一発目
『よくぞ吾輩の試練を成し遂げたな人間』
こいつの声はいつも俺の頭の中に響いてくる。何度も聞いているが全く慣れないものだな。そう思いながら俺は隣に立っている少女を見やる。少女も俺と同じようにこの声に慣れないようだ。
そこにいる少女はここに来る前に『一生を共にしよう結婚してくれ』と、俺がそう伝えたその人だ。返事は最後の試練が終わった後ということになったが待ちきれない。早く終わらせて返事を聞こう。
「俺たちをあんまり舐めるなよ。この程度の試練余裕だから」
「私たちにかかればただのごっこ遊び」
俺たちは不敵に笑いながら答えた。その答えのどこがおもしろかったのか声の主は嗤う。
『フハハハハハッこの試練を受けてその態度を保っていられるかな』
そう言うと声の主は大仰に手を広げ世界に轟かせるように叫んだ。いや、実際にその声は世界中にとどろいているだろう。
『それでは最後の試練を与えよう』
「さっさと来い」
「そっこーでクリアするから」
この自信は今までの試練を超えてきた者ならば抱くことになるだろう自信だと思う。今までの試練は一つクリアしていくごとに難易度が上がり、俺たちの肉体、能力を人間の限界を超えるほどに鍛えるものだった。
だが、その内容はどれも大きな試練だったが精神的にはそれほどストレスを受けることなくこのステージまで上がってこれた。
試練とは精神的に大きな壁があると予想していたがそうでもなく拍子抜けだった。
『あ、最後の試練を課す前に今までの試練の感想を吾輩に聞かせるのだ人間』
あ……ってなんだよ! 気合い入れて構えたのに肩透かしくらったよ!
そう思いながらも俺は答える。
「簡単だった……異常にな。誰がやってもここまでこれたような感じだったぞ」
「そう、私たちを成長させるための過程だったような感じ。試練なのに越えられない壁になっていない」
「どんな目的でも、俺がそれを設定するとしたら越えられないようにするかな」
「それで越えてきた者に意地悪する」
隣にいる少女は突然悪い笑顔を見せそんなことを言った。そしてぶつぶつと何かを話している。
『腕を切……痛み……ウフフ』聞こえないがとてつもなく危険なことを言っている。
そんな彼女はとても楽しそうだ。この笑顔をいつまでも見ていたい。
「それは話が違うんじゃないか。越えてきたものを選ばれし者だとか言わないか」
「越えられない壁を越えた者にさらにいじめる……グフフ……これがお約束」
まだそのことを考えているようで、ニタァ、という効果音が似合いそうな顔で笑っている。
はあ……なんて可愛い笑顔なんだ。ずっと見ていたい。
「ひゃー。ぼろぼろの奴に追い打ちをかける。いい性格してるね。そういうところがいい」
「んふふ……ありがとう」
『吾輩の前でのろけるな……まあ、貴様らの感想は分かった』
声の主はなぜか苦い顔をしていたが真面目な顔に戻す。
『フッ……吾輩の試練が簡単だったようだな人間。吾輩も人間を侮っていたようだな」
フッ……と声の主がどことなく笑ったような気がする。気のせいだろうか。
「甘く見すぎだ人間を」
「それともねらってた? クリアさせること」
『……そんなことはない。吾輩が甘く見すぎていただけだ。そして最後にもう一度聞こう』
まだあるのかさっさと終わらせてほしいものだな。そんなことを思いながら少女を見るとどこか不満そうだった。彼女もいい加減早く進めてほしいのだろう。
『貴様らの名前は何だ!』
覇気のある声が大気を揺らす。
全身に覇気を浴び、体中の細胞がブルブルと震えているように錯覚する。いや、本当に震えている。
心の中にまでゾワゾワとしたものが広がってーーこんな状況に胸が躍っている。
覇気にも負けない笑顔で睨み、俺たちは答える。
「俺の名は、綾目仁人」「私の名は、天森一華」
『綾目仁人、天森一華貴様らに最後の試練を与える』
イチカを見ると少し緊張しているようだった。そして俺も少し緊張していた。
ーーおい、ジントお前はイチカの返事を堂々と受け止めないといけないんだぞ。こんなところで緊張してたらいけないぞ……よし。
心に言い聞かせ俺は気合いを入れなおす。
『最後の試練は殺すことだ。今まで一緒にいた者を殺せそれが最後の試練だ』