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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
22/60

二十二発目

 俺の目の前には熱々の鉄板。その上ではじっくりと炙られ、芳しい香りを辺りに撒き散らし続ける塊がある。見れば見るほど食欲をそそるそれは時が経つにつれ色を変え、次第にその塊は厳格な職人の手によって小さく切られ、俺の口の中に吸い込まれるように消えてゆく。


「うまい!」

「そうでしょ、この人の料理が絶品だから食べさせたかったんだよ」


 そう言うと、俺の隣で同じくその絶品料理をイチカは幸せそうに頬張っている。あまりに幸せそうに食べるもんだから俺もつられて笑顔になっているようで、その光景を見ていた料理人も微笑んでいる。


「イチカちゃんいつもいつもそんなに幸せそうに食べてくれてこっちとしてもうれしいよ。今日は彼氏を連れてきたのかい」


 料理を作っていた時とは打って変わって柔らかな雰囲気で料理人は話しかけてくる。今は少し手を止めているが、また調理に戻ると厳格な職人に戻るのだろう。


「違うよ、私の彼氏じゃないよ」

「そうか? お似合いのカップルに見えるけどな……まあ何でもいいや、楽しんでいってくれ」

「美味しいものをこんなに食べられてもう幸せでいっぱいだよ」


 そう言いながらイチカは飛び切りの幸せ顔を周りに振りまいている……見てるこっちが幸せになってくるような感じがする。その顔を見ながら料理人は、


「そこまで幸せそうに食べてくれる客はイチカちゃんが一番だな! ――ハハハッ」


 心の中から嬉しそうに笑うと、雰囲気をがらりと変え、料理人は調理に戻った。


 イチカと親しげに話してるから知り合いなんだろうな……って、違う! 何か違う! 確か俺はファミレスに行こうって言ったよな! なんで俺はこんな高級そうな店にいるんだ! 少し多く持ってきたからって払えるのか? ……よし、イチカに事情聴取だ。


「……イチカ話をしようか」

「そうだね、せっかく落ち着いた雰囲気のお店にいるんだもんね沢山話そう!」

「そうだ話そう。まず、一つ目は何でこの店なんだ?」

「ジントがファミレスに行こうって言うから丁度近くにあったファミレスに来たんだけど……」

「ここのどこがファミレスだ! どこにその要素がある!」

「だってこの店『うるさいファミリーお断り! こだわりの鉄板焼きレストラン! 略して〈ファミレス〉』っていう店だから……あれ、ここじゃなかった?」


 なんだよその紛らわしい店の名前は! イチカがこの店に入ったことをちょっと納得しちまったじゃねーか! てか、小声で叫んでいるから変な感じがする……


「ああ違うよ、俺が言ってたのはこことは逆のファミリー向けレストランだったんだ」

「そうだったの? ……ごめんね」

「謝ることじゃないよ……でも今の手持ちで払えるだろうか? ……あ、そうだ」


 俺はイチカと親しく話していた料理人にさっきもらったカードを見せる。使えるのならばこれで無料になる……どうか使えてくれ。


「これ使えますか」


 俺が見せたそのカードに塊を焼くときのようにじっくりと視線を走らせると、


「すいません当店では使えません」


 まあそうですよね……ちゃんと一部サービスと書いてありますもんね……。俺が使えないカードを弄んでいるとイチカが自信ありげに話しかけてくる。


「支払いについては大丈夫だよ私が何とかする」

「イチカが支払ってくれるのか?」

「そこまで私も持ってないよ。でも大丈夫だから安心して」

「……分かった。お前がそう言うなら」

「でも他のお客さんがいなくならないとできないけどね」


 そう言い見事なウインクをすると俺たちに料理をふるまっていた料理人にイチカは話しかけていた。


 イチカが話しているとき俺は店内を見回して気づいた。今はちょうど昼時。この店の営業時間は、後二時間ほどだ。




 イチカが話し終わると、従業員の休憩室みたいなところに通された。周りを見ると飲み物や食べても食べても腹にたまらないような食べ物が置いてある。


「ここは?」

「ここで待っててくれって言われた」

「どうしてだ?」

「割引のためだよ」


 イチカが何をするか分からないが交渉は成功して割引をしてもらうことになったらしい……イチカが何かをする時までここで待機ということか……この後の予定は……まあ、まだ大丈夫だろう。


 部屋に入ったから何分経っただろうか……それでもイチカとは変な空気にならず、リラックスしていられているので何ら不快ではない。定かではないが大体三十分立ったくらいだと思った時に思い出したようにイチカがくつろぎながら俺に話しかけてくる。


「ジント、この前全身筋肉痛になってたけどさ、なんの弾丸を使ったらあんな筋肉痛になるの? 今まで見たことないくらいにすごい筋肉痛だったんだよ」

「ああ、あれか確かにあの筋肉痛はやばかったイチカがいなかったらどうなってたことか……ほんと、イチカに感謝だな」

「どういたしまして。それで、なにを使ったの?」


 興味があるのかイチカはズイっと顔を近づけてくる。……近くで見ても相変わらず可愛い……と思っているとさらに近づき呼吸がかかるほどの距離で俺の目を覗き込んでくる。その目をそらさずに俺は答える。


「俺が使ったのは「死人シリーズ」の〈究極〉っていう弾丸だよ」

「……え? あの死人シリーズ?」

「そうだよ」

「じゃあ何でジント死んでないの?」

「死んでないけど」

「死人シリーズを使うと確実に死ぬんでしょ」

「まあそう言われているね」


 何かの結論に達したようで、イチカは俺から距離をとり壁と壁の間にできた角に体をうずめて震え始めた。


「……イチカ? ……どうしたんだ?」

「ジントって……もしかして幽霊?」


 そう言うとまた顔をうずめて震え出した。……これは、確実に怖がられてる……なんだかイチカに怖がられるのはあまり気分が良くないな。……このままじゃこの後のデートもつまらなくなってしまう……何とかせねば。


「違うよ、幽霊じゃないし生きた人間だよ」

「ほ、ほんと? しょ、証拠は?」


 震える声でイチカが答える。


「ほら幽霊なら体温がないはずだろ。俺と手を繋いだ時どうだった暖かかったか?」

「……暖かかった」

「ほら、俺は生きた人間だろ。それに俺が使った死人シリーズは奇跡が起これば全身筋肉痛になる。さっきイチカが聞いてきたのはその筋肉痛の事なんだ」


 ……どうだ? 分かってくれただろうか、まだ怖がられているか……。


「なんだ、それなら納得! あの筋肉痛が死人シリーズのせいなら納得納得‼」


 分かってくれたか……でも少し……


「ねえ、ジント。死人シリーズっていくつあったっけ?」


 先ほどと同じように興味があるような素振りを見せ俺の目を見ている……イチカの呼吸は感じない……近くにいないからなんだけどね。


「死人シリーズの事ならお前もわかるんじゃないのか一応有名なものだしな……誰も使えない弾丸として」

「確かにに知ってたけど忘れちゃった」

「それなら俺が覚えてる範囲で話そうか」

「そうしよう暇つぶしにもなるし」


 イチカは近くから椅子を引っ張ってきて俺の前に座る。


「そうだな。俺が知る限り「死人シリーズ」は三種類ある一つ目は俺が使った〈究極〉だ」

「ジントが全身筋肉痛になったものだね。そういえば、もう一回ジントが使ったらどうなるの?」

「親方が言うには最初と同じく筋肉痛で済むらしいが、使い終わった後すぐにまた使うと死ぬらしい」

「……怖いね」


 少し苦い顔をしてイチカがそう言う。


「でも、イチカのマッサージで疲れと筋肉痛を取れば次の日には使えるらしい。普通なら筋肉痛は数週間続くらしいがさすがの効果だなイチカのマッサージ」

「さすが私のマッサージだね」


 イチカは誇らしげに胸を張る。


「でも、一日二回はだめなの?」

「大丈夫らしいが、精神が持たないかもしれないと言われた」

「なんでだろうね?」


 イチカが首をかしげる仕草はかわいい。だが精神が持たないのはイチカのマッサージの激痛のためだと思われる……あの激痛を楽しんでる人なら天国なのかな……本当に逝きそうだな。


「それで、効果は『使用者の五感、身体能力、思考速度を限界を超え使えるようにする』という究極の肉体を得るもので、さらに使用者が武術などの達人になればなるほどその効果は大きくなる」

「どこまでも強くなれそうだね」


 イチカは、とても遠くを見ているように視線を上に向ける……


「そう、この〈究極〉という弾丸は強さの上限はない使用者が強くなればその分強くなれるものなんだ」

「それで次のは何て言うんだっけ?」


 俺が説明後の余韻に浸る間もなく次を促される。


 少しぐらい余韻に浸らせてもらいたいものだな……余裕でもないのだろうか……トイレかな? 行きたいなら言えばいいのに、終わるまで我慢するつもりかな……我ながら最低だな。


「次の弾丸の名は〈武神〉と言い〈究極〉が体に働きかけるものだったがこの弾丸は、能力を持った鎧を着ることで効果を発揮する」

「それを着るとどうなるの?」


 最初ほどではないにせよイチカは顔を近づけてくる。


「〈武神〉の能力は『どんな道具でも完璧に使いこなせることができる』というものだ。大きなものから小さなものまで道具であれば」

「乗り物も道具の一つだよね。乗るときとか鎧が邪魔にならないの?」


 可愛く考えながらイチカは質問を投げかけてくる。


「鎧はサイズから硬さや形が自由に変わるから、そんなことにはならないな」

「話を聞いてて思ったんだけど死ぬ要素なくない?」


 まあここまで聞けばそう思うだろうけどね……この鎧の欠点は、


「脱げない……死ぬまで」

「……確かにそれは死人シリーズだね」


 死人シリーズの理不尽さに呆れてかため息交じりにイチカはそう言う。


「そう言うこと」

「それで最後は?」


 またもや間髪入れずに次を促される。


「最後のは〈変態〉っていう弾丸」

「……なんか破廉恥そうな名前だね」


 言葉では破廉恥と言っているが顔はそう思っていない表情だ。……どんな顔でも可愛さは変わらないな。


「そうだけどその意味じゃなくて、形が変わるっていう意味の変態だから名前の通り能力は『身体の形を自由自在に変えることができる』というものだ。サイズを変えたいとき小さくなりたければ体をちぎり、大きくなりたければ食べまくればいい。そんな感じかな」

「名前はあれだけどすごい能力だね」

「確かにすごいけど欠点がある」

「……死ぬほどの?」

「まあ死人シリーズって言うくらいだし」

「……やっぱりね」


 やはり呆れてか軽くため息をつく。


「まず使うと元の体には戻れない。そして使うほどに自在性が増すけれど使うたびに全身にショック死するほどの強烈な痛みが走る」

「……それはまたすごいね」


 俺は言いたい……イチカさんあなたもマッサージも相当なもんですよ……と。


 ――ガタン……その時イチカがちかくにある椅子もろとも膝から崩れるように倒れた。


「イチカどうした!」


 俺は倒れたイチカの傍に駆け寄り声をかける。意識はあるようでイチカが俺の顔を見ると微笑んで話しかけてくる。


「ジントが死人シリーズを使ったって聞いてから寒気が止まらなくてね、ちょっと我慢できなくなって倒れちゃった……ははは……」

「無理してたのか。つらいときはつらいって言ってくれればいいんだよ」

「……ありがとう」

「……どうしてこうなったか心当たりあるか」

「分からない……そう言えば、幽霊って言ったけどあれ冗談だから」


 少しの茶目っ気を込め笑うイチカ。


「分かってるよ」

「今日のデートもう終わりかな?」


 そう言いながら、残念そうに顔を伏せる。


「イチカが元気な時でないと辛くて楽しめないだろ」

「……ジントがデートに誘ってくれた時嬉しかったんだこんなこと初めてだったから」

「俺もだよ」

「だから張り切りすぎたのかな」

「さぁ、俺には分からない。でも、もう休めまた今度デートしよう」

「でもジントが見たいのってどれかわかんないけど今日までのやつだよね」


 俺の目をまっすぐ見つめられる……お見通しと言われてる感じだ。


「気づいてたのか」

「ジントが気にする時間が大体重なってたからもしかしてと思ってね」

「でもどれかは……」

「分かんなかった」


 ――ハハハハ……俺は優しくイチカは弱々しく笑った。ちょっとした後悔と無念を漂わせて……その時、


 ――ガタッ……顕現させてもいない俺の銃がいきなり落ちてきた。その銃は俺のベルトから一つの弾丸を弾き出す。それは神様からもらった青色をした美しい弾丸だった。だがそれは最初にもらったときよりも美しく、自ら光っていたのだ。


「これは、どういうことだ」


 俺には分からなかった。銃が勝手に顕現したこと、神様からもらった弾丸が光っていたこと。それはその光っている弾丸を手に取ると分かった気がした。いろんなことが感覚的に分かって、なんと言い表せばいいか分からないけど、確かに言われたこの言葉『こんなところで終わらせるな――最後までデートを楽しめよ兄弟――』その言葉で分かった……いやそれだけで分かったのではないけど今やることは分かった。


 俺は落ちている銃を手に取り、手に持った弾丸を込める。イチカを片手で抱え心臓に向けて銃口を押し当てる。すると弾丸からの光が強くなり撃てなかったはずの神からもらった弾丸を撃てる気がした。


「ジントどうしたの?」


 弱々しくも光る弾丸や俺の行動に困惑しているらしい。何が原因でここまで衰弱しているのか、強いストレスでも受けたのか定かではないがこれだけは確信できる。


「今からイチカ、お前を元気にしてやる。目をつぶって待ってろ」


 言い聞かせるようにやさしく諭すように俺はイチカに声をかける。


「分かった待ってる」


 そのイチカの声が響くと、光が今まで以上に大きくなり俺は引き金に指をかける。


 ――パンッ……撃てなかったはずの神からもらった弾丸が打てた。その音と同時にイチカの心臓に光が広がりそこを中心に全身に広がる。ただ、撃ち込んだとことから光が洩れていることを除けば。


「いきなりだけどさ、ジント……抱きしめてほしい」

「ああ、分かった」


 俺はイチカを抱きしめる。胸から洩れる光を身体で抑えながら俺より小さい体を抱きしめる。俺以上の力を秘めているはずのその体はひどく儚く華奢で脆く感じた。

ありがとうございました。

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