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47 不思議の森と騎士

本日二度目の更新



 シャーロットは走った。

 別に急がなくても追いつかれる心配はないのだが、やはり二人で残してきた兄が心配だったからだ。

 シャーロットが望めば、不思議な森は応えてくれる。

 それほど時をかけずに、湖と我が家が見えてきた。


「ジェラルド様! シリル!」


 ノックもなしに夜営小屋に飛び込んだ。

 中にいた二人は、シャーロットの常にない焦った様子に目を丸くしている。


「何かあったのか?」


 椅子に腰かけていたジェラルドが、いたわるようにシャーロットに近づいてきた。

 はあはあと、シャーロットは荒くなった息を整える。


「今、森の入り口に変な男がいてっ……今はお兄様と一緒に、迷い込んで(・・・・・)いる筈です。早く助けに……っ!」


 肩で息をしながら必死で話すものだから、シャーロットの声は途切れ途切れになった。

 シリルが、甕に汲んでおいた水をコップに汲んで出してくれる。

 衝動に任せて、シャーロットはそれをごくごくと飲み干した。


「迷い込んでいる、ということは、その男を森に引き入れたんだな?」


 ジェラルドの冷静な問いに、シャーロットはコクコクと頷いた。


「ええ、侵入者は出来るだけ捕獲して話を聞きたいと、以前ジェラルド様が仰っていましたから……」


 実はもう一度森に戻るにあたって、ジェラルドはラクスを外敵から守るために様々な策を立てていた。

 これもその一つだ。

 何度かの実験によって、彼はどんな条件がそろった場合にシャーロット以外の人間が森の家に辿り着けるのかを突き止めていた。

 シャーロット以外の人間は、彼女と同行した時でなければこの場所にまで辿り着くことができない。

 それは彼女が口で招くようなことを言ったり、或いは森の中から手招きしたとしてもだめなのだ。

 しかし逃げるシャーロットと同じスピードで追ってこられた場合には、五割ぐらいの確率で辿り着けてしまう。

 なのでジェラルドは、もし森の外で不審な人物に遭遇したら、慌てて逃げたりはせず同行のもう一人が客人を引き留め、その内にシャーロットは一人で戻るようにと指示していた。

 また、不思議の森にはまったく入れない時と迷い込む場合があるが、その法則も判明した。

 それは、シャーロットが森の中にいる時は外敵は迷い、森の外にいる時は中には入れない、というものだ。

 なぜそうなるのかまでは分からないが、これも実験を繰り返すうちに判明したことだ。

 事実、ジェラルドが初めて森を訪れた際も、シャーロットは街に出ていていなかった。

 だからこそ、森に帰ってきた彼女と国王の使者は遭遇することができたわけだが。

 なのでシャーロットが森の中に入る今、その不審人物とアーサーは恐らく森の中を彷徨っているはずだ。

 ジェラルドは少し考え、てきぱきと用意を整えた。

 国王から下賜された剣を差し、全身ではなく急所にだけ簡単な鎧を身に着ける。

 森の中で、重い鎧を纏って戦うのは不利だからだ。

 ようやく落ち着いてきたのか、シャーロットの肩の動きも緩やかなものになっていった。

 寄り添ったシリルが、その背をゆるゆると撫でている。


「シリル。お前は念のためシャーロットについていろ。客人は私が迎えに行く」


「しかし!」


 シリルとシャーロットが驚いた顔をした。

 相手が一人だとはいえ、油断すれば何があるか分からないからだ。


「大丈夫。アーサーはああ見えて剣の腕も立つ。生きて捕縛するにしても二人で十分だろう。むしろ狭い森の中で相打ちになるのは避けたい」


「団長……」


 シリルはどこか不貞腐れたような顔をする。

 己の力量が疑われていると感じたのだろう。

 姉には大人ぶっていても、こういうところでシリルはまだ子供臭さが抜けない。

 ジェラルドは苦笑いを零し、シリルの肩を叩いた。


「ラクスとシャーロットを二人で残していくわけにもいかん。留守は頼んだぞ」


 騎士団長直々の命令に、シリルは姿勢を正し威勢のいい返事を返した。


「では、行ってくる」


 今度は不安げなシャーロットに視線を合わせた。


「ご無事で……どうか兄を……」


 彼女の言葉は少し震えていた。

 胸の前で握った掌も、同じように小刻みに揺れる。


「心配ない。騎士を二人相手に出来る間者などいないさ」


 ジェラルドは出来るだけ気楽に聞こえるように言った。

 事実間者―――スパイの本領は、相手の隙を突いた時に最も効果的に現れる。

 だからこのようにイニシアチブを取り、更には二対一という数的優位な状況で、後れを取るとはとても思えなかったのだ。

 不審者と残されたアーサーが焦れない内にと、ジェラルドは夜営小屋を出た。

 その背中を、母親に会いに小屋の前まで来ていた竜が、不思議そうに見つめていた。




 

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