第22ステージ 御鏡歌子というアイドル
結論から言えば学校祭の件は保留となった。
その学校祭の準備が始まる前に岸島たちのユニット『Rest Day』のライブ、初めてのライブがあるのだ。学校祭はまた別としてライブをどうするのかもきちんと決めておかなくてはならない。
だから今日はその話し合いもする予定だった。
だったのだが・・・。
「で、そちらの方はどちら様ですの?」
「え、えーと・・・私のユニット仲間で・・・」
「御鏡歌子でっす」
「そういうことではなく!どこのパッと出が私のライバルである岸島狐子さんとユニットを組んでるんですのっていう皮肉ですわ!」
とてつもなく面倒なことになっていた。
どれぐらい面倒なのかというと普段「人に聞かせるようなものじゃないから」と言って頑なに俺以外の人間に聞かせない百が今ピアノを弾いているぐらいには関与したくないレベル。
ちなみにこれ「仲がいいから俺だけに聞かせてくれる」というわけではなく、そもそも俺を「人」として認めていないということなので注意が必要だ。
「おい、喧嘩するのは別に構わないが今はライブの話し合いをだな」
「あなたにも幻滅しましたわ、五百蔵果月」
「なっ・・・!」
なぜ俺にその怒りがまわってくるのだ!
「あなたが選んだそうではありませんか、彼女。何を思って彼女を選んだのか知りませんが・・・全くもって不思議ですわ」
「お前のような全身赤まみれに理解されなくともいい」
「ぐ・・・我が崇高なる赤を・・・馬鹿にしましたわね・・・!」
「いおくんが話すとさらに話しこじれるからやめなさい」
百に窘められ、俺は一旦その場を離れる。
しかし・・・今なぜか目の前にいる、そうここはうちの学校の音楽室にも関わらず、他校なのにもかかわらず目の前にいる神埼・スカーレット・リディルは知らないのだろうか。
御鏡はそのぐうたらさとは違う何かを持っていることに。
それこそアイドル力を見通す『真紅の瞳』があるのだからそれで分かるはず・・・・・いや。そうかアイドル力自体は御鏡は別に高いわけではない。
それこそ4万もあるスカーレットからすればひどく低く見えるのかもしれない。この間計測したときは2万と少し。それでもかなりの高さだが・・・2分の1だ。
「そもそもあのオーディションの時に御鏡のステージを見たのではないのか?」
俺たちは見ていないが。
ちなみにあの後、百に強引に連れていかれて3人で打ち上げをやっていたりする。
「見ましたわ。彼女、特に何もしていませんでしたわよ。それこそ歌ったりはしていたみたいですけれど、目立っていたのは隣の日香里恵でしたわ」
予想と違った。
急いで御鏡の元へと行き、小声で事情を聞く。
「おい、御鏡。お前オーディションの時何をやったんだ?」
「いえ特に何も。めぐみんを目立たせるようにと言われたんでそういう風に見せてはいましたけど」
特に何もって・・・。
一応舞台には上がっていたはずなのだが、なぜスカーレットの記憶には残っていないのだろうか御鏡のオーディションが。
何もしていないってまさか棒立ちだったわけではあるまいし。
「いおくん、記憶にないってことは何もしていないわけじゃないよ、きっと」
百がピアノを中断させてこちらを見る。
「棒立ちだったら逆に目立つと思うしね。だから目立たない程度に何かをしていたのよ。私も見ていないから分からないけど」
「確かにな、あといおくんはやめろ」
考える。
俺は別に御鏡の何かを見てこいつと岸島をユニットにしようと思い立ったわけではない。ただ、勘だ。一応アイドルとして生計を立てているらしいし(もちろん仕送りなどもあるとは思うが)、そこに注目しただけなのだが・・・。
確か平和プロダクションはずっと前から御鏡を事務所に入れようとしていたのだっけ。
平和プロダクションというより・・・日香里穂豊が。
なぜ穂豊は御鏡に注目していたのだ。俺と同じく現実的な問題点をクリアしているから、ではないのか。・・・・・・ん?
「御鏡、日香里を目立たせるために目立つな、と言われたから目立たないように配慮した、のか?」
「ええ、まあ」
あくびをしながら答える御鏡。
くっ・・・こいつ一応お前の所属するユニットのことで悩んでいるんだぞ・・・!
「お前と日香里はコンビだったな、2人で目立つようなことをしなければ審査員にはあまりウケないんじゃないのか?片方ばかり目立つってステージ的にも見栄え的にもいいとは思えない」
そもそも不思議だったのだ。
なぜコンビでオーディションを受けたのに日香里のみがキャンペーンガールとして選ばれていたのか。
俺は御鏡が面倒だから断ったとばかり思っていたし、実際そう聞いた・・・聞いた?誰から?
噂程度だったのではないか、御鏡が辞退したというのは。
それともあえて嘘の噂を流した・・・とか。
「もし、そうだとしたら考えられるところは1つだけだな」
俺はみんなに断ってから少し離れて、スマートフォンを握りしめる。
開いたのは電話帳。そこからつい最近知ったばかりの電話番号に電話をかける。
3回コールする直前で電話がとられる。
『久しぶりね、五百蔵くん』
「藤堂・・・さん」
俺が電話をかけたのは平和プロダクション所属のマネージャー、藤堂三咲。
『その感じ、バレちゃったっぽいわね』
「やはり御鏡を狙っていたのは穂豊だけではなく・・・あなたたち平和プロダクションそのものが狙っていたのだな・・・ですね」
あえて目立つ噂を隠ぺいし、そして目立たないようなそれこそみんなの記憶から自然に消えていくような噂を立てる。というより今回はオーディションそのもの、ということになるのだろうが。
『日香里には申し訳ないけど、あの子よりも先に歌子を平和プロダクションに入れようとしていたのよ。他の事務所に先越されないように目立たないように、と言い聞かせてね』
「御鏡は・・・そこまで特別なのか?」
『あれ、あなたそこはまだ気付いていなかったのね』
思わず顔をしかめる。
様々な仕事を探してはオーディションをし、オーディションのないものもしっかり受けていた。それでもなかなか2人のライブをしたりする仕事は未だないのだ。
『まあ、もうバレちゃってるし、私はそもそも隠すつもりはなかったから言うけど・・・歌子はね、歌もダンスもそれなりに出来るけど、一番得意なのはステージクリエイトなのよ』
「ステージクリエイト・・・?」
初めて聞く単語だが。
『別に難しいことじゃないわ。照明とか音響とか、その場の空気とか・・・ステージを構成するのに必要なことをするのがステージクリエイト。それが得意なのよ』
「得意って・・・」
それをアイドルがやってしまったら意味がないのでは・・・?
それではステージに出れない。裏方の仕事のように思えるのだが。
『まあ、そこは実際見てもらわないとね。ってあ、ちょっと』
がさがさという音が聞こえる。
思わず響いた異音に顔をしかめつつも、再びスマートフォンを耳に近付ける。
『あんたが五百蔵果月?』
藤堂三咲とは違う声。
明らかに高めで、今時風の話し方。咄嗟に思いついたのはギャルという単語だったが・・・残念ながら俺にはそれ以外の選択肢も存在した。
聞き覚えのあるその声は。
「日香里穂豊・・・」
『私一応あんたより年上なんだけど。まあいいや。歌子に目を付けた人がいるって聞いたから話をしてみたかったのよ』
「ユニットCDについては礼を言う。だが、こちらから他に話す事はない」
『確かにわたしは岸島狐子に目を付けてCDデビューを手助けしたけど・・・まさかユニットとして歌子を引き入れるとは思ってなかったわ。ほんと予想外。こっちが先に目を付けてたのにさ』
だから、と穂豊は区切る。
『嫌がらせすることにしたわ。私の発言でCDを作るって言ったんだからそれは最後まで守るし、私も協力する。でもその後は知らない。確かさ、あんたたちCD発売日に発売記念ライブやるんでしょ?うちの事務所の協力で』
「・・・・」
嫌な予感がして思わず黙る。
『だから、前座として私が出てあげるよ』
「なっ・・・前座としてお前が・・・!?」
言葉が思わず詰まる。
最悪だ。前座だと・・・来る客は皆お前を見るために集まった客ばかりになるだろうが・・・!もし宣伝で前座として穂豊を招くなんて言ったら客はほとんどが穂豊ファンで・・・。
恐らく、その後の本ステージでは全く盛り上がらない可能性もある。中には前座が終わり次第帰る者や、なんとか新しいアイドルのために盛り上げようとしてくれる人もいるかもしれない。
でも限界がある。
『んじゃ歌子の才能ちゃんと引き出してあげなよ、『創造』をさ』
ぶつっ、と一方的に電話を切られてしまった。
このままではまずい。藤堂三咲に話してなんとかしてもらえるか・・・?
「珍しく弱気だね」
焦る俺に話しかけて来たのは岸島だった。
その顔には余裕があり、そして何より優しい笑顔を浮かべている。どうやら今の通話を聞かれてしまったらしい。
「断片しか聞き取れなかったけどピンチ、なんだよね」
「ああ・・・お前たちのライブの前座として穂豊が来るらしい・・・」
その一言で全てを察したのか、岸島は一瞬驚き・・・そして。
「大丈夫」
そう発したのだ。
「ほんと五百蔵くんらしく・・・ないよ。穂豊さんが出てくるおかげで人はたくさん集まると思う。だからもし私たちの純粋なファンじゃなくても、私たちという存在をたくさんの人に知らせることができるでしょ?それはむしろチャンスなんじゃないかな・・・って」
最後の方は恥ずかしそうに下を向いてしまったのでいつもの岸島といった感じではあるが・・・。
一瞬、ほんとうに一瞬だけ思わず見惚れてしまった。
こいつも順調に、確実に成長している・・・退化していたのは俺だけ・・・か。
「ふふ・・・そうだな。そうだ!俺がこのチャンスをモノにしてやる!だからお前たちは安心して待っているといい。絶対に・・・成功させてやる・・・!」
岸島も笑い。
その様子に気付いた御鏡が「なんか楽しそうな雰囲気・・・」と小さく呟いた。
次回はまた少し真面目ではない話になる・・・かも・・・?
ペースをもう少し上げていきたいと思います。
次回もよろしくお願いします。




