十一発目
ドサッ――俺は優しく降ろされた……おかれたと言った方が正しいだろうか……そんなことはともかく、俺たちは目的地である森に到着した。
ここは森の端。緑の塊から少しはみ出しているように見えるところであり、木の枝が複雑に絡まり合い足場の様になっているところだ。
俺は巻かれた蛇を解き自由に歩けるようになった俺は歩き回り周りを確認していた。
ザッ、ザッ、ザッ、歩くたびに音がする。ここは島の中ではないので多少は動きずらさはあるが、森が流れを穏やかにしているせいか普通に島の外にいるときよりも動きやすく、ここにの足場はしっかりしていて大型の動物が足場にしても壊れそうもない。足場があると言っても、島の外なので足を使わなくても移動できるが、足場を踏みしめながら歩くのはやはり落ち着くものだ。だが、足場にはへこんでいる場所が多くあり、歩きずらいと言ったら歩きずらい。
――そして俺は、緑の壁に見えていた木々が重なり合う方に行き、その隙間から中心を覗いていた。
「中心……見えないな」
俺が覗きながら独り言を言っていると、
「そりゃそうだよ、中心までどれだけあると思ってんの」
とイチカが答える。
「まあそうだよな。というか、中心まで見る前に周りの木に邪魔されるし」
見る限り、この森は何重にも木の枝が重なってこの形を形成している。中を覗こうもんなら、その枝達がこの森の中心を隠すだろう……何か隠したいのだろうか? まあ、俺には分からないことだな。
「それに中心部に進んでいくと気が密集していて進めなくなるし」
何か用事があったのだろうか……それとも興味本位でか? この危なそうな森の中それはないだろうが、
「……中心に行こうとしたのか?」
「違うよ、ちょっとした依頼で来た時に中心に近づかなくちゃなくてね……あれは大変だった……」
依頼でか……マッサージ屋もやりながら人に依頼されての仕事もこなすのか……。
「……お疲れさまと言っておくよ」
そんな他愛もない話をしながらイチカは今回の依頼の準備をしているようだ。俺は、連れてこられ依頼の手伝いをする訳でもなく……依頼の内容もわからず何をするのかも知らないのだが……ともかく、俺が何もすることがなく手伝えなくて、ソワソワしていると不意に目に入った。
「ん、あれは……島か?」
俺の視線の先には、一つの小さな島のような……そう見える物が枝の隙間から見えた。その声に気づいたイチカは俺の隣まで来るなり「どこどこ?」と言いながらその島を探す。
……近いな……今まで男と面識が少なかったと言ってもこの距離感は近すぎる。……この状況では勘違いされても仕方がないだろう……だが俺はしない! 可愛らしい顔立ちをした、俺の心配をしてくれた目の前の女の子は、俺より森の中にあった島を探しているのだ! 俺の事が好きとかそんな勘違いなんかしない!
「ねえ、どこにあるの? ジント聞いてる?」
……胸が当たって、幸せな感触が俺の背中に。……イチカさんあんた、子供が見たいと言われた時は命がけで慌ててましたよね。それなのに今の状況は何ですか? 無防備すぎやしませんか? 子供の話であんなことになったんだからそこらへんは考えてほしいですね。
そんなことを考えていると、イチカの声を無視するような形になっていたようで、イチカが頬をつねってきた。
「…………………………」
「………………フフフッ」
……なぜ、いきなりつねる。
「うぃうぃわ! わうぃううんわ」
「何言ってるか分からないよー、ジントどうしたの?」
イチカは痛くならない程度の力で、ピンポイントでつねっているようだ。そのせいで上手く話せない。それを分かっているうえでこの返事のようだ。
俺が頬をつねられながら振り向くと、小悪魔的な笑顔を浮かべたイチカがいた。
俺はジト目で、イチカは悪魔的な目で少し見つめ合った後、俺が声をかけてみる。
「うぃうぃわ、わんうぇをんわををううんわ」
「ジント、ちゃんと話そうよ。分かんないよ……フフッ」
「をわうぇをうぇうぃわを」
「……しょうがないなー、分かんないから話してあげる」
やっと放してくれた。「あーあー、ゴホン」と咳払いしながら、
「イチカ! 何するんだ! 何でこんなことをするんだ! そしてわかんないのはお前のせいだろ!」
俺は、イチカにつねられていた時にイチカに言ったことを捲し立てる。
「はー、そう言ってたんだね……分かんなかったよ」
「いや、分かってただろ。俺が上手く話せなくしてたし」
「分かんなかったよ」
あくまで、分かんなかったことにしたいらしい。
「そうか……分かったよ。でも、何で急にこんなことしたんだよ」
「知らない」
「お前の事なのに分からないのか?」
「なんか無視されたから」
なんかちょっとしたことだった。
「……それだけ?」
「それだけだよ……悪い?」
「いや……悪くないけど」
「けど? 何?」
なんだろう……なんか、今のイチカ迫力があるな……。それに今のイチカの目鋭くて……何と言えばいいのか分からないけど……何か、いい感じだな。可愛い顔で鋭い目……これはこれで可愛いな。
「……………………」
「……何どうしたの?」
「可愛いと思ってさ……どんな表情をしてもイチカって可愛くなるんだなって」
「……………………」
「どうした? イチカ」
急に黙り込んだイチカは、うずくまり何か聞こえない声でぶつぶつ言っている。
「……無視されて少しつねったら……可愛い? 可愛い!? 可愛い! 何で急にそんな言葉が出てくるかなー」
何を言ってるのだろうか……可愛いって言っただけなんだけなんだけどな……もしかして、
「イチカ……照れてるのか?」
おずおずと俺が訊ねる。
「そんなことないよっ」
イチカは立ち上がり俺の方を向くなり、きっぱりとそう言われた。だが、その顔は少し赤くなっているようだ。
「じゃあどうしたんだよ」
「あの話の流れから急に可愛いなんて……」
「それで、照れたと」
俺は、にやけ交じりにそう言ってみる。
「照れてない!」
「はいはい、分かりましたよ」
「分かってないでしょ」
「分かってるって」
「ンーーーーーッ」
イチカがしばしうなった後あきらめたのか、
「……ありがとう」
「どういたしまして」
そんな感じに話を終わらせ、イチカは依頼の準備を再開した。
その時にはもう森の中の島の事なんかすっかり忘れていた二人であった。
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イチカは今回のターゲットを狩るための最後の準備をしていた。
最後は、弾丸の準備をしているようだ。弾丸を一つ一つ確認し順番を確かめ二十発の弾丸をベルトに入れる。一通り入れた後、十五発の弾丸を置き、持ち目を閉じ集中しているようだったので、目を開けた後俺は話しかけた。
「準備は整ったか?」
「問題なく大丈夫!」
イチカの表情を見てもリラックスしているようで、問題はなさそうだ。……そして、気になるのは、
「その手に持っている弾丸はなんだ? 見たことないけど……」
そう言うとイチカは驚いたように、
「親方に見せてもらったことないの?」
と言ってきた。親方の弟子兼息子だからって全部の弾丸を知ってるわけじゃないのだが、見せてもらっているとでも思っていたのだろう。……親方が見せてくれないものと言えば、極秘で開発の研究をしている者だったりするのだろう。……もちろん俺は、聞いたこともないが……。
「……ああ、ないな」
「そうなんだー」
「なんでそんな笑顔で俺を見る?」
「何でもないよー」
なぜそこで笑顔になるかは本当に分からないが、まあ不機嫌よりはいいだろう。そう思っていたらイチカは、急に真面目な顔になり話してきた。
「ジント、これから話すことをよく聞いて」
「お、おう。分かった」
急に真面目になり何の話だろうか……。
「私は、これから森に入って〈ゴリラ〉を狩って採集してくるけど、ジントは戦うことはできないでしょ」
「まあ、そうだな」
目に前で戦力外通告か……、
「もしジントがこの森に入ろうもんなら数分で肉塊になる。ここは、この子たちに巣でもあるし、森でも安全なところだから」
「お、おう」
そんなにはっきり言わなくとも……そう言わないとふざけて入ったりして、本当に肉塊になったりするかもしれないからしょうがないか。てか、このそこらにあるくぼみは蛇の巣だったのか。
「ということで、これを渡しておくね」
「……これは?」
そう言われ渡されたのは、イチカが置いていた弾丸二つだ。
「それは、索敵用弾丸の〈忍〉と〈同調〉だよ」
「索敵用?」
「スパイ活動に使われるために作られたものだね」
「そりゃ知らないわけだな」
感心しながら、俺はイチカの説明を聞いた。最初のは何をしても触るまで気づかれない効果を持つ物で、効果時間は一日。次のは感覚を共有できるものらしい今回の狩では、蛇と感覚を共有するために使うらしい。森の中では見通しが悪いので、蛇に探してもらうという。その中の一つを渡してくれたのは、俺にも狩りを見せてくれるからだという。
「じゃあ〈忍〉を撃ったら私に触ってね」
俺はそう言われると、銃を顕現させ〈忍〉を装填し真上に掲げ引き金を引いた。――パンッ、という音とともにその弾丸から銃を伝い俺にその効果が反映される。
「これでいいのか。おい、イチカ」
「……………………」
イチカは黙って俺の方を見ている手を前に突き出し俺が触るのを待っているようだ。……本当に気づかないのか? …………ハア、ハア俺はイチカの前で、触る以外の気づかれそうな事をしてみた。叫び、動きまわり……それでもイチカは気づいた様子はない。これで本当に気づかれないとわかったので俺はイチカに触れた。
「その様子だと気づかれないか確かめたね」
「よくわかったな」
「こんなに触るまで時間かかったし息が切れてるからね」
まあそりゃそうだろうな。
「それで、どんな感じだった」
「全く気づかれなかった。なんか新鮮で面白かったな」
「そうでしょ!、そうでしょ!」
何がそんなにうれしいのか、俺の感想にテンション高く返してくる。
「それ、私が集めたもので作ったの」
そういうことか、自分がかかわったんだからうれしくなるのも当然か。――パンッ……そう思っているとイチカも〈忍〉を使ったようで、俺の視界からいなくなった。
「これが忍びの効果か……すごいな。……これで覗きしたら気づかれないだろうな」
俺がそう言うとイチカが俺を触って俺に認識されるようになった。そして、そのイチカはジト目で俺を見ていた。
「悪用しないでね」
「……? ああ、さっきの事か……大丈夫そんなことしないから」
「ホント?」
訝しげに聞いてくる。
「ああ、本当だ」
「分かった信じるよ……でも、そんなことしたら私がぶっ飛ばしに行く」
「怖いな……頭に入れとくよ」
この言い方は……本当に来そうだバカなことは考えないようにしておこう。
そして俺は一匹の蛇にイチカは七匹の蛇に〈同調〉を使い、イチカが〈同調〉した一匹の蛇を残し森に放った。残した一匹は俺の監視役のようだ。そしてイチカはぶつぶつと何かを言い出した。
「戦闘用弾丸〈螺旋〉五、〈爆・付〉十一、〈標的〉五、〈分裂・追尾〉二、索敵用弾丸〈囮〉二。以上をもって今回使用する弾丸とする」
なんだろうか……よくわからない弾丸の名前ばかりだ。全部また秘密にされている物なのだろう。そして、イチカはその中の〈螺旋〉と呼ばれていた弾丸を――パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッと、すべて俺を中心として放射状に発射された。その弾丸は、発射されると信じられないほど遅く進んでいるちかずいて見ると「触っちゃダメ!」焦った表情のイチカに止められた。危険な弾丸なので近づかないようにということらしい。そして、
「これからするジントの仕事はただ一つ」
俺にもできることがあると嬉しくなったが、
「ここに座って動かないでね。動いたら死んじゃうからね」
とても可愛らしい二度目の戦力外通告とちょっとした死亡宣告だった。
投稿の時間が日によってバラバラですね……あまり投稿時間が散らばらない様に努力します。
誤字脱字あったらすいません。




