第13ステージ アイドルたちの顔合わせ
「あなたたち初仕事は成功だったらしいわね」
ほら、と俺と岸島にアイドラーを見せてくる百。
そう、ここは第2音楽室。音楽の授業で普段使わないような何の用途に使うために作られたのかも分からない教室の一室である。もはや百の私物といってもいい気がするほどに馴染んでいる部屋ではあるが、今日も今日とて百はピアノを楽しそうに弾いているのだった。
俺と岸島はそのアイドラーを覗く。
『いわとのとびらでお菓子配ってたあの清楚そうな子アイドル?』
『片方はスカーレットさんだよね、めっちゃ可愛かった。その隣の子誰だったんだろ可愛かったな』
『なんでも新しいアイドルらしいよ。メイクはあのメイクいおろいの従業員だとかなんとか』
『お菓子もらってきちゃった』
『新しいアイドルだとしたら応援したいね』
『今後オーディションとかに出るのかな、あの白い子』
『確か岸島サイクリングとかいう自転車屋を宣伝してたしそこのアイドルじゃね』
『マジ?俺もう自転車壊れてるしそこ行こうかな』
『ってことは名字は岸島?』
様々な人の呟きがそこにはあった。会話しているものもそうでないものも悪い評判は一切ない。無関心というのが一番多いかもしれないがそれでも最高の結果だろう。
「まだ岸島さんだって気付かれてないからクラスの人にも何も言われてないかもしれないけど、そのうち間違いなく学校でも知られる存在になるわね」
「ふふふ・・・これで一歩近づいた!まさに俺のおかげではないか!」
「うん、そうだね」
また何か反論をくらうだろうと思って身構えていたのだが、あっさりと拍子抜けするぐらいに岸島は少し笑いながらそう肯定した。
思わぬ反応に一瞬声が出なくなるものの慌てて取り繕う。
「わ、分かればいいのだ!し、しかしだな・・・お、お前も頑張った方だとはお、思うが・・・」
「認められて困ること言わないでよ馬鹿」
その代わりといってはなんだが結局百に罵倒されるのであった。この妖怪ピアノ女・・・。
「ううん、五百蔵くんのおかげだよ。私でもあんな憧れたアイドルみたいになれるんだって思ったら不思議と勇気が湧いてきて・・・お客さんとの対応もちゃんと出来た気がする。五百蔵くんのおかげだよありがとう」
「・・・・・」
「ほんと岸島さんはこいつにもったいないくらいのいい子よね」
そう面と向かって言える岸島は本当にいいやつなのだろう。
人から馬鹿にされたり笑われたりすることが多い俺だが、ここまで純粋な感謝を伝えられるとやっぱり困るのだ。そう自信満々に言える時点で頑張ったのは岸島自身だろうなやはり。
いつもは暗くてしゃべる声も小さいし、どもることもある。でも、あそこまで変わるなんて俺だって思わなかった。はきはきとしゃべり、対応するあいつは間違いなくアイドルだったんだろう。
俺は手元にあったドル・ガンを眺める。
アイドル力も約6倍の6000になっていた。あそこまで跳ね上がるなんて前代未聞である。元からそれぐらいの素質があって、それを俺がこじあけた・・・いや、自分でこじあけるきっかけを作ったということかもしれない。
「なんだそれではやはり俺のおかげではないか」
「台無しじゃない」
そんな世間話も含めた会合を適当に開いていたのだが、ふと百がそういえば、と何かを思い出したかのように俺たちの方を向いた。
「29アイスクリームのキャンペーンガールオーディションってもう少しじゃないの?」
と、そのようなことを言った。
まあ、当たり前である。元から過密スケジュールだったため、こうして初仕事を終えた後ですぐに次の仕事をしなくてはならない。まるで売れっ子アイドルのようだが、その手前の段階だ。オーディションなのである。
「すでに岸島とは話をしている。そして結論も出た」
29アイスクリームのオーディションはトーナメント戦だ。ランダムでトーナメントが組まれ、アイドルらしさをアピールしてどちらがよりアイドルらしいかを競う。
その手段はダンス、歌、言葉、なんでもいい。
とはいえ、アイドルだ。恐らくダンス、歌の両方で勝負してくるのだろう。しかも岸島の一回戦の相手はあの蝶野紡である。間違いなく持ち歌で勝負してくると思われる。
そんな中、岸島は持ち歌なんて持っているわけがなくて、ダンスも踊れない。その綺麗な声は武器になるが・・・それをどう活用して蝶野紡に勝てるか考えなければいけない。
「当初の予定だと優勝できなくてもそれなりに勝ち残れば宣伝になると思っていたのだが・・・一回戦の相手が相手だ。付け焼き刃でも本気を出すしかない」
ただ、これでいいのかは分からない。
でもやれることは全てやるつもりだ。
「すでに相手は勝ちを確信しているかもしれないが・・・その油断が命取りだ蝶野紡。俺と岸島が絶対に勝つ!そして頂点に・・・・」
「もう分かったから落ち着きなさい」
百に窘められ、素直に着席する。
「近々、参加アイドルたちの顔合わせが行われる。そこが大事だな、まわりのアイドルをそれだけ威圧できるかが・・・・」
「し、しないよそんなこと」
そうアイドルの顔合わせ。
別に必ず行かなければならないというわけではないが、岸島はアイドルなりたてだ。今まで関わってきたアイドルはスカーレットとかいうわけのわからない変わり種だけ。少し他のアイドルと関わる必要があると思う。
「今考えても緊張するよ・・・」
そう言いながらどこかそわそわする岸島。
その様子を見て俺は決めた。
「無駄に緊張するのはもったいないからな、今日は会場の下見へと向かいたいと思う」
○
目の前に広がるは巨大なコンサート会場。
気温もそれなりに上がっており、もう肌寒いといった印象はない。制服はなんとなくまずいかと思い、一度家に帰って着替えてきたのだが、まわりに人はいないし、無用な気遣いだったかもしれない。
「で、なんであたしまでいるのよ・・・」
そんな中、俺と岸島の後ろで俺を睨む人物が1人。
金髪ツインテールは綺麗に風になびき、ホットパンツにレギンスをはいた今時風の服装。それがやけにマッチしており、まるでそこだけ別世界のようであった。
ちなみに岸島は足首までのロングスカートでまたふわふわとした印象を与える余裕のある服装であった。髪型も小さな2つ結びにしていてとても似合っている。先ほどから下向いてばかりだが。
「あんなとこでピアノばかり弾いていたら体壊すだろう」
「別に外に全く出てないわけじゃないわよ」
そう言いながらもここまでついてきてくれたということはそこまで嫌ではないのかもしれない。そこをつっこむといつものように怒られそうなので触れないが。
「にしても・・・本当に今からいくとは思わなかったな」
当事者である岸島はそうのんきに呟いた。
最近毎日のように会っているからか最初のような緊張した雰囲気とか、どこか他人と感じるような振る舞いはほぼ消えている。よくクラスで見る頼りがいのある委員長の姿がそこにあった。
「思いついたときに行動せず、いつ行動するというのだ」
後ろで呆れたように百がため息をついた。
今回舞台になる会場はここスカーレット・ホールという場所だった。正確にはその名前の頭に地域名がついているのだが、今は割愛しよう。なぜならば他にもっと気になることがあるからだ。
「赤い・・・」
コンサート会場は赤を基調としたものでここの風景だけ切り取れば日本では無く、外国のお城または昔からある王宮のなんたらかんたらだろうと思われる風景に早変わり。
「ねぇ・・・月見里さん五百蔵くん・・・すごく見覚えあるんだけどこの感じ・・・」
「・・・・・」
あえて無言になる。
ちなみに百は俺以上にあの赤アイドルに面識があり、一時期ライバル視されていたこともあるのだとか。しかし俺と同じようにアイドル業をしなくなってからは会っていないそうだ。
「名前といい、見た目といい・・・間違いないだろうな」
あいつこんな会場も作っていたのか・・・。なんだか分からないが急に疲れてしまった。
「下見という目的は果たした。もう、ここにいる必要はないだろう」
「めんどうになっただけでしょ、気持ちは分かるけど」
もし中に入ってあいつがいたりしたらまた余計な勝負をふっかけられるかもしれない。それに今は岸島のことをライバル視しているみたいだし、面倒なことに巻き込まれるのだけはご免だった。
ほ、本当に帰るんだ・・・という岸島の一言が聞こえた気もしたが目的は果たしたのでここにいる必要はない。本当に帰るつもりで歩いていたのだが・・・。
「ひ、ひぃ・・・なんで外に出る必要があるんですかー・・・」
「いいからついてきなさい。あんた下見しないと迷うでしょうが!」
ちょうど目の前に俺たちとは逆方向、すなわちあの会場に向かって歩く3人がいた。
1人は小さい。本当に小さい。それこそ百も小さい方ではあるがそれに輪をかけて小さい。発している声も高く、まるで子供みたいだが、セリフや怒っている様子からそのまま子供という印象は受けない。だが、あざとさのあるやつだと思った。
もう1人はそのチビっ子に引きずられながら嫌々歩いている人物。目はやる気のなさそうに開いており、髪型はのびまくった髪を無造作に2つに結んでいる。堕落した生活をしていたのか、全体的にふっくりしており、胸がでかい。対照的な2人だった。
もう1人はスーツ姿の女性。まるで2人のマネージャーといった感じだが・・・実際にそうなのだろう。なんだか2人を心配そうに見ている。
「参加者か・・・」
俺はそう思った。
今時ここに来る人物といえばそれしかいない。
「むむ・・・」
無視して通り過ぎようとしたのだが、そのうちの1人、チビっ子が俺の顔を見て何か思ったようだ。
「あのー、ちょっといいですかお兄さん」
先ほどあの少女を怒っていたとは思えないほどの甘い声。
俺は一瞬でそういう路線なのかと理解した。
「なんだ、チビっ子」
「ち、ちび・・・え、えぇとあなたもしかしてアイドルじゃありませんかぁ?」
かわいらしく子首をかしげてそう尋ねてくる。
別に隠す必要はない。
「そうだが」
「そちらのお姉さんもそうですよねぇ?」
そう言って百も指差す。
明らかに嫌そうな顔をしつつも百は頷いた。
「へ~そうなんだ~」
笑顔でその場をくるくる回り続ける。
岸島は完全スルーではあったが、オフモードである岸島をアイドルと思う人はいないと思う。自分でプロデュースしといてではあるが。
「確かあ・・・美容院さんと楽器屋さんのアイドルでしたよねぇー。めぐ、雑誌で見た事あるから知ってますぅ~。あ、ごめんなさい自己紹介がまだでしたねぇ」
別に名乗られなくともいいのだが・・・どうやらこのチビっ子は俺たちにまだ用があるらしい。
「めぐ、日香里恵っていいますぅ~よろしくお願いします。ほら、あなたも挨拶しなさい、ちゃんとね」
笑顔で引きずっていた少女にそういう日香里とやら。
断れない圧力を感じたのか、おびえながらもその少女は俺たちに自己紹介をした。
「あ~・・・御鏡歌子です。うたこなんで、豚子じゃないっす。似てるけど、体型とかもはや豚子だけど。最近ハマってるゲームは『アルカナ・フィールド』っていうRPGで、やってることはコマンド型のゲームなのにアクションっぽさも残ってるのが好きですねー。あ、ネットの評判とか見ないでくださいね、マジありえないっすよネット住民のやつら。あれはクソゲーなんじゃなくて、人を選ぶような内容なだけでささる人にはささる選ばれし者にしか遊べない崇高なゲームで・・・」
「豚子・・・!長いのよあんたの自己紹介!」
なんだこの漫才を見せられているような気分。
俺ら側にも3人いるはずなのだが、一切言葉を発することができなかった。
「一応私も自己紹介しておくわね。藤堂です。一応2人とも素人アイドルだけど、マネージャーまがいのことをやっているわ。ほら、こんな感じの2人だし、色々心配でしょう?あと恵、素が出てるわよ」
唯一まともそうなスーツの女性。
ぱっと見大学生だろうか。まあ、御鏡とかいうやつは大体俺らと同い年ぐらい、日香里は明らかに年下のように見えるのだが・・・どうなのだろうか。
「はん!もういいわ、別に同業者相手に猫被る気にもならないし。それにここにいるってことは29アイスクリームのオーディション受けるつもりなんでしょう。言わば、私たちの敵よ」
先ほどの甘ったるい言葉はどこへやら。
高い声ではあるが、少しドスのきいた声でそういった。そこまで話すと3人ともこちらを見る。今度はこちらの番か、と嘆息しつつも他のアイドルと関わりを持った方がいいと言ったのは俺だ。
ちょうどいい機会だな、と思い岸島の背中を少し押す。
「俺は五百蔵果月」
「あたしは月見里百」
「え、えーと・・・岸島狐子です、よろしくお願いします」
簡単に必要なことだけ伝えたのだが、どうにも気に入らないらしい。日香里は明らかに不機嫌になりはぁ?という声を出した。
自己紹介というには淡泊すぎたらしい。ここで1つ気付いたのだが、俺と百もあまり他のアイドルとの関わりがないためどうしたらいいか分からないのだった。下手をすれば岸島の方がまだ社交性があるかもしれない。スカーレットとも仲良くなっていたみたいだし。
「ちっ、愛想のないやつら」
お前には言われたくない。
「で、豚子。ここまでの道のりは覚えた?」
「あ・・・移動中アプリいじってたから覚えてないかも」
「それもう意味ないじゃん!なんのためにここにいると思ってるのよ!」
「いやあー、ほらアプリにあるマップもあるし余裕余裕、というわけでもう帰っていいっすかね」
「いいわけないでしょ馬鹿!」
帰り道しっかり覚えてその逆と考えなさいもう!と完全に母親と娘である。見た目的には明らかに日香里の方が子供っぽくあるのだが・・・。
一通り話し終わったのか、こちらを見る。
「あんたたちのどっちが出るか知らないけど、精々頑張る事ね。ま、私には敵わないだろうけどぉ」
「どっちも出ないぞ」
「は?」
俺の一言に怪訝な顔をする日香里。
「何を言って・・・」
「だから、どっちも出ない。出るのは岸島狐子こいつだ」
とんと背中を押し、岸島を前に立たせる。明らかに気まずそうな岸島だが、もう慣れたものなのか苦笑しながらも頭を軽く下げた。
「はあ!?だってそいつアイドル力・・・えぇ!?馬鹿?いや、いやいやいや。それなんの冗談?」
「冗談ではない、そして馬鹿はお前だチビ助」
「なっ・・・!」
そうして騒いでいるとふと遠くから、遠くの距離でも誰か分かるような赤い人物があるいて来ていた。最悪だ・・・最悪の状況だ・・・。
「何か騒いでいるようですが・・・わたくしのライバルに何か文句がありまして?」
澄ました表情で金髪を揺らしながら歩いてきた赤い人物。スカーレット。アイドル力を勘で当てることが出来る不思議な人物だ。ただ、それ以上にめんどくささが際立っている。
「げっ!スカーレット・・・!」
日香里もその気持ちは同じらしかった。
「誰かと思えば・・・猫かぶりさんにひきこもりではないですか。どうかいたしまして?」
猫かぶりは明らかに日香里のことだろう・・・では引きこもりは?
「あ、私のことっすそれ。好きなゲーム出たり、アニメ見るために引きこもってるんで」
「いや、なぜ自信満々なんだお前は」
たぶんだが馬鹿になれてるんだぞ。
「今日のところはこれくらいにしておいてあげる!」
まさしく負け犬みたいなセリフを吐く日香里。
小さく百が「いおくん女バージョンみたいなアイドルね」と呟いていたのだがそれは失礼すぎないだろうか。確かに本性を出したこいつとは似ているところもあるが。
「あんたたちには絶対に負けないわ・・・・・もちろん豚子にも。私は勝つしかないんだから・・・」
そう言ってまたもや御鏡を引きずり、どこかへ行ってしまう。
「勝つしかない・・・か」
百の言う事も的外れではないらしい。
あいつは確かに俺に似ていた。だからこそ俺はあいつのことが嫌いだとそう思った。
色々な人物が出て来て書いている方が面白くなって来ました。
前回、試作としてあげた主人公のところは一人称、他は三人称視点という話を上げたところ、ありがたいことに少しお気に入りが増えたのでそちらの方がいいのかな?と思っております。
今回も例にもれずその方式。ちなみにすでにプロローグから第3ステージまでその方式で書き直しています。違った表現になっているところもあるので、もう一度見ていただければ幸いです。
基本的に読みやすいものを、と考えているので、好きなように書いているとはいえ意見を反映してもよいのではないか、と考えております。
また何かありましたら意見下さるとうれしいです。
ではまた次回。




