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15 緊張のティータイム


「ああ、慌てないで。楽にしていい」


 国王はそう言うが、その言葉に甘えてリラックスなどできるはずがなかった。

 シャーロットは膝にへばり付いたままのラクスを気にしながら、ドキドキと事の成り行きを見守っていた。

 国王が突然部屋に入ってきた時の礼儀など、習っていない。習っているはずがない!

 だってそんなこと、本来起こるはずがないのだから。


「そう言われて、はいそうですかと楽になれる者はおりません。陛下」


 ジェラルドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 あの恐い顔よりまだ上があったなんて驚きだ。

 いいや、それよりも。


(ジェラルド様、陛下になんて口を……っ)


 シャーロットが冷や汗をかいていると、彼女の予想に反して国王はお腹を抱えて笑い出した。


「はは、ジェリー。言うようになったな」


 国王はまずジェラルドに歩み寄ると、己より少し高い彼の頭をぐりぐりと撫でた。

 ジェラルドはといえば、口の中に更に大量の苦虫を投下されて不機嫌だ。


「陛下。このような扱いは止めてくださいと、一体何度言えば……」


「まあそう怒るな。昔はあんなに懐いてくれていたのに、手厳しいことだ」


「陛下!」


 ジェラルドが声を荒げる。

 どうやら二人はかなり親密な間柄らしい。


「ああ、レディをいつまでも立たせておいて申し訳ない。どうぞ座って。ジェラルド。お前も」


 そう言いながら、国王は二人に先んじてテーブルの余っていた椅子に腰かけてしまった。

 着席を命じられれば、そうしないわけにもいなかい。

 ジェラルドは何か言いたげだったが、素直にその言葉に従った。

 国王と同じテーブルに着くなんて不敬だとは思ったが、迷った末シャーロットも腰を下ろした。


「さあて、何から話そうかな。そんなに固くならなくていい。ここは私のプライベートな空間だから、何かと五月蠅く言うやつらは入ってこれない」


 そう言うと、国王はいたずらっ子のように笑った。

 そうしていると、威厳が薄まって年齢よりもかなり若く見える。


「だからと言って、気を抜きすぎです。大体あなたはいつもいつも……!」


 ジェラルドが声を荒げた時、それを見ていたかのように扉が開いて、今度は王妃が中に入ってきた。

 シャーロットはあわてて立ち上がろうとするが、国王にそれを制されてしまう。

 驚いたことに王妃の手には、ティーポットと四客の茶器を乗せたトレイで塞がっていた。

 ノックがなかった理由はこれらしい。


「いやはや奥さん。流石にそれを一人で持ってくるのは無謀だったんじゃないかい?」


 国王は立ち上がると、妻の手からティーセットを取り上げ、自らテーブルの上に置いて取り分けた。

 シャーロットは呆気にとられてしまった。

 それはそうだ。

 どこの国に、自ら紅茶を配る王がいるだろうか?

 シャーロットは未だに夢を見ているのかと、己のほっぺたを引っ張りたくなった。


「夜会に来ていくドレスの重さに比べれば、ティーセットぐらい軽いものだわ」


 笑いながらそう言って、残った最後の椅子に王妃が腰かけた。

 こうして丸テーブルとセットになった四脚の椅子には、時計回りに国王、ジェラルド、王妃、シャーロットの順で座ることになった。

 こんなに豪勢な茶会があるだろうか?


(もう一度夢の中に帰りたい……)


 ラクスの冷たい背中を撫でながら、心底シャーロットはそう思った。

 王妃が当たり前のように紅茶を注ぎ、各人に前にそれを置いている。

 自分の前にそれを置かれた時は、本当に気を失ってしまうかと思った。


「そんなに固くならないで。いくら国王や王妃と言ったって、自分の手で何もできないわけじゃない。この区画にいる使用人の数は本当に少なくてね、だから私達もこうして労働を厭わないというわけだ」


 そう言いながら、国王は紅茶にミルクと砂糖を投入し、銀のスプーンでくるくるとかき混ぜた。


「紅茶を混ぜることが労働ですか? 随分と楽しいお仕事ですこと」


「おい。茶化さないでくれよ。それにしてもマリエッタ。相変わらず君の淹れた紅茶は最高だね」


 国王は茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばした。

 王妃は慣れた様子だが。その流れ弾に当たったシャーロットは今にも心臓が口から転がり出して紅茶に飛び込んでしまいそうだ。


「お二人とも、いい加減にしてください。シャーロットが困っているではありませんか」


 たまりかねたようにジェラルドが言う。


「い、いえ……」


 そう思いつつ指先が震えて、とても紅茶を味わう気にはなれなかった。

 それは相手の高すぎる地位の他に、先ほどの大広間での出来事が気になったせいだ。


『残念だけれど、そのドラゴンを国内においておくことはできない。無用な諍いの種になるもの』


 すました顔で茶器に口を付ける王妃は確かに、先ほどシャーロットに確かにそう言ったはずなのに。



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