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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
17/60

十七発目

 ――ドン! ドン! ドン! 大気が揺れる、とてつもないエネルギーを持った者同士が正面からぶつかり合い揺れる揺れる。その衝撃を起こしているのは二つの影。


 ――影の一つは、巨大で強大で人間なんかを簡単に捻り……いや、指先で潰せそうなほどの剛腕を持ったゴリラの影。腕だけが肥大化し胴体とのバランスがとれておらず、少し動くだけでバラバラになりそうなシルエットなのにもかかわらずその移動速度は異常……その一言で済むかもわからないがとにかく異常であった。そのゴリラが移動するたびに辺り一帯を衝撃波が襲う。


 ――そしてもう一つの影はゴリラよりも小さい。体格は誰から見ても雲泥の差だ。だがその影もといジントはゴリラに引けを取らないスピードで……いやそれ以上の速さで移動しながらゴリラとの正面からの殴り合いをしている。ただでさえ体格に差があるというのにそれすら関係なしに正面から殴り合えるのはこちらもやはり異常だろう。そしてジントが移動するたびにも衝撃波が一帯を襲う。


 ゴリラは自分の指で大気を押しつぶし、拳についている鎧を大砲の砲身のように利用し圧縮した空気を爆発させるようにし、推進力として移動している。同じくジントは大気を蹴り圧縮した空気を踏み台代わりに蹴り移動している。動物の動きではないそれらの戦いは開始してから今一分が過ぎ二分目に届こうとしている。


「おらあああああああ!」

「ごがあああああああ!」


 雄叫びと同時に両者の右拳が正面からぶつかり合う。そのたびに大気が揺れ町全体を衝撃が包む。


 ――バチン!


 ゴリラが自分の左手の中で空気を爆発させる。その勢いで目のも止まらぬ速さで左に回転しゴリラの左手の甲がジントに炸裂せず空を切る。寸でのところでジントが避け両者とも距離を取る。先ほどから、向かい合っている状態から消えたと思えば拳を合わせ、現れたと思ったら距離を取っている、ヒット&アウェイの攻防が続いている。ゴリラはその腕の耐久力でジントの一撃をくらっても有効打ではないようだ。ジントもその機動力からゴリラの一撃は食らいそうになっても躱し続けている。両者とも決め手という決め手がなくただ時間だけが流れていく。だがジントの制限時間は刻一刻と近づいている。


「まずいな……あと、二分……やばいな……これ」


 息は切らせてはいないが表情からは疲れが見て取れる。


「ぐがあああああああ!」


 それに比べゴリラは元気のようだジントから少しずつ受けたダメージはあるが興奮してそんなものゴリラには関係がないようだ。


「このままじゃ……時間切れで……ゲームオーバーだな……数分の戦闘でいくつか島を壊しちまったが人がいない島を狙っていたから怪我人は……いないよな。もう無人の島はないし、ここで決めなくちゃ……どのみち滅ぼされそうだ……ハハハッ」


 なんで……笑ってんのかな……今ってピンチという状況か? だから笑ってんのかな? ほんとどういうことだよ〈究極〉を使ってもここまで手こずるとか……とんでもねーゴリラだな……でも森にあんなゴリラがいた記憶はないし……イチカが狩りしていた時には後ろにいたくらいの奴しかいなかったのにな……今こんなこと考えても関係ないか……さてどうするか……。しょうがない、外すか……。


「親方! 俺が使った制御用弾丸の効果消してくれ」

「いいのか! 確かに制御用弾丸はいつもより体のリミッターを付けることによって制御しやすくしたものだからその効果を消すと確かに強くなるが……そんなことしたらお前吹っ飛ばされちまうぞ!」

「でもそうしないとあのゴリラの剛腕には勝てない」


 てか、限界を超える効果のある弾丸の効果を制御できるように限界をつけるなんて……親方は何をしたいんだろうか……天才の親方はやはり理解が及ばない。


 親方の矛盾を少し気にしながらも親方にもう一度効果を消してもらえるように説得を試みる。


「親方! 早く消してください!」

「………………」


 俺が親方にそう語りかける最中にもゴリラは殴り掛かってくる。それを避けながら説得を続ける。


「親方このままじゃ母さんもあのゴリラに潰されてしまいます」

「よし、ジント! ぶっ飛ばしちまえ!」


 即答だった……これはこれでよかったのだろうか……親方は俺が危険な方法を使おうとして……でも母さんの話が出た途端……俺は二番目ですか……なぜだろう泣きたくなってきた。


 ――ドンッ! ……その音とともに俺の体に衝撃が走った。親方が俺に制御用の解除をしたのだろう。さっきまでより遥かに力を籠められる気がした。その状態でゴリラを見るとそのゴリラのすべてがひ弱に見えた。


「これならいける……アレ?」


 俺に残された制限時間はもう一分もないそれなのに体が動かない……もしや、副作用か……こんな時に……と思っていると……親方が、


「お前の体は動かない! 丸ごと止めたからな頭以外。動くためにはあるキーワードを言わないといけない」

「なんでこんな時にっ!」


 親方の方を向き俺は吠える。どうしてあんたは! 何がしたいんだ! 天才は理解できない! などと叫ぶと親方は、褒めるな褒めるなと言い指をさす。


「大丈夫だ、ゴリラの方を見てみろ」


 ゴリラはこちらを睨むばかりで何もしてこないようだった。何かを恐れるような警戒をしているような眼をしていた。


「このゴリラは〈究極〉のリミットを解除したジントを警戒しているんだ。まあ時間もないから細かい説明は抜きでキーワードを教えよう」

「…………」

「キーワードは『俺はイチカが大好きだ―!』だ」


 親方は悪びれもせずにそんなことを言い出す。


「なんで……なんでそれがキーワードなんだ!」

「なんでだろうな――ハハッ!」


 俺には親方が何を言いたいのかよくわからない。なぜこんな状況でこんなことを言わせたいのかも……いつもいつもこの人は何をしたいのか……なんだろうかもう我慢ならないという気持ちだ。俺は確かに人に言われたこと親方に言われたことを確かに簡単に承諾してきたが、それは別に嫌じゃなかったし俺の気持ちがそれを否定しなかったから。だが今回のは違う俺の気持ちなんか無視で心にもないことを言わせようとしてくる……気分が悪い……俺の気持ちは俺のもんだ。だから俺はそのキーワードは言わない……。


「親方あなたは何がしたいんですか」

「ジントとイチカをくっつけたい」

「なんでそんなにも……」

「フッ…………」


 親方は不敵に笑う。俺はその顔を見てプッチンと来た堪忍袋の緒がプッチンと言った。


 なんだこの気持ちは……しかもこんな時に……こんなどうでもいいことで……でも我慢ができない……近くには命を狙うゴリラがいる……そんなこと知るか! 俺は今目の前のこの男に腹が立っている! どうしようもないくらいだ! ……なんでこんなくだらないことで腹を立てなければいけないのか……でも抑えられない。


「親方……その顔を止めろ」

「どの顔だ~?」

「その顔だよ」

「この顔かな~?」

「ふざけんなよ」

「俺のどこがふざけてるって~」


 分かっている……こんなくだらない……取るに足らないようなことで……こんな気持ちがこみあげてくるなんて……くだらない……くだらないくだらないくだらないくだらないくだらない……でも止まらない。


 動かない体をギシギシ言わせて叫ぶ。


「その態度だよ! その顔だよ! なんでこんな時なんだよ! 意味わからないんだよ! こんなに俺が怒ってるのも! 意味わからないんだよ! あああああああああああ! 言ってやるよ! お前に気に入らないことを! 急に母さんとの出会い方とかどうでもいいし! いちいちふざけて面倒なのも! 勝手にイチカとくっつけようとすることも! 俺の気持ちを勝手に決めるところ! ……ことも! ……とかも!」


 俺は親方に対する今まで気にしていなかったこと少し腹が立ったことあることあることあること……すべてを親方に向けて叫んだそして最後に……。


「……親方」


 これまでどんなに動いても息切れをしなかったのに息を切らせている自分に気づきながら俺は、親方に自分でもどんな感情を込めているかは分からない眼差しで向きながら、


 その俺を親方はまっすぐと見つめる。


「好きな女も! 好きな女にかける言葉も俺が決める! てめぇが勝手に決めるなぁ!」


 その時、俺の体は動きだした。


 それと同時に親方が少し笑った気がした。――パンッ。


「くそがああああああああああ!」


 そう叫びながら俺はゴリラに向かって拳をふるう。数十メートル離れていたゴリラはとっさにガードするが、拳が当たっていないにもかかわらずそのガードは容易く突破され、その腕は複雑に折れ曲がりゴリラの腕と胴体は分離しゴリラは敗北した。……そのゴリラから出た小さな光が森の方に飛んでいくのには気づいてはいなかった。


 ――ジント――〈究極〉残り時間コンマ一秒――ゴリラ討伐完了――


 無事にゴリラを討伐したジントだが〈究極〉の力はあまりのも強く使用者はただでは済まない。その一つとしてその大きな力の反作用として……吹っ飛ばされる。


「ぐわああああああああああ――ボフン……これは……」

「俺がさっき撃っておいた弾丸だ。ふかふかだろ」


 親方がいつも通りに接してくる。さっきまで謎の怒りや不満を爆発させてさらにあのゴリラを直接ではなかったにせよ殴ってすっきりしたのか俺はさっきまでの怒りはなかった。よくは分からないけどいつも通り接してみることにする。


「そうですね……気持ちいいです。……イチカの膝枕ほどではありませんが」

「膝枕してもらったのか……俺も後でしてもらおう」

「……イチカにですか?」

「俺には可愛い嫁がいるのにそんなことしねーよ」

「……いつもみたいに冷やかさない……のか?」

「お前が初めて俺に甘えてくれたからな、今日だけは特別にそっとしておいてやる」

「甘えてなんか……」

「いや、甘えてたさ……どっかのガキみたいに、不平不満文句わがまま」

「そんなこと言ってない」

「まあ、そんな事どうでもいいんだ」

「…………?」


 ……どういうことなんでしょうか?


「俺の前で感情をさらけ出してくれたからな……あんな顔のジント新鮮で面白かったぜ」

「……やめてくれよ」

「いつもの敬語はどうした? 調子が悪いのか? お前のタメ口は感情が高ぶった時だったのにな」

「そうだったか? まあ、今はあんなにわめいた後だその余韻だろう」

「……そうか。それと、ジント言っておくことがある」

「なんだ?」

「……あれ」


 そう言って親方が指さす方を見ると小さいゴリラ達が小さいがあの臭い臭いものを投げてきている。


「まだいたのか――うぐっ……全身が痛い」

「それもそうだ。お前は〈究極〉のおかげで全身筋肉痛だ」

「このままじゃ……」

「心配すんな、飛び道具は俺が撃ち落とすって言ったろ」


 その言葉とともにゴリラ達が投げていたものを撃ち落とすというか燃やし尽くしていた……一発も外さずに。そして弾切れを起こしたのはゴリラ達だった。親方が弾切れを起こしたゴリラ達に威嚇射撃をするとゴリラ達は森の方向えと逃げていった……ひらひらとしたものをその手に掴んで。



「親方、今度俺の事を怒らせたら命がないと思ってください」

「また、敬語に戻っていやがる」


 ……親方は結局俺に話を聞いていないのだろうか……ていうかこの距離で聞こえるのか?


 俺と親方は工房に帰っているところだ。だが二人は離れて向かっていた。それは俺にかけられた〈囮〉がまだ解けていないからだ。効果範囲内に入ると親方は俺以外見れなくなるため安全のためなのだがこれは話しずらい。しょうがないので少し大声で話す。


「そう言えばさっきキーワードを言わなかったのになんで動けるようになったんですか」

「ああ、あれか。あれはお前がキーワードを言ったからだよ」

「……?」

「忘れたのか? 『てめぇが勝手に決めるなぁ!』ってやつだよ」

「分からない……どうしてそうした?」

「また出た、ジントのタメ口」

「……早く説明しろよ」


 ため息交じりにそう言うと――はぁ……とため息一つしてから簡単に説明された。


「あの時はわざと怒らせようとしてたからなこんなこと言うかなってさ……それと、ジントはあまり自分を出さないときがあるからな。こんなこと思ってたりするんじゃないかってさ」

「それで違った時どうするつもりだったんですか」

「さあ、分からん」


 ――はぁ……ため息しか出なかった。

次回はイチカが久しぶり(?)に登場します。

今回もありがとうございました。

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