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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第2章 アイドルの仕事
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第16ステージ ネクストステージ!

「もしかして、今発表してたアイドルって君がプロデュースしてる?」


 杵島は全てが分かっているかのように笑いながらそう問うた。

 俺は静かに口を開き、簡単な答えを言った。


「そうだ」


 確かに俺は杵島に対し、いい感情を持っていないがそれでも今から殴りかかるぐらい憎んでいるわけではない。いや、このうすら笑いは殴りかかりたくはなるものの、それではただの逆恨みだ。

 俺はメイクいおろいの後継ぎをこいつから奪いたいと思っているが、それは実力で勝って、の話なのだ。


「君のお父さんも君が一体どうしたのか、分からないと言っていたよ。急に無名アイドルのプロデュースなんか始めちゃうんだからね」

「プロデュースなんて大層なものじゃない。俺の八つ当たりに他人を巻き込んでいるだけだ」

「八つ当たりかあ」


 そんな杵島を置いて、俺たちは楽屋の外へと移動する。


「おや?見ていかないのかい?蝶野紡のオーディション」

「俺にはそれよりも大事なやつを迎えに行かなければいけないからな」

「随分気に入ってるんだね、彼女の事」

「・・・・・」


 その言葉を無視して、会場の入口へと急ぐ。


「何をしたいのか分からないけれど、がんばってね」


 嘘だ。

 絶対にそれは嘘だった。

 あいつは俺が後継ぎという地位を奪われたことに対し、何か思っているということを知っている。そう、隙あらばその地位を奪い返すと思っていることさえ。

 早足で歩く。


「相変わらず、腹立つ笑顔ね」


 百がそう言った。

 きちんと同じぐらいの速度で俺の後ろについてきている。百と杵島は一度中学のときに会っている。本当にそれは偶然だったのだが・・・。


「あいつは最初からああだった」


 だから今更何も思わない。

 今は天と地との差かもしれない。でも、いつか確実に岸島が蝶野紡を超えてみせる。それこそが今の俺の目的であり、俺が他人を巻き込んだ八つ当たりなのだ。


「何かもっと話さなくてもよかったの?」

「俺はそもそも話す事なんかないし、あいつなんてもっとないだろう」


 俺に興味を持っているのはきっとそういうふりなのだ。俺の親があいつの上司だから、ただそれだけなのだろう。それだけで俺に関わろうとしてくる。それが昔はどうしようもなく嫌だった。


「今も・・・か・・・」


 少しぐらい興味を持たれたい、今だってそうだ。今だって俺は杵島に勝って認められたいのだ。

 その後、少し百と話していると、会場の入り口前へと辿りついていた。そこから外に出て来たのは、本当に見違えた、アイドルとしての岸島が現れた。


「き、緊張した・・・・」


 いつもの岸島だった。

 俺が唯一覚えていた音楽の授業での歌のテスト。その時でさえ、恥ずかしそうに、赤面しながら歌っていた記憶があるのだが、歌の上手さは変わっていない。


「お疲れ様、岸島さん」


 俺が声をかける前に百が岸島に声をかける。

 見事に役目を奪われた俺は遠目からそれを眺めていた。俺は基本的にこういうときなんて声をかけていいか分からない。

 きっとお疲れ様、その一言がいいのかもしれないが。

 岸島のアイドルとしての活動はこれから。俺はその一言を言う事ができなかった。ここでお疲れ様と言ってしまうと全てが終わってしまうような気がして。

 全てが停滞しているのではないかと錯覚してしまう。俺は焦っていたのだ。

 杵島に直接会い、そして俺はまだまだだと、そう悟った。だからあいつに勝つためにはもっともっと岸島が有名に、俺自身も有名にならなければならない。

 焦っていた。

 岸島のオーディション終了よりも先にそちらに気を取られる。

 そしてそれは当たり前のことだった。俺たちはお互いをお互いで利用し合うような関係なのだ。

 岸島は自分のお店の宣伝のために、俺は杵島に勝つためにお互いを利用している。


「・・・・・」


 そう考えるとどうにもなんと言えばいいのか分からなくなってしまう。

 だから・・・事前に決めていた。

 こういうときなんと言えばいいのか、その時になって困らないように決めていた。


「岸島」


 声をかける。

 俺の存在に気付いた(もっと最初から気付け・・・とは言いにくい。俺自身岸島のことを知らなかったのだから)岸島がこちらを見て笑う。


「ご、ごめんね・・・五百蔵くん・・・。オーディション成功したか失敗したか・・・自分でもよくわからないんだ・・・」

「お前が謝る必要はない。俺たちは控室から見ていたが・・・あれは成功としていいレベルだった」


 蝶野紡には勝てないのかもしれない。

 それでもあれは岸島の全力で、まさにアイドルと呼ばれるような見た人を楽しませる、そんなパフォーマンスだった。


「岸島、ありがとう」


 だから、俺は照れくさくてどうしようもない、俺らの関係に不釣り合いな言葉を贈る。

 利用し合っているという関係に合わない、俺らしいひねくれた感謝の言葉。

 きっとそんなことには岸島は気付かない。

 俺の照れ隠しなんかには一切気付かずに笑うのだ。俺が初めて見たときに見惚れた、そんな笑顔できっとこう言うのだ。


「どういたしまして」


 そして岸島からもお礼を言われる。

 相変わらずのお人好しで相変わらずの優しさ。それがすでに心地いい何かへと変わりつつあった。

 この時、俺は気付いていなかった。利用し合う関係というのが照れ隠しの1つで、このお礼こそきっと俺が最初から伝えたかったものなのだろうということを。

 俺たち3人はその後控室に戻ることなく、赤々しい会場から帰路についた。





 その後、岸島のアイドルとしての仕事は1週間ぐらいなかった。

 今回のオーディションでかなり無茶をさせてしまったのでは?と百が言っていた・・・というのもあるがあいつにもあいつの生活がある。プロではないアマチュアなのだから無理して予定を詰めなくてもいいだろうと判断した。

 そして届くオーディション結果。

 オーディションは今回の1回戦が行われ、結果発表が5日後あたりに届く。そして次の土曜日日曜日に一気にオーディションを進めて終わらせるという予定に変更されていた。

 どうにも参加者が多く、その数に一気に結果を伝えると混乱が起こるかもしれないという配慮からだった。そして届いた先は・・・。


「なんでこの学校なのよ・・・」


 百がため息をついていた。

 ここはいつもの第2音楽室。その部屋のど真ん中には封筒が置いてある。もはや私物化もいいところである。よく未だに追い出されないものだ。


「もうすでにあなたたちも同罪だからね」


 もちろんこのセリフは嘘だ。

 百も俺ももし怒られてしまったらお互い裏切る気でいる。


「あれ?・・・・この封筒もう開いてない?」

「ああ、俺が見た」

「え?先に?岸島さんのいないところで?1人?」

「そう責めるような目をするな。結果自体は見ていない」


 百の睨むような目を見ないようにしながらそう言う。

 ただ、気になったのだ。

 その封筒には、岸島への合否が書いてあるはずのその封筒の宛名には俺の名前も含まれていたのだから。俺がアイドルをプロデュースうんぬんしたというのは割と有名になりつつあるのだが、それが誰のアイドルなのかまで知っている人は少ないだろう。

 しかしこの封筒には俺の名前が書いてあった。

 この合否を送った人間は俺が岸島狐子というアイドルをプロデュースしたということを知っているのだろう。


「だから気になったのだ」

「それで、結果発表の紙以外に何か入っていたの?」

「一応な、だがそれは後でにしよう」


 その瞬間音楽室のドアが開き、慌てて入って来る岸島の姿が見えた。

 今はこの結果だけに専念するべきだろう。






 それからさらに1週間後。

 合否発表を見ると結果は不合格。やはり蝶野紡には勝てなかった。ただ、その勝ち上がった蝶野紡はさらに2回戦を余裕で勝ち上がるとそこで辞退したのだった。

 あまりにも勝手な結果で、だったら最初からこのオーディションを受けないでくれ、とも思ったが何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないんだろうと思う。

 結果、誰が優勝し、誰が29アイスクリームのキャンペーンガールをつとめることになったのか。


「・・・・・」


 登校途中の駅の中。

 そこには29アイスクリームの宣伝看板がいたるところにある。確かこの駅内にも1つ店舗があったはずだ。人気のお店である。

 そんな宣伝看板には日香里恵、あのぶりっ子チビアイドルがうつっていたのだった。

 確かに妥当なところなのかもしれない。

 蝶野紡が辞退したことにより、あのオーディションの優勝候補はスカーレットになった。しかしどうやらあのスカーレット、情熱的すぎるパフォーマンスを見せたらしくその熱い感じはアイスクリームに合わないと負けてしまったのだそうだ。

 もちろん服はいつもの赤色。もう少し考えろと思わなくもないが。


 そうなると、残りの中でまた別の優勝候補が出たらしいが・・・そのアイドルに見事勝ち、キャンペーンガールに選ばれたのは日香里だった。アイドル力が全てではないと示してくれた。

 しかし、あいつあの時追い込まれていたようだ。

 根拠は俺が盗み聞きしたあいつの姉との会話である。

 ちなみにあいつと一緒にオーディションに出た御鏡だが、あくまで引き立て役だということで辞退したらしい。どう考えてもめんどくさかったのだろう。分かりやすい。


「・・・・・」


 駅を歩き、いつもの長いエスカレーターの前に着く。

 そこに乗り、じっと上に着くまで待っていた。

 ふと、その上の方を歩いている人が目に入った。どうにも知り合いのそれに似ていたのだ。慌てて追いかける・・・必要もないかと普通に歩いているとそのまま普通に追いついてしまった。

 歩くのが遅すぎる。


「やはりお前か」

「あ、五百蔵さん」


 先ほどそのことを考えていたからかそこにいたのは御鏡歌子だった。

 引きこもりでオタク。そんな絵にかいたような駄目人間である御鏡が外に出るなんてほんとうに珍しい。しかし外に出たくて出たようではないみたいである。


「たまには学校いけって脅されまして・・・帰りたい」

「見た感じまだ登校中みたいだが・・・」


 心折れるのがはやすぎるのだ。


「というか・・・その制服・・・」

「あれ、言ってませんでしたっけ。わたし、常光学園の生徒ですよ一応」


 全く登校してませんけどねーと不気味に笑う。

 常光学園、後継ぎやそのためのアイドルが多く通う学校であるため少しの融通がきくような学校である。仕事で学校に行けなかったり、アイドルが忙しくなった場合は他の学校よりも簡単に休めたりするのだった。

 とはいえもちろん休めば課題などが出たりするし、いいことばかりというわけではないのだが。


「お前はどれぐらい休んでいたんだ」

「さあ、もう覚えてませんね」


 背中に背負うリュックがとても重そうである。

 見た感じ教科書もほとんど入っていないペラペラ状態に見えるのだが・・・。


「そういえば日香里がキャンペーンガールに選ばれたな」

「ええ、それはもう喜んでましたよ。その結果、お姉さんも渋々アイドルを続けることを許可してくれたみたいですし、これでわたしもお役御免です」

「そうか、それはいいことを聞いたな」

「え・・・なんかすごく嫌な予感がするんですけど・・・」


 青ざめていく御鏡。


「放課後、第2音楽室へこい。岸島はお前とユニットを組むことにする!」


 俺はそう高らかに宣言した。

 


 

これで2章が完結になります。

長い間更新がなく、申し訳ありませんでした。


もしよければ今後もよろしくお願いします。

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