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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第3章 ユニット結成騒ぎ
24/29

第23ステージ 『Rest Day』初ライブ①

 そうこうしている間にライブ当日。

 岸島、御鏡のユニット『Rest Day』の初ライブである。残念なことに当日である今日まで実戦は一度もしていない。どちらにせよ今日発売のCDに収録されている自分達の曲は今日からしか歌えないのだ。そういう意味ではどうなっても一発勝負なのである。


 と、ライブの仕事を取れなかった自分の失敗を正当化しつつ空を見る。

 快晴だ。晴れている。屋外ライブなのでそれは助かったのだが、夏の快晴はなかなか厳しいものがある。特に御鏡は暑さに弱いはずだ。


「人は・・・多いな」


 ライブ前観客席・・・というには少し貧相ではあるが、地面にボンと置いてある椅子はほとんど埋まっていた。元から収容数がそこまで多くない場所でアマチュアアイドルでも埋められるほどの会場ではあるのだが、立ち見までいるらしい。


 平和プロダクションが絡んでいるということで見に来てくれている人もいるのだろう。とはいえ普通なら喜ぶべきことではあるが・・・。


「前座がな・・・」


 前座に日香里穂豊が出るとの噂を聞いてのことでここまで人が集まっているのだろう、というのが現実的な考えだ。CMで宣伝もしたし、仕事では岸島は自分のサイクリング店のことよりも優先させて宣伝していた。またこのCMが大変だったのだが、それは後日語ろう。


 レコーディングも初めてのことながらなんとか終わったし、今日はライブだけではなくCDのお渡し会だってある。成功させたい・・・が、もし前座である穂豊の番が終わってしまったらこの客のうち何人が残ってくれるのだろうか。


 それが心配だ。

 もしライブの時誰もいなかったら。お渡し会の時誰も来なかったら。あいつらは一体どんな顔をするだろう。落ち込む御鏡は想像できないが、どこかで傷ついているかもしれないし、岸島は間違いなく落ち込んでしまうだろう。


 最近変わったとはいえまだ少し。それをしょうがない、と飲み込めるほど達観しているわけではないはずだ。では・・・俺は?


 岸島とはお互いを利用する形で手を組んでいる。仲間・・・とは言えるのかもしれないが友達ではないように思える。そんな俺はそんなあいつらの姿を見て、さみしい観客席を見て、なんとも思わないのだろうか。


 いや・・・思う。思うに決まっている。この時のために仕事をセッティングしたのだって俺なのだ。この俺がそこまでして成果なしだなんてそんなの嫌に決まっている。さらにそれは同時に俺のメイクの腕もひどいということに他ならないわけだ。

 なんて理由を並べてもそれはきっと上っ面の理由。

 一番いやなのはきっと・・・もう自分でも分かっている。


 俺は静かに歩きだし、楽屋へと戻っていく。これだけ時間を潰せばあいつらも着替え終わっているだろう。あいつらが衣装に着替えている間に俺は会場視察に来ていたというわけだ。

 屋外会場に隣接する小さな建物に入っていく。


 その中の部屋の1つ。そこには岸島狐子様、御鏡歌子様と書かれた楽屋が用意されている。初オーディションだった29アイスクリームの時はアイドルみんな共有の楽屋だったからかこういうのは新鮮で、そしてどこか嬉しくなる。


「おい着替えたか」


 ガチャリ。

 楽屋のドアを開けながらそう言うとその楽屋には。


 なぜかまだ下着姿の2人がいた。


「すまん」


 かたまっている2人(主に岸島)に何か言われる前に俺は静かにドアを閉める。ノックをしてから開けばよかったという気持ちが今になって押し寄せて来た。

 悲鳴・・・などは聞こえない。こういうのって漫画とか空想のものだとばかり思っていたが・・・。


 逆に冷静になってしまう。そのままにしておくと俺の目に、脳裏に焼きついた2人のたわわな何かを思い出しそうになってとりあえずその場から離れることにした。

 するとちょうど廊下ですれ違うような形で藤堂三咲が現れた。


「あら、マネージャーさんじゃない。調子はどう?」

「ええ、なんというか最悪解散かもしれませんこのユニット」


 しかも俺だけ。

 今になってさらに後悔の念が押し寄せてくるも「なんでもありません」と言っておく。藤堂三咲は「そう・・・」と言ってから少しだけ申し訳なさそうな顔をする。


「ごめんなさいね、うちの穂豊が」

「驚きましたけど・・・元はといえばその日香里穂豊にもらったチャンスですし、そちらのプロダクションのおかげもありますから、気にしないでください」


 と、言いつつもあの電話での挑戦的な声はまだ俺の耳に残っている。

 腹立たしくはあるが、岸島と御鏡がそれ以上の成果を残せれば何も問題はないのだ。ただ、だからこそ事前に、あいつらのライブが始まる前に帰られてしまっては困る。


 だがここまで人が集まったのはそもそも穂豊の名前故かもしれないので強くは言えない。

 俺は「ふふふ」と不敵に笑っておくことにした。


「自信がありそうでよかったわ」

「ははは、俺を見くびってもらっては困る。俺が自分に自信を失くすことなんてない」

「いや、出るのはあの子たちでしょ」


 なんだか扱い方が百に似ていると思った。


「でもいつも通りそうでよかったわ。一応、穂豊からもよろしく言っておいてって言われていたのよ」

「日香里穂豊が・・・?」


 俺のイメージでは格下アイドルには挨拶なんてしないものかと思っていたのだが。

 我ながらひどいイメージではある。


「あの子、身内の恵には人一倍厳しいけど、その他の人達にはそうでもないのよ。ほら歌子に対しても厳しくはなかったでしょ?」

「それは御鏡が一目おかれているからでは・・・とかじゃないんですね」

「ええ、今だって本当は挨拶しに来たがってるとは思うけど、いかんせん時間がなくてね。あの子開始前は精神統一みたいなことするし、たぶんあなたたちの本番前には挨拶出来ると思うから」


 そう言うと伝えたいことは全て伝えたとばかりに手を振りながら穂豊の楽屋へと消えていった。

 日香里穂豊・・・何がしたいのかよく分からないやつではある。だが、恐らく想像している穂豊像よりは実物の方が優しい、のかもしれない。


 そう思いながらあいつらの楽屋に戻り、ドアをノックする。


「どうぞ・・・」


 か細い・・・そしてどこか怒っている雰囲気を持つ声が聞こえた。ああ・・・忘れかけていた。俺はこれから平謝りしなければならないのだった。





「はやくはやくー」


 ライブ会場。

 お世辞にも大きいとは言えない会場ではあるが、屋外会場ということもあり解放感はある。晴天。気温は高いがそれもまた夏らしくていい。

 近くにはかき氷のお店や29アイスクリームの出店などもあり、盛り上がっていた。


 そんなライブ会場に高校生、大学生ぐらいの女の子2人が手を引きあって自分たちの買ったチケットを見ている。どうやら座席がどこなのかを確認しているようだ。


「それにしてもすごい人だね。ここで発表する人達って今日デビューなんでしょ?」


 天真爛漫。

 その言葉が似合う明るさのショートカットの女の子。パーマがかけてあるのか髪の毛がふわふわとしており、茶色に染められているまさに今時といった女の子だった。


「確かね。でも今日ここで日香里穂豊が前座をするらしい」


 それに対して冷静にクールに返したのは青っぽい黒色の長髪を腰あたりまでたらしたつり目気味の女の子。背もそれなりに高く、すらっとしている。

 その2人の女の子は対照的で、ショートカットの子ゆるふわなスカートを、長髪の子は七分丈のデニムをはいていた。


 目立つほど容姿端麗だが、今は大きなメガネをかけていてどこかの可愛い大学生の姉と妹とでも思われているのかもしれない。

 自分の席を見つけるとその席に座る。


「それにそれに穂豊さんが一目置いたアイドルが出てくるんだとか・・・!楽しみですね。アマチュアでプロダクション付きのCDデビューなんて珍しいから期待しちゃうな」


 2人はペラペラと詳しいことを話す。

 しかし、今時そういう事を知っている人がたくさんいる。アイドルに興味のないものでさえも耳に入って来るような時代だからだ。


 アイドル時代。

 それはまさに人々に様々な影響を与えた。あのぐらいの知識ならスマートフォンアプリの『アイドラー』やそこらへんの掲示板でいくらでも知る事が出来るだろう。


 だから大学生女子がこういうアイドルの深いところの話をしていても目立たない。まわりにはたくさんの人がおり、年代も性別もバラバラ。あちらこちらで話すためお祭り騒ぎだった。


「てっきりもうやめたものだと思ってた。林檎のアマチュアアイドルライブ参加」


 林檎と呼ばれたショートカットの女の子は長髪の子のセリフに不満そうに口をとがらせる。


「えーなんでですかあ、梅先輩」


 梅先輩と呼ばれた長髪の女の子は「だって」と口を開く。


「もう去年、林檎は私たちと同じチームのプロの世界に入ったし、アマチュアライブ見るぐらいならプロのライブ見ますーとか言いそうだなあって」

「林檎はそんなこといいませんー。梅先輩、例えアマチュアだろうとなんだろうと勉強になることは勉強になるのです。林檎はまだプロの世界に入ったばかりだから不安ですし、アマチュアからも拾うべきことがあるんですよ」


 「自分がプロになったからアマチュアを見限るって梅先輩の中の林檎ってひどいキャラじゃないですかあ」なんて文句を言いながら林檎はまっすぐステージを見た。


「で・も、林檎の役に立つライブになるかどうかはまだわかりませんよねえ。林檎より下手くそなライブだったら林檎のブログに書いちゃうかもぉ・・・ゴミクズみたいだったって」


 そのセリフに梅は「ほら性格悪い」と呆れたように言い放つ。


「第一林檎はもうプロ、彼女たちはアマチュアでしかも初ライブ。そこもちゃんと考慮してあげないと一方的に悪口はよくないよ」

「大丈夫ですよお、林檎より上手くてもブログにはボロクソ書くんで」

「・・・・初ライブなのに最悪な客が来てしまったね、『Rest Day』・・・」


 同情するように梅は小さく呟いた。


 水櫛林檎みなぐしりんご

 ・大学1年生。

 ・血液型O型。

 ・身長149cm。

 ・体重秘密。

 ・趣味、お菓子作りと後輩いびり、アマチュアアイドル潰し

 ・アイドル力、3万4500。


 水元梅みなもとうめ

 ・大学3年生。

 ・血液型B型。

 ・身長167cm

 ・体重非公開

 ・趣味、散歩、音楽鑑賞

 ・アイドル力19万7600。


 2人ともプロのアイドルで、そして今人気チームのうちの2人だった。





「こ、今度からノック・・・!絶対ね・・・!」

「はい・・・」


 楽屋にてひとしきり岸島に怒られた俺は正座でその説教を聞いていた。まさか本番開始前にこんな事態になっているだなんて誰も思わないだろう。俺も思わなかった。

 しかしもう1人の被害者である御鏡は・・・。


「あ、説教終わりました?」


 平然としているのだった。

 最初謝った俺に対し、注意した岸島。しかし御鏡からは一切何も言われないと思ったらあまり関心がないようだった。今もほけーっとしていた。いや・・・それもどうなのだろう・・・。


「わたしは伊達に豚子と呼ばれていませんからね」

「いやそれは理由の説明になっていない」


 太り気味だから見ても誰も喜ばないとかそういうことなのだろうか。

 あのでかさの胸は十分に目に毒なレベルなのだが・・・。すぐさま岸島が「そんな考え方は駄目だよ、歌子ちゃん」と注意している。


「それよりもわたしはライブ後のお渡し会の方が不安です。屋外でやるのならなおさら・・・汗もとい汁がすごいことになりそうで・・・」

「だから少しは暑さに慣れろと言ったのだ・・・」


 2人の姿はなんとパジャマ姿だった。

 もちろんただのパジャマではない。スカートにアレンジされているし、フリルのようなものもついている。しかし生地の触り心地とか柄とか頭に被っているキャップ(サンタクロースの帽子を青くしたようなやつ)も見た目はすごくパジャマっぽい。


「『Rest Day』にふさわしい衣装だな」


 パジャマではあるが地味ではなく、そして薄い生地だからか涼しげで夏にもぴったり。さらっと足も露出していてとてもいい感じだ。

 当初の予定ではへそ部分、すなわち腹も出そうと考えていたのだが御鏡が「わ、わたしの腹だしはまずい・・・それは兵器になるっす!」と拒否したので無しになった。


「でもこれ百ちゃんの知り合いにお願いしたんだよね」

「ああ、あいつ顔広いからな」


 学校だけでなく、そっちの業界にも。

 もちろん無料というわけではなかったが、今度何かの手伝いをするという事で話がついたらしい。破格だ。百含めて後できちんとお礼を言っておこう。

 というかあいつと岸島がどんどん仲良くなっていっているような気がする・・・。


「そろそろ穂豊のステージが始まる。この楽屋にあるテレビで様子が見れるらしいからギリギリまでそこで見ていよう」


 こうして俺たちの初ライブが始まった。

この話までに書きたかったこと(CMについてなど)はそのうち番外編として書こうと思っています。


次回以降ももしよければよろしくお願いします。

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