少しだけ朱色に染まったイチカの愛らしい顔を見ながらそのことを言おうとすると……、


「これは褒めているわけじゃ……」

「エヘヘ……ありがとう……」


 イチカは俺が答え終わる前に感謝の言葉を述べてくる。


「……聞いてないな」



 遅いながらも今の状況を確認してみよう。俺たちの周りには動物たちが群がり次々と襲い掛かってきている。イチカ一人ならここを脱出できるらしいが、俺と一緒に脱出ができないようで、動物たちがいなくなるまで粘ることとなった。そして今のイチカというと、俺を座らせその前で向かい合うように仁王立ちをして、さらに話をしながら全方位から襲い来る動物たちをさばいている。


 ふと気づいたことがある。俺の目線の位置がイチカの腹の辺りだった。今はちょうど(褒めてはいないが)褒められた余韻に浸っていて俺が触っても気づかなさそうだ。だが、しっかりと周りの動物たちを行動不能にもしているのでほんと恐ろしいものである。


 ……ツンツン……触っても気づかれてていないし攻撃もされない……これならいけるかも……


「…………おりゃ」

「ひゃん」


 俺がその無防備な腹を軽くくすぐると、イチカがかわいい声を出して身体がびっくりしたようにビクッと動く。


 ――パンッ……それと同時にまた一体行動不能にした。


 そしてイチカに追撃をかける。


「そりゃそりゃ」

「ひゃん……やぁん」


 イチカは体をくねらせるように抵抗を初め、かわいい声で尚且つ艶めかしさを増やしたような音がイチカの口からもれだす。


 ――パンッ……また一体。

 ――パンッ……さらに一体。


 イチカに、さらに追撃をかける。


「……そりゃ……そr……」


 ――ゴスッ……その時、目にもとまらぬほどの速さで俺のみぞおちを拳がえぐる。えぐった後も二撃目、三撃目と衝撃が体を駆け抜ける。


 ――ガハッ……ちょ……呼吸が……シャレになんない……弾丸マッサージと同じかそれ以上だ。


「……今度やったらぶっ飛ばすって言ったでしょ……」


 片手でお腹の辺りを押さえ恥ずかしそうにして、さっきよりも顔を赤らめたイチカが睨むようにしながらそう言う。


 ……そんなかわいい反応を見れたというのに、もう片方の手では銃を持ち、的確に戦闘不能にしているからどういう反応をしたらいいか分からない……みぞおちへの一撃のせいで反応すらできないがな! ……グフッ。


「…………意識がぶっ飛びそうだ。相変わらず小さい頃の記憶はないけど……少し走馬灯が見えた」

「……もう! やめてよね!」

「……ごめんなさい」


 代償はあったが可愛い表情を見れたからこれで良し! あれ、今何してたっけ?


 ――パンッ……


「はぁ……許してあげるよ。その代わり私ともっと話をしてね」


 イチカの一撃のせいで飛んでいた記憶は周りの状況を見回すとすぐに思い出せ、少し薄くなった意識の中俺は会話を続ける。……さっきから言っている気がするが、これって話せる状況か?


「囲まれているこの状況でか?」

「二人きりで誰にも邪魔されないでしょ」

「邪魔なら飽きるほど来ていると思うんだがな」


 俺はそう思っているのだがイチカにとっては邪魔にもならないもので、イチカから見て存在すら認識されていないのかもしれない。イチカじゃないから結局それは分からない。


「何の話をしようかな?」

「何を話したいのか考えてなかったのかよ」

「そんなことどうでもいいで……」


 初めて俺から視線を外すと、振り向き動物たちの方を見透かすように見ている。


「……どうしたんだ?」

「何も話してないけど話はここまでだね」


 ……それなら話はここまでとは言わないのではないだろうか? まあいいか。


「……俺は、結構話してたような気がするけどな」


 俺が皮肉を言うように言いながら立ち上がる。イチカは俺の手を握り二人が並んで立つような格好になる。


「ジント……来たよ」

「来たって……何が?」

「……さぁ、分かんない」


 そんな曖昧な答えを聞きながら俺は何かが来た方向を見ていた。




 動物たちは襲ってこなくなっていた。イチカが見ている方向にいる動物たちが右へ左へと避けてゆく。そして、避けることで視界が開け、


「……あのリクガメか!」

「……やっぱり」


 俺たちの目の前には大きく口を開けて今にも俺たちの事を捕食しようとしているカメがいた。


「イチカ気づいていたのか」

「……いや、確証はなかったんだけどね……言うなれば……勘かな?」

「へ~……って、そう言っている場合じゃないよな」


 俺がそう言う頃にはイチカは次の弾丸を込めていた。カメに銃口を向け、引き金に指をかける。そして、引く瞬間……


「……止めっ!」


 カメの背に乗っていた美しい黒髪を持つ少女が空間を揺らすような声を上げる。その声を聴いてカメは動きを止める。だが、イチカは反射的にその少女に照準を合わせ引き金を引いた。


 イチカは動物たちの動きを止めるために殺傷能力がない弾丸を使っていたのだが、それは人よりも丈夫な動物たちに合わせたもので、普通の人間が受けたらひとたまりもない。しかも、今はそびえる様に巨大なカメを撃とうとした弾丸なのだ。人間が受けたとしたらひとたまりもない。


 だが少女は悠然と佇んでいた。当たっていないかと言えばそうではない確かに当たっている。……その証拠に少女の左手……いや、左腕がないがそれだけで済んだらマシな方だ。だが、不思議なことにその腕からあふれる血はすでに止まり、その少女は痛がるそぶりも見せずこちらの方をただ眺めている。


「……モリちゃんか?」

「そうですよ、動物たちを殺しただけの英雄さん」


 少女は、最初に出会ったときの様に皮肉を言うような挨拶をする。


「ジント……この子って」

「ああ、さっき会った子供たちの一人……イチカが俺から隠すようにした子だな」

「……ジント」

「なんだ?」

「……私がいない間に飼いならしたの?」


 ん? ……今なんて言った?


「……何を言ってるんだ、何の話か分からないんだが」

「……私がトイレに連れていってる間にもう一つアイスを餌にしつけてんでしょ!」

「アイスを餌にって……」

「そうじゃなきゃあの子がジントに会いに来た意味が分からないよ」


 ……俺に、会いに来たのか。確かに、話をしたのはイチカではなく俺だ。そりゃ用があるのは俺か……俺がこの子と話していた事を言ってなかったしそう思うのも……当然か? ……ちょっと違う気がするが……まあ、イチカだからな。


「……私も、もっと食べたかった」

「今更だな……てか、お前飽きるほど食ってたろ」

「……もうちょっといけたかな?」

「はぁ……言っとくが、俺は餌もしつけもしてないぞ。ただ、少し話をしただけだ」

「……本当?」


 疑うようにイチカの見透かすような双眸を俺の目に向けて目を合わせること数秒、


「嘘はついていないみたいだね」

「分かってくれたか?」

「嘘はついてないからね。その言葉を信じるよ」


 一応分かってくれたようだ。


「あの、英雄さん……のろけてないで私の方を見てください」


 呆れる様に少女は声をかけてくる。存在を無視されていたのが気に入らなかったのか足を優しくカメに打ち付けていた。カメの方はその等間隔に来る振動を心地よく思っていそうな雰囲気だ。


「この場合、普通は私の登場に驚き、会話に入る展開でしょうに……何でのろけているんですか! 私は無視ですか! カメの背に乗って登場する……この、いかにも不自然すぎる登場を何とも思わないんですか!」


 片腕の少女は地団太を踏んで俺に訴えかけてくる。その姿は年相応にも見える……だが、すぐに落ち着きを取り戻す。やはり少女が織りなす振動が心地よかったのかカメは少し残念そうだ。


 ……少し違和感が……あれ、この子イチカに腕を落とされたよな……そこには触れないのだろうか。


「ごめんね……少しあのソフトクリームに未練があったみたいでね」


 ……イチカもそのことには触れないのか……最初に会った時のことを思うと慌てそうなものだが。


「いいですいいです、今は話してくれていますから」

「……それでモリちゃんは何しに来たの?」


 俺が最初に名前を言っていたのは聞いていたようだ。


「少し頼みた……いや違います。英雄さんに話があったので」

「そうなんだ……あの動物たちを操ったのもモリちゃん?」

「そうです。普通に探しても会えないと思ったので。英雄さんならこんな中でこそ目立つと思ったので」

「確かにそうかもね」


 そこ共感することか? ていうか、


「それで俺が戦うことで目立ったとしたら動物たちは死んでるんじゃないか?」

「私と話したことで少しは手加減をしてくれるのではないかと思ったので」

「確かに少しは気にするけど……俺が戦うとなると加減がほとんどきかないし」

「それに今持っていなかったりするんじゃないの?」

「そう、イチカの言う通り今は俺が戦うための弾は持ってない」


 何かに気づいたように黒髪の少女は驚いたような顔をする。


「もしかしてあの動物たちの大群を次々と倒していたのって英雄さんじゃなくて」

「その通り、私だよ」


 イチカが胸を張り、意気揚々にそう答える。


「そうだったんですか……あなたとも少し話してみたいです」

「そうだね、いろんな話をしようね」


 イチカがそのように答えると――パチン……黒髪の少女が自らの頬をいきなり叩いた。そして最初から決めていたかのようなセリフを言い出す。


「私の使役している動物たちを止めたくば私を倒しに来るがいい! 私の居場所は分かっているだろう、私はそこで待っている!」

「モリちゃん……どうしたんだ」

「英雄さん、私はどうもしていない……最初からやるつもりだった。最初は出鼻を挫かれたけど……」


 そう言うと少女は銃を顕現させる。そして、弾丸を込め自分のこめかみに向けて引き金を引いた。

 いつの間にか止まっていた強風が再度吹き始め、数秒後少女の体に変化が現れる。


 少女が少し小さくなったかと思えば、イチカに撃ち落とされたその腕が生える。そして、美しかったその黒髪は色を変え生え変わり、目は緑眼に変わる。それではまだ終わらず、腕が強靭な腕力を持つ形に、足は跳躍に適した形へと変わり、跳躍の姿勢をとる。すると、その少女の周りには包むように風が起き、


「英雄さん……待ってるから」


 その言葉を俺の耳元に届けると、その風は跳躍に合わせ勢いよく少女を押し出した。


 飛び出した少女は島の外壁を容易く破壊すると、四肢の形を人間の形に戻しどこかへ飛んで行ってしまった。残されたのは壊れた建物の残骸や外壁の破片……風は止んでいた。

お読みいただきありがとうございました。

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