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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
2/60

二発目


『最後の試練は殺すことだ。今まで一緒にいた者を殺せそれが最後の試練だ』それが、ジントとイチカに課せられた最後の試練だった。


 今まで一緒にいた者を殺す……それを聞いた二人からは先ほどまでの余裕な笑顔は消えていた。


  ○  ○  ○


『さて、この試練をどうやってクリアする』


 そう言い、嘲笑うかのような顔で問う。


「ふざけるな! こんな試練俺は認めないぞ。今までもだれも死なずに来たのにここで犠牲を出すなんて……」


『今までは吾輩の気まぐれだったのだろうな。吾輩にもそれは分からぬ』


「一緒にいた者を殺すって……私はジントを殺さない」


「俺も、イチカは殺さないし殺させない」


『ではどうするというのだここで試練をクリアできなければ……どうなるかわかっているだろう』


「……ッ!」


「……」


 すると、意を決した表情でイチカが一歩前へ出て、聞きたくもないセリフを言い出す。


 それは、どこかの物語の最後、生贄にされる人の言葉のようなものであった。


「私が犠牲になります。それでジントが生き残るなら私は死んでもかまわない」


 試練を出した者をにらみながら少し小声で続けざまにそう言った。


「……私はそれほどまでジントを愛しているから」


『自己犠牲とは、何とも美しいな……』


 声の主はそう言いながらも、どこか寂しいような落胆したような雰囲気をしていた。


「それは、それじゃあイチカは……」


「そうだよ、ジントのプロポーズの答えはイエスだよ。でも、一生を共にすることはできないね」


「そんなことはないさ……何か、何か方法はあるはずだ! ここでイチカと離れることは死ぬよりもつらい……だめだその選択は……」


「これしか方法はないよ……私が死ぬしか……」


「……それなら俺が死ぬ。イチカが死ぬくらいなら俺が……」


「私一人を置いて死ぬの? それじゃあ私につらいことを押し付けるの?」


「……そうだよな、お前につらい思いはしてほしくない」


「じゃあ私だね。フフッ、ジントいい顔している」


「こんな時にもお前は……ブレないな。いい性格してる」


「……じゃあ私を殺して……ジント」


 そう言い俺の前に立つイチカ。その顔には恐怖はなく、安心しきった表情でこちらの顔を向ける。


 俺に殺されるために身を任せるそれは覚悟が決まっているからできたのだろう。俺はその覚悟を無下にしないためイチカを殺す準備をする。


 腰に付けていた単発式の銃に弾を込め構える。


 引き金に指をかけたとき、イチカが話しかけてくる。


「最後にいい?」


「最後にはしたくないけどな」


「なんだか軽いね、最愛の人を撃ち殺そうとしてるのに」


「まあ、こんな時に重い空気ってのも嫌だし」


「なにそれ」


「さあ、なんだろうな」


「ねえ、今思ってることを言ってから撃って、私も一緒に言うから」


「ああ、分かった」


 俺はそう言うといつでも撃てるよう準備して、イチカに声をかける。


「合わせるか?」


「うん」


「……せーの」


 イチカが微笑んだ。


「「愛してる」」


 パン……その言葉を言い終わるとともに乾いた音があたりに響いた。


『これで試練は達成だな』


「……おい、死体は確認しなくていいのか」


『そんなことをせずとも吾輩には分かる』


「……そうか」


『お前はなぜ一華のもとへ行かない。愛した者だったのだろう』


 俺にはこいつの事はよく分からないが、俺たちの事を舐めすぎているようだ。


「本当にこれで試練は達成したのか」


『そうだこれで達成だ』


「……嘘だな。イチカ起きていいぞ」


「ハイハーイ。イチカ復活しました」


 さっき撃ったのはフェイク。そんなのは奴も分かってるだろう。


 何を言うのか見物だな。


『……なぜ、すぐに吾輩のもとから去らなかった。なぜ、逃げるチャンスを無駄にした』


「お前、死んでいないの分かってたくせに試練を終わらせたから」


「という事は、私たちの試練は特に意味がなかったってことでしょ」


「試練を重要視するならそんなことはしない。そもそもこの試練で得た物は俺たちの強さだけ、達成しても何があるかは聞いていなかった。しかも、その中には精神を鍛えるものがなかった」


「私たちの精神が強くなると不都合だから。例えば、最後の試練で精神を鍛えていたら、精神の強い片方がもう一人を殺しても耐えられるから。とか」


「そうなると精神を鍛えていない者の行動が目的だった。例えば、精神を鍛えていないとそれから逃げようとし、それは言葉の穴を見つける。とかな」


「それを踏まえて私たちが考えた結果は」


「「あんたは、死にたがりの神様でした!」」


『どういうことだ私が神様だと、笑わせる』


 本当に笑いながら答える。


「何言ってんだあんたは。人の頭に話しかけるってこんなこと普通の生物にはできないっての。ほかにもあるけど言おうか」


「私たちここまで神様って呼ばれたくなさそうだから読んでなかったけど、これからそう呼ばせてもらうよ」


 俺とイチカは呆れたようにそう言いながら神様の言葉を待った。


『そうだ、吾輩は神だがそれがなぜ死にたがりなのか答えてもらおう』


「なんだ、あんた他人に自分の死にたい理由を聞くのか」


「おっかし―ねぇ。自分で言ってたのに」


『吾輩がいったい、いつそんなことを』


「最後の試練だよ『最後の試練は殺すことだ。今まで一緒にいた者を殺せそれが最後の試練だ』この文にそれは書いている」


「お互い殺し合わせたいなら私は『最後の試練は殺し合い。精魂果てるまでお前ら二人で殺し合え』とか言うかな」


「……ん……まあ、内容はともあれ、そういうこと。本当にどちらか殺したいんならだれかを指定するし、殺し方も指定しるだろう」


「そう、それで試練の内容を見てみると殺すことだと書いているよね、しかも今まで一緒にいた者という指定で」


「それだと俺たちと神様の三人の中から殺す人を選ぶことになる」


「でも私たちは死にたくない」


「ということで神様あんたが死にたがりってことだ。異論あるか?」


 僅かに沈黙が流れる。


『はあ……やっと気づく奴が現れたな』


 不安が去ったような顔だ。今までこんなことを何回やって来たんだか。


「と、いうことは」


『正解だお前らの言うとおりだ』


「じゃ、早速だけど神様殺す? ねえ、ジント」


『まて、俺はお前らの言う通り殺されたがっているが理由を聞きたくないのか』



「「……へ? 興味ない」」


 二人の声がハーモニーを奏でる。ついでに動きも見事にシンクロして二人で首をかしげている。


 それを聞いて残念がっていたが、本当に最後の試練を始めるのにそんなことはいらないと判断したのか、それを始めるために二つの弾丸を渡してきた。


『それは吾輩を本当の意味で殺せるものだ。だが、吾輩を殺すとどうなるのか分かっているのか』


「さぁ?」


「分かってないよ」


『……本当に興味がないんだな。秒も考えないとは……簡単に言うと、貴様らが次の神様となる』


「そうなんだ」


「そう」


『貴様ら軽いな。神には肉体はなく今まで通りとはいかないのだぞ。そのせいで貴様らの肉体と精神が離れてもう一人の貴様らが生まれるんだぞ』


「問題ない。俺らが神様になったらちゃんと面倒見るから」


「神様になったら、ジントとずっと一緒に居られるね肉体がなくとも私はジントと一緒ならそれでいい」


「あ、そういえば、肉体がなくてもイチカに触れられるのか」


『そうだな、仮の肉体を一時的に持つこともできるから、できるな』


「なら問題ない。早速やるか」


「そうだね」


 そう言うと、慌てる神様をよそに俺たちは準備を始める。


 まず、単発式の銃に神様に渡された弾丸を込める、イチカも込めたようだ。すると二人の銃が光り出した。


「お、おお! な、なんだなんだ! どうした!」


「なになに? 光ってるよ」


『妙なところで焦りすぎだ貴様ら。吾輩は逃げない。今から説明してやる、それは二つで一つの弾丸だ銃を近づけると一つの銃となる。それを二人で放てばそれで吾輩は死ぬ」


 近づけると本当に一つの銃となった。だが元とは違い引き金は二つあり二人で撃てるようになっていた。


『それで二人で撃てるようになっただろう』


「そうだな、最後に言い残すことはあるか」


 少し考えた後、神様は言う。


『貴様らが吾輩に刻んだ記憶、誠に楽しいものであった。感謝を述べよう』


「そうか。……んじゃ、今までお疲れさん。神様」


「バイバイ。神様」


 三人が一言づつ言い終わると、……パンッ、と乾いた音が辺りに響いた。

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