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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
20/60

二十発目

投稿時間バラバラですいません。

三日ごとの投稿は欠かせないようにします。

 俺の隣にいる少女は、可愛らしい声に愛らしい顔立ち、太陽にも負けない笑顔とどこか変な感性を持つ一人の少女だ。さっきまで少し緊張していたようだったが、楽しそうに俺の隣を歩いている。その少女はいつもよりも着飾っており、チラリと見せる腰のあたりに巻かれている弾丸収納ベルトは、自分の愛用品と同じものだったりして親近感を感じる。俺はそんな女の子と手を繋ぎながら、歩みを目的地へと進める。その子とはつい最近に会ったばかりだが――基準が分からないが――俺との距離が近すぎる気がする……まあそんなことはどうでもいいことだ。今はイチカとのデートを楽しもう。


 今は快晴! 青く澄みきった空が広がり、とても高い空が俺たちを見下ろしている……とまあこんな感じかな、陸地があったころの表現としては……今は人が歩くのは島の上だその上にも島があるし、見下ろすというのなら上の島の人からだろうな……なぜだろう、りゅうへいさんに見下ろされる気がする……熱湯を使って何かしているような……誰だろうか? 聞いたことあるような……ないような……そんな名前だ……まあいいかそんなこと。


「どうしたの?」


 俺の雰囲気に違和感を覚えたのかイチカは顔を覗き込むようにして話しかけてきた。


「いや……なんだかよく分からない人によく分からない芸を見せられた後見降ろされる気がする」

「どゆこと?」

「さあ、分からない」


 そんな他愛の無い話をしながら歩くは若者たちのたまり場、複合商業施設である。ここには映画館や遊園地などの娯楽施設、日用品店から雑貨屋などなど一言では言い切れないほどの施設がある。ちょうど今いるところの近くにはステージがあり今日はそこでどこかで聞いたことのあるような、ないような名前の人のステージがあるという。


「イチカ、手離すなよ!」

「が、頑張る!」


 俺たちは人生という波の中をもがき苦しみ進んで……じゃなくて、生きている人が作る波の中でもがいて苦しんでいた。この人だかりはステージを見に来た人と、ここを通りたい人でごった返している。俺たちの目的地はちょうどこの先にあり、迂回ルートは工事やら事件だのでつぶれていることで、みんなこの道を嫌でも通らなくてはいけないこともあり、その混雑は死人が出るんじゃないかと思うほどだ。


「イチカ大丈夫か」

「大丈夫だよ……ここ抜けれそう。ジント行くよっ!」

「……なんだ急に引っ張るn……おわわわわいだだだだ」


 イチカは俺の手を握り締めると見えたと言った隙間に飛び出す。森で見せた身のこなしをここでもいかんなく発揮し人の森を電光石火で抜けていく……俺の手を握ったままで。俺はその速さについて行けずぶつかっては「すいません」ぶつかっては「すいません」を繰り返す。その気になれば簡単に腕が吹っ飛ばされそうだが、それでも俺の腕と肩がくっついているのはイチカも気を付けてくれていたからだろう。


 さっき、手を離すなよ! と言った俺の方が手を離すなよ! と言われるこの状況には目をつぶりましょう。


 イチカの電光石火も人の開いている場所に出ることで止まり、俺もようやくまともに立ち上がることができるようになった。立ち上がりながら目線を上げると俺の視線の先には張り紙があり、そこには「りゅうへいさんと二人の子分~今回もやるんですか熱湯風呂!~入場無料だよ」と書かれていた。


「なんか面白そうだよ! ジント行ってみようよ!」


 その張り紙を見たイチカは嬉々とした表情で俺の手を引っ張りイチカはそこへ向かおうとしている。

 ……楽しそうに言いやがって……ちょっくら行ってみるか。俺も気になるし……りゅうへいさんか……何だろうか、


「俺の勘? ってやっぱ当たるのかな……そしてなんだか嫌な予感」



 紙が貼っていた所から奥へ進むとそこには何と言ったらいいのか……随分と盛って言ってもぼろいと言うしかない内装が続き、その先にきれいなステージがある。見えなきゃいいっていうことで工事の人たちが手を抜いたのだろうか……ああ、手直ししたい。……親方には工事の技術も習っているからうずいてしまう……正確に言えばこの前の侵入者のせいで壊された家を直すときについでと言われ徹底的に教え込まれたのだが……まあそれはいい。などと思いながら座席を見てみると一つ残らず満席で、さらに立見席も人でいっぱいで……ていうか俺らがいるところには客に見える人がいない。よくよく考えるとここって舞台袖じゃね! イチカ! 勢いよすぎて一般の人が入れないところに入っちゃったよ! ……あれ、イチカがいない。


 さっきまで手を繋いでいたはずの女の子はいなくなり周りを見回すとなんだかここのお偉いさんに雰囲気を纏っている人と話していた。話しているところを眺めているとたまにこちらを見て話したり、お偉いさんのような人がニヤニヤしながら俺の方を見てくる。


 ……もしかしてズボンのチャックが開いてたり……よしちゃんと締まっている……違うだろ! 違うだろ! なんでイチカが普通に話してるの! なんで追い出されないの! ……そしてお偉いさんのような人! こっち見てにやけんな! と、心の中で俺が叫び終えると、ポケットをもぞもぞとさせながらイチカが戻ってきた。


「ステージに上がることになっちゃった」


 俺の目の前で止まって開口一番そんなことを言う。ステージに上がるのがとても楽しみなのか、ぴょんぴょん飛び跳ねている。


「よかったな。どういう経緯でそうなったかは分からないが楽しんでこいよ」


 不思議そうに首をかしげながらイチカは隣に立つと俺の腕に腕を絡めながら手を繋ぎ、


「ジントも一緒にだよ!」

「…………え?」


 とんでもないことを言い放った。



 りゅうさん(りゅうへいさんの愛称)は演技派のリアクション芸のプロフェッショナルで、テレビにも多数出演し結構昔から知られているらしい。……なぜか俺は知らなかったが聞いたことはあったような気がするので見たことはあると思う。だけどちゃんと見たことはないから忘れているんだろう。だから今回ちゃんと見てみようと思う。


 りゅうさんは演技派リアクション芸という名の通りのリアクションで人を楽しませるものである。りゅうさんの見た目は黒いスーツ、黒縁でレンズも黒いサングラスを掛け、体格はがっちりとしていて長年の鍛錬がうかがえ、そしてその頭はがっちりとリーゼントで固めている。だが、どこぞの下っ端のような雰囲気はなく言うなれば人を何人も殺してるぜぇ、って感じだ。


「しー、ジント始まるよ静かにして」

「はいはい、静かにしてます」


 最初はりゅうさんがいつも通り芸をして次にゲストとしてイチカとなぜか俺がステージに上がることになった。ちょこっと聞いたら、素人参加企画があったらしかったのだが素人の人がこれなくなってしまったときに、丁度イチカがスタッフに話しかけて出演決定! らしい。急にそんなことでいいのかと思うが、りゅうさんはベテランだから大丈夫だということだった。……ということで、始まるようだ。


「りゅうさんと!」

「「二人の子分!」」


 ステージには、りゅうさんと他二人が上がり三人でコントのような形式で始まる。このコントがドラマみたいだということで演技派ということらしい。


りゅう「たまってるんですよねぇ借金……さっさと返せや!」

子分A「ひいいいっ、どうか、どうかあと一週間」

りゅう「いやぁ、あなたねこの前も一週間って言っていたでしょう……つべこべ言わずに返せや!」

子分B「そ、そんなに怒鳴らないでください」

りゅう「奥さん、こっちとしても怒鳴りたくはないんですけどね、あなたたちが返してくれないとねこっちもそれ相応の対応をしなくちゃならないんですよ」

子分A「返すもなにも利息が毎秒十パーセントとか返せるものも返せないでしょう!」

りゅう「何を言ってるんですかあなたたちが確認していないのが悪いんでしょう」

子分B「こんなの法律違反よ訴えます!」

りゅう「それはできませんね、法律はこちらの手中ですので」

子分A「なんて奴なんだ」

りゅう「悪魔を見るような目はやめてくれませんかね」

子分B「あんたなんか悪魔よ!」


 ……にしてもりゅうさんとてもダンディな声をしている……本当に俳優の方がいいんじゃないだろうか……いや声優でもいかもしれない。ていうか内容はただ借金取りが来ただけなのにドラマのクライマックスシーンみたいな緊張感がある。これが演技派の所以か……お、本当にクライマックスだな。


りゅう「そこまで言われちゃこっちの顔も立ちませんししょうがありませんね、これを使いますか」

子分A「じゅ、銃なんか出して何するつもりだ!」

りゅう「これは最終手段なのでね、これを使うと私も危ない」

子分B「私たちをどうするつもり!」

りゅう「これでね、あなたたちの体を売りさばけるようにするんですよ」

子分A「……それは……臓器売買か……」

りゅう「もちろん法律はこちらの味方です。あ、売るのは臓器だけではなく売れるところ全てですので」

子分B「あ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああ」

子分A「落ち着け大丈夫だ。俺が何とかする」

りゅう「何とかする……何とかできるなら借金返せやゴラァ!」

子分A「それはできない……でもお前を倒して国外に逃げるくらいならできる」

りゅう「金があるんなら返せやゴラァ!」

子分A「断らせてもらう!」

りゅう「しょうがありませんねぇ……じゃあ体を売るしかなさそうですね」

子分A「……銃なんか持ちやがって」

りゅう「いっておきますがこれは水じゃない水鉄砲ですので……殺傷能力はないとは言いませんが」

子分A「……フッ……俺は呼吸をする」

りゅう「なんですかその独り言は……これでおしまいです」

子分A「……これでどうだ!」

りゅう「なにっ!」


 油断し銃を構えているりゅうさんの手首を押さえ子分Aが銃を奪い取る。


子分A「これで形勢逆転だ!」

りゅう「ま、まて、話せばわかる……お前はその銃の威力を知らない」

子分A「……ただの水鉄砲だろうが! さっきまで怖がってた自分が恥ずかしいぜ」

りゅう「まて! ……押すなよ!」

子分A「水鉄砲だから引き金じゃなくてボタンになってるな」

りゅう「……押すなよ!」

子分A「フフッ……どうかな」

りゅう「絶対に押すなよ!」

子分A「は、ハックション! ……あ」


 ―-バヒュン……水が発射されたと思えないような音とともに水が発射され、りゅうさんの頭を貫通して頭から――ぴゅー……と、血があふれ出す。


りゅう「それは、水ではなく熱湯を発射するものさすがの威力だ……俺がやられるとはな……フフッ、俺の体を売って借金を返すと言い……地獄の熱湯風呂でまってるぜ」

子分A「お、お前……」

りゅう「……勘違いすんじゃねー……ぞ」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

「さすがりゅうさんの演技泣けるで」「だっせ―死に方だな!」「心にしみたよ……竜ちゃんサイコー!」「子分もいい演技してたな」「これは今までで最高……いや、この前のも……いや、その前も……いや、どれも最高だぁ、竜ちゃん最高!」「これこそ男の死にざまだな!」「感動した……ううっ、うわあああん」


 演技? コント? もうよく分からないが、それが終わると会場は盛大な歓声と大きな笑いに包まれた。俺は見ていてここまでの感動は覚えなかった……ていうか、あの水鉄砲本当に打たれて貫通してたように見えたから俺はなんか笑えなかったしな……あの血って何だろうな……今も出てるし……てか、熱湯になっただけでそこまで威力は上がらないと思うのだが……。


「ねえジント、なんであの人の頭からケチャップが出てるの?」

「ケチャップなんてそんなはずはないだろ……血糊とかじゃ……」


 そう言いかけたときにりゅうさんが立ち上がり歓声に向かってお辞儀をする。


「今回もありがとうございました」

「「ありがとうございました!」」


 そうすると客はまた騒ぎ出す。


「今回は何なんだ」「前回は簡単だった明太子だったからな……だが今回は難しい」「早く始めろよ!」


 その声が聞こえてくるのを確認するとりゅうさんは声を上げて番号を叫ぶ。


「二十九番の人今回はあなたにチャンスがありますさぁ、出てきてください!」

「あ、私だ」


 そう言うとイチカは客席に回り、りゅうさんのいるステージを見上げる位置に立った。そして俺もついでにそこに立っていた……イチカに手を握られていたので仕方なくだが、


「こんな形で俺の勘? が当たるなんてな……」


 俺の目の前にあるステージの上を見上げると、りゅうへいさんが俺を見下ろしていた。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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