表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第2章 アイドルの仕事
13/29

第12ステージ 駄菓子屋でのバトル②

 差は明らかだった。

 長い列が並んでいるのはもちろんスカーレットの方だった。笑顔で対応しているスカーレットは服装こそ派手なものの、口調もさきほどの高飛車な印象からお嬢様らしい丁寧な印象に変わっている。恐らくここではそれが一番人気が出るとわかっているんだろう。あざといやつである。

 スカーレットは常に自分のアイドル力を見れる(とはいっても勘だが)何かがある。ということはつまりアイドル力の変動をある程度自分で操作できるということだ。

 ドル・ガンはその瞬間のアイドル力しか計測できないし、アイドラーというアプリを介しているので反映するのにも時間がかかる。だが、スカーレットはそうじゃない。


「あれは完全に強みだな」


 もはやここまでとは。

 一時期、それでは自分がないのと一緒じゃないかという批判やアイドル力に左右されて自らも転落するのでは?という声も業界内ではあった。しかし今の光景を見る限りこれは確実に強みである。


「お嬢様は日々頑張っておりました。アイドル力や他の人の好みにギリギリまで合わせながら自分を保てる境界線。それを感じることができるように」


 あいつはやはりお嬢様だ。そんなお嬢様でどこか自信満々な雰囲気を持つスカーレットがファンの好みが内気な少女だった場合、それに合わせて内気な少女を演じるとそれはすでにスカーレットじゃなくなる。

 だからスカーレットは内気を奥ゆかしさととらえ、あくまで自分を保ったままアイドル力に合わせているのだ。その境界線を探すのはかなりの労力が必要であろう。


「というか、気になっていたのだが、お前はあいつの執事か?」

「執事・・・とは少し違うかもしれません。あくまで見習いですから。創作の世界とは違い、雇われる執事やメイドは有能でなければならない。必然とお年寄りに近い年齢になるのですよ」


 よく分からないな。

 俺自身、有名な美容院の息子ではあるが金持ちだったというわけではない。そこらへんの感覚は金持ちか当事者にしか分からないのだろうな。

 考え事はそこまでにして、今度は岸島の方を見る。

 スカーレットと比べて人は少ないものの0ではない。子供やお年寄りが岸島の方に来ているのだ。まあ、見た目だけ見るとスカーレットは赤いし近寄りにくいのかもしれない。それに比べて岸島は清楚感のあるどちらかといえば一般人に近い雰囲気を持っている。


「にしてもファンもすごい」


 俺は携帯を取り出し、アイドラーを確認する。そこにはファンたちの『駄菓子屋でお菓子配ってる』『赤可愛い』『お嬢様口調萌える』などといったつぶやきだらけになっていた。

 これはアイドル力も大きく上がるだろうな、と思う。

 だが・・・。


「もうそろそろだな」


 俺は腕時計を見て時間を確認した。

 その行為に隣の執事が首をかしげていたが、少しずつその異変に気付いてきたみたいだ。


「なるほど、確かにこれはいい勝負になるかもしれませんね」


 そう静かに呟いて。





 スカーレットは自分のアイドル力を見る事が出来る。

 今もスカーレットの列に並んでいる人の好みに合わせてお菓子を配っていた。とはいえ、ここに並んでいるのは今日ここで仕事をすると知っていたファンがほとんど、そして芸能人か何かか?と興味本位で並んでいる人が多い印象である。ファンはスカーレット自身が好きなため、普通に振る舞えばそれでアイドル力が上がるというものだった。


(アイドル力4万1330・・・。1000近く上がっていますわね)


 そう考えながら手渡しでお菓子を渡していく。

 これはファンに対する握手会みたいなものも踏まえており、握手や一言言葉を交わしたりなどという時間もある。岸島よりお客さんをさばけず、それなりの列を作ってしまっているが支障はないようだ。

 ちなみに駄菓子屋の中では岩戸が混雑しないように気をつけている。


「ありがとうございますわ」


 そう笑顔で呟いて金髪を揺らす。

 すると少しだけアイドル力が上がるが分かった。なるほど・・・と思い、スカーレットは長い金髪をかきあげる。ばさあと広がる金髪はとても綺麗で日本人にはないものだった。それだけで目を奪う。


(今の行為でアイドル力4万1500超えましたわ・・・この調子でいけばわたくしの元に圧倒的勝利が舞い降りるはず!)


 そう意気込んでお菓子を渡していくものの、そこでスカーレットは異変に気付いた。


(おかしい・・・列の長さが同じぐらいに・・・?)


 確かにそういうことがないとは限らない。

 例えば狐子の対応が遅く滞った場合はそうなってしまうだろう。しかし同じぐらいに並んだ列はすぐにまた少なくなってスカーレットの列が長くなる。


(なぜこんなに列の変動が激しいんですの・・・?)


 列が短くなっているということは別に狐子の対応が遅いわけじゃないのだろう。

 そもそもスカーレットと違い、ファンというものがまだいない。話しかけられてもお年寄りに「頑張ってるね」「偉いね」と言われる程度だ。客さばきの点では狐子の方が上だろう。

 それでも一瞬できたあの列は・・・。


(ということは単純にお客様がそちらに流れているということですの・・・!?)


 なぜ・・・?

 スカーレットは考える。初仕事。ファンなどいないし、宣伝もしていないのだろう。派手さ、見栄えでいえばまだスカーレットに軍配が上がる。いや、それだけじゃない。アイドルとしてもスカーレットは負けているつもりはない。


(メイクをしたとはいえ変わるのは見た目だけ。性格も何もかも全てが変わるわけじゃない・・・まさかアイドル力が唐突に上昇しているということですの・・・?)


 スカーレットは紅い目を狐子に向ける。

 しかしそこにうつるアイドル力は・・・。


(アイドル力6000・・・驚きましたわ。先ほどまで1000程度しかなかったはずですのに。でも)


 わたくしの敵じゃない。

 スカーレットはそう思った。

 6倍にあがったのか感心できるが、それでもスカーレットには遠く及ばない。

 その瞬間、果月の先ほどのセリフを思い出した。


『この勝負、恐らくお前が勝つだろう』


 そう狐子に言った果月のセリフを。

 ありえない。

 ありえないですわ。

 わたくしが負けることなんて絶対にありえませんわ。

 それでもなお余裕のスカーレット。

 しかし別にこの現象はアイドル力のあがった狐子自身によるものではない。果月のセリフも真っ向から戦って勝てるというわけではない。それにスカーレットは気付いていない。だから心のどこかで少し焦っていた。

 お金持ちだからこそ、人の上に立てる人だからこそ気付かない。

 そんな事実にも気付かない。




「なるほど。そういうことでしたか」


 俺のとなりで執事が頷いていた。やはり執事には分かるらしい。お金持ちの家で働いているとはいえ、本人がお金持ちなわけじゃないからな。

 しかしスカーレットは目に見えて焦っている。やはり気付いていないようだ。

 そう、岸島の列が長く見えるのは錯覚などではない。人が増え始めているのだ。


「駄菓子屋っていうのは地元の人には長く支持されるからな。そう簡単に客が減ったりはしない。近くにお菓子屋が出来たといっても洋菓子だ。子供にはあまり手を出しにくい値段だし、お年寄りには少し濃い味だろう。洋菓子屋が出来たといってこちらにこない理由はない」


 最近は目新しさからそちらに流れていたみたいだが、もうそろそろその目新しさが切れる頃だと思っていた。そう、今岸島の列に並んでいるのは残念ながら岸島のファンでも岸島目当てでもない。

 心の底から駄菓子屋目当てで駄菓子屋に入ろうとしている人達が列さばきのはやい岸島の列に並んでいるのだ。


「確かにお嬢様からすればそこまでは分からないでしょうね。それにお嬢様はお店の方にはまるで手を出していませから」


 とはいいつつどこか余裕のある執事。


「ですが・・・見通しより少し遅かったんじゃないんですか。この現象が起きるのは」

「・・・・・」


 そう、予定だともう少しはやくこのような列になっている予定だった。それでギリギリスカーレットに勝てるのでは?という目論みだったのだ。それが少し遅れてしまうだけで状況は一気に変わる。

 なんとか平静を装っているがこれは少しまずいかもしれない

 そろそろ残りのお菓子詰め合わせも少ない。すぐに勝負がつくだろう。

 そして・・・。

 お菓子詰め合わせがなくなった。勝負は終わりだ。まず、駄菓子屋の中に戻ろうとするとそこには人、人、人。スカーレット目当てだったファンも今は駄菓子に夢中になっていた。安いし、無性にわくわくするのだ、駄菓子屋というのは。


「いやあ、ありがとうありがとう!おかげで大繁盛だよ!」


 岩戸は大喜びである。

 その岩戸からお菓子詰め合わせという報酬をもらい終了。最初はお金を渡そうとしてきたのだが、それはさすがに断った。その代わりお菓子をもらったのだ。スカーレットも駄菓子が珍しいらしく、同じく報酬にお菓子詰め合わせをもらっている。

 岸島はコンタクトを外しメガネをつけ、いつものように前髪を下ろす。一瞬にしていつもの岸島に戻っていた。その方が楽なのはなんとなく分かるが。

 あとは岩戸がなんとか出来るとのことで俺たちは外へ出て帰宅の準備をする。今日の事は百に話してやろう。あいつスカーレットとそれなりに交流があったはずなのだが。


「五百蔵果月」


 駄菓子屋から外に出て少しした後、同じように歩いていたスカーレットが俺を呼ぶ。


「わたくし相手にあそこまで頑張れたのは褒めるに値しますわ。よく頑張りました」

「負けた手前何も言えないが、腹が立つなお前は」


 結局負けてしまった。

 だがいい勝負をしたのも事実。スカーレットはそれを認めようとしているのだと思う。他にもっと何か言い方がないものかとも思うがな。


「それに今回頑張ったのは俺だけじゃない、分かるだろ」


 そう言うとスカーレットが不意に顔を赤くし、恥ずかしそうにしながら岸島を呼んだ。


「岸島狐子さん・・・いい勝負でしたわ。その・・・あ、あなたをわたくしのライバルと認めましょう!ま、またどこかで!」


 そのまま走って逃げてしまう。


「わ、悪い人じゃないよね」


 岸島が表現しにくそうにそう言った。





「豚子ォ!」

「お、お久しぶり・・・っすねぇ~・・・・・・」


 ある部屋にて。真っ暗で唯一のあかりはテレビだけ。そのテレビにはゲーム画面が映っている。部屋には布団、その他にもお菓子やらが散乱しており、お世辞にも綺麗な部屋とは言いにくかった。

 その部屋の住人、ひきこもっていた少女は突然外からやってきた来訪者に胸倉をつかまれながら目をそらす。常に眠そうな目がさらに来訪者の逆鱗に触れる。


「あんたこんなところでまたゲームやってたわけ?」

「ほ、ほら先週新しいゲームが出て、やらないわけにはいかないなみたいな。わたしの中の変なポリシーがね、あるかななんて思いまして・・・」

「こんな暗い部屋でゲームやって目悪くしたらどうすんのよ!」

「お、お母さん・・・?い、いやもうわたし目悪いし・・・。その注意は少し遅いんじゃないかなあ・・・う、嬉しいけどね心配してくれることは・・・」


 目つきが変わったのを見て慌てて、訂正するひきこもり少女。


「まあ、いいわ。今日の用事はそれじゃないし。あんた、29アイスクリームのキャンペーンガールオーディションに出なさい」

「な、なぜ・・・?」

「なぜもなにもその地域のほとんどのアイドルが出るのよ。あんたも出るのが普通でしょ」

「わ、わたしほら世間とかそういうのに引っ張られない女だから・・・」

「い・い・か・ら出るのよあんたは。もう申し込んじゃったし」

「な・・・それ普通に不正行為とかじゃ・・・」


 さすがに絶句するひきこもり少女だったが、来訪者の方は必要なことだけ伝えるとそそくさと帰って行った。わ、わたし何もしゃべってない・・・そうひきこもりの少女が気付いたのは来訪者が帰った後のことだった。

初仕事編終了しました。ほんとうは前の話1つで終わらせる予定だったのですが、ハプニングなどで分割せざるを得ないことに。


そして今回は主人公視点なら一人称。それ以外なら三人称にしてみました。どうでしょうか。

こちらのほうがいい場合は今まで書いた話を全て書きなおすつもりです、もし前までの全て三人称がよければこの話をそう書きなおします。


実験というか試作みたいな感じになってしまいましたが、どちらがいい、などありましたら感想などで教えていただけると幸いです。


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ