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12 嬉しくないサプライズ

 扉をあけ放ち、転がるように大広間に現れたのは、シャーロットの見知った人物だった。

 つやつやの金髪。蜂蜜を固めたような琥珀の瞳。

 以前見た時よりも少し背が伸びたようだが、それは以前森にやってきた少年に間違いなかった。


「トーマス! 彼女に失礼な口を利くな!」


 少年はシャーロットと侍従長の間に飛び込み、大きく手を広げた。

 フリルがふんだんに使われたアビ・アラ・フランセーズ。光沢のあるサテン地は空色で、そこに細密な金や銀の刺繍が施されていた。そして所々に散りばめられた宝石。

 それは彼の尊い身分を、何よりも如実に表していた。

 いいやそれよりも、玉座の奥にある扉は国王のプライベートスペースへと続く扉だ。そこから出てきたということ自体が、彼がただの少年ではないというなによりの証明だった。


「あなた……」


 驚きで呆然とするシャーロットを、彼はひらりと身軽に振り返った。

 そして目にもとまらぬ速さで彼女に駆け寄り、その手を掴む。


「殿下! 危険です」


 トーマスと呼ばれた老人が叫ぶ。

 しかし少年は気にも留めない。


「ずっと、お礼が言いたかったんだ。お母様の病気が癒えたのは、貴方達のお陰だ。本当にありがとう」


 曇りのない琥珀色の視線に、シャーロットはなんだか無性に恥ずかしくなった。

 羞恥心を紛らわそうと、彼女は少年に尋ねる。


「えっと、あの……どういうこと?」


 しかし、答えたのは少年ではなかった。


「説明は私がしよう」


 そう言って玉座から降りたのは、なんと国王その人だった。

 王妃までそれに続き、こちらへ歩み寄ってくる。

 恐れおののきながら、シャーロットはふと、近づいてくる国王の髪と目が少年と同じ色合いであることに気付く。

 そして優しい顔だちは、王妃にそっくりだ。

 

「我が妻マリエッタは、長く病に苦しんでいた。どれだけ高名な医者を呼び寄せても、決して癒えぬ原因不明の病だ。半年前、もう手立てはないと諦め、私達は別れを覚悟した。私は息子を呼び、母との別れが近いと打ち明けた。すると向う見ずな息子は、黙って城を抜け出してしまったんだ。その息子が持って帰ってきたのが、世界中の魔法使いが欲しがるドラゴンの生血だった」


 国王の言葉を、今度は王妃が引き継ぐ。


「お陰で、私は一命を取り留めることが出来ました。そのことに関しては、心からお礼を申し上げます。本当にありがとう」


 王妃は柳のように細い腰を屈め、シャーロットに対して最大級の謝辞を伝えた。

 末端とはいえ貴族のシャーロットは、それがどれほどとんでもない出来事か、理解したくないのにできてしまった。

 思わず鼓動が乱れる。

 想像していたのとは全く逆方向のピンチだ。

 しかし王妃はすぐに、その優しげな面差しを悲しげなものへとかえた。

 

「……けれど知ってしまった以上、私達は貴方達の存在を放置できません。私が重い病にかかっていたことは、既に近隣諸国の知るところ。それが突然に癒えた理由を、各国の要人たちは知りたがるでしょう。たとえどんな手を使ってでも」


 彼らの話が本当なら、確かに想像通りの事態が起こるだろう。大陸全土の権力者たちが、ラクスを求めて醜い諍いをおこすかもしれない。

 王妃はそう言っているのだ。

 シャーロットはごくりと、生唾を呑み込んだ。

 まだ頭は真っ白で、どんな感情を抱いていいかすら分からずにいる。


「そんな! お礼をするために彼女を呼んだのではなかったのですか!?」


 少年―――王子が悲痛な声を上げる。

 王子は縋るように王妃を見たが、彼女は静かに首を横に振った。


「ですから、私達はある提案をするために、貴方をここへ呼んだのです」


「提案……ですか?」


 パタパタと飛び上がろうとするラクスを、シャーロットは思わず抱きしめた。

 緊張で手が汗ばみ、つるつるとしたラクスの肌を滑った。


「それは一体、どのような……?」


 そして、王妃がゆっくりと口を開く。

 その提案があまりにも衝撃的だったので、シャーロットは思わず倒れ込み、気を失ってしまった。

 ただ最後に、心配そうなラクスが顔を舐めたことだけは、分かったのだけれど。

 

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