6話
「ありがとうございます! あなたは命の恩人です!!」
「いいって。困った時はお互い様だから」
俺は、女の子を拠点に運び、食料を少し分けてやった。
俺のペアも、これくらい感謝する人だったらいいのになあ・・・
「ってかお前、ペアはどうしたんだよ。なんで一人でいるんだ?」
この実習中で、ペアとはぐれているというのは中々珍しいんじゃないだろうか。
多分この女の子と俺くらいのものだろう。
「ペアの方は、数時間前にシェリさんに水晶を奪われてから一人でシェリさんを探し回っています。剣で負けたのがよっぽど悔しかったみたいで・・・」
なるほどな・・・
それで自分よりも身体能力に劣るペアを切り捨てて一人で行動してるってか。
「それでお前はどうしてあんなとこで倒れてたんだよ」
「恥ずかしながら、私サバイバルというものをやったことがなくて・・・ ペアがいなくなってしまい食料や飲み水の確保の仕方が分からなくて・・・」
「冒険者志望ならそれくらい出来るようにならないと生きていけないぞ?」
「はい・・・ これから勉強します・・・」
しゅん、と落ち込んだ女の子は情けなさそうに瞳を潤わせた。
でも、結構可愛い顔をしてるな。この子。
桃色の艶やかな髪はツインテイル状に整えられており、大きな瞳は澄んだ蒼色をしている。
そして・・・ 胸がとても大きい。
身長は150あるかないかくらいなのに、その胸は反則だろう・・・
「流石に身長と胸の大きさが見合ってなさすぎだろ・・・」
「えっ!? えっ!? 急になんてこと言うんですかっ!?」
女の子が顔を真っ赤にして身構える。
やば!? 今声に出してたか!?
「ご、ごめん! 正直に見たままの感想だったんだけど口に出すつもりはなかったんだ!」
「余計悪いですよ!? そこはせめて優しい嘘をついてくださいよ! ヘンタイ!」
「そ、そうか! じゃあそんなことはまるで思ってない! 冗談だ!」
「もう遅いですよ! うう・・・ 馬鹿・・・」
女の子は身体を悶えさせ、更に顔を真っ赤にさせる。
もう顔の色は赤を通り越して紅っぽい色になっている。
いや・・・ まあ俺はその色の違いわからないんだけど・・・
「まあ・・・ 助けてもらったことには変わりありません・・・ 許します・・・」
いや、涙目なんだけど・・・
「そ、そうか。ありがとう・・・ 本当にごめんな・・・」
女の子はもう忘れろと言わんばかりに俺を睨む。
「まだ名前。聞いてないんですけど」
不意に女の子がそんなことを言う。
声のトーンは完全に怒ってるっぽいけど顔は未だに真っ赤なままだ。
「おう・・・ 俺はサイカ・ピスタだ。君は?」
「同じクラスなのに覚えてないんですか!?」
「いや・・・ 君だって覚えてなかったじゃないか!?」
これは怒っていい。絶対俺は悪くない!
「な・・・ あんなセクハラ発言をした後で私を糾弾するんですか!? 国の兵士に言いつけますよ!」
「いや、それはおかしいだろ!? しかも許してくれたんじゃなかったのかよ!?」
「も・う・い・い・で・す! 私はティア・フローレンといいます。忘れたりしたらブチ殺しますから!」
そんなツーンとした態度で自己紹介されてもな・・・
名前を呼んだら通報されるような雰囲気だぞ今・・・
「よ、よろしく・・・ えっと・・・ ティアさん?」
「ティアサンじゃありません。ティアです」
「えーっと・・・ ティアさん?」
「ティアです」
「・・・ティアさ」
「兵士を呼びますよ」
「分かりましたティア!」
「よろしい」
危なかった。
選択肢を間違えたら俺は死んでいた。
「あと敬語もやめてください。同じ学年ですから気を使わなくても平気です」
君だって敬語じゃないか・・・
と言っても無駄なんだろうなあ・・・
「・・・君だって敬語じゃないか」
「兵士を呼びますよ」
「分かったよ・・・」
「え、呼んでいいんですか!?」
「そういう意味の分かったじゃないぞ!?」
俺・・・ かなりヤバい奴と関わってしまったんじゃ・・・
と、後悔しても今更遅いのだろう・・・
「それで・・・ これからティアはどうするんだ?」
「とりあえずペアの方を探してみようかと思います。このままずっとサイカさんのお世話になり続けるのも悪いですし」
「そっか・・・ まあそれがいいだろうな」
俺も兵士に通報されるのが怖いから早く出て行って欲しいよ・・・
なんて言ったらきっと殺されるな・・・
「ところで、サイカさんは何故ペアとはぐれているんですか?」
「ああ、まあちょっと喧嘩になっちまってな。それだけ」
「そうですか・・・ サイカさんはこれからどうするんですか?」
「なにもしないよ。このままここでタイムアップを待つ」
そう言うと、ティアは驚きに満ちた顔をしていた。
「待つって・・・ 水晶を取りに行かないんですか!?」
「いや・・・ 別にここでいい成績を残したって早く卒業出来るだけだろ? どのみち全員卒業はするんだから早い遅いの違いだけじゃないか」
そう。実際はいい成績を残したって早く卒業出来るかどうかの違いだけなのだ。
俺は平穏な人生を平凡に生きる。そういう風に決めたんだ。
「早く卒業して冒険者になりたいと思わないんですか!?」
ティアは俺に詰め寄る。
その表情は怒っているような悲しんでいるような表情だ。
「ティアは・・・ なりたいのか?」
「私はなりたいですよ・・・ 冒険者にならないと私の夢は叶わないから・・・」
「そっか・・・ 失礼じゃなければ、その夢というのを聞かせてくれないか?」
ティアは少し涙ぐみながら、それを語ってくれた。
「私の夢は、テンペスドラゴという魔物をこの世から絶滅させることです」
「テンペスドラゴって・・・ 討伐レベル10の魔物じゃないか!?」
魔物には、討伐レベルという強さを測る為のレベルがある。
最低が1で最高が10だ。10のレベルの魔物は、災害級とも呼ばれ、1匹で冒険者を何万人も殺す程度の力を有している。
「そうです・・・ それがどうかしましたか?」
「どうかって・・・ 危険過ぎるぞ。災害級は一人の冒険者がどうこう出来るものじゃない。それに、なんでテンペスドラゴを絶滅させようだなんて・・・」
災害級の魔物を相手にしたら、ほぼ確実に命を失うことになる。
なので、普通は自分から攻撃を仕掛けたりなんて間違ってもしない。
しかし、ティアはその災害級の魔物を自ら討伐する、と言うのだ。
一体何故そんなことをしようとしているのか・・・
「私の両親は・・・ テンペスドラゴに殺されました・・・」
「・・・そうなのか」
なるほど。だからそんな危険なことをしようとしているのか。
短期間で卒業したがっていたシェリさんも、同じような理由があるのかな・・・
と、ふとそんなことを考えていた。
「今日は俺の拠点に泊まっていけよ。明日からまたゆっくりペアを探せばいいさ」
「・・・いいんですか? 私がここにいても」
「別に構わないよ。ここでティアを放り出したら心配だしな」
ここまで深く関わってしまったらもう他人にはなれないだろう。
まあ一晩一緒に過ごして通報されるのだけは勘弁願いたいが。
「そうですか・・・ サイカさんは優しいんですね。ありがとうございます」
少し照れながら微笑んだティアは、とても綺麗だった。