二十一発目
「ゲームへの挑戦権を掴んだのはこの少女だ!」
イチカがポケットから番号が書かれたカードをりゅうさんに渡すとそう叫んだ。
「簡単なゲームを始めよう」
そして、りゅうさんが一言そう言うと会場は熱々に油に水をかけたかのように興奮と熱気に包まれる。それを聞き満足げな表情でりゅうさんはゲームの説明を始めた。
「まず初めに確認しておこう! このゲームでつかめるのは商品ではないチャンスだ! 君たちはこのゲームをクリアし最後のゲームへのチャンスを得る!」
『おおおおおおおおおおおお!』「始まったぞ」「今回はどんなゲームだ」「前回は最後のゲームで失敗だったからな」「今回のは可愛い女の子が挑戦か」「怪我しないようにしろよ」
大きな歓声と観客の会話のようなものも多く聞こえる。中には怪我や負傷などと言った言葉やそれ以上のものも聞こえる……いやな予感しかしない。
「さあ、君たち! ステージに上がりたまえ!」
俺たちは促されるままステージに上がる。そこには先ほどまで使われていたセットがあり、そこにある物は長年使っているからなのか少し古ぼけており、少し大きめの鏡は端の方が欠けていたりしている。セットを見ていると、りゅうさんは俺の顔を覗き込み驚いた表情をする。すると、俺の肩に手を置き、俺は観客の方に俺の顔を向けさせられる。
「これは驚きだ! こんなところに町を守ってくれた英雄がいるではないか! これは楽しいゲームになりそうだ!」
観客に向かって煽るように俺を紹介すると、俺の肩に腕を回して来ると、饒舌な話し口で俺に質問してくる。
「今回はどうされたんですか? 隣に居るのは彼女さんですか? 手を繋いでいましたね見せつけているんですか? ……チッ――町を守っていた時どんな心境だったんですか? 今は何をしているんですか?」
「え……あ、あの」
こんなに一度に質問されても答えられないんですけど、どこから答えればいいんでしょうか? というかゲームの進行をしなくていいんですか? しかも呼ばれたのは隣にいるイチカで俺はついてきただけなんですけど……てか、一瞬舌打ちしませんでしたか!
心の中では饒舌になりながら口はもぞもぞしていると、りゅうさんは答えを聞かずに次へすすめている。
「可愛いですね、英雄さんの彼女さんですか今回はデートですか? あなたのお名前は?」
慣れたように質問を重ねるりゅうさん。全く主導権を握らせてもらえない話の中でイチカが次のりゅうさんが一言を発する前に質問に答える。
「イチカっていいます。町の外れでマッサージ屋をしております。今は一時的に、町一番の弾丸屋の一角を借りて開いているんで良ければ来てください」
りゅうさんは、次の一言を遮られたのを気にしたそぶりを見せずにイチカの答えに合わせて話を続ける。
「イチカさんですか、いい名前ですね。余計な宣伝を含めありがとうございました」
宣伝するのが不満だったのだろう俺たちへの絡みをやめると、ゲームの説明に戻る。
「ということで、この二人にやっていただくのは」
大仰に腕を広げ声を張り叫ぶ。
『ロォォォシアァァァンルゥゥゥーレットォォォォォ!』
俺は今、いつも使っている単発式とは違う回転式の銃を持ちイチカの前に立っている……今から俺はイチカを撃つ。銃の中に入っているのは殺傷能力はないと言っても十分怪我はする威力がある弾だ。俺の狙いが悪ければイチカを失明させることになるかもしれない。
今からやるゲームは、五発の弾とダミーが一発が入っている装填数六発の銃を使う。ゲームのやり方はまず、シリンダーを回しダミーだと思う所を選び額を狙って撃つ。それで当たらなかったらゲーム続行で、ダミーの位置を俺の分からないようにシャッフルした後またシリンダーを回し撃つ。それを五回連続でやるのが今からやるゲームだ。
俺たちの勝利条件は一発も当たらないこと敗北条件は一発でも当たることだ……ただし俺が、見当違いの方向に撃った時は無効らしい。
……とんでもなく鬼畜難易度のゲームだと思う。実のところこのゲームはこっちから降りても良かったのだが、
「ジントこのゲーム頑張って勝とうね」
と、イチカがノリノリで降りる気なんてさらさらなかったようで結局やることになった。
どちらが撃たれるのか決めるとき「撃たれる方が危ないから俺がやる」と言ったのだが、
「撃たれるのは私でいいよ……もしジントを撃って怪我をさせたら嫌だから」
「……それでお前が怪我したら……」
「その時はその時……怪我をしても痛み止めがあるからね、辛いほうはジントに任せるよ」
というふうに撃つ方を押し付けられてしまった。
いつも通りの笑顔を見せ、少し離れてイチカは俺を前に見据えて立つ。
その時強烈なデジャブが俺を襲う。俺ではない自分が知らない場所で知らない人に向かって銃を向けている……なんだこの光景は、全身に強烈に印象付けるように……全く身に覚えのない光景だ。まるで、遠い昔に見たような……何とも言えないくらいの遠い記憶……。
でも、そんなことはいい。今からやるのはゲームだ……こういうゲームって何を思ってすればいいんだか……。
俺はシリンダーを回す。一つ選び目の前に写るイチカの額に向かい引き金を引く……。
――カチャ……発射されてはいない成功だ。
次のために配置を変える。俺は受け取りまたシリンダーを回す。
――カチャ……成功だ。
イチカはずっとこちらを見据えている。
――カチャ……成功だ。
――カチャ……成功だ。
ラストの一発……。
――パンッ……その弾丸は写るイチカの額に吸い込まれるように飛んでいき、
――ガッシャャャン……鏡は割れて床に散らばった。
「それでは練習はそこまでにして本番に移りましょう! あ、ご心配の皆様に一つ、この鏡は新しいものに変える予定だったのでご心配なさらないように! 心配はないので、鏡はくれぐれも送らないでくださいね」
……失敗したか……でもこのゲームに勝つにはほぼ運だよな……さっきもほぼ運だったし。
「ジント、一つ言っておくよ」
「……なんだ?」
イチカが急に話しかけてくる優しく微笑むと、俺の目をまっすぐ見据えてくる。その瞳はとても美しく俺の心を見透かしているようで、そして、吸い込まれてしまいそうな感覚を覚える。
「私はジントの事を信じているよ……まあ口に出さないと信じられないのかって気もするけど、言霊という言葉あるくらいだし言っておくよ……ジントを信じてる」
「大げさだな……これはただのゲームだろ」
「まあね、でもジントも私を信じてここをちゃんと狙ってよ」
自分の額の真ん中を指さしながら無邪気な笑顔を見せる。それは、悪だくみをする幼い子供のような表情だった。
「……そうすれば勝てるから」
……信じるか……確か前に親方に信じることの話をされた気がする。その時俺は親方を信じれていないと確かに思ったと思う……それは今も同じで、心のどこかではまだ信じ切れていないと思う。それは自分自身に対してもそうだ……でもイチカに対してはどうだっただろうか……森での狩の時はイチカを信じて囮にされたよな……いや、あの状況なら信じるしかなかったような……まあ、それはいいとしてイチカが信じてくれると言ってくれると自分の事も信じられる気がする……。
「それでは始めてもらいましょうか! ロォォォシアァァァンルゥゥゥーレットォォォォォ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
俺は、シリンダーを回しどれを撃つのかを決める。俺は、それをイチカに向け引き金を引く。
――タンッ……………………バタン……
…………イチカが倒れた……俺は、イチカを撃ってしまったのか? …………なんでゲームを降りなかった。なんてのは今更だ……撃ってしまった…………俺はイチカを……イチカっ!
俺はイチカのもとへ駆け寄るとうめき声をあげたイチカが勢いよく立ち上がった。
「……へ?」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
そのイチカの姿を見た俺は気の抜けた声を出していた。そして、相変わらず客は騒いでいる。そしてイチカは俺にだけ聞こえる声で、
「どうしたのジントそんな顔をして……もしかして私が怪我したと思った? アハハ、まあ思っていたより余波が強くて倒れちゃったからね少し心配かけちゃった? ごめんね、でも飛んでくる場所が分かってるなら対処はできるから……あれ、分かってなかった?」
そう言う。……そういえば、この前侵入者が来た時も撃ち落としていたよな……忘れてた。
「撃ち落とすとか……それあれありかよ!」
りゅうさんはスタッフに文句を言っているようだ。するとスタッフが確認して来たらしく撃ち落とすのはルール違反ではないので続行可能ということになったらしい。……確かに勝敗のルールで撃ち落としたらダメとは書いていないしな……まあ撃ち落とすことができる人がいないからだと思うけど……。
その後俺はダミーを一発も当てられずイチカが全部落として、次で最後の五回目になっていた。時間的に今はもう少しで昼ってところだ……これが終わってから昼でも食いに行こう、予定していたものはその後でも大丈夫だろう。
「随分と時間がかかってるな今まではすぐだったのに……今更シャッフルしても意味ないのにな」
その銃を渡してきたのはりゅうさんだった。りゅうさんは一言「まあ、当たらないようにな」と一言いうと下がっていった。
……これで最後、俺たちの勝ちだ! さっきと同じように俺が適当に選びイチカに額を狙うと、りゅうさんが歪んだ笑顔を作っていたように見えた。
――バンッ……今までとは違う反動が俺の腕に伝わり、音は客の歓声の中虚しく響いていた。
――バタンッ……イチカが倒れた。それを見たりゅうさんは高笑いをしていた。俺はその状況について行けずに呆然としている。
「アハハハハハッハハハッハッハッハハッハッハハッハハハーハー」
「……どういうことだなんでイチカが倒れている」
「分からないのかぁーい英雄くぅぅぅん。お前が殺したんだよ!」
りゅうさんは俺を上から見下ろすように俺に向かったそう叫ぶ。
観客も事の異常さに気づいてかそうでないかは分からないが静かに成り行きを見ている誰一人とも出ていく者はいなかった。
……いきなりどうしたんだ、雰囲気が違う。恨みを持つように目で俺の方を見ている。
「英雄君は分かっていないのか? 君はすり替えられた実弾を君の彼女に向かって撃ったんだよ。ああ、何と愉快なものだろうか」
確かに俺はイチカを撃った……倒れているイチカを見ると手には銃が握られていた撃ち落とすため持っていたのだろうか。俺が呆然とイチカを見ていると、愉悦に満たされているように聞こえるその声で俺にりゅうさんは話しかけてくる。ここまでされるとさすがに分かる……この人は俺を恨んでいる。
……俺はこの人にここまで恨まれることをしただろうか。
「りゅうさん少し話をしよう」
「お前にりゅうさんと呼ばれる筋合いはない! だが、今日は幸運だった。気分がいいから話はしてやろう」
……なんだかめんどくさい人だ。
「どうしてそこまで俺を恨む」
「ついこの前のことだ、私の誕生日だったその日は私にとっての最悪の日に変わった。その日俺は多くの友人を呼び盛大にパーティーを開いていたんだ。しかもその時にテレビの取材も来ていて後日、大々的に放送されるはずだったんだ」
「……そうですか」
「その時、町では騒ぎが起きてたらしいな私は分からなかったが。だが、それでも取材陣は私の誕生パーティーを取材していたんだ。そのおかげでその取材陣は奇跡の映像を取ることに成功したんだ」
「…………」
……奇跡の映像って自分で言っちゃうんだ。
「それは島の外壁を破壊してやって来た。茶色く、臭く、少しねっちょりしたものが私の頭から足先に向けてすっぽりと覆ったんだ」
「……それって」
……多分あのゴリラの投げたアレだ……多分というより確実に……ご愁傷さまです。
「その時の私のリアクションは今まで生きてきて最高のものだったんだ」
「…………」
「だが、後日放送されたのは君の英雄的活躍のニュースばかり私の最高のリアクションと誕生パーティーについてのニュースは一つもなかった。それが君を恨む理由だ、他にもまだまだある――あんなに可愛い彼女がいるとか……私にはいないのに――見せつけやがったり……もげろ! ――エトセトラエトセトラ」
……どれも俺がかかわったことだけれども! 俺のせいでしょうか! 断じて違うと思いますが! 最後の方の理由なんて今見て恨めしいところを上げただけじゃないか! ……はあ。
「イチカ、通報したのか?」
「いたたた……うん、通報したよ」
俺がイチカの方を向き話かけると、りゅうさんも俺の視線の先を見る。するとりゅうさんの顔が恐怖に染まった。
りゅうさんは人知の及ばぬものを見て恐怖したときのような顔をしてイチカの事を見ていた。声を震わせながらりゅうさんはイチカに向かって言う。
「お、おおお、お前は死んだんじゃないのか?」
「私はどこに来るかわかれば対処はできるからね、ジントが同じように撃ってきてくれて対処は楽だったね。でも、実弾はだめだよ私じゃなきゃ死んでたよ」
「ひ、ひいいいっ」
怪物を見る目でりゅうさんはイチカを見ている……まあ、確かに怪物ですよね……俺も〈究極〉使えばできますけどね……それを普通にやるって……。
イチカと数言交わしただけで、りゅうさんの戦意は喪失したようだ。
その後、りゅうさんとその協力者である子分も縛ってイチカのマッサージを体験してもらった。こんなに人がいるのに宣伝しないわけがないということらしい……どこか親方と近いものを感じる……気がする。
体験してもらったりゅうさんとその子分は肌つやつやになり、中から外から健康体になりました。それを見たお客さんたちは半数以上は引いてましたが、一部が効果に興味を持ち、また一部はハアハア言い出しました。印象に残ってくれたので宣伝にはなったでしょう。
そうして、イチカの店に通うお客さんが少し増えたのはまた後の話。
「イチカ、こんなもんでいいだろ次行こう」
「そうだね、証拠映像も置手紙も書いたしこの人たちは送られるところに送られるだろうし」
「じゃあ、腹も減ったしファミレスにでも行くか」
「そうだね」
そういい、スタッフさんたちの挨拶しながら出ようとしたら最初にイチカが話していたお偉いさんらしき人が駆け寄ってくるなり、
「急に代役を押し付けた上にこんなことになってしまって……これは報酬です受け取ってください」
「そう言うのはいいんですけど」
「いいえ、いいんです受け取ってください」
「……ではお言葉に甘えていただきます……それでこれは?」
「来年まで使えるここの一部サービスを無料で受けられるカードです」
「こんないいモノを……ありがとうございます」
「いえ、彼女さんと楽しんでください」
「あ……はい」
お偉いさんらしき人が離れてから俺はイチカに話しかける。
「……もしかしてイチカがあの人に彼女とか言ったのか?」
「いや違うけど、ジントとのことを話しただけ」
「……多分そのせいだな」
呆れながらも俺はイチカと仲良く歩幅を合わせて次の場所に向かう。
「あれ、そういえばゲームの報酬って何だったんだ?」
カードを弄びながら不意にそんなことを思った。
ありがとうございました。




