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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第3章 ユニット結成騒ぎ
25/29

第24ステージ 『Rest Day』初ライブ②

(なんで私がこんなとこ来なきゃなんねえんだよ)


 心の中で悪態をつく。

 しかし顔にはそんな不服そうな感じは表れていない。大きなサングラスをかけて顔を隠しているということもあるのだが、ここ・・・屋外ライブ場に来る事をそこまで嫌がっていないらしい。


 日香里恵。

 29アイスクリームのキャンペーンガールに選ばれてから仕事が舞い込むようになり、アマチュアとはいえ顔を隠しながらでないと歩けないぐらいには旬なアイドルとなっている。

 今も駅などのアイスクリーム広告には恵の姿が載っている。


 今日はかつて相方であった御鏡歌子と同じオーディションで争った岸島狐子のユニット初ライブがあるとのことで藤堂三咲にこれでもかと情報を流され、今日も何回も電話でこのことを伝えられてきた。

 まだプロダクション入りしていない恵にそこまですることもないのだが、どうにも世話焼きらしい。


「あー、もう・・・」


 せめてもの抵抗として席には座らない。そもそもチケットなんかとっていないのだ。近くにある立ち見席のようなところに行き、ひと段落つく。

 人は多い、が恵は知っていた。このライブの前座として穂豊がライブをすることに。


(立ち見席なんて・・・まるでどうしても見たくてしょうがないやつみたいじゃない)


 前を見るとステージが見える。

 大きなものではないし、照明なども少しだけ安っぽい。スタッフもそこまで多くない。平和プロダクションが支援しているとはいえ、所詮支援止まり。

 アマチュアアイドルらしい会場だ。


 しかし恵はそれを笑わない。

 なぜなら自分もそんなアマチュアアイドルの1人だからだ。


(ここにいるのがみんな姉さまのファン・・・)


 観客席を見渡す。

 様々な人が準備や会話をしている。恐らくほとんどが日香里穂豊のファン。今日デビューのユニットのファンはいるのかどうかもあやしい。

 それでも・・・。


(なんとなく・・・姉さまのファンだけじゃないような気がする)


 恵はそう思う。

 するとちょうどよく恵の隣にバタバタと人が流れ込んで来た。体の大きい大人の男と大学生ぐらいの青年が息を切らして走ってきたのだ。


「おっさん準備がおせーんだよ!」

「だ、誰がおっさんだ!嬉しいことに狐子目当てのお客さんが増えて商売繁盛。そんなお客様を見捨てるわけにもいかん・・・が、狐子の方がもっと大事だ・・・という葛藤を乗り越えて店を休みにしてきたんだぞこの万年アルバイト!」

「おっさんのとこに就職する気なんてないっての」


 騒がしい2人だった。

 しかしその後「すみませーん・・・」と言いながら前に消えていく。恐らくチケットをとっていたんだろう。その2人の会話を聞いて・・・。


(狐子・・・あのメガネの・・・)


 御鏡の組む相手だ。

 そう思った。

 彼らは彼女のファンなのだろうか。それにしては少し親しすぎるような気もするのだが。


「さすが我がライバル・・・客席をここまで満員にしてしまうとは恐れ入りますわ」

「げ・・・」


 聞いたことのある声を聞いてそちらを向けば今やもう全く隠すつもりのないトレードマークの赤を全身に纏ったスカーレットがそこにいた。

 完全に目立ってはいるが最後の一線としてハート型レンズのめちゃくちゃ大きいサングラスを付けている。いや、それは無意味だろう・・・思わず突っ込む。


 しかしまわりの客は「あれ・・・似てるけど別人だったら怖い」「違うよな・・・まさか」といって彼女に声をかけるようなことはしなかった。

 あの大きいサングラスが逆に別人だと思わせているんだろうか。


「なんであんたがいんの」

「あら?あなたは日香里恵」


 こちらに気付いたスカーレットが近付いてくる。これじゃあ悪目立ちしてしまう・・・と思いつつもそれを拒否することはしなかった。


「あなたこそ・・・ってそういえば我がライバルである岸島狐子とコンビを組んでいるのはあなたの元コンビの御鏡歌子でしたわね」


 なぜかそのセリフには恨みがましいような感じが含まれていたが気にしないでスルーする。


「あなたは・・・何も思わないんですの?元コンビの相手がとられて」

「元コンビ元コンビって言うけど別に私たちコンビを組んでたわけじゃない。ただ・・・」


 姉さまが歌子のことを気にいっていて、私はそれにあやかろうとしていた・・・それだけ。

 言いたくなる衝動をこらえてそれはぐっと飲み込んだ。

 しかしスカーレットは何かを察したのか「そうですの」と呟く。


「まあ、このステージを見に来ている時点でなんとも思ってないわけないんですわよね」


 そういじわるににやりと笑った。

 「あんたねえ!」と言った瞬間。


「お、スカーレットさんじゃん」


 声をかけてきた高校生ぐらいの少年は岩戸。

 野球部で今も部活終わりなのか動きやすそうなジャージ姿でそこにいた。後ろには同じ野球部らしき人達が数人。岩戸は駄菓子屋を営んでおり、スカーレットと岸島狐子の対決をした時にスカーレットとも知り合いになっていたのだ。


「岩戸君、お久しぶりですわ」

「おう・・・ってあれ・・・なんか邪魔しちゃった・・・?」


 私の文句を言う時間をよく潰してくれたわね・・・と言わんばかりに睨んでくる恵を見て顔をひきつらせる。背が低く、よく中学生や小学生に間違われる恵ではあるが、こういう顔をしているときは年相応、いや、それ以上に見えてしまう。


「岩戸君もこのステージを見に?」

「ああ、ほらだってさ俺んとこの駄菓子屋に来たアイドルの初ライブだぜ、行くに決まってる。そして店には『岸島狐子が来た店』と書いてサインもそこに貼っておく。これでうちの駄菓子屋も安泰だ」

「あら意外と商魂たくましいですわね」


 私のサインも貼っていいんですのよと言うスカーレットを適当にあしらう岩戸を見ながら恵は思う。この人もその岸島狐子というアイドルを応援しにきたのか、と。

 恵の勘は当たっていた。

 ここにいる人達はみんながみんな姉のライブを見に来たわけではない、と。


 きっと不安がっていることだろう。この客の中には自分達を見に来た人達はいないのではないか、と。

 しかしそのことを恵は歌子には伝えない。狐子にも伝えない。もちろん果月にも。

 思わず「はっ」と笑う。


「精々不安がるといいわ。そっちの方が面白そうだし」


 いじわるそうに笑う。


「そういえばユニットの相方の方もうちの学校なんだってな。いやあ、楽しみだぜ」

「くっ・・・御鏡歌子・・・我がライバルを・・・許すまじ・・・!」


 恵はその声を聞いた。

 歌子目当て、というほどではないかもしれないが、歌子を見に来ている人も確かにいる。そしてきっと自分もそんな人達のうちの1人だと。

 あれだけアイドル活動を嫌がっていた歌子が今はライブをするまでになっている。それだけでもう理解できた。


 きっと私といたときより・・・今の方が楽しいんだろうな。


(私の・・・・・元コンビなんだからヘマして私の評判下げるような真似しないでよね・・・歌子)


 優しくそう呟いた。





「始まったぞ」


 楽屋。控室とも呼ばれるそこではテレビを食い入るように見る3人の姿があった。テレビの中では日香里穂豊が登場し、会場の盛り上がりは相当なものになっている。

 何よりもライブ慣れしているのだ、あの女は。

 開始する前のトークが上手い。そしてトーク内容ではさらりとこちらのことを褒めるようなことまで話している。


 そうあいつの心境はどうかは知らんが、別に今回のライブは穂豊との対決じゃない。あくまで穂豊は前座、ということになっている。だからこちらを貶めるようなことは話さないのだろう。


「仕事はしっかりとやるのだな・・・」


 だがこちらは別。

 穂豊に勝てなければ・・・このライブは無になってしまうのだ。


「な、なんかどんどんハードルが上がってるような・・・・・」

「うへえ、もうこれ以上褒め殺すのはやめていただきたい・・・」

「あいつ・・・わざとやってるなくそ」


 この後のライブのハードルが上がっていく。

 そのおかげでもしかしたら次のライブまでしっかりと見てくれる人が増えるかもしれない。ただ、ライブが満足するものではなかった場合、どうなるか分かったものではないが。


 時計を見る。

 穂豊のライブが終わった後、10分間の休憩がある。あいつはその間にこちらへの挨拶・・・もとい嫌みを言うつもりなのかもしれないが・・・。


「10分か・・・」


 客が冷めてしまうには十分な時間だ。

 

「いいや・・・ならば・・・」


 俺がとあることを思いついたと同時に穂豊のライブが始まる。流れてくる曲は相変わらずアイドルらしくないロック調の曲だった。俺でさえ聞いたことのある有名な曲、『バタフライ』という曲だろう。


 歌詞としてはそれこそアイドルらしい恋愛観を歌っているのだが、その曲がロックのように激しく、非常に穂豊らしくアレンジされている。

 普段はユニットなどで歌っている穂豊ではあるが、今回は1人。それでも十分にステージ映えするダンスは魅力的だった。


 ありえないぐらい露出した衣装を纏って激しく踊る。客の方もそれにしっかりと合いの手を入れていて、会場全体がとても盛り上がっていた。しかし・・・これは前座。

 それなのに。


「まるであいつのライブみたいじゃないか・・・!」


 そう思わせるだけの魅力と気迫があった。

 前座であろうと任された仕事はしっかりとこなす。それこそ手を抜くなんてありえない。それゆえのこのパフォーマンス。


 岸島と御鏡も思わずその姿に見入っていた。

 誰も何も話さない。ただひたすらに目の前の映像に虜にされている。中継されている映像でこれなのだ、生で見るとさらにそのすごさに圧倒されるのだろう。


 テレビの音だけではない。この楽屋にも会場の盛り上がりの声が漏れ聞こえている。

 これが自分たちが越えなければいけない壁。


 俺はそれを見て・・・決意する。


「おい、岸島、御鏡もう準備してステージの方へ行くぞ」

「え・・・でも確か10分休憩の間に移動って話じゃ・・・・」

「ああ、でも10分間の休憩で客は冷めてしまうかもしれない。だから・・・穂豊と交代するような形でステージに現れるんだ」


 それが俺の考えた策。

 10分間休憩をなくし、すぐにライブを始めること。最初は戸惑っていた岸島ではあるが「わかった、やってみる」と力強く頷いた。

 御鏡はどうでもよさそうに「あ、ならもうお手洗い行ってきます」と言って楽屋を出て行った。


「肝がすわっているのかなんなのやら・・・」


 しかし今はそれが心強い。

 岸島も準備を開始し始め、俺もスタッフや関係者たちに謝りつつも、10分間休憩をなくすという電話をあちらこちらですることになった。


 初ライブまで後少し。


恐らく次回でこの章は終わりになると思います。もしかしたらもう1話追加するかもしれませんが。


よろしくお願いします。

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