第14ステージ アイドルたちの顔合わせ②
アイドルの顔合わせ。
29アイスクリームのキャンペーンガールオーディションに参加する面々で顔合わせが行われた。参加は強制ではなく、暇な人はどうぞというレベルなのだが、会場についてみると予想以上にアイドルがいるのだった。普段は俺もめんどうだからとすっぽかすのだが今回初めて参加する岸島の緊張をほぐすためにもこうして参加している。
そういった特別な理由があるか、または顔合わせで挨拶をわざわざする律儀なアイドルしか来ないのだ。俺と岸島からすれば顔合わせできるアイドルが多いにこしたことはない。でもなぜ今回に限ってここまで数が多いのか。しかしその疑問は会場に入った途端解消されることになる。
控室・・・というよりは少し大きめのホールだろうか。机と椅子があり、そこかしこに参加者の姿が見える。その中でも目立つ人物が1人。
「・・・・・」
椅子に座り、優雅に本を読んでいる人物。岸島の一回戦の相手である蝶野紡がそこにいた。長い髪を綺麗に伸ばし、服装は常光学園の制服だ。特に変わったことをしていないのにここまでまわりとは違うのかというほどのオーラ。ドル・ガンでアイドル力を計測するまでもない、50万は超えているだろう。
「あ、蝶野さん・・・」
岸島が後ろでそう呟く。
するとその声が聞こえたのか蝶野紡は急に立ち上がり、本をたたみ、制服のポケットに入れてからこちらへと移動し始めた。部屋は色々なアイドルが話しているからか賑やかではあるのだが、やはりどこか緊張感があり、全てのアイドルが蝶野紡を気にしていることが分かる。
蝶野紡は俺らの目の前で止まると・・・
「来たんだ」
そう静かに呟いた。
「・・・・・見た感じ、成功したみたいだね。五百蔵くん」
「・・・・・蝶野・・・さん・・・」
「だから、敬語と敬称はいらない」
本当に物静かな人だった。
まわりはにぎやかなはずなのに音が消えたみたいに静か。蝶野紡の声しか聞こえなくなる。
「で、君が五百蔵くんの惚れた相手・・・ってことね」
どこまで分かっているのかは分からない。
しかしその目で何かを見透かされているようだった。
「ほ、惚れた・・・?」
岸島は動揺している。
しゃきっとしろ・・・というのは無理な話だろうな。しかし・・・一回戦の相手がいきなり蝶野紡というのはやはり厳しいものがある。
「なぜ・・・またこのオーディションに出ることにしたんだ。過去に一回出たことがあるんだろう」
「ん、そうだよ。私は過去にキャンペーンガールをしたことがある。でも、もう一度受けてはいけないなんて規則はないはず」
「・・・・・確かにそうだが」
「今年、私は高校3年生になった。後1年すれば常光学園のアイドルという肩書は消えてしまう。卒業したら0からのスタートになる」
普通なら、そうだ。
しかしこいつの場合は違う。その肩書を失っても欲しいという事務所、大学、働き先・・・0からのスタートなんかではない。強くてニューゲーム。まさにそれだ。自分の能力を維持したままのスタート。
「だからここらへんで初心に帰ろうと思って」
「・・・・・」
「納得いってないみたいだね。五百蔵くんは私をドル・ガンで計測したことはある?」
「・・・・・ある」
ドル・ガンを向けることを許されているとはいえ罪悪感がないとは言えない。
盗撮と同じようなことではあるからな・・・。
「その計測したアイドル力で判断するのは危険だよ。確かに私はアイドル力がけた外れに高いけど、それで仕事をもらえるとは限らない。プロの世界にいけば尚更・・・だから私はここで自分を見直すの」
蝶野紡は謙遜をしない。
しかし、それは自分に甘いというわけではなく、事実をきちんと認める力があるからだ。むしろ自分には厳しく、とてもストイックだと聞いたことがある。
どんなにアイドル力があっても、どんなに実力があっても、一番怖いのはその自分の実力を驕らないこと。努力をひたすら続けていく、そんな当たり前のことがしっかりできる。
一番の強みがそれだ。
「じゃ、私少し外を歩いてくるから。本番で会おうね、岸島さんも」
そう呟いてまた控室の外へと歩いて行った。
「あ、ありがとうございます・・・?」
一応お礼をいった岸島ではあるが、よくよく考えてみれば岸島に対して別にお礼を言われるようなことをしていない。途中で気付いたのか最後が疑問形になっている。
蝶野紡が出て行ったあと、控室の空気は少しだけ緩やかになった。あの微妙な緊張感はあいつ1人が原因だったのか・・・。
控室に入り、あいている椅子に座る。岸島はやはりどこか落ち着かない。
何か言葉をかけてやればよかったのかもしれないが、先ほどの蝶野紡のことが気になって俺も思うようにリラックス出来ていなかった。
何かこの空気を打破するきっかけがあればいいのだが。
「おーほっほっほ!また会いましたわね!我がライバル!」
最悪だった。
そういえばこいつがいないわけがない。今回の会場提供者にして、参加者の1人であるスカーレット。今日も今日とて赤いドレスに赤い瞳。金色の髪の毛は自然な金色で染めたものではないことが分かる。
「あ、スカーレットさん」
ライバルといっていたスカーレットにまるで教室で友人に話しかけられたかのような反応を返す岸島。その反応にスカーレットが一番戸惑っていた。
「な、なんですのその反応は・・・。わたくしたちはライバルであって仲良しこよしの関係では・・・」
「どことなく嬉しそうではないか」
「うるさいですわよ、五百蔵果月!」
いつしか呼び捨てで呼ばれるようになっていたが、いちいち気にしていても埒が明かない。岸島と一応友好的な関係になっていてなによりだと思おう。
少し後ろを見てみればあの駄菓子屋の時にあった執事もいた。どうやらマネージャーみたいな働きもしているらしい。格好が燕尾服のようなものなのでこの場ではただのコスプレのようになっているが、まわりにいるのはアイドル。それぞれが各々の好きな服を着ているためそこまで浮いていない。
「ところでお聞きしたかったんですが、あなたたちの一回戦の相手はどなたなんですの?」
その質問に俺と岸島のテンションが一気に下がった。
こいつ本当にわざとじゃないんだろうな、これ。
「蝶野紡だ」
「え・・・?」
「ちょ、蝶野さんです」
「本当に?」
「こんなつまらない嘘などつかん」
ほえーとバカそうな顔をしながら驚くスカーレット。そしてその後何かに気付いたのか慌てて意識を元に戻す。声を荒げながら岸島に問いかけた。
「まさかすでに諦めているわけではありませんわよね!ここでわたくしとの決着をつけるって約束したことわたくしは覚えていますわ!」
まるでした覚えがない。
「勝ち上がりなさい、岸島狐子。そして正々堂々アイドルとして勝負しましょう。我がライバル」
「う、うん・・・でもちょーっと厳しいかなあ・・・って・・・」
「なっ・・・!なんで弱気なんですの!岸島狐子!あなたは大体・・・」
なぜかスカーレットの説教のようなものが後ろで始まっている。
俺はそれに巻き込まれないようにそっと控室を出た。あの調子ならばスカーレットのおかげでなんとかあの空気に馴染めそうである。
廊下にそって歩いて行く。別に行き場所を決めていたわけではない。
「ね、姉さま!」
そんな時だった。
曲がり角から声が聞こえてくる。
姉さま?なんというか最近ではあまり呼ばないような名前ではあるが。
何か緊迫している様子ではあるが、それを気にしてここで引き返すような人間ではない。というか公共の道で勝手に話している方が悪いとばかりに歩みを進める。
とはいえ少し気になるので曲がり角の手前でこっそりとのぞき見。
そこにいたのは日香里恵。あのぶりっ子生意気ちびっ子アイドルだった。
「が、頑張るから!姉さまにちゃんと見てもらえるように!姉さまみたいなアイドルみたいになれるように頑張るから!」
そんなセリフを言っている。
「あいつは二重人格か何かなのか・・・」
俺と接していたときと随分違うみたいだが・・・。
その日香里の話しかけている相手は日香里とは真逆でモデル体型の背の高い女性。どことなく蝶野紡と似た雰囲気を感じる大人っぽい人だった。
「あいつは・・・」
なるほど。
姉さまと言われているということは姉、なのだろう。それで思い出したことがある。日香里穂豊。確か今回のオーディションの審査員の1人だったはずだ。そして有名なアイドルの1人。姉妹だったのか。似てない。
その穂豊(紛らわしいので下の名前で呼ぶ)は苛々しているのか目の前にいる日香里を睨みつける。
「そのセリフ、聞き飽きたわ」
「っ・・・で、でも今回こそ・・・」
「そのセリフも何度目かしら。今時ぶりっ子なんて流行らないし、実は裏では腹黒なんてさらに使い古されている。あなたがそれにすがりつくのは別に止めないけれど、それで今回のオーディション勝ちぬけるのかしら?」
どうやら不穏な雰囲気だ。
少し盗み聞きしているのを後悔するも、俺は悪くないと思いなおす。そう、道でたまたま話しているのを聞いただけ。
「だからあなたと共に歌子をコンビとして組ませて話題性を狙おうとしたのに・・・あなたは組みたがらないし、歌子は部屋から出ない。ほんと予想外だわ」
「・・・・今回は歌子も出場するよ。姉さまの言うとおり無理やりつれてきたから・・・」
「そう。まあ、あの子は部屋から出ずともそれなりにやれるでしょうが、あなたにはそれも無理。これ以上日香里の名に泥を塗らないでほしいものね」
「う、うん・・・」
「だから、これが最後のチャンスと思いなさい」
「え・・・?」
「今回のオーディション、あなたが勝ち残れなければアイドルをやめなさいと言っているの。これ以上才能もないのにうろちょろされてたら迷惑なの。なに?それとも勝ちぬける自信がないのかしら」
「あ、あります・・・」
俺は1人頷く。
あの合わなさそうな2人、日香里と御鏡をくっつけていたのはあの穂豊の策略だったのか。確かに話題性はあるだろうが、どうしてもその話題は引きこもりの御鏡の方に向いてしまう。
「ま、わたしにあたりがきついのはここらへんが原因なんすよねー」
「御鏡、いつからそこにいた」
「盗み聞きしてるのを五百蔵さんが必死に正当化させてるところからですね」
「これでお前も同罪だな」
「清々しいほど最低ですね」
こそこそ話でいつの間にか近くに来ていた御鏡と話す。
「こういうことがあるからわたしも言い返せないというか」
「嘘だ。お前は言い返すのもめんどうで特に何も思ってないだろ、あいつの言葉に」
「いやあー、わたしオタクできれば生きてけるんで」
こいつこそ清々しい性格をしている。
確か引きこもりしている間はネットアイドルとかで稼いでいたのだったか。それで引きこもっていてもそれなりの生活が出来るのだろう。
「まあ、それもそんな簡単なことじゃないですけどね。というか知ってますか。あの有名ゲームの新作が発表されたんですよね。マジ楽しみじゃないですか、ほんと。さらに今までのゲーム性を受け継いだまま新しい要素もあるとか不安ですが楽しみすぎます」
「日香里の話はどうした」
こいつら本当に組んでいるのだろうか。
お互いに興味なさすぎるだろう。
「またその時には引きこもるつもりか。太るぞ」
「もう太ってますよ。豚子ってそっからきてるみたいなもんですし。まあ、でも・・・」
静かに目を細めて日香里を見る。
「今回のオーディションにかかっているのなら、わたしも全力、出しますけどね」
「もしかしてあいつとのタッグで参戦するのか?」
「はい、禁止されていませんでしたし」
ルールの中には書いていなかった気もするが、あまり聞いた事がないな2人でキャンペーンガールをやるというのは。
「そもそもなぜあんなやつのいいなりなのだ。やめろと言われたらやめるのか?続ければいいだけではないかあのような姉のことなど気にせずに」
「あーそれ絶対あの子に言わないでくださいね。わたしやつあたりされるので。五百蔵さんも気持ちのいい性格してますから、分からないかもしれませんがあの子にはそれが出来ないんです」
「それ褒めてないな」
なんだろう。
御鏡の中で俺の扱いが雑になりつつある。
「彼女は親がはやくに亡くなって、頼れるのは昔から姉だけだったんですよ。それでなんとか妹分の食費を稼ごうとしていつの間にかこんなことに」
いつの間にか、そこが一番気になるのだが、御鏡もそこまで知らないのかもしれないし、知っていたとしても俺には関係ない。
「ふっ、この程度でこの俺が手を抜くと思わない方がいいぞ」
「いや、思ってないですけど・・・というか、五百蔵さん一回戦蝶野さんとですよね。わたしたちとあたるのって絶望的すぎません?」
「この引きこもり女・・・!」
そんな軽口を叩きあっていると・・・。
「おーい、五百蔵くーん」
「岸島・・・!」
大声で俺を呼ぶ岸島が。まずいこのままでは盗み聞きしていたのが日香里にバレてしまう。
慌てて曲がり角の方を見るとそこにはもう誰もいなかった。すでに話が終わっていたようだ。ほっと胸をなでおろす。
「五百蔵くん?慌ててどうしたの?」
「岸島、今俺はお前のせいで盗み聞きがバレるところだったんだ」
「それ・・・私悪いかな・・・?」
後ろの方で先に歩いて行く足音が。
御鏡だ。
「さっきのことはだまっとくんで。お互いがんばりましょー」
とてつもない棒読みで感情も何もあったもんじゃなかったが、俺と岸島は一応頷く。
こうして顔合わせは終わり、とうとうオーディションの日、当日を迎えるのであった。
ようやく次回からアイドルらしいことを書いていけそうです。
いくつか変更した事を。3人称から1人称にしたのは前も書いたとおりですが、読みやすいようにスペースをあけるようにしました。
また何かありましたら言っていただければと思います。
ではまた次回。




