第18ステージ ユニット名は休日
「それで歌子を仲間に加えたわけね」
「そういうことだ・・・です」
あの騙し合い、もとい話し合いから数日後。具体的な話をするために俺と岸島、そして御鏡は平和プロダクションに来ていた。そこで待っていたのは藤堂三咲。いつも(1,2回しか見ていないが)のように黒いスーツ、タイトスカートできめている大人の女性、もとい苦労人といった感じだった。
この前よりも少しだけやつれている。
「敬語を使い慣れていないのなら無理しなくていいわ」
そう言いながら席を立ち、お茶を持ってきてくれようとする。
岸島なんかはすぐに立ちあがり「あ、わ、私がやります!」と言っているが俺は不動、そして御鏡は隣の席で爆睡している。しかもでかい抱き枕を持って。正直邪魔だった。
「あなたたちはお客さんだから座ってて」
しかし藤堂三咲の足取りはどこかふらついている。
ついに大きく体を傾けた。幸い、お茶はこぼれておらず、火傷などにはならなかったが、危険なことには代わりない。俺と岸島でお茶を運ぶのを手伝う。
「ごめんなさい、少し恵のことで寝不足なの」
恵とは日香里恵のことだろう。
どうやらキャンペーンガールに選ばれて以来かなりの仕事が舞い込むようになったらしく、それなりに忙しいみたいだった。やはりアイドルの登竜門と言われているだけあるオーディション、注目されていたらしい。
「でもなんで歌子なの?ほら、全然意欲ないじゃないその子。それこそ恵が本気出して無理やりようやく仕事をするレベルの子よ?」
「その質問・・・俺を試しているのか?」
そう言うと藤堂三咲は両手をひらひらと振る。
「うん、なるほど。岸島さんといい君の目はすごいね。歌子は恵の影に隠れてあまり目立たない・・・というか目立とうとしないんだけど、かなりすごいわよ。それこそ一応アイドルで生計を立てている程度・・・にはね」
忘れがちになるが、アイドル一本で生計を立てることは難しい。
もちろん御鏡はまだ学生だ。1人暮らししているようだが(あの生活をするには1人暮らしじゃないとありえないと勝手に思っているだけ)親からの支援もそれなりにあるのだろう。
それでも自分の趣味を賄うことが出来る程度には稼いでいるということなのだ。
かなり腹が立つがこの隣でぐーすかいびきをたてながら寝ているアイドルはすごいアイドルなのである。たぶん。自信はないが。
「それこそあの穂豊は恵よりも歌子の方に目を付けていたわけだしね。そっかー歌子と組むのかー。これは少しだけ面倒なことになりそう」
「それはどういう・・・」
俺が詳しく聞く前に話を切り上げ、じゃあ詳しい説明をするね、とCDの話へと変えてしまう。とても不安な言い方だったのだが・・・。
「今回、あなたたちのCD発売を支援してくれるのはその穂豊よ」
「穂豊・・・って日香里穂豊か!?」
「え・・・日香里さんのお姉さんの!?」
「その説明口調っぽい驚き方は置いておいてそうだよ。穂豊が岸島さんの歌を聴いてぜひともCDを出してあげてほしいってお願いしていたの。最初はお金は全て自分が出すって言ってたんだけど、穂豊はうちの事務所の人気アイドルだからうちの社長が甘くてね、結局うちの事務所がお金を出す事になったわ。でも枚数は期待しないでね」
岸島はまたかたまってしまっている。
俺でさえも驚いたぐらいだ。確かに穂豊の人となりはよく知らないが、妹への態度からしてかなり厳しい人だと思っていた。
それこそ・・・プロのアイドルだからこそアマチュアアイドルなんて認めない、そんな感じに。
「あ、でも別に岸島さんがうちの事務所に所属するとかはないから安心して。うちの名前は支援した事務所ってことでそれなりに宣伝してもらえればいいから」
「俺たちに都合が良すぎてなんだか疑ってしまう話だな」
「そう思われるだろうなあ、とは思ってたけどね。もちろん売れた分の少しはうちの事務所に入れてもらうことになるけど」
「それでも、だ」
俺たちにとって大事なのはお金はもちろんだが、一番は知名度だ。
今回のことは上手い話過ぎる。
見返りに腕の1、2本は請求されるのではないかと思ってしまうほどだった。
「上手い話もなにも穂豊が気にいっているだけだからねえ。岸島さんの歌声には驚いたけれど、まだまだ駆け出しのアマチュアアイドル、CDデビューとかはまだまだ先だと思っていたんだけど」
そう言いながらお茶を飲む。
先ほどからかなりの頻度でお茶を飲んでいるが・・・カフェインでも摂取しているのだろうか。
「だから上手い話って思ってもらっていいわ。それこそ穂豊に気に入られる事自体珍しいことだし」
「・・・・・・」
「あと岸島さんなんかさっきから動かないけどいいの?」
俺はなんとか岸島を呼び戻し、話を始める。
ちなみに藤堂三咲は先ほどから御鏡については一切何も言ってこない。御鏡のこういうところに慣れているのだろう。
「一応あなたたち個人名義で出すとはいえ、支援事務所にうちの事務所の名前がのるわけだから生半可な出来じゃ困るの。だからもっと経験を積んでもらわないといけない」
「わかっている」
そもそもなぜわざわざ御鏡とユニットを組んだのか。
それは俺が御鏡の実力を認めたからでもあるが、岸島のさらなるステップアップのために2人以上のユニットアイドルでなければ受けることのできない仕事をさせようと思っていたからだ。
御鏡にはかなり文句を言われるだろうが、その都度その都度なんとかするとしよう。
「2人以上のユニットアイドルでなければ受けれない仕事をさせようと思っている。探せばいくらでもあるだろうし、そこについては問題ない」
今は便利な時代だ。
アイドラーではみんなの声を見ることが出来るほか、仕事の募集も行っているところもある。
「うーん・・・ついでだし、その時にはCDの宣伝をしたら?」
「・・・・・・なるほど。確かにそれはいいかもしれない」
テレビや仕事をしているアイドルたちは自分の宣伝のためにやっているところもある。
自分自身を宣伝するときもあるが、もちろん出すCDやライブの宣伝をする人だっている。仕事を募集している側もそのあたりは理解しているのだった。
「ただ、そのためにはレコーディングなどをしなければならないが?」
今CDを出すために経験を積めと言われている。
それなのにその経験を積む前にレコーディングしてしまっては意味がないように思える。
「ううん、そういう歌を披露する仕事はレコーディングするあたりに受けるとして、その前は歌わないような仕事をしてユニット名とCD出す事を宣伝すればいいと思う」
「確かにまだ無名だからな」
ユニット名から覚えてもらうのが順当か。
「レコーディングは今から一カ月後・・・7月の終わりあたりを予定しているわ。それまでにあなたたちの思うようにやってみなさい。もちろんレコーディングでその経験が足りないと判断されたらうちの事務所以前に穂豊自身が中止すると思うから覚悟しなさい」
「ふん、誰に言っている」
「あ、あのー・・・わ、私はそんな自信ない・・・です・・・」
当事者である岸島はほとんど口を挟む余地がない状態で第1回目の話し合いが終わってしまった。
ちなみにもう1人の当事者はそもそも話を聞いていなかったわけだが。
○
いつもの第2音楽室。
あの話の翌日の放課後だった。いつものように授業を終えて集まったのは俺、岸島、百、そしてひょんなことからそこに加わった御鏡だった。
「というわけで、ユニット名を考えてもらう!」
「もらうじゃないわよ」
百がものすごいジト目でこちらを見てきた。
「1日ここに来なかっただけでここまで色々な話が進んでいるとは思わなかったわ。まあ、止めても無駄なんでしょうけど」
「その通りだ、分かっているではないか」
「なんか知らないけど腹立つわね・・・!」
そういいつつも近付くのは岸島のところ。
ちなみに岸島はいつものように音楽室の椅子に礼儀正しく座っている。最近はメガネを外し、コンタクトを付けている。
そして御鏡は椅子をいくつか並べてその上にだらんと寝転がっている。手元にあるのはゲーム機だ。
「岸島さん、大丈夫?こいつに無理に付き合わなくてもいいのよ」
「う、ううん。この仕事、別に五百蔵くんが勝手に受けたわけじゃなくてその前に私がやりたいって言ったの。私もチャンスだと思うし頑張ってみる」
「そうなんだ・・・うん、応援してる」
知らないうちにさらに仲良くなっていないだろうか。
少し前には一緒に出かけるぐらいの仲だったらしいのだが。
「というか、仕事は確かに俺がとってきているが、全て岸島に許可をもらってからやっているのだ」
「あのキャンペーンガールのときは若干無理矢理だったじゃない」
それで、と百はあたりを見渡し、御鏡のことを見る。
「ぐおお・・・これはきつい・・・!全体攻撃は回復が追いつかないー・・・。レベル上げしなきゃダメかー・・・。ここもらえる経験値がそこまで多くないからだるいなあ」
「この音楽室を家のように使っているこの子が岸島さんの相方ね・・・」
げんなりとした様子に変わっていった。
気持ちはとても分かる。分かるが最初にこの音楽室を好きなように使っていたのはお前だ。
「あ、負けた。・・・・・・・・・・・・あれ、こんにちは」
「こんにちは、ええと・・・」
「御鏡歌子です。夢の働かない生活のために頑張ってます、よろしくっす」
「月見里百よ、よろしく」
「いや、そこでの自己紹介もいいが、その前に御鏡は岸島に自己紹介をしてユニット名を決めろ」
寝ながらはさすがに失礼だと思ったのか咄嗟に椅子に座り直す御鏡。
その御鏡を見て、岸島も少しだけ緊張したように向かい合う。
「岸島狐子です、よろしくお願いします」
「狐子・・・すごく変わった名前ですが、同じ名前に子が付くものとしてなんだか親近感が湧きますね。わたしは御鏡歌子っす、よろしくお願いしますきっちゃん」
「きっちゃん・・・?」
なんだか御鏡は岸島のことを自分の夢の実現のために頑張る共に歩む仲間だと認識されているらしい。藤堂三咲や日香里恵を下の名前で呼んでいたことからもわかるが、仲がいいとそれなりの呼び方になるらしい。
自己紹介を終えて考え始めるのはユニット名。
レコーディングは後でもいいが、ユニット名を考えなければ宣伝することもできない。
「どうしよう御鏡さん」
「歌子でいいですよ、我が友よ・・・!」
なんか予想以上に面倒なぐらい懐いていた。
なんでもいいがはやく決めてくれ。
「じゃ、じゃあ歌子ちゃんはなんかある?」
「せ、拙者ですか・・・!うーん・・・なんでしょ。どうせならすっごいかっこいいのがいいですね。なんか・・・『灼熱の太陽』みたいなルビふりとかもいれちゃうやつとか」
「なんか分からないけどすごく痛い感じがするわね・・・」
百が顔を引きつらせる。
「なっ・・・すごくかこいい思たのに・・・」
「カ、カタコトになってるよ・・・」
「というかお前らのユニットに灼熱も太陽も合わないだろう・・・」
どちらかといえばスカーレットの領域だろうそこは。
「五百蔵くんは何かある?」
と、不意に岸島が俺に聞いてきた。
ユニットは岸島と御鏡のものだ。2人で話し合い決めた方がいいのではないか、と考えていたのだが・・・まあ、ヒントを出すぐらいは問題ないだろう。
「ヒント・・・あくまでヒントだからな。ふん、俺のスーパーハイセンスな名前を聞いてそれにすればよかったと後悔しないようにするといい」
「その振りで成功した人見た事ないですし、そもそもスーパーハイセンスって単語からして死ぬほどダサいんですけど」
御鏡が何か言っているみたいだが、一切気にせずに俺は両手を大きく広げる。
「俺がお前らに授ける名前は・・・『果実と月』だ!」
「却下」
「うおい!なぜ百、お前が却下するのだ!」
一瞬ポカンとしていた岸島と御鏡だったが、付き合いの長い百にはすでに気付かれていたようだ。
「なぜって・・・果実と月って縮めたら果月で・・・あんたの名前じゃない」
「あ、そういえば・・・」
「うへー、自分の名前ですかー・・・」
「かっこいいだろうが!」
軽く落ち込む俺を無視して話し合いは続けられる。
くっ・・・最高にかっこいい名前だと思ったのに・・・!
「岸島さんや御鏡さんが学生なわけだし、そこからとってみたら?今時学生アイドルはたくさんいるけどそれでも驚かれることには変わりないんだし」
「学生・・・学生・・・勉強、とかかな・・・」
「学生ですか?うーん・・・学生としての思い出がわたしにはないからなあ」
「・・・・・」
提案した百が無言になっている。
どこまでいっても普通である岸島に、まるで役に立たない御鏡。俺相手ではないため一応気を遣って何も言わないみたいだが、心のどこかではすでに突っ込んでいるのだろう。
「あ、土日とか?」
岸島がふとそう言った。
学生である俺たちの活動は平日の放課後にも行われる事が多いが、どうしても小さな活動になってしまう。そうなると大きく動けるのは午前しか授業の無い土曜か、休日である日曜しかないだろう。
「週末アイドルとかそういうのですか?」
「そのキャッチコピーはもう似てるのがあるから駄目だと思う・・・」
やんわりと却下される御鏡。
「でも休日・・・いいかもしれないわね。学生らしさもあるし。でも休日、っていう名前だと少しだけアレだから・・・こう・・・英語にするとか?」
「ってことはHolidayか」
復活した俺がそう付け加える。
「いえ、もっとこう・・・休み!ってのを前面に出していきましょうよ!わたしたちの夢でもあるんですし!」
「わたしたち・・・?」
岸島が驚いたように御鏡を見る。
「そうですねえ、わたしの好きな昼寝とかって意味も入っているRestとかどうでしょう」
「相変わらずお前は全くブレないな・・・」
「ということは・・・」
近くにあった紙に百が綺麗に英語を書いていく。
『Rest Day』
とても読みやすい丁寧な字でそう書かれていた。
「なんだか駄目っぽさが前面に押し出されているような気もするが・・・まあ、いいか」
俺のセリフに岸島と御鏡が頷く。
こうしてユニット『Rest Day』が結成されたのだった。
ちなみにこのユニット名、岸島らしいといえばそうなのだが、岸島の意見があまり入っていなかった。目立たないという意味で、岸島も相当ブレていないのである。
読んでいただきありがとうございます。あとがきから先に見ていただいている方には読んでいただければ嬉しいです。
シリアスめいた話はしばらくないと思いますが、よろしくお願いします。




