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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第3章 ユニット結成騒ぎ
26/29

第25ステージ 『Rest Day』初ライブ③

「ありがとう!」


 ステージ上で穂豊がマイクを持ってそう叫ぶ。

 晴天ということもあり、気温も高い。穂豊はもう汗だくだ。しかし汗だくなのは穂豊だけではない。ステージ袖から見える客席にいる観客たちもみんな汗だく。

 それぐらい楽しんだということなのだろう。


「それではここで少し間があいてしまうけど、今日デビューのユニット『Rest Day』がライブをするよ!私一押しだから見て行って下さいね!」


 そんな本音なんだか、仕事なんだかわからないセリフを言うとこちらのステージそでへと帰って行く。そして驚愕したように目を見開いた。

 声は聞こえなかったがきっと「なんでもうあんたたちがいるの」そんなようなことを呟いたのだろう。


「岸島、御鏡、いけるか」

「う、うん・・・」

「うっす」


 そして俺は御鏡の方を見る。御鏡の首には何か端末のようなものがぶらさがっていた。それを大きな枕で包み込んでいる。

 今回のテーマは寝起きということでそれに合わせて枕でカムフラージュしているが、この端末は実は無線で照明や音響などをいじれるというものだった。


 もちろん御鏡1人ではどうしようもないので照明には照明さん、音響には音響さんがきちんとついている。ただ細かい部分はその都度その都度御鏡の判断によって変えることができるのだ。


 スカーレットは自分や相手のアイドル力を見て自分に有利なようにその場で判断できるのに対し、御鏡はその場で照明や音響をいじることができる。

 打ち合わせよりも盛り上がりがほしいときは照明をバンバン動かしたり、現場も現場。ステージ上でそれを変化させるのだ。


 これが『創造クリエイト』。


「今お客さんはかなり盛り上がっている。少し予定とは違うが一気にステージに行ってくれ。観客への呼びかけは曲の後に変更だ。いきなり曲をかけるから・・・最大に盛り上がるやつを最初に持ってきてくれ、もちろん・・・曲に合うやつだ」

「うへえ・・・大変そうっすね・・・」

「難しいか?」

「いえ、やってみます」


 そのセリフをきき、俺は思わず笑う。

 そして色々なスタッフに合図を出した。カウントダウンが始まる。


「岸島、御鏡。お前たちの努力はしっかりと見て来た。俺のそのメイクを落とす勢いで汗をかいて暴れてこい」


 メイクが崩れてもいいように少ししかしていないが、帰って来てみたらスッピンみたいな展開が望ましい。そしてみんなで笑うのだ。その姿を見て、安堵して。


 3


 2


 1


 曲がかかる。

 テーマは寝起き。ではあるのだが、その曲調は激しく、どこか耳の残るものとなっている。完全に穂豊の趣味が若干入っているのだが、俺もそれを気にいっている。


 御鏡がステージに登場しながら端末をさらさらっといじる。スマートフォンかなんかで遊んでいると思われがちだが、そこはうまいこと枕で隠しており、観客は小道具の1つだと思っているらしい。

 しかし不意打ち気味に始まったその曲に観客は驚きながらも・・・少しずつのり始めていた。


 どうやら10分間休憩の廃止はうまくいったらしい。

 ここからはパフォーマンス次第だ。


 穂豊よりも目立つような衣装ではないが、パジャマっぽい衣装と可愛らしい帽子がとてもアイドルらしい。穂豊がセクシー路線ならこちらは王道、可愛い路線だ。

 ダンスも2人ということでとても映えている。1人だとまだ余ってしまうステージではあるが、2人だと満遍なく使えているような気がした。


 ユニットの強みである。


 曲名は『おやすみから始まる日』というものだ。

 正直これだけだと徹夜して朝に寝る人物という印象を受けるのだが、歌詞自体は可愛らしいものになっている。朝起きなければならないことへの文句を可愛らしく書いてあり、最後には2度寝してしまうというもの。


 なぜこのタイトルになったのか、というと会話の流れで「2度寝って休日にしかできないよねなかなか」という話題になった時にふと思いついたものだった。

 『Rest Day』にしかできないという響きがいいね、ということだったのだが、『Rest Day』は一応造語である。


「すごいな・・・」


 思わずそう呟いてしまう。

 ダンスの動きや、観客の盛り上がりに合わせて御鏡は気付かれないように端末をいじっている。踊りながらやっていることもそうだが、そのダンスの中に端末をいじる動作を綺麗に入れていることがすごい。


 ステージすそからではよく分からないが、観客はとても臨場感のあるステージを見ていることだろう。ここに盛り上がりが欲しい、というところに照明を動かして当てたり、音を変える。


 今も朝っぽくするために全体的に青の照明に一部白い照明をあてて青空の太陽を表している。もうここまで来ると一種のアートのようだった。


 そしてすごいのは御鏡だけではない。

 ステージ前の会話を思い出す。


『歌子ちゃん・・・その・・・私のことはあまり考えないでステージをいじってほしいの・・・』


 御鏡は岸島のことを考えながら岸島が合わせられるように照明などを動かしていた。それに対し岸島が言ったのはこのセリフ。

 岸島に合わせるとどうしても1秒ぐらいズレが生じる。そしてそれは致命的になるかもしれないと思ってのセリフだった。


 しかしそれをなんとかするためには御鏡のその場その場の動きに岸島が合わせなければならない。それはとても大変なことだ。

 歌は上手い岸島ではあるが、ダンスは人並み。苦労するだろうと思っていた。だから俺は止めたのだ。それは厳しい。逆に合わせられなかった時の方がズレは大きくなってしまう、と。


 でも・・・。


「この様子なら大丈夫かもしれないな」


 2人ともとても楽しそうだった。

 汗をかきながら、忙しそうにダンスを踊っているが、顔は笑顔だ。俺はこのライブの成功を確信した。

 

 初めてのライブ。

 今までのことがフラッシュバックしてくるが・・・。


「あまりいい思い出がないな・・・」


 急に冷静になる。


「驚いた」


 そこに来たのは汗をタオルでぬぐいながらこちらに来る日香里穂豊だった。

 言葉は驚いていたが、顔には笑顔が浮かんでいる。


「まさかこういう作戦に出るとはね」

「誰のせいでこういう作戦になったと思っている」

「はは」


 穂豊は楽しそうに笑う。

 穂豊はここから見える観客席を見ながら。


「というか君たちは不安に思ってたっぽいけど私のファンが途中で帰るなんて失礼なことするわけないでしょう、甘く見ないで」

「どうやらそのようだな」

「ま、その後のライブが面白いかどうかはおまけしてくれないだろうけど」


 そう言って笑う。

 恐らく褒めてくれているのだろう。今こうして観客が盛り上がっているのはファンのマナーがいいのではなく、岸島や御鏡の実力だと、そう言ってくれているのかもしれない。


「しかも歌子も楽しそう。あの子あんまりアイドル活動に前向きじゃないから」

「ああ・・・それは・・・」


 大分前にした楽に稼ぐ方法のおかげかもしれない、とはさすがに言えなかった。


「もうそろそろ終わり、か」


 俺は目に焼き付ける。

 この光景を。しかし・・・これが最後の光景になってはいけない。これから蝶野紡に勝つまで・・・岸島サイクリングが再興するまで何回も何回もこの光景を見るのだ。


「見続けてやる、最後まで」





「林檎・・・」

「・・・・・」


 客席にいた林檎と梅はステージに見入っていた。穂豊のライブはとても盛り上がるような内容で林檎も自分より実力が上だと認めているのか楽しんだ様子ではあったが、今はステージを睨むように見ている。

 その様子を見て梅はため息をついた。


 はっきりいってプロの目から見てもそのステージはなかなかのもので、特に端末操作をしている方の人はステージ全体、客席全体を把握出来るだけの能力を持っている。

 しかしそれをしっかりと理解している者は恐らくここにいる2人とスカーレット、恵ぐらいだろう。


(あの子・・・客席に端末操作を気付かれないように踊りの流れに操作を入れている・・・ちょっと驚いたかも・・・)


 梅は静かにそう思う。

 しかし林檎の心境は対照的だった。


(な・ま・い・き)


 小さく呟く。

 ステージ全体を見ると確かに小さなものでやはりそこはプロのアイドルに勝てるはずもない。しかしそれは当然のことであり、そもそも争うところではないのだ。

 

 しかし御鏡のそれはプロでさえも唸らずを得ない。

 岸島も頑張ってはいるのだが、御鏡のそれと比べると少しだけ地味にうつってしまう・・・が、そういうように見ているのは関係者で、客席のファンはきっと岸島の方が目立って見えただろう。


「そうやってしっかりと立ち位置も理解している・・・ほんっと生意気」


 「ちっ、ブログ書くのけってーい」と言いながら携帯電話を取り出す。メモ帳機能のアプリにしっかりと『Rest Day』と打ち込み後々記事を書くのだ。要するに恨み帳である。


「本当に、何も変わってないわね」


 声が聞こえた。

 林檎は内心、(しまった・・・さっきの聞かれた・・・?)と猫を被っている身としてはそこが心配になったのだが、すぐにその考えを改める。

 横にいたのは見知った顔だったからだ。


「月見里・・・百・・・いつからそこにいたの」

「別に最初からいたわよ」


 百はそっけなくそう答えた。

 まわりはライブで盛り上がっており、曲も流れている。しかし2人の言葉はしっかりとお互いの耳に届くぐらいはっきりとしていた。


「このライブ・・・プロには負けるかもしれないけど、あなたよりはすごいでしょ」

「・・・・・はあ?なんでそう思うわけ?アイドル界から逃げた癖して何が分かるっていうの?」

「メモ帳、開いてたからよ」


 そう言って百は林檎の持っていたスマートフォンを指差す。


「あなたより下手なアイドルをブログで馬鹿にするときはその名前をメモ帳に書いたりしないじゃない。所詮娯楽みたいなものだし。でも、あなたがメモ帳に記すということはそれこそ確実に潰さなければならないほどの脅威ってことでしょ」

「・・・・・」

「でもそれは困るの。あんたのそのわけわかんないどうしようもない遊びにあの子たちを巻き込むのは本当に嫌なのよ。だからブログに書くのをやめなさい」

「なんで指図されなきゃならないの?それになに?あの子たちってあんたはあのアイドルの何なの?」

「・・・・・友人みたいなものよ」


 そう言って百は立ちあがってどこかに移動しようとする。


「待ちなさいよ、言い逃げするつもり?」

「何言ってるのよ、もうライブはおしまい。やることといえばお渡し会でしょ、CDの」


 そういって整理券をひらひらと振ってみせる。


「・・・・・私を馬鹿にしてんの?」

「してるのよ、あんたのそういうところをね」


 そう言うと本当にお渡し会会場へと移動し始めた。

 林檎は「おい!」とそれを止めようとしたが、そこを梅に制される。


「まだライブ中。声を荒げちゃだめ。それに・・・ブログに書くのも勘弁してあげて。このライブ相当クォリティ高かったし、たぶん林檎の記事、嘘だってすぐにバレるよ」

「・・・・・くそッ」


 悪態をつく。

 いつもの林檎の記事はアマチュアアイドルのいいところを無視して悪かったところだけを書き連ねる(もちろん直接的ではなくやんわりと)ことが多いのだが、こういう「よかったところ」がとても目立つライブだとさすがに言いがかりだと思われてしまうのだ。


「梅先輩はこういうとき腰抜けなんですよ・・・・・でも、まあ許してあげちゃいます。林檎、梅先輩大好きですから」

「それはどうも」


 梅は静かに立ち上がった。


「あれ?どこに行くんですか?」

「お渡し会。私もあの子たちに興味持った」


 そうして皮肉のように百と同じ整理券を持ち、ひらひらと林檎の前で振るのだった。

 

恐らく明日も投稿できるかもしれません。

やはり次回で3章が終わりになります。


もしよければよろしくお願いします。

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