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ライジング ブレット  作者: カタルカナ
物語の始まり
10/60

十発目

「ねえ、ジント……ほんとにそれでよかったの?」


 心配そうにイチカが話しかけてくるが、こっちを向かずに声だけだ……顔を向けられても危ないからやめてほしいし、あまり今の俺を見られたくない……我慢してもらって二人乗りにすればよかったかもな……今の俺たちを見た人はどう思うのだろうか。


 今、俺とイチカは親方の依頼を達成するためにある場所へ向かっているが、その光景は異様なものになっていた。


 そのスクーターに乗っている影は一人、その後ろに細い紐のようなもので括りつけられた人のような影。それを見たら人々がどう思うかは分からないが、異様な光景なのは間違いない……だが、今は人々は目覚め始めたところだ。その光景を見ている人が少ないのが本人たちにとっては幸いだろう。


「――あー、やめときゃ良かったかな」

「なんでいまさらそんなこと言うの」


 呆れた声音でイチカがそう言ってくる……ほんとにそうだ、今更だよな……。そりゃあの時、朦朧とした意識の中でだったからこんな感じだとは思っていなかったし……それに、イチカも慌てていてどんな感じだったか覚えていなかったのだろう。


「……はぁ」

「ため息つかないでよ。こっちだって吐きたいのに……こんなに恥ずかしいなら二人乗りしても良かったよ」

「……そうだな、帰りはそうしよう」

「……そうだね、私も我慢するよ」


 この光景は一度は見たことがあるものだ……イチカの店まで運ばれていた時と同じ光景だ。今俺は蛇に巻き付かれ、「シャー」と言われながらスクーターに為されるがままに引っ張られている。


 ……今気づけばなんだこの姿は! 傍から見ると散歩が嫌で飼い主に引っ張られている犬と同じではないか! 情けなくも飼い主に引かれ、歩いてもいないのに散歩をしているというような光景になっているではないか! これでは、家から出てこないニート(役ジント)を、お節介な幼なじみの女の子(役イチカ)がスクーターで引っ張りまわしているような光景ではないか! ……なんだろうか……目の前にいる蛇が可愛く見えてきた。……おいで、蛇……。


「なんで、私の蛇を愛でて恥ずかしさを忘れようとしてるの」

「……ああ、可愛らしい蛇さん……撫でてもいいかな」

「……ジント、それはやめた方が……」


 ――カプッ。


「…………………………………………痛ってぇーーーーーーーーーーーーっ」

「……ほら言わんこっちゃない。毒はないから安心して噛まれてていいよ」

「毒がないなら安心していいのか……分かった安心したよ。――可愛い蛇さ……っ!」

「……でも化膿するかもね。まあ、着いたら手当してあげるから我慢しててね」」


 そうか……なら、


「はぁ、はぁ、痛くない痛くないぞ――蛇さ……っ!」

「もうやめなよ! その痛々しい声だけで興ふ……心配になるから! それにジントの手が……」


 会ってすぐの俺を心配してくれるなんて、優しいなイチカは……親方の言う通り嫁にもらっても……いや、そんなことあるわけ無いか。俺も親方のもとで修業している身としては俺の手は大切なものだ。だが、撫でたい! ……い、痛みが増してきた。


 イチカはこの蛇の飼い主だ。ずっと噛まれていると痛みが増すのを知っているのだろう。だからなのか、少し不思議そうにそして、必死に声をかけてくる。


「なんでそんなにジントは耐えれるの? 毒はなくても相当痛いはずだよ!」

「なぜかって……そんなこと、俺が知るか!」

「それ、どこのライダー!」


 手に噛みついた蛇を外し、胸を張り拳を握り親指を胸に突き立てながら、


「俺はストロング!」

「それは誰!」


 そして俺は痛む手を気にせずに叫ぶ。


「そんなこと、俺が知るか!」

「…………………………」

「…………………………」


 少しの沈黙の後、


「アハハハハハハハハッ」

「あははははははははっ」


 二人で大笑いしていた。


「なんだよさっきの掛け合いは……ハハハハハッ」

「なんだろうね、全然わかんない……はははははっ」


 俺とイチカは一頻り笑った後、おかしくてまた笑う。そして治まったかと思えばまた笑うをしばらく繰り返していた。




「もうすぐだよ」


 笑いがようやく収まった後、イチカが周りを見てそう言った。


 周りには、島が少しあるだけだ。その島は人が暮らしていないのがほとんどで、人が暮らしている島はポツポツと少ししか見当たらない。そして、そのほとんどがもの好きな芸術家などがアトリエとして使っているらしい。町を外れたこの先に俺たちが向かっている目的地【森】がある。


「森ってのは、ちょうど町中心を辺りを中心にして回ってるんだろ。俺は気にしてなかったけど森の方に進んでいたのか?」


 振り向かずにイチカは話し出す。……そして俺は蛇に巻かれながらそれを聞く。


 さすがにこの状況には慣れた……あまり慣れたくはなかったが……でも人が少ないからだろう、イチカもこの状況のことは忘れているようだ。


「心配しなくて大丈夫、最初から森に向かっていたよ」

「そうなのか、どうやって方向が分かるんだ」

「時間を見れば大体どこにあるかは分かるからそれで」

「そうなのか、何時に何処で森が回っているのか分かるのか」

「まあ、そうだね。大体覚えてるかな」


 そうなのか、それは、


「すごいな」

「そんなことないよ、都合よく森が一日周期だったから覚えやすかっただけだよ。あとは地図を覚えれば簡単だよ」

「へ~そうなんだ、一日周期とは知らなかったな。というかまず、森に行ったこともないしな」

「そうだよね、滅多に行くところじゃないしね、行ったこともない人もいるよね」


 親方にも聞いたことなかったしな、森については危険だ、などと噂を聞いた程度だしな。イチカは詳しそうだし少し聞いてみよう。


「イチカ、森って危険なのか?」

「何で急にそんなことを?」

「少し、噂で聞いてさ、イチカが詳しそうだったから聞いてみた」

「まあ人によっては危険かもね」


 少しため息交じりにそう言うイチカ……前に何かあったのだろうか。


「でも、私がいるから大丈夫だよ危険はないから安心して」

「イチカを信じるよ」

「ドーンと任せなさい」


 イチカと話している間に周りの島に人の気配がなくなっていた。その代わりに大きい島も小さい島も、中は林、林、林だった。その中でもひときわ大きい島をよく見ると、角の生えた四足歩行の動物を筆頭に多くの動物がいるようだ。ここら辺は島の中でも桁違いに大きいものが多く集まっているようでその島々の存在感がすごい。


 でも、それらと比べても森というのは桁が違く、大きさ、生物の数、動植物の数などどれも桁違いだという。……そう今俺の前にあるとても巨大な緑の塊、大きさは人が住んでいる島々とも当然の如く桁が違い、一度入ったら最後抜けられないだろうその塊それが【森】だ。


 元は島だったというが島を囲んでいるガラスのようなものは見えず、直接植物の巨大な塊が漂っているように見える。それでも中心部に行けばよく見る島があるというので、あれも一応は島だ。


 今は、イチカがいるから大丈夫だが自分一人でその中に入るとなると死を覚悟しなければならないだろう……今回入るときも、というかここに入るときはどんな状況でも死を覚悟していたほうがいいだろう。


 そう思うほど巨大で、雄大で、偉大な森だ。俺は今からここでイチカの依頼についていくことになる。


 ……わくわくするが、なんだか心配だ。


「心配しなくていいよ、私がいれば大丈夫」


 俺の心配を感じたのかそう言葉をかけてくれるイチカ……こう言ってくれているんだ。俺は信じてイチカに俺の命を預けよう。でも、足手まといにはならないようにやれることはやろう。


「ありがとう。安心して俺の命任せてやるよ!」

「任された!」


 そういえば親方は面白いものが見れると言っていたが、


「イチカ、親方が面白いものが見れると言っていたんだが何のことだと思う?」


 俺がそう言うとイチカは少しの間の後、何かにピンと来たのか、


「見てからのお楽しみだね」


 と、振り向かず俺には見えていない笑顔を作り言った。「そういえば……」と、イチカは親方の事で気になっていたことがあったようで、


「最初の電話の時さ、私の確認をするだけなのに少し長かったけど何の話をしてたの?」

「人のプライベートだ関係ないだろ」

「少しくらいいいじゃん。私のことを確認していたんだから関係者でしょ」


 ……そうか、確かにそうだな正直に話すか――ニヤリ。


「……孫の顔が見たいんだって」

「………………何の話?」


 イチカは困惑中のようだな――ニヤリ。


「俺の子供の顔が見たいと言い出してさ……なんか困るよね」

「もしかしてジントって付き合っている人とかっていたの……なら、私といるのはまずいんじゃ……」

「俺と付き合っている人はいないよ」

「…………?」


 さらに困惑しているようだ――ニヤリ。


「どうしてそんなに不思議そうな声を出すんだ」

「意味が分からないから。孫? 子供? どうしたらそんな話になるの?」

「確認が終わった後に親方が、あの子とくっついちまえよお前と相性がいいと思うぜ的なことを言われてさ」

「――それは誰なの?」

「なに、気になっちゃう?」

「じょ、女子はそんな感じの話が好きなの」


 ……なんだか俺には、イチカが苦手そうな話しな気がするが。今まで男と付き合ったことがなくて、あんまし女友達がいないような気がする……部屋にも婆ちゃんとの写真しかなかったし……それは関係ないかな。まあ、俺が言えたことじゃないけど。


「じゃあ、イチカは誰だと思う?」

「親方がジントとくっつけたいと思っている人か……って、分かるわけないじゃんジントの交友関係知らないんだし」


 そう言って笑うイチカ。


「じゃあ、正解は…………お前だよイチカ」


 ちょっとカッコつけて言ってみた。その言葉を聞いて困ってるようだなイチカ……ニヤリ。


 蛇に巻かれて、スクーターに引かれてる状態じゃ格好もつかないけどな!


「………………」

「俺とお前の子供が見たいって言ったんだ。親方は」

「……………………え?ああえええあええあえあえああええあええあえあええあ」


 ギュウウウウウッン、ぐぅぅぅぅぅぅぅん。


「おわあああああああああああっ」


 いきなり慌てだしたイチカは安全運転を忘れおかしい勢いでスクーターを走らせる。そのせいで俺も勢い良く振り回されて身動きが取れない……分かっていてこの反応なのだろうか、何か違うような……。……俺に巻きついている蛇が死にそうだ……頑張れ。


 イチカの奴動揺しすぎだろ! 少しの冗談のつもりだったんだが……これじゃあ……森に突っ込んで死ぬかも――ハハッ。じゃねーだろ! 早く落ち着かせないと。


「冗談だよ。親方がそんな感じのこと言ってただけだから気にしなくていいから」

「あえあえあえあああああええあえあええあえあええ」


 だめだ、まだ落ち着かないというか気づいていないな。……俺は、ブンブンと振り回される中思い切り息を吸い込み、


「イチカああああああああああ!」


 そう叫んだ。


「は、はい!」

「冗談だよ。親方がそんな感じのこと言ってただけだから気にしなくていいから」


 さっきのセリフをもう一度ゆっくりと聞かせる。


「そ、そそそそそそうなの?」

「そう、気にしなくていいから」


 穏やかな声で俺はイチカに話す。


「わ、わわわわわ分かった」

「本当に大丈夫か」

「だ、大丈夫」

「ごめんな、少しからかうつもりだったんだが、やりすぎたようだ」

「……うん。こっちもごめん」


 その時スクーターは止まっていた。島の外だったがそこは流れが弱かった森がそれを緩やかにしてくれていたのだろう。


 イチカはこっちを見ると申し訳のないことをしたという顔をしている。でもこうなったのは、


「お前のせいじゃないそんな顔をするな。笑えよ、な」

「……こんな感じかな」


 イチカは笑って見せるが、


「泣きそうじゃねーかよ」

「だって、私のせいで死んだら……」

「お前のせいじゃないって何度も言ってるだろ。俺は大丈夫だお前もシャキッとしろ! ほら、森が通り過ぎちまう」

「………………」


 ――パンッ、イチカが頬をはたき、


「よし、気を取り直していこうジント!」

「よし、行くか! イチカ!」




 気合いを入れる二人だがジントはその恰好じゃ締まらない。イチカは締まっているけれど……雰囲気だけだ。その可愛い顔が泣きそうなせいで、ジントと同じくどこか締まっていない。


 そして人々は目覚めようやく町も目覚めたころだろう。

違和感があったところはコメントしてくれるとありがたいです。


今回も読んでくれてありがとうございました。

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