表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
24/60

二十四発目

 広かった……ただ広かった……というか遠かった……とってもとってもとってもとってもとっても……思い出してみると、まだメインの目的地にもついていないのにいろいろなことがあった気がする。イチカが実弾に撃たれたり……イチカが倒れたり……あれ、今日だけでイチカに災難がいくつも……まあ、今元気ならいいでしょう。


「今日のデート色々なことがあったけどジントといろんなものが見れて楽しかった」


 隣で俺と手を繋ぎ、声を弾ませながらイチカはそう言う。視線は映画館に向けたままだ。


「確かにいろいろあったけどイチカには災難ばかりじゃなかったか?」

「そうかな? 特にそんな事なかったと思うな。撃たれてもジントがちゃんと狙ってくれて簡単に対処できたし、倒れても助けてくれたし……」


 顎に指を押し付け少し思考するような素振りを見せている。


「多分そう言うのを災難って言うんだぞ……撃たれたり……倒れたり……」

「そうなの?」


 俺の目の前に居るイチカという生き物は、撃ち殺されそうになっても、倒れるようなことが起こっても、それを災難と言わないらしい……何ともなかったからそう思っているのかもしれない。人の感性はそれぞれだしそれもいいか。


 俺とイチカはまだ映画館に歩き続けている。映画館も人気なのか人が多く、この前のようにイチカが人の間の隙間に突っ込んでいきそうになったりするのを何とか抑えて俺たちは進む。


「ちょっと気になったんだけど……さっき『楽しかった』と言ってきたけどさ、まだデートは終わってないんだから過去形で終わったように言わなくていいんじゃないのか?」


 俺はイチカの言葉の少し違和感になっていたところが何気なく口からもれる。それに対してイチカも口からこぼすように返してくる。


「まだ終わっていないってのは分かっているけど、これまでの事はやっぱり過去だからね。これまでのデートは楽しかった。その上で、今から行く映画館も楽しいんだろうなっていうことを思ってね。これまでの楽しかったを引きずっているとこれからの楽しいことを感じられなくなっちゃうでしょ」

「……確かに」


 イチカの意見にも一理あるな……と思っていると、


「そういえばさ、楽しくロシアンルーレットっていうゲームをしてた時さ……」

「引きずってんじゃねーか! てか、あれ楽しかった……か?」


 言い出した本人がいきなり言っていることと逆の事を言い出した。


「アハハハ……まあ、確かに私も逆のことを言っているかなと思うんだけどさ……あの時デジャブを見たんだよね。何となくだけど……遠い記憶を見ているような……」


 俺も見たあのデジャブだろうか? 確かに俺も遠い記憶を見るようなデジャブだった……俺の見たものは誰かに銃を向けているものだった。


「イチカはどんなデジャブを見たんだ?」

「どういえばいいか分からないけど……何だろう……誰かに銃を向けられているような感じだった」

「俺もその時見たんだよデジャブ」

「ジントも見たんだ……なんだろう、ちょっと不思議だね」


 ――ああ、そうだな……と俺は簡単に答える。


 ……俺もイチカも遠い記憶のようなものを見たんだな……そういえば、過去の記憶を思い出そうとしても思い出せるのはここ数年の記憶だけで、自分が小さかったの頃の記憶が思い出せなかったんだよな……もしかして……いや、まさかな。


「急に変なこと聞くようだけどイチカって自分が小さかった頃の事って思いだせるか?」

「ん~、思い出せないや……なんかここ数年の記憶しかないような感じ……小さいころの記憶がごっそりと抜け落ちているような感じ」

「……お前もそうなのか」

「……お前もって、ジントもなの?」


 映画館の方を向いていたイチカが俺の方を向いて聞いてくる。


「そうなんだ、俺もここ数年の記憶しか思い出せないんだ」

「他の人は知らないけど……これって、おかしいよね。普通はあるはずだよね子供頃の記憶」


 イチカは少し顔を曇らせてそう言う。


「ここ数年の記憶が思いだせるのに何かが抜けたように記憶がないなんてな」

「……もしかして私たちって何かあったりするのかな?」


 握る手の力を強めイチカがそう言ってくる。


「……そうかもな」


 俺は優しく握り返しそう答える。


「……だからジントといると落ち着いた気持ちになるのかな……」

「イチカ、何か言ったか?」

「ううん。何でもない」


 不思議と感傷に浸るような雰囲気を醸し出しながらもとうとう到着した。


「やっと着いたぞ映画館の入り口」

「そうだね、やっぱり大きいね。近くで見ると迫力がすごいね」

「全くだな。さあ、行こうか」

「うん!」


 映画館のあまりの大きさにさっきまでの雰囲気はどこかへ飛んでいき、イチカはわくわくとした顔で俺の腕を引き映画館の中へと入っていく。


 その中は扉からわかるようにとても広く、天井には映しいステンドグラスのように周りの島々が色を差し込ませる。壁は純白になっており差し込んだ光を反射させてほんのりと建物内を照らす。淡い光を空間自体に編み込んだようで幻想的で美しい。


「……綺麗だな」

「そうだね……こんなに綺麗なの初めて見かも……」


 目をキラキラさせながら感動に胸を撃たれているようだ。


「俺もだ……こんなに綺麗なんてな思ってもいなかった」

「……そうなんだ……?」


 イチカが不思議そうな顔をして俺を見る……何かおかしいことに気づいたように。


「ねえ、ジント」

「……なんだ?」

「もしかして……映画館来るの初めてだったりする?」

「確かに初めてだな」


 答えない俺の顔を覗き込み、その吸い込まれそうな双眸を俺の目に向けてくる。


「……ねえ、どうすればいいか分かるの?」

「分からん! でも見たいものがあったから来た!」

「そんな自信満々に言わなくてもいいんだけど……」

「イチカも、俺が時間を確認してたのを見てここに来るって分かったんだろ」

「それは……私もいつかは行きたいと思ってたから……」


 そのように言葉を交わしながら俺とイチカは映画館の中を進んでゆく。……館内を進んでいる間、というか入った時からここには違和感があった。


 この映画館の中は……何もなかった……いや、その言い方だと語弊があるだろう。確かに映画館の中は空っぽだったが唯一中心には一人の受付嬢が座っているカウンターがある。それと気になることがもう一つ……人がいないのだ。その受付嬢一人いるだけで、その他には誰もいない。


 その違和感しかない空間の中に一人座っているその受付嬢らしき人は、その行動からも違和感をありありと見せつけてくる。一人でしゃべっているのだ。その姿を見て不気味に思っていると、隣のイチカもそう見えているらしい。


「……なんか不気味だね」

「……確かに。でも、聞いてみればどうすればいいか分かるだろう」

「よく分からないのは……ジント、お願いね」


 体を軽くぶつけながら小悪魔的な笑顔を見せてそう言ってくる。……やっぱりイチカは可愛いな。そう思いながら俺はヘラヘラと答える。


「はいはい分かりました」

「なんかその言い方ムカつく」


 イチカがそう言って少し顔を膨れさせると丁度カウンターにつき受付嬢に話しかけられる。その話し方は愛想がよく、どんな人が相手でも不快感を与えないようなベテランの風格がある。


「初めてのお客様ですね。お二人でデートですか? お楽しみいただけるように分からないことなら何でも聞いてくださいね」

「それなら……」


 受付嬢に聞いた話によると、この映画館には人はいるのだが弾丸の効果により互いに認識ができないようになっているらしい。ぶつからないのかと聞いたら、空間を歪ませてそういうことは起こらないらしい……こんなとんでもないことができるのは多分親方だろう。〈忍〉の応用だろうか……いや、それだけではないだろう。俺には及びもつかないが。


 映画を見るまでの手順というと、受付で料金を払い見たい映画の弾丸を受け取る。そして、その弾丸を使うと映画が上映される部屋までの道が見えるという。上映室に入ると、今まで見えていなかった他の客が見えるようになり、好きな席に座って楽しんでくださいということだった。


 そういうことで俺とイチカは見る映画を選んでいるところだ。元々俺が決めていたのだが、イチカが色々見たいということでもう少し時間がかかりそうだった……上映までまだ時間はある。楽しそうに考えているイチカをもう少しは見ていられるだろう。



「ジント……その目、なに?」

「……結局、俺が見ようと思っていたものにしたのか」

「別にいいじゃん。ジントが見たかったんだから文句はないでしょ」

「まあ文句はないけど」

「じゃあ早速行こう!」

「……そうだな」

 

 イチカは待ちきれないといった様子で銃を顕現させる。俺もそれに続き顕現させ銃を顕現させ受け取った弾丸を込める。イチカも込めたようだ。


「じゃあ、せーので撃つよ!」

「りょーかい」


 俺の隣から少し離れ、イチカは仁王立ちしている。俺はそれと並ぶ形となり、銃口を頭上に向ける。イチカも同じようなポーズになり、タイミングを合わせるために目配せをしてくる。俺はそれにこくりとうなずくと引き金に指をかける。


「「せーのっ!」」


 ――パンッ……俺たちには誰もいないように見えるその建物の中に音だけが空間に溶けるように広がっていく。


「あれ? 道が見えるんじゃなかったの?」

「……イチカ……後ろだ」


 俺の声でイチカは振り向くと花が咲くように驚きとわくわくを掛け算したような笑顔を見せる。


「……うわぁ……これは……すごいね……この光景を言い表せる語彙力がない私が恨めしいよ」


 ――不意に思ったことが口からこぼれた。


「……俺はイチカから語彙力が足りないなんて言葉が出るとは思わなかったよ……驚きだ」

「……それ、どういう意味?」

 

 笑顔の花がつぼみに返り、その可愛らしい顔を怪訝な表情に変え、イチカが睨むように見てくる。……イチカの笑顔も魅力的だけど、この鋭い表情も何か感じるものがある……言っておくが俺はドMではないからな! 見下されるのが好きなのではない! 今のイチカがしているような鋭い目と不敵な笑顔で笑い合う状況があったらいいと思う。


「……いや、イチカは確かに賢い人ではあると思うけどさ……ほとんど野性的直観と並外れた身体能力でゴリ押しするような人だと思ってきたからさ……そんな言葉が出てくるなんて思っていなかったんだよ」

「ジント……私を何だと思っているの?」


 ……目の前から銃弾を撃たれても死なない怪物だろうか……そういえば、撃たれた後のセリフで対処は楽だったと言っていたな……ということは、楽ではなくともどこを撃たれても問題なかったのだろうか……まさに怪物である。


「ジント……私に失礼なこと考えてない?」


 怪訝そうな顔のまま鋭い目を向けてくる。


「そんなことは……アハハ……」

「まあいいや……それで、どう思ってるの?」

「かい……かわいい人だなってさ」


 ――カァー……と、イチカの顔が赤くなる。顔を伏せるがその真っ赤になった耳が髪の間から見えて照れていることが見て取れる。……あらら、果実のように真っ赤になっちゃって可愛いな。


「んーーーもう! ジントっていつもいつも……行くよ」


 顔を伏せながら俺の手をつかみ取り引っ張っていく。……痛い、痛い痛い! やっぱ力強いな……俺がそう思いながらなされるがままに引っ張られていると、イチカが急に止まる……ちょうど受付の人から聞こえないくらいの距離だろうか……顔の赤さを少し残したままイチカは不敵な表情で俺の心を除くような眼で見つめる。


「ジント……さっき怪物って言いかけてたよね……」

「……あ……あはは……気づいてた? 傷つけちゃったかな……」


 やっぱり気づいてたのか……俺はイチカを傷つけてしまったかな……少し気まずい。


「そんなことはないよ。私が普通の人から見て異常なほどの身体能力を持ってるのは自覚しているから……自分でも怪物みたいだななんて思ったり……」


 その表情は少し悲しそうなそうでそう言う。俺に向けるその微笑むような顔は、いつものイチカの暴力的な笑顔ではなく……どこか物悲しげで、不自然なまでにいつものイチカと違う雰囲気だ。


「……でもね、その怪物的な力のおかげで今は楽しくジントとデートできてるんだからこの力もいいと思ってる」


 また、笑顔を花開かせイチカは笑いかけてくる。その表情には無理をしているようなものは感じられなかった。心の中からそう思ってくれているようだ……一つの理由として。


「なあ、イチカ」


 話しかけた俺の口調で何かを悟ったのかイチカは顔を少しほころばせる。


「何かなジント?」


 イチカはわざとらしくそう言うと、わざわざ腰のあたりに手を組みながらお辞儀のように体を傾け俺を下から見上げるようにしてくる。


「……お前は、その力を端から悲観的にも思っていないだろ。物悲しげな雰囲気なんて醸し出したってイチカがやるとわざとらし過ぎるぞ。……お前ならその力を便利だなとか思っていたんだろ」

「あらら、ばれちゃいましたか」

「ああ、バレバレだ」

「次やるときはもっと不自然にならないようにしないといけないな……」

「またやるのかよ!」

「私の演技力をもっと磨くために!」

「役者でも目指してるのかよ!」

「そう、いつかは私も……あのライダーに……」

「一体、どこを目指してるんだよ……」

「私がーキターーーーーー! ハッ……って宇宙に行く感じにね」


 しゃがんでから体をいっぱいに使い両腕を掲げるポーズを取りながらイチカはそう叫ぶ。


「それなにか混ざってる感じがするぞ」

「そんなこと俺が知るか!」


 イチカは急に声を低くすると凛々しくそう言う。


「急に誰だよ!」

「えぇ、ちょっと何言ってるかわかんないです」

「なんで分かんないんだよ!」


 そう言うふうに他愛もない会話をしながら、不敵な笑みで俺は次はどんな話をしようかと思索する。イチカも不敵に笑い次の言葉を探しているようだった。この後も映画が始まる少し前までこの意味のない話は続いた。


 話を続ける俺たちが歩むたびに背後の道は消えていき、俺たちが上映室に着く頃にはその道は消え、人はいるのに感じられない幻想的で美しい映画館は最初の姿へと戻っていった。


 俺とイチカは適当な席に座る。席と言っても椅子があるわけでもなく、軽く傾斜のついたような広場になっていて、芝生に座るように座る。他にも客は多く見られたが、その部屋が広いせいで多くは感じない。……もっと人が入るんじゃないのか? と思っていたら、映画の上映が始まりその理由が分かった。


「もうすぐ上映時間だね」

「そうだな」


 俺がイチカと言葉を交わした時に映画館のスタッフが入ってきた。そのスタッフは部屋の中の人全員に向け声を張り宣言した。


「これより上映を開始します! お楽しみください!」


 ――カチャ……そのスタッフは銃に弾丸を詰める。そして銃口を上に向け、


「上映開始です!」

 ――バンッ……銃の引き金が引かれると上映が開始した。


 映画は投影された……壁の一部にではなく空間全体に……俺たちは映画の中の世界に飛んだ。






 映画が終わり俺たちは映画館で最初に入った、何も無いように見える部屋に戻っていた。


 ……疲れた……思ったより迫力があって……というかありすぎた。テレビと同じ様に弾丸を撃って映像を映すだけで、ただ大きくなったものだと思っていたが、全然違かった。……もうその場に居合わせてたんじゃないかと思うほどのリアルさで空気感から匂いやリアルな緊張感まで……ほぼ現実だったな……これは相当に体力を使うな……隣のイチカは興奮冷めあらぬようで、いつも以上に元気そうだ。


「お疲れさまでした。映画は楽しんでいただけましたでしょうか?」


 ベテランの風格を漂わせる受付嬢は近くを通り過ぎるときに話しかけてきた。


「……はい楽しめました……疲れましたが」

「楽しかった! また見たいです!」

「元気な彼女さんですね、彼氏さんも大変でしょう」

「それどういう意味ですか」


 イチカがそう聞き返す。でも受付嬢はやはりベテランのようだ。


「なんでもございません、お気になさらずに。あと、一つ連絡があります先ほど、もう一度見たいとおっしゃいましたが……」


 やり過ごす術は持っていると見える。そんなやり取りをしながらも微笑ましそうに俺たちを見るベテラン受付嬢は愛想よく連絡を述べる。


「この後に予定されていた本日の上映は中止になりました」


 ……中止になりました? 何かあったのだろうか。


「中止になった?」


 俺が問うと受付嬢は答えてくれた。


「そうです、只今館外で大変なことが起こっていまして、避難のためにここを開放しているからです」

「大変なことって?」

「この町の英雄のあなたなら何とかできるかもしれません。大変おこがましいのですが、少し外でその大変なことを解決してもらいたいのです」


 そう言われて説明もなしに映画館の外へ向かうと、そこでは大変なことが起こっていた。


 映画館の外は強風に煽られ、物が飛び交い人も何人か飛んで……飛ばされているようだ。そして、その強風をものともしない動物たちが、女性服片手に人を襲っていた。……少し前に俺が英雄と呼ばれるようになった原因になった出来事が、また俺の前で巻き起こされていたのだった。


 不意に目に入る……こことは別に島はいつもと変わらぬ日常が流れ、異常なのはこの島だけのようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ