第20ステージ お寺へロケハン!?②
恐怖の座禅が終わると来る時間もすでに遅かったからか夕飯の時間となっていた。
結局座禅はあの後、俺が一度叩かれ、御鏡はなんかもうそれどころの状態ではなく、唯一岸島だけが喝を入れられなかった。お坊さん(偽)は素直に岸島の事を褒めていたし、やはりあそこまで綺麗な座禅を長い間できる人というのはいないのだろう。
改善すべき点は叩く威力と、もう少し喝を入れる判定を緩めることだった。それだけお坊さんに伝えると俺らは元いた荷物を置いている大広間に戻される。
「このにおい・・・!ごはん!」
半ば俺にもたれかかってきていた御鏡が生き返ってたかのように立ちあがり、そして靴を脱いで大広間の中へと急ぐ。もはや礼儀も何もない行動であった。
俺と岸島も遅れて大広間の中に。そこには精進料理と呼ばれるものがずらーっと並んでいた。
「おいしそう」
岸島もさすがに腹が減っているみたいで思わずそう言っていた。
みんなで席に着くとさっそく食べ始めることにした。特に御鏡はもう我慢できないみたいだし。みんなで「いただきます」と言った後箸を持ち、食べ始める。
「あ、改善点見つけました」
と食べ始めてからすぐに御鏡が手を挙げる。
お坊さんだけではなく、俺たちも御鏡に注目するが・・・。
「肉がないです」
「そういう料理なんだ!」
やはりというかなんというか、すでに身構えていてよかった。
岸島も「あはは・・・」と苦笑している。
「しかも味が薄いんですけど・・・醤油かけていいですかね」
「そういう料理なんだ・・・!」
ブーブーと文句を言いながらも、この状態での料理を食べてみないと改善点なんかは分からない。味つけが薄いとはいえ腹は減っているのか、黙々と食べ始めた。
というかここでも発揮されるのは岸島の力だった。
まず、食べている姿勢が綺麗であり、箸の持ち方も綺麗、魚だって綺麗に骨をとって食べているし、作法だってきちんとしている・・・ような気がする。
俺も人並みにはできるが・・・ここまでではない。
「お前は色々とそつなくこなすな・・・」
「えっと・・・何の事かな・・・?」
「きっちゃんはハイスペックすなあ」
目立たない目立たないと言ってはいるし、アイドルとしてはなかなかに不遇な扱いを受けることが多い(これも全てアイドル力1000が大きい)のではあるが、基本それ以外は要領よくこなせるのである。
頭がよく、クラス委員だってこなせる。
アイドルの活動をしているにも関わらず、だ。
そういえば岸島サイクリングの様子をしばらく聞いていない。最近岸島は元気そうだし、かなりいい方向に転がっているのだとは思うが、後で聞いてみるか。
「お父さんに昔教えられたことがあって・・・それでかな」
「あのお父様が・・・?」
俺は一度その姿を見ているのだが、どうにもそういう礼儀作法より感情で生きているような感じの人だったから驚きだ。さすがにそれを言うのは失礼かと思い、「なるほど・・・」とだけで終わらせておく。
「似合わないでしょ、お父さん」
「・・・・・」
即バレだった。
笑いながらそう言われればさすがに「ま、まあな・・・」という他ない。
「でもほら逆にって可能性もありますし。こう・・・自分が出来なかったことを子供に教えるというか」
「えっと、なんとなくわかるかも。自分の子供が出来たら男の子ならサッカーをやらせたいとか、女の子だったらピアノをやらせたいとかそういうのだよね」
「厳密にいえばそれとも違う気がするがな。サッカーやピアノは役に立つかどうかは分からない。でも食事の作法やマナーは知っておくべきものだ」
「なるほどー」
と、言いながら御鏡は猫背のような姿勢でうなだれたようにご飯を食べている。
こいつは話を聞いていたのか・・・?
「わたしが言うのもなんですが、この食事部分はそこまで厳しくないんですね」
そう言って俺らの近くで食事をしている坊主(偽)を見る。
先ほどの座禅ではかなりの厳しさを見せていたのだが、御鏡の食事マナーを見ても一切口を出してこない。それを不思議に思ったらしい。
怒られると思うのならそもそもそんなだらしなく飯を食うなという話なのだが。
「ここはどうやらカメラを回さないみたいですね。だからというわけではありませんが、ここは休憩時間にしようと思っていたのです」
それはいいかもしれない。
罰ゲームとはいえ、基本はアイドル達の悲しそうな、辛そうな顔を見るのが目的ではなく、結局は面白おかしいリアクションをみるのが目的なのだ。
あまりに疲労しているとそんなリアクションもとれなくなるだろう。
ここは特に改善する点は見受けられない。
「今日はこれまでです。まだ少し早い時間ではありますが、明日はかなり早起きをしてここの建物内の掃除、そして最後の修行が待っています。もう就寝したほうがよろしいと思いますよ」
食事をある程度終えるとお坊さんがそんなことを言ってきた。
どうやら明日は4時起きらしい。その話を聞くと御鏡は驚いたような顔をして・・・そのままかたまってしまったのだった。
そんなに早起きがショックだったのか・・・。
ご飯を終えると机などが片付けられ、広い大広間に布団が3つ並んでいる。
やはりこうして見るとなんだが落ち着かない。広すぎる空間というのも考えものだった。だが、当日はきっとスタッフなどもいるだろうし、ここまでではないだろう。
そしてもう1つ言うならば部屋を2つほど用意してほしかったというところだろうか。
俺は自分の布団を引っ張り2人から距離をとろうとする。
「あれ、そんな端に行くんですか?」
そんな俺にさも当然とばかりにこの場でパジャマに着替えようとしている御鏡がいた。
いや、待てお前。
「な、何をしている!」
「あ、わたしこの服に着替えないと休む気がしないんで」
「そういうことではない!」
外に出ていた岸島がその時帰って来て目を見開く。
「歌子ちゃん!?」
その後、岸島の説得により、事を理解した御鏡は「ほへー」と分かったのか分からないのかよく分からない返事をして女子更衣室として使っている部屋へと移動していった。
あいつには色々なものが欠けているような気がする。
「五百蔵くんそこで寝るの?」
「ああ、どうやら部屋はここしかないようだからな」
「そんなに気にしなくてもいいよ。ここ広い部屋だし、少しのスペースでも寂しいと思う。だからみんなで一緒に寝よう?」
「お前もなかなかだな・・・」
御鏡のことを言えないような気がする。
恐らくいつもの委員長らしさというか、他人を気遣う気持ちがこういう形で表れてしまったのだと思うが、それが俺を困らせる。
結局、先ほどよりかは距離を詰めたが、それでも少し離れた位置で寝る事にした。
「で、何時まで起きてます?」
「修学旅行感を出すな」
一応ここに遊びに来たわけではない。
ロケハンという仕事なのだ。そして明日は早起きということを考えるともう寝るべきだろう。そう判断する。御鏡はどこか納得いかないような顔をしていたが、おとなしく布団の中に入る。
・・・・・しかし、こういう場だからこそ話せることもあるというのも事実。
一度岸島と御鏡の方を見て、それを飲み込み、別の機会を待つ事にした。
○
次の日の朝4時。
御鏡は案の定ふらふらで、起きているのか寝ているのか分からない表情をしている。普段はどうやら朝6時に寝て夕方ごろに目を覚ます生活をしているらしく、昨日の夜はなかなか寝付けなかったそうだ。
完全に自業自得である。
だが、御鏡だけではない。俺も岸島もかなり辛そうに歩いている。最初は気持ちよく目を覚まし、そして外の綺麗な景色を見てポジティブに今日も頑張ろうとか、そんな話をして朝食を食べていたのだが、その後が辛かった。
変に満腹感があるととても眠くなる。昨日も山の中を移動したり、座禅したりで身体的だけではなく、精神的にも疲労していた。
「うう・・・水が冷たい・・・・・」
「ほんとだ・・・。でも少し目が覚めるかも・・・」
御鏡と岸島が雑巾を持ち、バケツの中に手ごと突っ込む。
するとひんやりというには刺激の強すぎる冷水の冷たさが手にしみわたった。今からこれで長い長い廊下を掃除しなければならない。
「これは大変だな」
思わず呟く。
廊下はもちろん、大広間は本当にとてつもない広さだ。一見単純で簡単そうに見えるがもちろん掃除を終わらせるにはお坊さんの許しをきちんと得なければならない。
何度でもやり直す可能性だってある。
それぞれの雑巾を握り、掃除を始めた。
どうにも性格が出るようで岸島は本当に綺麗にまっすぐ廊下進んでいくのに対し、御鏡はふらふらとジグザグ走行だ。俺はその様子を見てうんうんと頷く。
「確かに一見性格も何もかも違う岸島と御鏡だが・・・だからこそ組ませた時の反応が楽しみだ。俺はその光景を見たいがために頑張っている、こうして・・・な」
「なに後ろで堂々とサボってるんですか」
御鏡の非難を受けながらも掃除をしているとアイドルと言っていたお坊さんが近付いてきた。
「この後、最後の修行体験は滝修行になります」
「最後・・・」
俺たちは掃除の手を止めずにその話を聞く。
この時点ですでに2、3回お坊さんに許しをもらえず、どこが駄目なのかというヒントももらえずひたすらに掃除を続けている。ここは改善すべきだな、そもそもこの掃除している映像を永遠と見せられても面白くはないはずだ。
というかなんか攻略法が永遠に分からないゲームをさせられているみたいだ。
それを口に出して言うと岸島が苦笑する。
「でもなんか朝早くから掃除するって気持ちいいね」
確かに、夏近い季節のはずなのに朝はまだ気温が高くなく、ひんやりとした風がたまに吹いていて気持ちがいい。だからこそ眠くなるのだが。
「しかしゲームに例えるとはなかなかやりますね」
そんな御鏡のセリフもどこか心地よく感じるほどに。
最終的に俺たちは何度も許しをもらえないうちに掃除戦士のようになってきた。拭いても拭いてもまだ汚れている気がするという究極の綺麗好き、潔癖症のような人間に。
そして、お坊さんに「もう、いいですから!」と止められるまでそれは続いていた。これは確実に緩和されるだろうな。
そんな予定外の時間を掃除に使ってしまいながら、昼になる前に少しだけ寺内を移動する。
するとすぐにザアアアという滝の流れ落ちる音が聞こえて来た。
「ここが最後の修行場所です」
そうして見せられた滝はとんでもなく、大きい、それこそ触れたらどこかに流されてしまうのではないかという恐怖を感じるほどに・・・恐ろしいものだった。
俺たち3人は言葉を失い・・・全員がその場から脱走を図ったのだった。
○
テレビ。
張りぼてのような部屋に椅子がいくつも置かれている。対する反対側にはカメラやマイクが縦横無尽に動き回っていた。この光景を見るのは初めてかもしれない。
それこそ俺ぐらいになるとテレビに誘われることもそれなりにあったのだが、アイドルとしての露出を嫌った俺は雑誌程度にしか載った事がない。
だからこの場所はとても新鮮に思えた。
椅子にはたくさんのアイドルたちが並び、そしてMCであるお笑い芸人らしき人物が一生懸命司会をしていた。
「さあ、では以上が罰ゲーム映像でしたー!ですが、なんとあの罰ゲーム、最初はもっと過酷な修行だったらしいですよ。今日はそのロケハンをしてくれた勇気あるアイドルさんに来てもらっています。そして与えられるのは・・・宣伝の時間!うまいこと使っちゃってください、どうぞ!」
その言葉で俺はそのスタジオの中に入り、話しだす。
「アマチュアアイドルの岸島狐子、御鏡歌子によるユニット『Rest Day』が平和プロダクションさん支援の元、CDを出すことになった。発売した時にはぜひ聴いてもらいたい、以上だ」
「えっと・・・そのアイドルさんたちは?」
MCがそう俺にふる。
「・・・・・・過酷な修行の成果、だ」
滝修行をした後、俺以外の2人(特に御鏡は運動不足で体が弱っていた)は綺麗に風邪をひき、代わりにこうして俺が宣伝することになってしまった。
これが成果で、今回のオチ。
なんとも笑えない結果だった。
次はまた別の話になると思います。
読んでいただきありがとうございました。もしよければ次回以降もよろしくお願いします。




