3話
入学初日から一日。
自分の陣取った部屋で目を覚まし、リビングに行くとシェリさんはもういなかった。
おそらくもう校舎に向かったのだろう。
ここに来る前に買いだめておいたビスケットのような保存食を食べ、支度をして遅刻ギリギリに校舎に駆け込んだ。
生徒はもう全員着席している。これから1時間目の講義が始まるようだ。
「では、1時間目はオークの生息地と特徴についてです。魔物図鑑の2ページを開いてください」
教室を見渡すと、廊下側の後ろの方の席に、昨日の女子生徒が真剣なまなざしで図鑑と睨めっこしていた。
あの子もうちのクラスだったのか。バレずに済んで助かった・・・
勝手に一人で安堵しつつ、講義に没頭した。
「2時間目は外で実習だ~。専用の服に着替えろよ~」
1時間目の講義終了のチャイムが鳴る。
オークに関しての講義が終わり、2時間目は外で「剣」の実習だ。
まだ初めての授業だから真剣は使わないにしても、それなりに危ないから支給された防護服を着て実習を受けなければならない。
遅刻すると補習があるそうなので、早く着替えて外に行かなければ。
この学校は校庭がとても広く(銃の実習などもあるので、広くなければ実習が容易ではない)、剣の実習エリアは走っても5分くらいかかる。
授業休みが10分なので、5分で着替えなければ間に合わない計算だ。
チャイムと同時に滑り込み、教師の見本の演舞を見学する。
「と、まあこんな感じだ。剣を振る時は肩の力を抜き、手首をしならせるようにして振るといいぞ」
やはり教師だけあって型が綺麗だ。姿勢が恐ろしいくらい整っている。
振るっているのは真剣ではなく、木刀であるのに、空気を切り裂いているかのような風切り音が聞こえる。
剣の単位を落とさないレベルには練習しておかないとな・・・
銃がメインの武器である俺にとって剣は苦手過ぎる。
このままでは卒業出来ずに親父から蜂の巣にされそうだ。
と、卒業最低ラインの考えをしていた俺の横で、教師の演舞すら凌駕するような演舞をしている生徒がいた。
「うわ~・・・ シェリさんの演舞超キレー」
「あれ、歴代最高クラスじゃない?」
「1年で卒業する超エリートの中に入るんじゃないかな~」
シェリさんだ。
綺麗な金髪を揺らしながら力強く剣を振るう姿は、とても勇ましく、凛としていた。
「今年は凄い一年が入ってきたな・・・」
教師も震えるほどの逸材なんだろう。
とんでもない奴がルームメイトになっちまったな・・・
「うぅー・・・木刀重い・・・」
そして昨日のカツアゲ事件女子生徒よ・・・
お前はどれだけヘボいんだ・・・
「では今日も一日お疲れさん。また明日元気に登校してくださいね。さようなら~」
剣の実習の後も、冒険者の心得や、過去の偉人冒険者の暗記など、色々あってようやく下校時刻になった。
昨日は結局購買に行けなかったし、朝から保存食しか食べてないからお腹が空いた。
とりあえずは寮に荷物を置いたら購買に行こう・・・
寮へ入ると、もうルームメイトが既に帰宅していた。
「貴方の剣の演舞、最高に下手くそでしたわね!」
堪えきれない、というような笑みをこぼしながらシェリさんは言う。
「うっせ、ほっとけ」
まあ確かに俺は銃以外はからっきしダメだ。
その銃ですら下手に見せようとしているから、落ちこぼれ中の落ちこぼれだろう。
「まあ購買に行ってくるわ、腹減ったし」
「じゃあ、わたくしは予習でもしていますわ」
勤勉なこった、コイツは俺と違ってエリートなんだろうなあ。
そう口に出しそうだったが我慢した。
「よし・・・今日はあのグループいないな」
購買付近に来たが、今日はカツアゲ紛いのことは行われていないようだ。
購買の中には、剣や銃に防護服、生活用品や雑貨、食べ物や雑誌まで、全てにおいてパーフェクトな品揃えだった。
「これは・・・凄いな。とりあえず色々買いだめしておこう」
食べ物に雑貨、あと雑誌も数冊買っておいた。
店員は、妙に仕事慣れしたオバちゃんでお釣りの計算が神レベルに早かった。
通貨は主に、金貨・銀貨・銅貨で使用されている。
「はい毎度あり。今日はお楽しみにね」
含み笑いをしたオバちゃんから品物を受け取り、購買を後にする。
察しがいい人はお気づきかもしれないが、購買に売っている雑誌にはエロ本も売っている。
まあ俺が何を買ったかはあえて言明しないけど。
・・・違うんだ、しょうがないんだ。
あんな美少女と一緒に暮らすことになってみろ、人生が変わる。
だから俺は常に賢者でないといけないんだ、これはしょうがないんだ。
男の子特有の、エロ本購入した後に誰に言ってるわけでもない自分自身に対しての言い訳を心の中で反芻しながら店を後にする。
「あ・・・あの子は・・・」
店の近くで、昨日のカツアゲ事件女子生徒を発見した。
改めて見ると、結構可愛い顔立ちをしているな。
身長は目測150cmもないが、おかっぱ風の黒髪に、大きくて可愛らしいパッチリした目をしている。
あれだな、大きいお友達が好みそうな外見だ。
まあ向こうは俺のこと知らないはずだし、このまま何事もなく通り過ぎよう・・・
俺は何食わぬ顔をして彼女の横を通り過ぎた。
しかし、何故か見られているような気がしてならなかった。
・・・いや、まあ同じクラスだし当然か?