表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/70

23 共犯者達の語らい

「意地悪ですのね」


 マリエッタは、国王の寛ぐカウチにそっと手を置いた。

 白くすべらかな、白魚のような手だ。

 国王はその手を取ると、慣れた仕草で口づけた。


「何のことかな? 我が妃よ」


「ジェラルドのことですわ。何も知らせずに森へ送り出すだなんて」


「あいつは、少し潔癖すぎる。これから俺がやることを知ったら、間違いなく反対するだろう?」


「それはそうですけど……」


 王妃は苦笑した。

 普段は堂々とした態度を崩さない夫が、まるで彼女を窺うようにこちらを見上げていたからだ。

 その顔は、悪戯が見つかった時の彼の息子にそっくりだった。


「先代の公爵が、己の一族の秘密を娘に伝える前に他界なさったのは、シャーロットにとっても我々にとっても非常に不幸な出来事だった」


「ええ。おかげで貧窮した男爵家は、シャーロットが竜を産む可能性があるなどとは思いもよらず、彼女を嫁に出してしまった」


「人の口に戸は立てられない。アニス商会は必死に隠しているが、我が国に潜む隠密の内、竜が生まれたというニュースを持ち帰った者は少なくないだろう」


「特に南方にあるテュルク帝国は、国土の半分を砂漠が占める灼熱の国。水を産むファーヴニルならば、きっと喉から手が出るほど欲しいでしょうね」


 女でありながら王家を補佐する宰相家に生まれたマリエッタは、政治に明るく聡明な女性だった。

 二人は、共犯者の微笑みを交わす。


「だからこそ、王都にシャーロット・アニスを名乗る女がいるのは僥倖だった」


「ええ。アニス商会の、いっそ清々しいほどのえげつなさのお陰ですわね。わざわざ影武者を立てずに済みました」


「商会には今頃、どれほどの数の隠密が潜んでいる事だろうな? 考えただけで笑えてくる」


「笑い事ではありませんわ。偽のシャーロットの息子は、もう三十回も誘拐未遂に遭遇しているそうです。なんとかしてくれと、嘆願がきていたでしょう」


「もちろん、護衛の兵士は派遣しているさ。守ろうとすればするほど、いい攪乱になる」


 しかしふと、王妃の顔に一滴の不安が滲んだ。


「身代わりのお陰で、この三年森に住むシャーロットには注目が集まりませんでした。本来ならそのままそっとしておくところだったのに、私の病が癒えてしまいましたもの。各国の王たちは、今回のことで竜の存在を確信したことでしょう」


 心苦しそうに言う妃を、王はそっと抱き寄せた。


「それでも、私は君が助かってくれて嬉しいよ、それは息子も、そして我が国民も同じ思いだ」


「あなた……」


「過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ない。問題は、今から何にどう取り組むかだ」


「そうね。言い伝えに従い、我々がファーヴニルを守らねば」


 遠い目をして、王が呟く。


「百年に一度生まれ変わる竜か……。彼は果たして、我々を守る神となるか、それとも滅ぼす神となるのか」


「今は、二人を信じましょう。シャーロットとジェラルドを。我々には、我々にしかできない仕事があります」


「その通りだ」


 夫婦の密やかな会話は、そのまま途切れた。

 ファーヴニル王国の中でも、竜の秘密を知る者はごくわずか。

 彼らの戦いは、もうずっと前から始まっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 婚家と偽シャルが地獄を見る予感。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ