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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第2章 アイドルの仕事
16/29

第15ステージ キャンペーンガールオーディション

 秘策なんてない。

 アイドルたちの顔合わせが終わった次の日、いつものように日課となっている第2音楽室に岸島と共に来た。百は相変わらずまるで自分の部屋かのようにピアノを弾いている。

 しかし俺たちが来たことはすぐ気付いたようで、ピアノの演奏を止め、こちらに向き直った後、今回のオーディション、蝶野紡に勝つ方法を考えついているのかと問われてしまった。

 それに対し俺は自信満々にそう言ってのけたのだ。


「まさか何も考えてないの・・・?」


 百は心配そうにこちらを見る。いや、心配そうにではない、呆れているのだ。あれほどのアイドル力の持ち主に何か特別な方法以外で勝つ方法なんてないだろうに、と。

 しかしそれに対しても俺は変わらず笑った。


「ふふふ・・・。甘い、甘いな百よ。秘策は用意していないが、考えはある。そのために俺はお前にアレを頼んだのではないか!」


 そのセリフに隣に座っていた岸島がアレ?と首をかしげる。

 対する百は頭を抱えながらため息を吐いた。


「本当に使うのね・・・これ・・・」


 そう言って百がスクールバッグから出したものは1枚の紙とCD。かわいらしい動物などが書いてある明らかに百の私物のメモ帳だった。CDは特に何もない透明と白のケースに入れられている。

 俺はその2つのものを受け取った。


「それって・・・何?」


 まだ事態を理解していない岸島が訪ねてくる。


「CDと歌詞カードだ。お前の曲の」

「私の曲・・・?」


 何を言っているのか分からないといった様子だった。

 俺の用意した秘策、ではなく真っ向からぶつかるための策はこれ、オリジナル曲だった。普通駆け出しのアイドルがオーディションで見せる曲は既存曲が普通である。

 俺はその常識を覆そうとしているのだ。まあ、見方によっては生意気だと取られそうではあるが、プロデュースしているのが俺である。きっと全ての非難は俺に来るだろう。


「なんて考えてるだろうけれど・・・まあ、確かにいおくんの評判はアイドル界では悪いからねー」


 まるで他人事のようにそう言っているが、百の評判もそこまでよくはない。

 どちらもアイドルを軽視したアイドルと思われているのだ。やりたくもないのにやっているということがバレればそうなるのは必然だろう。


「ちょ、ちょっと待って!私の曲・・・?これ私だけの曲ってこと・・・?」

「ああ、そうだ。なんのために今までお前は歌の練習をしてきたと思っている」

「ま、まさかこのためだなんて思わないよ・・・」


 どうやら既存曲を歌うものだとばかり思っていたのだろう。ここまで岸島には歌い方というのをこの学園の先生から教わっていた。アイドルが多いという学校なだけにそういうのを教えるのが得意な先生もいるのだ。

 会った当初より明らかにしゅっとしたスタイルになっている。それだけ頑張ったということなのだろうがしかし・・・。

 自分だけの曲というものに明らかに怯えていた。


「す、すごい恐れ多いというか・・・月見里さんにも手伝ってもらっちゃって・・・申し訳ないというか・・・」


 そのセリフに反応して、百が岸島の耳元でこそこそと何か話している。


(それ・・・歌詞考えたのは確かにあたしだけど・・・曲を作ったのはいおくんだよ。恥ずかしがって自分からそういうこと言わないけど、作業量では圧倒的にいおくんの方が多いの。それにあなたのプロデュースというかマネージャーじみたこともやりながらだしね。恥ずかしいのは分かるけど・・・受け取ってあげてほしい)

(そ、そうだったんですか・・・)


 何を話していたのか知らないが、やけにすんなりと岸島がその歌詞カードとCDを受け取った。

 まあ、分かってくれればよいのだが、なぜか腑に落ちない。


「わあ・・・この歌詞月見里さんが作ったんですよね、可愛い歌詞」

「わー!み、見なくていいから!あたしがいないとこで見てよ、馬鹿!」


 腑に落ちないといえばこれもそうだ。

 いつの間に岸島は百とここまで仲よくなったのだろうか。最近特にそんな感じがしている。まるでこれでは友達みたいではないか。

 そんな気持ちをセリフにして百に伝える。


「え、だってたまに遊びに行くし」

「・・・・・初耳なんだが」


 岸島はアイドルをやっているとはいえ、プロのアイドルではないし、人気アイドルでもない。活動するべきことがある場合がほとんどではあるものの、休みが0というわけではないのだ。

 しかしそんな岸島のオフの日にまで俺がいると邪魔ではなかろうかと考え、しっかり休ませるためにあえて何も言わずにきたのだが・・・。


「仲よくなることはいいことだが・・・腑に落ちん」


 別に誘われたかったとかそういうことではないのだが、その様子を見てにやにやと笑っている百を見るとやはり腹立たしさを感じる。こいつ後で覚えておけ。


「岸島、申し訳ないがこれからオーディションまでほぼ毎日、練習がある。今日はしっかりと休むといいだろう。しっかりとな」


 そう言い残してこの日の会合は終わった。

 そして迎える29アイスクリームのキャンペーンガールを決めるオーディションの日。

 万全の準備とは思えないが、やるべきことをやるしかない、そんな状況だった。





 審査方法は審査員による審査だ。

 29アイスクリームの営業担当から7人、そして現人気アイドルから3人、計10人が争った2人のアイドルのどちらがよかったかを審査する。

 本来のオーディションはここまで大きくなく、精々会社から3人ぐらいの審査員を設ける程度だろう。

 しかし人気アイドルまで審査員として採用しているのはこのオーディションが新人アイドルの登竜門であり、誰しもが通る道として注目しているからだろう。


「き、緊張してきた・・・」

 

 控え室。俺たちはそこにいた。

 会場は広いとはいえ、同時に行われるバトルはなく、1つ1つ、順番に行われていく。同じ一回戦でも時間に差がでるのだ。

 岸島の順番は一回戦の中間ぐらい。今は1つ前の試合が始まっているとはいえ、時間的にはかなりある。それでもかなり緊張していた。

 1回戦の中間とはいえ、このオーディション、他の試合を見る事ができないのだ。もちろん対戦相手のパフォーマンスは見れるのだが、自分の試合にならなければ会場に入る事さえできない。

 実質自分が最初にやるのと大きく変わらないだろう。


「相手はあの蝶野紡だが、俺らが出来ることをやるしかない。オーディションであろうと、誰かを楽しませることには変わりがない。今回はその相手が審査員なだけだ」

「うん・・・」


 返事も上の空でどことなく不安そうである。

 岸島はいつものようにコンタクトレンズをつけ、今回も例のごとく白いワンピースを着て、清楚な感じにしている。長い前髪を流し、みつ編みになっていた後髪をまっすぐストレートにしている。

 先ほどアイドル力を計測したところ6100になっていた。恐らく、あの駄菓子屋の仕事が少しだけ話題になったのかもしれない。100も上昇している。

 しかし、恐らく相手だったスカーレットのおかげでもあるのだろう。

 それでも普段の岸島は未だにアイドル力1000少し。アイドルになりたいという気持ちがある分最初よりかは上がっているが・・・。


「まあ、安心しろ。お前のバックについているのはこの俺だ!岸島はいつものように自分の全力を出せばいいだけだ」

「うん・・・」

「・・・・・」


 いつものような調子で話しかけてみてもこの始末。

 余程緊張しているのだろう。


「あんたはいつもそういうのが下手よね」


 そして実はこの場にもう1人いる。

 俺のセリフをきき、呆れながらも岸島のことを励ましている月見里百だ。本当は俺と岸島2人でこの会場に来るつもりだったのだが、当日になって行きたい行きたいと言われつれてきたという感じである。

 本当いつの間に仲よくなったんだ。


「ありがとう、月見里さん。それに五百蔵くん」


 岸島は笑う。


「初めてこういう場に立たせてもらうんだし、頑張って来るね」


 なぜだか親の気分になる。

 最初はあんなに内気だったのに、と思うものの元はといえば俺の行動が原因だということを思い出すと急に冷静になる。

 その様子に気付いたのか百がジト目でこちらを睨みつけていて、さらにその様子を見て岸島が笑う。いつもの第2音楽室と同じ空気に少し落ち着いたのかもしれない。

 アナウンスで岸島の名前が呼ばれる。

 俺と百は控え室までしか入る事が出来ない。ここから先は岸島が頑張らなくてはならない。


「いってこい、お前の頑張りはよく知っている、頑張るといい」

「岸島さん、頑張ってね。別に失敗しても死ぬわけじゃないし、気にすることないわよ」

「なぜお前はすでに失敗する前提なんだ」


 岸島はそれを見てまた軽く笑い、控え室を出て会場に移動した。

 俺たちはそれを眺める。

 控え室の中にはテレビがあり、そこで会場の様子を見る事が出来る。ここで見る事ができるのはもちろんその参加者の関係者だけだ。


「すまないな」

「何が?」

「ここに来てもらってだ」

「別に・・・あたしが来たいって言っただけだし・・・」

「それにオーディションで披露される歌の歌詞はお前が考えた・・・」

「それ以上言わないで」


 そう言いながらもテレビをじっくりと見る。

 オーディション会場も赤を基調とした色で相変わらずこの会場の持ち主の顔を思い浮かべてしまう。そんな会場に、白いワンピースを来た少女が映った。

 岸島はでかい会場に緊張しているらしいが・・・そこにいるのは審査員10人だけ。それを見て少し落ち着いたようだ。


「蝶野紡の前にパフォーマンスをするというのが救いだな」


 それこそ岸島が緊張してしまう。立ち直れないぐらいに。

 岸島が頭を下げて名前を言う、そしてかかりだした。俺たちが作ったオリジナルの歌が。このテレビ参加者だけでなく審査員の反応も映してくれるらしく、やはり聞き覚えの無い曲に審査員は戸惑っていた。完全に狙い通りだ。


「甘いな・・・俺が何もしないとでも思ったのか」


 岸島の歌声は透き通るような歌声だった。

 モモが隣で驚いている。こいつも実際に歌をきいたのは初めてだったか。

 しかし俺は違う、伊達に同じクラスじゃない、ということだ。音楽の授業でやけに綺麗な歌声だったのを覚えている。残念な事にその歌声しか覚えていなかったわけだが。


「そしてこれが策の1つだ」


 岸島は踊っていなかった。

 アイドルの曲と言えば歌と踊り。それで観客を楽しませるのが基本ではあるが、期間的に踊りの方がどうしても付け焼刃になってしまう。だから歌一本にしぼったのだ。

 踊らず、歌っているだけだが、歌う歌詞によってその表情を変えている。これも練習の成果である。


「驚いた・・・岸島さんって意外に器用なのね」

「割と失礼だなそのセリフ」


 曲は今の季節に合わせたこれから夏が来るということを示唆したもの。しかしすごくテンポのはやい曲というわけではなく、ゆっくりと押し寄せる海の波みたいな曲だ。

 百が作った歌詞もそれに合わせたもので、砂浜、海などの単語が出てくる。


『ワゴン車で 砂浜を 走り出す季節が またやってくる』


 岸島の声は会場だけでなく、この控え室にまで広がっていく。

 思わず耳をすませてしまうほどの歌声が。

 1分半の時間だった。しかし岸島には永遠の時間に思えただろう。


「あの子、やってのけるじゃない」

「学級委員とかもやるぐらいだからな、そこらへんの度胸はあるのかもしれない」


 岸島のパフォーマンスが終わり、頭を下げる。

 終わった。

 俺は席を立つ。


「蝶野紡のパフォーマンスは見なくていいの?」

「結果は後から送られてくる。もうここにいる意味はない。それに、頑張った岸島を出迎えにいかなければならないからな。お前も来るといい」

「えぇ、そうするわ」


 百も立ちあがり、この会場の入り口に移動しようと控え室のドアを開けた。

 すると外から誰か入ろうしていたらしく、ドアに手をかけた瞬間に外側からドアがあいた。


「ふー・・・随分迷っちゃったんですけど、控え室ってここであってますかね?」


 へらへらとした笑い。

 見た目は普通の人としかいえない特徴のない見た目。

 しかしすらっとした体はやはり大人を思い浮かべる。

 服も変わったところはない。

 でも俺からしてみれば大きく違う。


「おや?なあんだ君も来ていたんだね」

「杵島・・・!」


 まぎれもない杵島透がそこにいた。


読んでいただきありがとうございます。だんだんと書きたかったことが書ける序盤終わりになってきました。


よろしくお願いします。

ではまた次回。

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