Ｈｏｕｓｅｗｏｒｋ２ お風呂の調子が悪いから、みんなでいっしょに銭湯へ。女湯に変質者現る！？
「もう朝かぁ……まむしに締め付けられる嫌ぁな夢見たけど、育実ちゃんにしがみ付かれてたのが原因か。あの、育実ちゃん、起きてくれない？」
早朝六時頃。いつもより一時間半くらい早く目覚まし時計の鳴り響く音で起こされた聡一は、わき腹付近に抱き着いてまだぐっすり眠っていた育実のほっぺたを軽くぺちぺち叩く。
「……んにゃっ、おはよう、聡一お兄ちゃん」
すると、育実はすぐに目を覚ましてくれた。寝起き、とても機嫌良さそうだった。
「早く俺の体から離れてね」
聡一が暑苦しそうにお願いすると、
「ごめんね聡一お兄ちゃん、枕代わりにしちゃって。制服に着替えなきゃ」
育実はすぐに両手を離して聡一の体から離れてあげ、持参していた大きなリュックから制服と紺のソックスを取り出すと、パジャマを脱ぎ始めた。
「育実ちゃん、年頃の女の子なんだし、俺の目の前で堂々と着替えるのは、やめた方がいいと思うよ」
「べつにそこまで気遣ってくれる必要ないのに」
「俺が気になるから」
聡一はカーテン裏に隠れて制服に着替える。
用意が整うと、
「それじゃ、朝食作り始めるよ」
「はい、はい」
先に着替えを済ませた育実に手を引かれ、キッチンへ強制連行されてしまった。
「あれ？ 火がつかねえ。故障か？」
「聡一お兄ちゃん、まずは元栓開けなきゃ」
「あっ、そっか」
聡一はお鍋に水を入れ火をつけたのち、生卵をそのまま突っ込む。
「ゆで卵はやっぱ楽だな」
「本当はベーコンエッグ作って欲しかったのにな」
「それむずいし」
「アタシは簡単だと思うよ。自分のお弁当と乃々絵お姉ちゃんのお弁当も作っちゃおう」
「それも俺がやらなきゃいけないのかよ。めんどいから日の丸弁当にするか」
「こらこら、それは栄養が少な過ぎるって」
「べつにいいだろ」
「ダーメ。白ご飯は半分までにしなさい！」
「分かった、分かった」
聡一は昨日の残りのご飯を弁当箱の半分くらいに詰めた。
「トースト焼いて、あとはシリアル食品にするか。それでじゅうぶんな量出来るし」
「聡一お兄ちゃん、そんなカップ麺と同レベルの手抜きしちゃダメ。包丁使って、フライパンで調理する作業もしなきゃ」
「えー」
聡一はしぶしぶ大根などを切っていく。
どんどん時間が過ぎていき七時頃。
「聡一、なかなか頑張ってるわね」
母起床。普段より一時間ほど遅い目覚めだ。
それから約十五分後、
「おはよう、聡一、料理張り切ってるな」
父、普段通りに起床。朝食の前に歯磨き＆洗顔＆髭剃りを済ませる。
「おっはよう！ ママ、パパ、育実ちゃん、聡一」
「おはようみんな、今朝はたっぷり寝れて目覚めがいいよ」
七時二五分頃、淳子と乃々絵がようやく起きてくる。この二人も普段よりも一時間近く遅く起きて来た。
「乃々絵お姉ちゃん、寝癖すごいねぇ。直した方がいいよ」
昨日以上にボサッとなっていた乃々絵の髪を見て、育実は微笑み顔で勧める。
「このままでいいの。お友達もこの方がかわいいって言ってくれてるし」
乃々絵はにこっと笑ってこう伝え、朝食を取り始めた。
「乃々絵姉ちゃんはいつもこうだから」
聡一は加えて説明する。
「女子高生なんだし、もっと身だしなみに気遣った方がいいと思うけど」
育実は苦笑いした。
結局出来た朝食はトースト、ゆで卵、レタス、りんご、味噌汁の五品。
ちなみにりんごは皮が付いたままで、縦に半分に切っただけのようにされていた。
「聡一、あたしと乃々絵のより手抜きね。桃とびわも用意して欲しかったな」
淳子は勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「皮剥くの面倒だし」
聡一は苦笑いで言い訳する。
「聡一、お味噌汁の具の切り方が雑過ぎるわ。お豆腐もぐちゃぐちゃだし」
母からも苦言。
「慣れてないからしょうがないだろ」
ちなみに聡一は自分のお弁当の残りの部分には冷凍の餃子とミートボールとフライドポテトを詰めた。
昨日母に作ってもらったお弁当にはチャーハン、緑ピーマンのひき肉詰め、キンピラゴボウ、ポテトサラダ、チーズと梅しそ入り鶏ささみフライと手間をかけて作られたものが多かったのに対し、今日聡一がやったことはレンジで温めるだけの簡単な作業なのでこちらも手抜きといえよう。
「ソウイチ、こんなにいっぱい盛らなくていいよ」
「淳子姉ちゃんと同じ量だぞ」
「乃々絵お姉ちゃん、ダイエットしたい気持ちは分かるけど、朝ご飯少なめだと元気出ないよ。アタシの通ってる中学でも朝ご飯食べない子が多いって問題になってるよ」
育実がまるでお姉さんであるかのように忠告するも、
「大丈夫。ごちそうさまー」
乃々絵は盛られていた分の四分の三以上残し、歯磨き＆洗顔のため洗面所へ。
「ごちそうさまーっ」
それから三分ほどで、淳子も食べ終わる。
「育実ちゃんも、早く食べちゃって」
「聡一お兄ちゃん、そんなに急がなくてもまだ時間あるでしょ」
「じゃあ育実ちゃんが洗っといて」
「それはダメ。アタシがやったら部規則違反になっちゃうし」
「べつに守らなきゃいけないほどの重要性はないんじゃないのか？」
「顧問の先生に叱られちゃう」
育実も朝食を取り終えると、聡一は急いで食器洗いを済ませた。
（淳子姉ちゃん、まだ歯磨きしてたのか）
現在、淳子が洗面所を使用中。
その間に、聡一はトイレへ。
扉を開けると、
「……またか。っていうかいつの間に」
先客がいた。聡一は少し顔をしかめる。
「ぁん、もう、聡一お兄ちゃんのエッチ♪ わざとやったでしょ？」
「わざとじゃないって」
育実がパンダさん柄ショーツを膝の辺りまで脱ぎ下ろして便座に腰掛け、ちょろちょろ用を足している最中に出くわしたのだ。聡一はとっさに目を逸らす。
「小だけだから、すぐ済むよ」
尚もお小水を出しながらにっこり笑顔で伝えられ、
「そういう問題じゃなくて、トイレ入ったら鍵はちゃんと掛けようね」
聡一は申し訳なさそうに扉を閉めてあげた。
淳子が歯磨き＆洗顔を終えたようなので洗面所へと向かっていく。
約三分後、聡一もその作業を済ませリビングへ戻ると、
「聡一、今日からはお洗濯もお願いね」
母から次の指令が。
「母さん、それも俺がやるのかよ」
聡一は面倒くさそうに呟いて、洗面所へ。無造作に置かれた淳子と乃々絵と育実の汗のしみ込んだ下着類やパジャマには一切手を触れず、籠をひっくり返して洗濯物を洗濯機へ移し、洗剤、柔軟剤を適当に入れてスタートボタンを押す。
洗濯が終わるまで待っていては遅刻してしまうので、あとは母に任せることに。
「聡一、シャンプー少なくなって来たから帰りに買って来てね。あと今夜の晩ご飯と明日の朝食の材料も。今夜は聡一が作りたいのを作っていいわ。七千円渡しとくから。お釣りはお小遣いにしていいわよ」
「分かった母さん」
この要求には聡一は快く承諾。なるべく安いのを買おうと、彼は心に思った。
「あの、ソウイチ。ついでにサ○サーティもお願い」
「それは乃々絵姉ちゃんが」
「だって買うの恥ずかしいもん」
「俺が買う方がずっと恥ずかしいよ」
「インスタントカレーとシリアル食品の間に挟めばいいじゃない」
「余計変だろ」
聡一と乃々絵、押し問答。
その最中、乃々絵のお部屋へ自分の通学鞄を取りに行っていた育実がリビングへ戻ってくる。
「淳子お姉ちゃんはまだ大学行かないの？」
「あたしは今日は二限からだから、九時半くらいに出るわ」
「残念。いっしょに登校したかったのに」
「聡一ぃ、ついでにゴミも出しといて。指定の収集場所に置くだけの簡単なお仕事よ」
母は燃えるゴミの入った大きなゴミ袋を一袋手渡そうとしてくる。
「分かった、分かった」
聡一はしぶしぶ承諾。
「聡一くん、眠たそうだね」
「ああ。なかなか寝付けなくって」
「遥花お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう育実ちゃん」
昨日と同じくらいの時間に遥花が迎えに来て、今日は育実も加わっていっしょに登校。育実とは最初の曲がり角で別れた。
※
八時二〇分頃、聡一と遥花が一年三組の教室へ入ると、
「あの、昨日、ママが東京サウスわくわくランドドームの屋内プール一日無料パスを福引で当てたんだけど、明日でも、いっしょに行きませんか？」
優希が近寄って来てこんな誘いをして来た。
「もちろん行くよ。お誘いありがとう。そこのプール、もう長い間行ってないね」
遥花は快く乗る。
「全部で七枚もあるので、聡一さんはお姉さんや、イクメン候補育成指導の育実さんも誘ってどうですか？」
「ありがとう、育実ちゃんは喜びそうだな」
「育実ちゃんと乃々絵ちゃんと淳子ちゃんに知らせておくね。育実ちゃんは登校したら回収ボックスに預けなきゃいけないみたいだけどまだ通じるかな？」
遥花はさっそくその三人にラインでメッセージを送った。
三〇秒足らずでみんなから返答がくる。
「みんな行くって。よかった♪」
「聡一さんもぜひどうぞ」
「俺はいいよ」
「そう言わずに。秀作さんも誘うので」
「じゃ、秀作が行くなら行くかな？」
そんなやり取りの中、
「やぁ、鴨下君、おはよう」
タイミング良く秀作が登校してくる。
「あの、秀作さん、明日、わたし達といっしょに東京サウスわくわくランドドームのプールへ行きませんか？」
優希はさっそく無料パスをかざして誘ってみた。
「ノーサンキュー」
秀作はきっぱり拒否して逃げるように自分の席へ。
「予想通りだな。というわけで、俺は行かない」
「付いて来て下さい！ 無料パス使わないと勿体無いですし。それに、聡一さんがいてくれればナンパ対策にもなりますし」
優希はぷっくりふくれて不機嫌そうにお願いする。
「そんな心配しなくても、実際ナンパしてくるやつなんて漫画やアニメやゲームの世界にしかいないだろ」
「聡一くん、いっしょに行こう！ 土産物とか買って帰りの荷物が増え過ぎちゃうかもしれないし」
遥花は腕を掴んで強く誘ってくる。
「俺を荷物持ち係にしようって魂胆が丸分かりだけど、しょうがない」
聡一はしぶしぶ引き受けて、自分の席へ。
「そういえば今日の鴨下君、やけに疲れ切っていますね」
ほどなく秀作が近寄って来て心配そうに話しかけてくる。
「昨日、俺んちに母さんが勝手に申し込んだイクメン候補育成指導の女子中学生が来て、無理やり家事やらされたんだ」
聡一はため息まじりに伝えた。
「イクメン候補育成指導の女子中学生？」
「今はそういうボランティアがあるみたいなんだ」
「それは大変ですねぇ。僕も家事は全然ダメですよん」
秀作は深く同情してくれたようだ。
朝のＳＨＲ終了後、
「保科先生、イクメン候補育成指導が目的の部活動、イクメンプロデュース部がある学校があるって知ってました？」
遥花はこんなことを担任に質問しに行った。
「そんなのがあるの！？ 初耳だ。まあ変わった部活動はいっぱいあるし、あってもおかしくはないわね」
「豊白谷女子中高にあるみたいです。その部員さんの一人が昨日から聡一くんちに来てて、聡一くんにイクメン候補育成指導をしてるの」
「聡一さんのお母様が勝手に申し込んだそうです」
優希が加えて伝える。
「へぇ。そうなんだ。鴨下くん、よかったわね」
「全然良くないですよ。昨日は洗濯物畳むのと夕飯作りとその片付けと。今日は朝食と自分の分の弁当作らされたうえ洗濯までさせられて、帰りにおつかいまで頼まれちゃって」
聡一は苦々しい表情で伝えた。
「私もいっしょについて行くよ」
遥花は楽しそうに伝える。
「それじゃ、娘の梨音のおむつと、ひ○こクラブも買って来てもらおうかしら？ 今月号確か今日発売だから」
保科先生は微笑みを浮かべて企む。
「それは無理。生理用品以上にきつい」
聡一は呆れ果てるが、
「分かりました」
遥花は快く承諾した。
「ありがとう西貝さん、それじゃ、おむつはこの種類のやつを頼むわ。これが梨音の一番のお気に入りなの」
保科先生は商品名が書かれたメモ用紙を遥花に手渡す。
「これですね、了解しました」
「ありがとう西貝さん、三千円渡しておくね。おつりは返さなくてもけっこうよ」
「いやいや、ちゃんと返しますよ」
（遥花ちゃんといっしょにそんなの買ったら誤解されそうなんだけど……）
聡一はこう思うも、二人の間で交渉成立。
※
三時限目体育の後の休み時間。
「鴨下君、このゲーム、レビューが低過ぎると思いませんか？ 僕は満点だと思うのですがねぇ」
「そうだな。でもファ○通のレビューなんて全然当てにならないだろ」
聡一と秀作とでいつもの休み時間と特に変わらないことをして過ごしていると、
「こら秀作さん、また不要物持って来て。等々力先生に忠告するよ」
着替えて教室へ戻って来た優希から注意されてしまう。
「そっ、それは本当にやめて下さーい」
「優希ちゃん、そこまでするのはすごくかわいそうだよ」
いっしょに戻って来た遥花は優しく意見してあげる。
「冗談だって。わたし、等々力先生に近寄りたくないからそんなことしないわ」
「ありがとうございますぅ」
「あいつに不要物持って来てるの見つかったら確実に停学食らうよな。んっ、メール。乃々絵姉ちゃんからか」
聡一が突然届いたスマホメールを開くと、
【ソウイチ、三時間目の音楽の授業中に貧血で倒れちゃった♪ 『夏の思い出』合唱中に。早退することにしたよ。症状は軽いから心配しないでね】
こんな文面が。
「朝食ほとんど食べてないからだな」
聡一は【ほら、言わんこっちゃない】と返信する。内心は心配していたようだ。
「乃々絵ちゃん貧血かぁ、大丈夫かな？」
「夕方には元気になってるといいですね」
遥花と優希も気にかけてあげた。
※
その日の放課後。
「それじゃ、お買い物行こう」
「べつに遥花ちゃんはついてこなくてもいいんだけど、あっ、でも俺一人じゃ保科先生から頼まれた物は非常に買いにくいしな」
聡一は学校帰りに遥花といっしょに近くのスーパーへ向かっていく。
辿り着くと、聡一と遥花は買い物カートを取出し店内を巡回。
「これも買って帰ろう」
「聡一くん優しい」
「今夜は鉄火丼にするか」
「貧血で倒れた乃々絵ちゃんのために栄養満点のメニューにするなんて、聡一くんますます優しい」
「いや、それもあるけど、簡単に作れるし」
「あらら」
そんな会話を弾ませながら、聡一と遥花はマグロの刺身コーナーへ向かっていく。
他に卵や食パン、ふりかけ、野菜・果物、魚介類も購入。
化粧品コーナーへも向かい、母から頼まれていたシャンプーも忘れず籠に詰めた。
「あとはおむつか」
続いて赤ちゃんのおむつコーナーへ。
「保科先生が言ってたのは、これだね」
遥花が手に取ろうとしたら、
「こっちのおむつの方がいいんじゃないかな。パッケージのデザインもいいし」
聡一は近くにあった別の種類のおむつを指し示した。
「聡一くん、おむつはパッケージで選ぶんじゃないよ」
「そうか？」
「そうだよ。赤ちゃんっていうのは気に入らないおむつを付けたらすごく不機嫌になっちゃうものなんだよ」
遥花はきちんと頼まれていた種類のおむつを買い物かごに入れる。
「あとは、あれか。この店で売ってるかな？」
「きっとあると思うよ。スーパーは主婦御用達だし」
遥花の予想通り、おまけ程度に置かれている雑誌コーナーに頼まれていた育児情報誌はけっこうたくさん並べられていた。
遥花がそれを一冊手にとって籠に入れ、いよいよレジへ。
「俺、向こうで待っとくから。これ、お金」
「あんもう、いっしょに並んで欲しかったのに」
聡一は遥花に自分の財布を渡し、先にレジの向こうへ回った。
遥花はちょっぴり不機嫌に。
会計を済ませた時、
「どうもありがとね。またご利用下さいませー」
レジのおばちゃんににこっと微笑まれた。
「聡一くん、もっときれいに入れなきゃ」
「どうせまた出すんだから適当でいいだろ」
「ダーメ。卵そこに入れたら運んでるうちに割れちゃうよ」
二人で協力して買った物をいくつかの袋に詰め、店内から出ると、
「どうもありがとう」
保科先生が待っていてくれた。
梨音ちゃんもいた。ベビーカーに乗せられた形で。
「この子が梨音ちゃんかぁ。こんばんは。かっわいい♪ ばぁっ！」
遥花がにこっと微笑みかけると、
「あぁぁぁっ、あぁま」
梨音ちゃんは嬉しいのか満面の笑みを浮かべてくれた。
「やっぱ赤ちゃんはかわいいな」
聡一が顔を近づけると、
「うぇぇぇ、ぅえええええーんっ！」
梨音ちゃんは大声で泣き出してしまった。
「あらら、梨音ちゃん、このお兄ちゃんは怖くないでちゅよ」
保科先生は赤ちゃん言葉で話しかけ、にっこり微笑みかける。
「保科先生すみません、泣かしてしまって」
聡一は罪悪感に駆られているようだ。
「いえいえ、旦那さんがあやしても高確率で泣くから。梨音ちゃん、あばばばぁ」
保科先生があやすと、
「えぇぇぇ、えっ」
梨音ちゃんは途端に泣き止んだ。笑みも浮かぶ。
「俺、幼い子どもの扱い下手だからな。父さんも幼い子どもは苦手だって言ってたし」
「聡一くん、気にしちゃダメだよ」
「今は人見知りする時期だから。あと二ヶ月、梨音が一歳になる頃には、きっと鴨下くんのことを気に入ってくれるようになると思うわ」
保科先生は優しく勇気付けてくれた。
「あの、保科先生。おむつ代と雑誌代のおつり返しておきます」
遥花は自分の財布から取り出し手渡そうとする。
「あら、べつにいいのに」
「そういうわけにはいきません。受け取って下さい」
「それじゃ、受け取っておくわね」
保科先生は遥花に対する好感度がさらに上がったようだ。
「ありがとうございます。さようなら保科先生、梨音ちゃん、ばいばーい」
遥花は梨音ちゃんに向かっても微笑みかけ手を振る。
「さようなら」
聡一はまた泣かしちゃうとまずいと考え、梨音ちゃんとは目を合わさずに別れの挨拶。
「さようなら西貝さん、鴨下くん、また月曜日に学校でね。梨音、ばいばいしましょうね」
保科先生は梨音ちゃんの腕を掴んでもみじのような手を振らせたのち、ベビーカーを引いて自宅の方へ向かって行った。
「梨音ちゃんすっごくかわいかったねー」
「そうだな」
「私も十年後くらいに赤ちゃん作りたいな」
「……それにしてもスーパーって、飲料水が安いよな。コンビニで一四七円のが七八円とか八八円とかで売られてるし」
「お菓子やパンやインスタント食品とかもスーパーの方が基本的に安いよ。だから限定商品以外はコンビニで買わない方がお得だよ」
聡一と遥花、おしゃべりしながらいっしょに帰り道をしばらく歩いていると、
「二人とも、とっても仲が良いね」
育実とばったり出会った。
「あっ、育実ちゃんだ。学校からの帰り？」
「はい」
「やっぱ今日も俺んち泊まるのか？」
「もっちろん♪ 実習期間中だし」
「やっぱそうなのか」
聡一は落胆しているようだ。
「もう、聡一お兄ちゃんったら、本当は嬉しいくせに。それより乃々絵お姉ちゃんが貧血で倒れちゃったみたいだけど、心配だな」
「まあ特に心配することもないと思う」
「私もお見舞いに行くよ」
こうしてその後は三人いっしょに帰り道を歩き進む。
☆
午後五時過ぎに聡一と育実は帰宅。遥花もお邪魔した。
「おかえりソウイチ、イクミちゃん。いらっしゃいハルカちゃん」
「乃々絵姉ちゃん、寝てなくて大丈夫なのか？」
「うん、帰ってからじゅうぶん休んだからもう平気よソウイチ」
乃々絵はリビングでソファに腰掛け、録画していた深夜アニメを眺めていた。
「乃々絵お姉ちゃんすっかり元気そうだね」
「乃々絵ちゃん、元気そうで何よりだよ」
育実と遥花もホッと一安心だ。
「ほら、これ、乃々絵姉ちゃんの大好きな抹茶プリン」
「ありがとうソウイチ」
「さすが聡一、お姉ちゃん思いね」
その時すぐ横でクロスワードを解いていた母は感心する。
「乃々絵姉ちゃん、これからは食事しっかり食べるようにな」
「乃々絵お姉ちゃんは特に思春期真っ只中なんだから、栄養しっかり取らなきゃダメよ」
聡一と育実はこう忠告。
「はーい。今日ので懲りたよ。もうあんなしんどい思いしたくないし。ソウイチが一生懸命作ってくれたお弁当も帰ってから全部食べたわ。とっても美味しかったよ」
「そうか。サンキュー乃々絵姉ちゃん」
「どういたしまして。いただきまーす」
乃々絵は抹茶プリンを付属のプラスチックスプーンで掬って嬉しそうに美味しそうに頬張る。
「乃々絵ちゃん幸せそう。では私、そろそろお暇しますね。聡一くん、今日も家事頑張ってね」
遥花は聡一へエールを送り、自宅へ帰っていった。
「母さん、育実ちゃん、今日も洗濯物俺が片付けなきゃいけないのか？」
「そうね、日曜日まで家事はなるべく全部聡一に任せるって契約になってるし」
「当然、聡一お兄ちゃんがやらなきゃダメよ。干したのはお母様なんだし」
「しょうがねえ」
聡一は昨日と同じように洗濯物を取り込むと、
「聡一お兄ちゃん、今日はアイロンがけもやってもらうよ」
育実からこんな指示が。
「今日は暑いし、そんなことしなくていいだろ」
「関係ないっ！」
「分かったよ」
むすぅっとした表情で言われると聡一は断れず、しぶしぶ父のワイシャツ、自分の制服のポロシャツ、乃々絵のプリーツスカート、淳子のブラウスなどにアイロンがけを慎重にこなしていく。
「聡一、火傷に気をつけてね」
「母さん、言われなくても分かってる」
焦がすといった失敗をすることなく無事完了。
残りの洗濯物＝下着を畳んでいる最中に、
「ただいまーっ」
淳子が帰って来た。キッチンにやって来るや、
「ねえ聡一、みんなでプール行くっていうから帰りに西武寄って水着買ったんだけどどれがいい？」
ビキニタイプのを何種類かかざされ、
「どれでもいいって」
聡一は迷惑そうに対応する。
「もう、聡一ったら。乃々絵、元気そうね」
「うん、もうすっかり元気になったわジュンコお姉さん」
「よかった」
「今夜は鉄分たっぷりの料理作るから」
聡一は洗濯物を畳んだあとは浴室へ向かい、水を入れる前に軽く浴槽をシャワーで洗い流してから栓をして、水を入れ始めた。
並行してご飯を炊く準備。
風呂釜の穴まで水が入ったのを確認すると、給湯器の操作ボタンを押す。
しかし、
「あれ？ なんか給湯器の調子が。今日は風呂入れないな」
何度押しても反応しなかった。
「えー、あたし今日スポーツ実習あったからけっこう汗かいたのにぃ」
「ソウイチ、早く修理して」
淳子と乃々絵から不満そうに文句を言われる。
「無理だって。業者に頼まないとダメだろ。それに俺、機械系は苦手だ」
「この風呂給湯器、聡一が幼稚園に入った頃から使ってるからとうとう寿命が来たみたいね。明日修理屋さんに来てもらうから、今日は銭湯行ったら？」
母はこう勧める。
「まあ俺はべつにそれでいいけど」
「あたしもいいよ」
「ワタシは銭湯嫌だな。でも、入れないよりはマシか」
「たまには銭湯もいいね。遥花お姉ちゃんも誘おう！」
育実はさっそく聡一の自室へ向かい、
「遥花お姉ちゃーん、アタシと乃々絵お姉ちゃんと淳子お姉ちゃんと聡一お兄ちゃん、お風呂の調子悪いから夕飯食べた後銭湯行くんだけど、いっしょにどう？」
ベランダ越しに大声で叫びかける。
「銭湯かぁ。私も行くよ」
「それじゃ、八時頃に遥花お姉ちゃんちの前で」
「分かった。あっ、ちょっと待って。優希ちゃんも誘うから」
快く誘いに乗ってくれた遥花は優希宛にメールを送信。
約一分後、返信が届いて、
「優希ちゃんもいっしょに銭湯行くって」
遥花はスマホ画面をかざしながらこう伝える。
「大人数で、楽しい入浴になりそうだね」
育実は大いに喜んだ。
同じ頃、キッチンにて夕飯準備中の聡一は、
「あの、ソウイチ、サ○サーティは？」
乃々絵からこんなことを問い詰められていた。
「あっ、すっかり忘れてた。ごめん乃々絵姉ちゃん」
「今から買って来て」
「自分で行けば。最寄りのコンビニなら歩いても五分かからず行けるだろ」
聡一は困惑顔だ。
「嫌っ！」
乃々絵はぷくっとふくれ、背中をポカポカ叩いてくる。
「聡一、乃々絵、母さんが買ってくるわね」
「サンキュー母さん」
結局、母が快く買いに行ってくれることに。
※
聡一は夜七時頃に家族みんなと育実の分の夕食を完成させた。
父もその頃に帰宅。
今夜は鉄火丼と蜆汁だ。
「美味しかった♪」
丼いっぱいに盛られた鉄火丼、乃々絵は全部平らげてくれた。蜆汁ももちろん。
みんな夕食を取り終えた後、
「あ～、面倒くさい。母さん、手伝ってくれないか？」
「聡一、母さん今クロスワード解いてるから、一人で頑張りなさい」
聡一はまたも父に書斎へ逃げられ、食器洗いを一人で任された。
「イクミちゃんは、野原ひ○しのことどう思う？」
「けっこう好感持てるよ。家事はそんなにしてないけど、家庭的だからね」
育実は乃々絵と国民的アニメを楽しそうに視聴していたのであった。
※
夜八時十分頃。聡一達六人は鴨下宅からは徒歩約七分、五百メートルほど先にある昔ながらの銭湯、燕湯へ。受付にて聡一が代表して母から貰った六人分の入浴料を支払った。
当然のように聡一は男湯、他のみんなは女湯の暖簾を潜る。
女湯脱衣室。
「乃々絵お姉ちゃん、昨日いっしょに入った時みたいにすっぽんぽんにならないの？」
「だって、公共の浴場だと周り知らない人ばかりだから恥ずかしいし」
乃々絵は肩から膝上にかけてバスタオルを巻いていた。
「乃々絵ちゃん、そんなに恥ずかしがらなくても。余計目立って恥ずかしいと思うよ」
遥花にそう説得され、
「そうかなぁ？」
乃々絵は恐る恐るバスタオルを外してすっぽんぽんに。
「乃々絵お姉ちゃん、素っ裸の方が絶対銭湯に相応しいよ。久し振りの銭湯、楽しみぃ♪」
すっぽんぽんになった育実は浴室へ駆けていく。
「イクミちゃん、走ると危ないよ。あと、服はきれいに畳んで籠にしまおうね」
乃々絵はこう注意して浴室へ入っていった。
けれどもすぐに、
「やっぱり恥ずかしいからタオル巻く」
浴室にいた他のお客さんを見て引き返して来た。
バスタオルをさっきと同じようにしっかり巻いて再び浴室へ。
「私も中学生の頃、大浴場で素っ裸になるのは恥ずかしいなって思ってた時期があるから乃々絵ちゃんの気持ちはよく分かるよ」
遥花は最後に水玉模様のショーツを脱いですっぽんぽんになり、後に続く。
「優希ちゃんはまだぺちゃパイね」
「淳子さん、わたしはこれで満足してますよ」
淳子と優希も、最後にショーツを脱いですっぽんぽんで浴室へ。
「乃々絵お姉ちゃん、見て見て。スーパーサ○ヤ人」
「もう少し逆立ってないとダメね」
育実と乃々絵はすでに洗い場シャワー手前の風呂イスに隣り合って腰掛け、シャンプーで髪の毛をゴシゴシ擦っているところだった。
「育実ちゃんよく似合ってるわ」
育実の隣に淳子、
「んっしょ」
淳子の隣に遥花、
「ふぅ」
優希は遥花の隣に腰掛ける。
「あの、ユキちゃんは、今でもヒデサクくんのことは好きかな？」
乃々絵に唐突に尋ねられ、
「……いや、べつに。というより、昔から好きじゃないって」
優希は俯き加減で慌て気味に答えた。
「あれ？ 優希ちゃん、秀ちゃんのこと好きなんでしょう？」
遥花は疑問を浮かべながら問いかける。
「あの丸尾くんみたいなひょろひょろの子ね」
淳子も興味津々だ。
「前にも言ったけど、あの子はわたしの勉強のライバルなの。好きって言うより学業面で尊敬出来る男の子って感じよ」
優希は淡々とした口調で否定する。
「秀ちゃん、昔からすごくいい子で真面目で賢いし、知的な顔つきだもんね。優希ちゃんが好きになっちゃう気持ちは私にもよく分かるよ」
遥花はほんわかとした表情で言った。
「だから違うって」
優希は困惑顔だ。
「ユキちゃん、両親のお仕事もお互い大学教授なんだから、付き合ってみたら？」
「優希ちゃん、秀作って男の子と付き合っちゃったら？ 本当は好きなんでしょ？」
淳子はにやにや笑いながら、優希の肩をペチッと叩く。
「いいって」
優希は俯き加減になった。
「優希ちゃん、お顔が赤いよ」
「遥花さん、これはね、体が火照って来たからなの」
「まだ湯船に浸かってないのに」
遥花はにっこり微笑む。
「優希お姉ちゃんのお顔、茹蛸さんみたーい」
育実はくすくす笑っていた。
「あの、育実さんのお父様は、家事は積極的にしてくれるのかな？」
優希は話題を切り替えようとしたのか、こんな質問をしてみた。
「いや、積極的にはしてくれないよ。ママに言われたら嫌々やる程度なの」
「あらら、意外ですね」
「ワタシのお父さんは言われてもやらないからちょっとマシね」
「パパが不甲斐ないからアタシ、男の人に家事育児が出来るようになって欲しいなって願望が人一倍強いんだろうな」
「それで育実さんは、イクメンプロデュース部に入部したわけですね？」
「いえ、最初は美術部に入るつもりだったんだけど、今年創部されたみたいだから。それで、担任の先生やママからの勧めもあって。部員は今、全学年でアタシ含めて七人なの」
「そうでしたか。楽しいですか？」
「はい、男に舐められない体作りとかで普段の練習はかなりハードだけど、すごく楽しいです。元々第四志望の学校だったんだけど、この部に巡り合えて今は豊白谷に入学してよかったなって思ってます。四月の終わりに正式入部してから講習を経て、今週から本格的に活動を開始しました。アタシどんな男の子指導することになるのかなってすごい不安だったよ。年頃の男の子って、荒っぽくて怖い子も多いし、エッチを求められたらどうしようかと。初体験した聡一お兄ちゃんはとってもいいお兄ちゃんでホッとしたよ」
「聡一さんは確かに心優しい人ですね」
「そうだね。聡一くんはとってもいい人だよ。私と聡一くん、双子の姉弟みたいにずっと付き合ってるからよく分かるよ」
「ソウイチ、本当にすごく親切で心優しいからワタシも大好き。でもいっしょに手を繋いだりするのは照れくさくてもう無理だな」
「聡一くんの今日の厚意はとてもよかったね」
「うん、めちゃくちゃ嬉しかった。ソウイチに何かお礼がしたいよ。ワタシ、体洗うのもうしばらくかかるから、みんな先に入ってていいよ」
「乃々絵お姉ちゃん、恐々と洗わなくても誰も見てないって」
育実はにっこり笑顔でこう助言して湯船の方へ。
「乃々絵、お先に」
「乃々絵ちゃん、育実ちゃんといっしょにいるね」
「四人でかたまって浸かっておきますので」
淳子と遥花と優希も後に続く。
「ここのお湯、アタシにはちょっと熱く感じる」
「わたしもです。いつも三七℃くらいで入っているので」
「私も少し熱く感じるよ。あの、淳子ちゃん、大学生活は楽しいですか？」
「うん、とっても楽しいわ。大学の講義の良い点は、講義中に携帯ゲームしたりネットしたり居眠りしたりしてても、特に注意されることがないことよ。まあ注意してくる教授もいるけど」
「淳子さん、けじめはきちんとつけましょう」
「淳子お姉ちゃん、居眠りはダメだよ」
「はいはーい」
「私も授業中、たまにノートにお絵描きして遊ぶことあるし、居眠りしちゃうことはよくあるよ。中学の頃、優希ちゃんと席が近かった時は居眠りしたら叩き起こされたよ」
「優希お姉ちゃん、友達思いだね」
「当たり前のことだと思うけど」
「私、優希ちゃんの席のすぐ近くにはなりたくないな」
「遥花さん、今度の席替えでもしなれたら、中学の時以上に厳しく監視するからね」
「優希ちゃん顔怖い、怖い」
足を伸ばしてゆったりくつろぎ、おしゃべりし合っている中、乃々絵は周囲を気にしながら体をゆっくり擦っていく。
そんな時、
「お嬢ちゃん、いいお肌してるわね」
「えっ！」
バスタオルをしっかり巻いた、四〇代くらいのお方が隣のイスに腰掛けて来た。
「あの、その」
「高校生？」
「あっ、はい」
「そっかぁ。さすが若いだけはあるわ。この銭湯にはよく来るの？」
「いえ、何年か振りです」
「そっか。おばちゃんはね、週に一回くらいは来るわよ」
「……」
乃々絵は大急ぎでシャワーで石鹸を洗い流して逃げ、湯船に浸かってくつろいでいる育実と遥花と優希のもとへ。
「あの、あそこにいるお方は、女性ではないですよね？ 声も妙に男っぽかったし」
乃々絵はタオルは床に置いてすっぽんぽんになって湯船に浸かると、びくびくしながら問いかけた。
「そうね、明らかに男性ね」
「男の人だね。あの体つき」
「肩幅と筋肉のつきからして、百パーセント男ですね。いくら小柄で細身で髭剃っててもわたしの目は誤魔化せませんよ」
淳子と遥花と優希は姿を見て即、こう判断した。
「みんな外見だけで男って判断するのは失礼だよ。吉田沙○里はもーっとすごい筋肉してるでしょ」
育実は女性だと信じているようだ。
その男と疑わしきお方は体を洗い流し終えたのか、乃々絵達のいる方へ近寄って来た。
「みんなかわいいお嬢さん達ねー」
さらにそう褒めて湯船に浸かって来た。
「あの人、男ちゃうの？」
「なんかそうっぽいよね」
他のおばちゃんなお客さんがヒソヒソ声で呟く。
「ねえ、おばちゃんは女の人だよね？」
育実にお顔をじーっと見つめられ質問されると、
「そうよ。よく男と間違えられるの。子どもの頃からね」
男と疑わしきお方はホホホッと笑った。一瞬ぎくりと反応したような気もしたが。
（ますます怪しいです）
優希は心の中でこう思った。
「おばちゃん、のぼせちゃいそうだからもう上がるわ。あっ、あら」
男と疑わしきお方が立ち上がって湯船から上がった途端、巻いていたバスタオルがハラリと落ちた。
「きゃっ！」
そのお方は軽く悲鳴を上げとっさに股間を手で隠す。
「きゃぁぁぁっ！」
「わっ！ 男の人だ」
アレがほんの一瞬だがばっちり見えてしまい、乃々絵は大きな悲鳴を上げ反射的に目を覆い隠し、遥花は驚いて思わず声を漏らした。
「あらら。やっぱりね」
淳子は落ち着いた様子でにっこり微笑む。
「思った通りです」
優希はちょっぴり頬が赤らんだ。
「お○んちん見えたぁ！ 男の人だったんだね。オカマだぁ！」
育実は照れ笑いし、楽しそうに笑う。
「皆さーん、ここの男の人がいますよーっ！ この方です」
淳子は脱衣室にいる人にも聞こえるよう、大声で叫んだ。
「失礼ね。わたくし女よ。ほら、髪の毛長いでしょ？」
男とばれてしまった女装おじさんはとっさに否定する。
「えっ！」「男？」「やっぱそうなんか」
他のおばちゃんなお客さん達にざわめかれ、
「やばい」
女装したおじさんは足早に浴室から逃げていこうとする。
「逃がさないわよ。そりゃっ！」
淳子は固形石鹸をそのおじさんの足元目掛けてスライドさせた。
「ぎゃっ！」
見事命中。
おじさん、つるっと滑ってしりもちをついた。
「しまった！」
その拍子にかつらも落ちて、禿げかけのすだれ頭が露に。
そんなヒミツもばれてしまった女装おじさん、にこっと笑ってかつらを拾ってすぐに立ち上がってまた走り出す。
「アタシがあのオカマなおじちゃんつかまえるぅ。待ってーっ！」
育実だけでなく、
「逃がしてもうたわ」「逃げ足早いわーあの人」
他のおばちゃんなお客さん達も取り押さえようとしたが失敗。
浴室から脱衣室の方へ逃げられてしまった。
（なんか女湯が騒がしいな）
すでに上がってロビー横の休憩所で待っていた聡一は不思議がる。
ほどなくその女装おじさんが聡一の目の前に。
バスローブを一枚、帯で巻かずに羽織っただけの姿だった。
「うわっ、あいつ明らかに男だろ。これで女湯入るなんて無謀過ぎる」
聡一は表情が引き攣る。女装おじさんはかつらをまた付けたのだ。
「ちょっと、退きなさいよ」
女装おじさんは聡一に勢いよく衝突。
「うわっ！」
聡一は弾き飛ばされたが、柔道の授業で今習っている受け身を取って怪我回避。
「邪魔、邪魔」
女装おじさんもバランスを崩してしりもちをつくも、すぐに立ち上がった。早く館内から出ようと必死だ。けれども腰を痛めて速く走れない様子。
「聡一お兄ちゃん、ナイス足止めっ。アタシがとどめを刺すよ。そりゃぁっ！」
大急ぎでパジャマを着込んで脱衣室から出て来た育実は、そのおじさんの腕を掴むや、一本背負いを食らわした。
「んぎゃっ」
女装おじさんは、床にビターンと叩き付けられる。これにて御用。
「おじちゃんは、お○んちんついてるから男湯の方に入らなきゃダメだよ」
育実はこいつが逃げられないよう袈裟固のような形でしっかり押さえつけ身動きを封じた。
「どっ、どうも。ありがとうございました」
女装おじさんはマゾなのか？ 腰を強打したもののどこか嬉しそうな表情で礼を言った。
「おううう！」「お嬢ちゃんやるねぇ」「お見事！」
他のお客さんや従業員さんから拍手喝采。
「皆さん、ご無事ですか？」
「あっ、もう捕まえられてる」
それからすぐに、銭湯すぐ目の前の交番から駆け付けた二人のお巡りさんに引き渡され手錠を掛けられ逮捕された。
「あの、その、わたくしはですね、アンチエイジングの観点から、女性の体の細胞のですね、研究を」
「いいから来いっ！」
「話は署でじっくり聞いてあげるから」
二人のお巡りさんが呆れた様子で女装おじさんを連行して銭湯から出て行った後、
「アタシ、下着着けずに出て来たの」
「べつにそれは言わなくても」
育実は聡一に耳打ちし、再び脱衣室へ戻っていく。
それから五分ほどして育実他のみんなも風呂から上がって来て休憩所へ。
（なんか、女の子特有の匂いがぷんぷん……）
聡一はドキッとしてしまった。女の子五人の体から漂ってくる、桃やラベンダーの石鹸の香りが彼の鼻腔をくすぐっていたのだ。
「聡一お兄ちゃん、面白いおかまのおじちゃんだったでしょ？」
育実は楽しそうに微笑む。
「ソウイチ、めちゃくちゃ怖かったよぅ」
乃々絵はショックだったようで俯き加減。今にも泣き出しそうな表情だった。
「気持ちはよく分かる。俺も真夜中にあんな風貌のやつ見たら卒倒しそうだ」
聡一はそんな乃々絵の頭を優しくなでてあげる。
「育実ちゃん、本当に強いわね」
「テレビや新聞じゃ報道されないくらい小さい事件でしょうけど、無事捕まえられてよかったですね」
「うん、聡一くんも活躍したみたいだね」
淳子と優希と遥花もホッと一安心だ。
「いやぁ、相手が勝手にぶつかって来ただけだから活躍とは言えないと思う」
「聡一お兄ちゃん、謙遜しなくても。アタシが捕まえることが出来たのは聡一お兄ちゃんのおかげよ。さてと、やっぱ銭湯上がりといえばカフェオレね」
お巡りさんにも褒められて清々しい気分になっている育実は冷蔵ショーケースを開け、ガラス瓶のカフェオレを取り出す。
「私もそれにするよ」
「じゃ、ワタシも」
「あたしは紅茶にするわ」
「わたしは、ミルクティーにしておこう」
「俺は烏龍茶で。俺がみんなの分まとめて払ってくるよ」
他のみんなもお目当ての飲料水をショーケースから取り出した。
このあとみんなは長椅子に腰掛け、風呂上りの一杯を楽しんで銭湯をあとにしようとしたら、
「あらっ」
出入り口付近からこんな声が。
「あっ、保科先生だ。こんばんはー」
「こんばんは保科先生、ここで会うなんて思いませんでした」
遥花と優希は少し驚く。
「先生、この銭湯けっこう頻繁に利用してるのよ。お肌にいいみたいだし」
「ほっちゃん、久し振りぃ！ いつも弟がお世話になってます」
淳子は偶然の再会に喜び、嬉しそうにご挨拶した。
「あら鴨下さん、卒業式に会って以来だから三ヶ月半振りくらいね」
保科先生もけっこう驚いた様子だ。
「この人が聡一お兄ちゃんや遥花お姉ちゃんや優希お姉ちゃんの担任かぁ」
「噂どおり、きれいな先生ね」
育実と乃々絵は興味津々に保科先生のお顔を見つめる。
「鴨下くんのもう一人のお姉さんと、こちらは、イクメン候補育成指導をしてくれている育実ちゃんって子かな？」
「その通りです。今日は俺が風呂沸かそうとして給湯器が壊れてたから銭湯に行くことになりまして」
「そっか、とっても可愛らしい子ね」
保科先生は育実に向かって優しく微笑みかける。
「ありがとうございます。保科のおばちゃん、はじめまして」
育実は初対面の挨拶をし、手を差し出して握手を求めた。
「はじめまして」
保科先生は快く応じる。
「育実ちゃん、おばちゃんは失礼だよ。お姉さんと呼ぶべきだよ」
遥花が注意すると、
「ごめんなさい」
育実は頭をぺこんと下げて謝った。
「子持ちだから、おばちゃんでいいのよ」
保科先生は気にしていない様子で微笑む。
「ほっちゃん、相変わらず地味で安っぽい服装ですね」
淳子はにっこり微笑みながら指摘した。
「べつにいいでしょ。先生に派手な服は似合わないの」
「淳子ちゃん、北海道で酪農をしてそうな素朴な感じなのが保科先生の魅力だと私は思うよ。今日は梨音ちゃんは？」
「おウチで旦那さんが面倒見てくれてるわ」
「やはりそうでしたか。もう九時近いし、赤ちゃんを連れてくるには遅いもんね。では保科先生、さようなら」
「さようならです」
「じゃぁね、ほっちゃん。また会えて嬉しかったよ」
「保科のおばちゃん、じゃなくてお姉さん、バイバーイッ！」
「保科先生、さようなら」
「さようなら、保科先生。またお会いしましょう」
「さようなら。西貝さんと絹山さんと鴨下くんはまた月曜日にね」
保科先生はとても機嫌良さそうに挨拶を返し、女湯の暖簾をくぐっていった。
聡一達はこれにて銭湯をあとにし、まっすぐ自宅へ帰っていく。
「あっ、ほっちゃんに変質者が出たこと言うの忘れてた」
「べつに言う必要ないと俺は思う。他のお客さんの会話から伝わるだろうし」
※
午後九時四〇分頃、鴨下宅。
育実は乃々絵のお部屋でテレビゲーム、乃々絵はベッドに寝転び読書、聡一は英語の予習、淳子は聡一の自室で彼の所有する携帯型ゲームにいそしんでいた。
そんな時、
「こんばんはー」
遥花が聡一のお部屋を訪れて来た。
「何？ 遥花ちゃん」
昔からわりとよくあることなので聡一も対応に慣れていた。
「あの、聡一くん、数学の宿題で分からないところがあって。問い２と５と６。空欄のままなの」
「それなら、絹山さんに聞いてもよかったんじゃ」
「いつもお世話になってて悪いなぁって思ったから」
「そういうわけか。まあいいけど」
聡一は快く引き受け、宿題プリントを受け取る。
「聡一、頼りにされてるわね。遥花ちゃん、銭湯の時から思ってたけど、けっこうムダ毛生えてたね。明日は水着着ることだし、剃ってあげるよ」
「私、剃らなきゃいけないほど生えてるかな？」
遥花は自分の腕や脛を確かめてみる。
「目立つくらい生えてる、生えてる。絶対剃った方がいいって」
「それじゃ、剃っていいよ」
「ありがとう。じゃ～ん、女子力を高める剃毛セットよ」
淳子はピンク系花柄の可愛らしいマイポーチから除毛クリーム、刷毛、はさみ、シェーバー、毛抜き、ローションを取り出した。その直後、
「遥花お姉ちゃん、いらっしゃーい」
「こんばんは、ハルカちゃん」
育実と乃々絵がこのお部屋へ入って来た。
「ちょっと今から遥花ちゃんの恥ずかしいところのムダ毛処理するから、聡一は見ないようにしてあげてね」
「わざわざ俺の部屋でやらなくても」
聡一は遥花が悩んでいた数学の問題に集中。
「それじゃ遥花ちゃん、下着姿になってベッドに腰掛けてね」
淳子から頼まれると、
「はい」
遥花は躊躇なくパジャマの上下を脱いでブラとショーツの下着姿になり、聡一が使っているベッドに上がったのち体育座りの姿勢になった。
淳子もベッドの上に上がる。
「あの、遥花ちゃん、俺がいるのに本当に下着姿になったのかよ？」
聡一は演習問題を解きながら問いかける。
「うん、私、聡一くんは覗いて来ないって信用してるし」
遥花はにっこり笑顔できっぱりと言った。
「聡一お兄ちゃん、信頼されてるね」
育実は感心気味に微笑む。
「万が一ソウイチがうっかり後ろ向いちゃっても大丈夫なように、お布団で隠しとくよ。イクミちゃん、そっち側持ってね」
「はーい」
乃々絵と育実は聡一の普段使っている夏蒲団の両端を持ち合い、ベッドを目隠しした。
「そうしてくれた方が俺も落ち着ける」
聡一はより安心出来たようだ。
「アタシも剃り剃りしたいな。楽しそう」
「イクミちゃんはまだムダ毛生えてないから必要ないよ」
乃々絵はにっこり笑顔で言う。
「アタシにも早くムダ毛生えて欲しいなぁ」
「育実ちゃんも来年の今頃には嫌でもムダ毛に悩むようになると思うわ。遥花ちゃん、うなじと背中から剃ってくね。ブラも取って」
「分かりました」
遥花は躊躇いなく薄ピンク色のブラを外しておっぱい丸見せに。
「じゃあ剃るよ」
淳子は最初に遥花のうなじから背中にかけて除毛クリームを塗り、専用の刷毛で浮かび上がった産毛を取り除いてあげる。
「あっんっ、くすぐったい」
「それは我慢してね」
「はい、すみません」
除毛後は、アフターケアのローションを塗ってもらい、遥花はブラを付ける。
「次はおへそ周り剃るね。仰向けに寝転がって」
「はい」
遥花は体育座りからぺたんと仰向けになった。
「じゃあ剃るよ」
「んっ、気持ちいいです」
「遥花ちゃん、普段ムダ毛の手入れ全然やってないでしょ？」
「はい、もう一年くらいほったらかしです。去年の初プールの授業の前にお友達からわきの下と腕と脛、剃った方がいいよって言われて剃刀で剃って、それ以来剃ってないな。面倒くさくって。特に気にもならなかったし」
「遥花ちゃん、女子高生なんだから身だしなみに気遣わなきゃ。夏は特に」
「はい、そうですね。これからは気をつけます」
「遥花ちゃんお肌白くてきれいなんだから、そうしなきゃ勿体無いよ。今度は腿毛と脛毛剃るね」
淳子は遥花の両足に除毛クリームを塗って、うっすら生えていた太ももの毛と脛毛を刷毛で取り除いていく。
「淳子ちゃん、剃るの上手ですね」
「ありがとう。裏側も剃るからうつ伏せになってね」
「はい」
遥花は言われた通りの姿勢へ。太ももと脛の裏側のムダ毛もきれいに剃ってもらい、
「ふくらはぎ、揉んであげるね」
「ありがとう淳子ちゃん、んっ、気持ちいい♪」
ローションを塗ってもらうさいにマッサージもしてもらい、遥花は恍惚の表情だ。
「次はわき毛剃るよ。腕上げてね」
「はい」
再び体育座りの姿勢になったのち両手を天井に向けて伸ばした遥花、ここも同じように剃ってもらう。
「んっ、ちょっとくすぐったい」
「遥花ちゃん、動かないで。危ないから」
「すみません」
「はい、きれいに剃れたよ。ローション塗るね」
「ありがとうございます。んっ♪」
続いて腕毛も剃ってもらいローションを塗ってもらっている最中に、
「遥花ちゃん、アンダーヘアーけっこう広い範囲に生えてたから、ちょっとだけ剃っておこう。そのままだと水着からはみ出ちゃうかもだし。ちょっとパンツずらすね」
淳子からこんなお願いをされると、
「えっ！ そこも剃るの？」
遥花はピクッと反応する。
「うん、その方が絶対いいよ」
淳子はにっこり微笑みかけた。
「なんかそこ剃られるのは恥ずかしいな。私今までそこは剃ったことないよ」
「すぐに済ますよ」
「でも、ちょっと……」
「アタシのお友達もそこの毛生えて来た子は剃ったって言ってたよ。遥花お姉ちゃん、淳子お姉ちゃんに剃らさせてあげて」
「ワタシも水着シーズンくらいは剃って、狭い範囲にうっすら生えてる程度に整えた方がいいと思う」
「でっ、では、お願いしますね」
遥花は仰向けに寝ると、照れくさがりながら緊張気味にショーツを自分で膝の辺りまでずらした。
「それじゃ、クリーム塗るね」
淳子は除毛クリームが塗られた刷毛を、遥花の露になった恥部に近づける。
「あっ、ちょっと待って。やっぱり剃るのはやめて。あとで痒くなりそう」
遥花は頬をポッと赤らめた。
「それじゃ、カットして短くしとくよ」
「それでお願いします」
「了解。では、カットするね」
「はい」
そんな声とチョキチョキチョキッとはさみの音がしっかり聞こえて来て、
（俺はべつに遥花ちゃんのムダ毛は全然気にならないけどな）
聡一はちょっと見てみたいと思ってしまったが、数学の演習問題に集中。
「はい、ムダ毛処理完了したよ」
「淳子ちゃん、ありがとうございました」
遥花はお礼を言ってショーツを元の位置に戻す。
「どういたしまして」
「ワタシも腕毛剃っておきたいな。ちょっと生えてるし」
「乃々絵、あたしが剃ってあげるね」
「どうも。あっ、気持ちいい」
乃々絵は淳子に両腕に除毛クリームを塗ってもらい、刷毛でムダ毛を取り除いてもらった。
「乃々絵お姉ちゃんいいなぁ」
自分のつるつるな腕を見ながら羨む育実。
「聡一くん、見て。腕と脛、きれいになったでしょ？」
その間に遥花はパジャマも着込み、聡一に剃った部分を見せてあげた。
「いや、分からないな。遥花ちゃんの肌なんか普段よく見てないし」
聡一は困惑気味に伝える。
「あらら」
遥花はちょっぴり拍子抜けしたようだ。
「聡一、これからは遥花ちゃんのお肌、もっとよく観察してあげて。遥花ちゃんがムダ毛処理怠らないように」
「べつにそんなことしなくても……」
「聡一くんにじっくり見られちゃうのはなんか恥ずかしいな」
「遥花ちゃん、これにヒント書いたから、あとは自力で頑張って」
聡一はルーズリーフを千切って手渡す。
「ありがとう聡一くん、あっ、こう解けばいいのかぁ。夜分遅く迷惑かけてごめんね」
「いやいや」
「ムダ毛剃ってすっきりした気分になれたよ。それではまた明日、おやすみなさーい」
遥花は満足そうに自分のおウチへ帰っていった。
「聡一もお○んちんの周りに生えてる毛、剃ってあげるよ。トランクス脱いで」
淳子は眼前に刷毛をかざしてくる。
「いいって」
「そう言わずにぃ。わき毛と脛毛だけでもいいから剃らせてー。あたし体毛剃るの大好きなの」
「嫌だって言ってるだろ」
聡一はかなり迷惑がった。
「ジュンコお姉さん、ソウイチからかっちゃダメよ。みんなおやすみー」
乃々絵はこう伝えて、このお部屋から出ていく。
「淳子姉ちゃんも勉強の邪魔だから早く出て行って」
「聡一、男の子もムダ毛処理ちゃんとした方がいいよ」
淳子は爽やか笑顔でこう助言して自分のお部屋へ。
「聡一お兄ちゃん、遥花お姉ちゃんは身だしなみにあまり気遣ってない意外にだらしない子だけど、聡一お兄ちゃんはどう思う？」
「俺は、女の子は少しだらしない方がいいと思う。化粧品や装飾品に無駄遣いしないだろうから」
「そっか。聡一お兄ちゃんはそういう子が好みなんだね」
「……まあ、そうなるかな？」
それから聡一は引き続き英語の予習。
育実は聡一の所有するマンガを読んで過ごし夜十時半頃。
「イクミちゃん、今夜はワタシといっしょに寝ましょう」
乃々絵がやって来てこんなおねだりをする。
「もちろんいいよ。アタシもう寝るから乃々絵お姉ちゃんももう寝よう！」
育実は快く承諾。
「そうね、明日はかなり体力使いそうだし、早めに寝るわ。それじゃソウイチ、おやすみ」
「聡一お兄ちゃん、明日も早起きして朝食作らなきゃいけないんだから、早めに寝るようにね」
「分かった、分かった」
こうして乃々絵と育実はこのお部屋から出て行った。
「育実ちゃん、あたしといっしょに寝ない？」
「淳子お姉ちゃんのお部屋臭いから嫌」
「あらら、残念」
廊下でこんなやり取り。
（よぉし、今日はぐっすり寝れそうだ）
聡一は喜ぶ。予定通り、聡一は安心して眠り付くことが出来た。
一方、乃々絵と同じ布団で寝た育実は、
「んぎゃっ、また蹴られちゃった。でもそこが素敵だな」
真夜中から早朝にかけて五回も、乃々絵に蹴り起こされたのだった。
