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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第1章 アイドル力1000の少女とナルシストアイドルの少年
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第2ステージ ステルスクラスメイト

 透き通るような声。

 目の前の少女は岸島狐子と名乗った。俺はしかしその名前よりも先にその声を覚えていた。

 そういえば・・・1年生のころの音楽の授業にとてつもなく綺麗な歌声のクラスメイトがいたような気がする。たぶん、この目の前の生徒だろう。

 しかし覚えている顔と微妙に違った。そう、確かその頃この岸島狐子はメガネをかけていなかったような気がするのだ。おそらく、なんらかの理由でコンタクトがつけれなかったのではないか、と考えられるが・・・それにしても。

 それにしてもなんというか失礼だが存在感がなさすぎだ。こんなに綺麗な声なのに、俺も今日まで忘れていたし・・・俺もクラスでは目立つ方ではないが、岸島狐子はその比じゃないくらい地味だ・・・。

 ちなみに俺本人はクラスでは目立たないと思っているが、かなり悪目立ちしているらしいことを数少ない友人から教えられた。あまり関わった事の無い岸島狐子が俺のことを覚えていたのもそこらへんが関係しているのだろうか。

 再び、岸島を見る。

 どうやら一緒に中庭に来ていた友達に先に行っていてと言っているようだ。


「俺は五百蔵果月いおろいかづきだ。よろしく、そしてすまん。言い訳にしかならないと思うが本当に人の名前を覚えるのが苦手なんだ。今、しっかりと覚えた」

「う、ううん、気にしないで。その・・・私、あんまり目立たないから」

「・・・・・・」


 それに関して何か言った方がいいのかと思ったが、本人も特に気にした風な感じではない。もはや当たり前の事実として自分が目立っていないことを自覚しているのか、何も思うところがないようだ。

 しかしそれよりも俺は咄嗟にドル・ガンを向けてしまった言い訳をしなければならない。なにしろ勝手にアイドル力を計測するのは違法だ。未遂とはいえ気分のよいものではないだろう。例えるならば携帯のカメラを向けられるようなものだ、しかもあんまり関わりのないクラスメイトに。


「あのだな、岸島。さっきのことなのだが・・・」

「あ、その・・・大丈夫だよ。偶然というか・・・ま、間違っちゃったんだよね」


 岸島もしどろもどろ。

 顔を赤くして大きく手を振る。どうやら話すのが苦手なようである。とはいえ、友達と一緒にいるときはそうでもなかったのだが、慣れない相手だとこうなるらしい。

 顔も緊張しているのかどうにもかたい。

 ふと、俺は岸島の笑った顔を見たくなった。メイクをする者としてなのだろうか。地味であまりメイクをする気も起きないが惹かれている理由は見た事の無い顔を見てみたいという興味本位から来るものなのかもしれない。

 岸島は友達を待たせているわけだし、俺はそこらへんに注意しながら手っ取り早く話を進めた。


「岸島、笑ってみてくれないか?」

「えぇ!?」


 進めすぎた。

 なんと言ったものか・・・と言葉を選ぶ。自分の興味のため、笑った顔を見ていないクラスメイトの笑顔が見たいなど失礼にもほどがある。実験体みたいなものなのだ。

 しかし岸島は。


「こ、こうかな・・・」


 下をうつむきがちなのは変わっていないがなんとか笑顔を作っている。

 が・・・なんというか・・・。


「なんだそれは・・・」


 それは笑顔ではなかった。無理やり笑えと言われた末路。それが岸島の顔に浮かびあがっていたのである。ひどく反省した。笑えと言われて笑えるような人間なんかいない、と。それこそごく一部の撮影慣れしているアイドルだけなんだ、と。


「わ、笑えてたかな・・・」

「いや、すまん。色々とほんとすまん」


 謝ることしか出来ない。

 しかしそれに気にした様子も無く、えへへと笑いながらまた下を向いてしまう。なんだかもったいないと思った。しっかりと前を向いていればそれなりに印象も変わるだろうに。

 しかしほぼ見ず知らずの俺の言う事にも特に反論せず応えてくれるあたりとてもいい人なのだろうと判断出来た。


「ん?そういえば、岸島はドル・ガンのこと知っているのか?」


 ふと思い出したこと。

 先ほどドル・ガンを向けたときに確かきちんと岸島はドル・ガンと口にしていたはずだ。


「し、知ってるよ。と、というより世界のほとんどそしてこの学園の生徒ならほぼ全員知ってると思う・・・蝶野さんもいるし・・・」


 んん?とまた唸る。


「蝶野紡のことも知ってるのか」

「さ、さすがにそれは学園全員が知ってると思うよ・・・」


 がっくりといった擬音が似合うような肩の落とし具合で岸島は言った。

 その拍子でメガネが少しずり落ちるものの、慌てて岸島はかけなおした。その動作を見てふむ・・・と少し考え込む。

 すぐに考える事をやめ、再び岸島を見た。


「蝶野紡のファンなのか?」

「え、えーと・・・ファンというかなんというか・・・。友達が好きだから一緒に見に行ったりするってだけかな・・・き、今日も話しかけようと思ったけど・・・五百蔵くんがいたから思わず隠れちゃったんだ、なんか恥ずかしくて」


 というと今朝の出来ごとか。

 なんだ、あの場に岸島もいたのか。


「た、確か五百蔵くんの家って美容院なんだっけ・・・」

「うむ、一応そこのアイドルもやっている」


 しかし俺のアイドル活動は地味なものだ。それこそ雑誌に載って自分の家のことを宣伝するぐらい。アイドルとしての活動が苦手、というより嫌いなのだった。だからこそ岸島もうろ覚え程度の認識だったのだろう。


「その・・・蝶野さんのメイクとか髪型とかってやっぱり五百蔵くんから見てもすごかったりするの?」


 たぶん気をつかったのだろう。自分と相手、両者に共通または相手の話しやすいような話題を選らんだのだと思う。それに対し、ありがたいと思いつつ珍しく誠実に答えた。


「ああ、正直な」


 なんだか岸島に対して意地を張る必要もない、という気分になってしまったのだ。

 口がペラペラと動き出してしまう。


「今日初めて生で蝶野紡を見たんだが、正直手をつけるというか、自分があの人を綺麗に、可愛くすることなんか出来るのかなんて思ってしまった。そう考えると今現在専属メイクとして働いている人物は凄まじい人物なのだろうな、と思う」

「そっか・・・」


 岸島は何も言わなかった。

 現在それについて悩んでいるということを察知されたのだろうか。ここで外野がどう言おうと俺のためにはならないと瞬時に気付いたのだとしたらすごい気のつかいようだ。

 しかしそんな岸島も・・・。


「わんちゃん・・・!」


 先ほどドル・ガンで計測した野良犬がまだいたらしい。それを見つけた岸島はしゃがんで犬の目線に合わせる。じっと見ながら「可愛い・・・」と呟いていた。触ろうか、でも触ったら怖がられるんじゃないかとずっと迷っているみたいだが・・・。


「なんだ・・・ちゃんと笑えるじゃないか」


 しっかりとした笑顔がそこにはあった。その呟きは聞こえなかったのか岸島はひたすら犬を見ている。その姿にまたは惹かれるものがある、そう思った。

 なんだろうな、この感覚は。どうにも岸島のことが気になるみたいだ。

 すぐに思考を切り替える。

 俺はまたさっきの話を思いだした。


「一体誰がやっているんだろうな・・・」


 と、蝶野紡の専属メイクについて考えたのだ。

 その一言はとても小さいものだった。独り言のつもりだったのだが、今度はそれに岸島はきちんと応えた。応えてしまった。


「あ、あの・・・た、確か公開してたはずだよ・・・えっと確か・・・杵島透きしまとおるだったかな・・・」





 綺麗なピアノの音だった。

 踊るような楽しげな音。きっと弾いている本人もさぞ楽しいに違いないと思われるそんな音。コンクールとかで発表されるような綺麗でシュッとした音ではない、しかしそれでいい、それがいいと開き直っているようで聴いているこちらも笑顔になってしまうような音がこの第2音楽室に響いていた。


 第2音楽室というようにこの広い敷地内に音楽室はいくつかある。ここは授業などでも使われないような教室だった。

 時刻は放課後。常光学園は特殊な学校のため、授業終わりの時間が少しはやいためまだ日も暮れていない。グラウンドからは部活に打ち込む声などが聞こえて来て、今日の終わりを告げていた。


 そんな音楽室に2人の生徒。

 1人は五百蔵果月、俺である。そしてもう1人、ピアノを弾いている人物である少女がそこにいた。綺麗な金髪でそれをツインテール、2つにまとめている。日本人の顔ではあるが、彼女はクォーターだった。祖母が外国の人なのだ。その部分が綺麗な金髪に現れている。


「うむ、今日も見事な演奏だった。俺のためにごくろう、月見里百やまなしももよ」

「だからあんたのための演奏じゃないって何度も言ってるでしょ馬鹿」


 いつもの俺の傲慢な物言いに親しい感じで返す百。

 百の家は楽器を扱っており、全国に支店を持つ『楽器百貨店』という名前のお店だ。新品から中古まで、いろんな国特有の楽器も扱っており、音楽好きならば必ず知っていると言われるほどに有名だった。

 百はそこのアイドル、『楽器百貨店』のアイドルなのである。

 しかしアイドル活動はほとんどせず、こうして放課後は自分の好きなように楽器を演奏し、家に帰ると家の手伝いをしているのだ。


 アイドル活動を好まないという点で俺たちは仲良くなり、中学の頃に出会ってから今現在までその友達としての関係は続いている。理由は違っても、どこか俺たちは似ているのだった。


「あたしの演奏はあたしだけのものなの。あんたのような何も知らないド素人のために弾いたりなんかするわけないでしょ」


 実はこういう傲慢というか自己中心的な考え、性格も似ているのではと思うのだが、本人は認めない。そこらへんも意気投合した理由だろうと自分のことながら思っている。


「というかいおくんこんなところで油うってていいの?蝶野紡の専属メイクになってやる~とか馬鹿みたいなこと口走ってたけどあれはどうなったわけ?諦めたの?」

「いおくんはやめろ。それ嫌がってるの分かってて言ってるだろ。それとあれはもうやめた」

「いいの。いおくんで。へーやめたんだ・・・って・・・・・え?」


 適当に言った言葉だったのだが、まさか的中しているとは思わなかったのだろう。

 諦めた、ではなくやめた、というあたり俺らしさが出ている。俺の口からやめた、とこいつの前でいったのは初めてかもしれない。

 俺は自分の腕に自信を持っている。それがメイクのことならば尚更だ。だからやると言ったことは諦めず、やめず、挑み続ける。だから今回の蝶野紡専属メイクもきっといつか叶えてしまうのだろうと思われていたのかもしれない。なかなかいい心意気だが・・・。


「百、勘違いするなよ。俺は蝶野紡の専属メイクを諦めただけで本来の目的を見失ったわけではない」

「で、でも・・・いおくん絶対諦めたりしないような性格してるじゃない。一体どうしたらそんな弱気なことになるのよ」

「蝶野紡専属メイクは杵島透だそうだ」

「!?」


 百は目を見開いた。

 俺も本腰入れてアイドルについて調べだしたのは最近の事である。去年はメイクの仕方などに明け暮れていたからだ。それに負けず劣らず、百もアイドルについては疎い。自分以外のことはどうでもいいと思っているのもあるだろう。そもそも興味がないのだ。

 だから2人とも今日まで杵島透という存在を見逃してきた。

 ピピッズキューン。間の抜けた音がする。


「・・・・・なに勝手にアイドル力計測してんのよ」

「引き金が簡単に引けたということはお前も許していたのだろう。アイドル力1万7000か。相当なものだな、テレビに出ても違和感がないレベルだぞ」

「そういうあんたも1万5000はあるでしょ、お互い様よ」


 ドル・ガン。

 楽器屋である百の家にもある品物だ。


「これから考えなきゃいけないことがたくさんあるんだ。そんな俺の気晴らしだと思って許してくれ」

「いつもなら怒ってるところだけど、今日ばかりはしょうがないわね」


 本当にしょうがない。

 そう呟いた。

 しかし本題に入る前に少しでも場を盛り上げたいのか、俺はさらに脱線した話をする。


「百、岸島狐子を知っているか?」

「いおくんのクラスの子でしょ?委員長の。あたしもあたしのクラスの委員長だから委員長会議でたまに会ったりする程度よ。でもいおくんよりその子のこと知ってる自身がある」

「それはひどいな」


 一応同じクラスだぞこっちは、とは口が裂けても言えなかった。なぜなら先ほどまで同じクラスだということすら知らなかったのだ。


「岸島は小さいころアイドルになりたかったそうなんだ」

「ありがちな話ね。このアイドル時代、ほとんどの女子はそうだと思うけど。確かに岸島さんって綺麗な顔をしているわよね、あんまり見えないし、地味なイメージがあるけど」

「ああ、本当にな。・・・というか俺もそうだがお前も大概失礼だな。・・・・岸島も今はすっかり諦めてしまっているようだったが・・・俺は少し考えてみたんだ、あいつの岸島狐子の需要について」

「そこでさっきの話と繋がるのね」


 百ははっと閃いたような顔をした。

 その閃きは当たっている。俺は重々しく頷いた。


「俺は杵島透に勝ちたいんだ。絶対に。でも俺は自分の腕に自信があるし、自分のことが好きだし、自分の技術で出来ないことはないとさえ言える。でもこのままじゃ俺は杵島透に勝てない。俺自身もレベルアップが必要なんだ」


 その続きを引き継ぐかのように百も加わった。


「蝶野紡の専属メイク権を杵島透から奪うためにひたすら練習するだけじゃ経験が足りないということね。だから最終的に奪うにしてもその前段階として自分の経験を積むための実験体であるアイドルが必要だと」


 ただ、イメージしていたり、練習するだけじゃ経験としては足りない。きちんと本番をむかえるアイドルのメイクをすることによって経験が積まれる。

 自分が好きではあるが、だからこそ自分の技術については一番詳しい。だからすぐに杵島透には今のままだと敵わないと悟ったのであった。


「もう奪うつもりはない。俺のメイクしたアイドルがあの蝶野紡に勝つ事で自分の技術のほうが勝っていたという結果をたたき出す。例えば、アイドルですらなかった少女が蝶野紡にアイドルとして勝ってしまったらそれはそのアイドルの専属メイクの実力も認めざるを得ないだろう?」


 アイドルとして勝つということはそのアイドルよりも人気が出たり、オーディションを勝ちとったり、さらには歌や踊りがそのアイドルより出来たり、などなどたくさんの要素がある。


「はっきり言って無謀ね。まだ蝶野紡の専属メイクになるほうが現実的だわ」

「そうだよ、だからこそ燃える」


 まぁ、そもそもあいつがすでにアイドルをやっている可能性も否定できないんだがな。。それにこれはさっき思いついたばかりのものだ。正直不安要素しかない。一度自分の中で考えをまとめつつ、きちんとあいつに話すべきだろう。


「とはいえ、何もないわけではない。俺はなぜかあいつに惹かれるんだ。どうしてかは分からないが俺の目は確かなはずだ。きっとあいつには何かある。俺のドル・ガンを向けてしまう癖も出たしな。俺はさっき初めて知り合ったという感覚だが、一応付き合いも1年以上あることになる。さっき会話をしてくれたのもその部分がでかいんだろう」


 冷静に分析を続ける。


「普通ああいうタイプの女子は少し知っている程度の人間とも話がしにくいはずだ。それでもあそこまで話してくれたのは1年以上の付き合いがあるからに決まっている」


 そして1つの結論を出した。まだ仮定である結論を。


「俺はあいつ、岸島狐子をアイドルしてプロデュースする。そして蝶野紡に勝つ。絶対に勝って、俺の腕を認めさせてやる・・・!」

読んでいただきありがとうございます。


タイトルがかなり迷走していますが、アイドルタイムのところは変えるつもりがないのでそこを検索していただければと思います。


関係ないことかもしれませんが、文章が3人称視点なのは後々にアイドル同士女の子のみの話を書いてみたいと思ったからです。一人称だとどうしても主人公である五百蔵果月を出さなければならないので。


よければまた次回もよろしくお願いします。

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