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I☆DOL TIME -アイドル力1000の底辺アイドル-  作者: 花澤文化
第2章 アイドルの仕事
12/29

第11ステージ 駄菓子屋でのバトル

「五百蔵果月・・・あなたわたくしのことをなめているのかしら」


 静かな怒りを燃やし、俺を見るスカーレット。

 どうやら俺のセリフを「俺が出るまでもない、その代わりにこいつが相手だ」というように受け取ったのだろう。俺は「だから別にこれは勝負じゃないって言ってるんだが・・・」とぼやきながら、


「別にお前をなめているわけではない。俺よりもこいつの方がアイドルとして向いているという判断だ」

「アイドルとして向いている・・・?個人情報、プライバシーの関係で具体的な数字は言いませんが、その方のアイドル力はとてもいいとは言えませんわ、というか・・・」


 その先はだんまりだった。

 俺自身スカーレットの気持ちは分かる。最初見たときはなんの冗談かと思った。もちろん蝶野紡とは真逆の意味で、だ。スカーレットも少し動揺しているらしい。


「まあ、見ていろ神埼・S・リディル。何のために俺がいると思っている」

「メイク・・・ですか。わたくしは詳しく知りませんが、それであなたが満足するならいくらでも。ただし・・・」


 そこで区切ってスカーレットは俺を睨みつける。


「必ずあなたを引きずりだして見せますわ。アイドル界の腰抜けさん」


 俺のアイドルたちからの評価は正直悪い。アイドルになれるだけの才能を持ちながら、それをせず、それどころか仕事以外は興味がないと一蹴したのだ。まわりのアイドルたちはそれを見て腰抜けと表現することがあった。果月は一切それを気にしてはいなかったが。

 スカーレットはさっそく客引きの準備をする。頑なにこれは勝負だと言い続けているスカーレット。その執事の提案で店前で訪れたお客様に駄菓子の小さな詰め合わせを入店特典としてわたし、どちらのアイドルに人が多く並ぶか、ということに決まってしまう。俺はため息をついた。


「ほんと・・・めんどうだな」

「五百蔵くん・・・私大丈夫かな・・・」

「それについては心配していない。俺の見込みが正しければ・・・この勝負の分かれ目はアイドル力だけじゃないからな」


 先ほど岩戸から聞いた説明でなんとなく引っかかることがあったのだ。それが正しければこの勝負、アイドル力で負けていても岸島が勝つ可能性がある。


「いいや、俺は確信している。この勝負、恐らくお前が勝つだろう」


 そうして岸島をその場に座らせた。


「ではさっさと終わらせよう、ここからは俺の仕事の時間だ」


 やることはメイク、というほどのことですらない。

 長い前髪を横にながし、メガネを外してコンタクトレンズに、そして衣装を変えるだけ。いうなればそれだけのことなのだが、それで大幅にイメージが変わってしまう。それこそが五百蔵果月の仕事だった。

 鏡を目の前に置きながらやっているので、岸島も自分の変化に少しずつ気付き始めている。だが、本当にこれが自分なのか、と分からなくなってしまいどうも現実味がないようだ。首を少しかしげている。

 俺もそれらの動作をしながら思ったことではあるが、やはり岸島の素材はいい。ただそれをやぼったいメガネと目を隠すほど長い前髪、そして引っ込み思案な性格がそれを邪魔しているのだ。みつ編みはくずそうかどうか迷ったものの、ここでは普通でいいかとみつ編みをほどき、髪の毛をまっすぐ梳く。


 髪の長さはちょうど胸のあたりまで。割と長めなのだとここで気付いた。

 その時間はどのくらいだっただろう。外に出た岩戸がおう、はやいなと言っていたのだから10分とかそれぐらいだと推測できる。だが、その後俺の後ろにいる岸島の姿を見ておわっ!と驚いた声をあげていたのが印象的で時間のことは一切頭に入らなかった。


「来ましたわね!ではさっそく・・・・・・・・・」


 俺らが来る気配がしたのか店の入り口で準備していたスカーレットがこちらを見る。紡ぎだした言葉はそれ以上続かず、顔は驚愕に塗りつぶされている。


「ほう・・・これはこれは・・・」


 反応は薄いが執事らしきものも驚き、言葉を失っている。

 やったことは少しだけ、なのにここまで変わるのか、というような姿。髪は綺麗にまっすぐ下に流れている。前髪は少し横に流しており、整った顔が露わになっている。唇には輝くリップ。衣装も制服からふわふわとした白いワンピースを着ている。アイドルらしいかと言われれば少し違うかもしれないが、狐子にとてもマッチしていた。

 しかし性格まで変わるわけではない、下を向きながらあたりを恥ずかしそうに見ている。しかしその印象ですら卑屈っぽい感じが無くなり、おとなしい子というイメージを与えていた。


「うちのお嬢様とはまた違うベクトルのお嬢様みたいですね」


 ようやく驚きから戻って来たのか、口元に笑みを浮かべながらそう執事がいった。

 まさにその通りでいいところのお嬢様、といった印象を与える。箱入り娘。大事にされてきた故に外の世界を知らず怖がっているように見えてしまう。


「わ、私おかしくないかな・・・そ、それにダイエットとかしなくちゃだし・・・」


 確かに少し肉つきのいい体をしているが太っているわけではない。

 俺はそのままでいい、と一言きっぱりと言う。そういうのが意外と好きな人が多いということを俺は知っていた。


「岸島。後はお前の問題だ。客引きだからな、今みたいに下ばかり向いているわけにはいかない」

「うん・・・」

「参考までに教えておくが、スカーレットのアイドル力は予想だと4万近くある」

「4・・・4万・・・・・・・?」


 ぽかーんと口をあける岸島。


「わ、私は・・・?」


 ここで岸島がきいているのはメイクをした今の私、ということだ。アイドル力というものは変動する。俺自身も自分がメイクすることによって確実にアイドル力をあげられると思っていた。

 そして俺は頷く。大きく変動したかどうかは分からないが、それでも確実に一般人のアイドル力は超えていると判断できる。ドル・ガンで計測しようと思ったが・・・。


「やめた。どういう結果だろうとお前はそれを引きずりそうだ。何も知らずに4万という壁に挑んでいけ。安心しろ俺はお前が勝つと信じている」


 そう自信満々に言うのだった。


「五百蔵くんいつもそんな感じだから本当にそう思ってるか分からないよ・・・」


 励ましたつもりだったのだが、失敗したようだ。

 しかし・・・。


「でも、ありがとう。私の家と同じ境遇だし、なんとか精いっぱいやってみるね」


 そう少し笑って言ったのだった。


「ふん、きちんと笑えるではないか」


 それに対して俺も笑って答える。

 岸島はさっそく準備にとりかかり、岩戸から説明を受けている。そこらへんは真面目だし、俺よりもうまくやれるだろうと俺自身思っていた。

 岩戸の話を聞いている岸島はいつもクラスで見かける真面目な狐子そのものである。


(ま、そこについては心配していないが)


 とらしくもなく自分では無く人を褒める俺。

 その様子を静かに見ていると不意に横から赤い塊が近付いてきた。


「なんの用だ派手なサンタクロース」

「誰がサンタクロースですか!いえ、今はそれでいいですわ。それよりも本当にあなたはこの勝負に出ないつもりですの?」

「俺はすでにアイドルの仕事などしていない。そもそもこれは勝負じゃない。仕事だ。勝ち負けに焦って失敗するなんてヘマはするな。というか近寄るな、目がちかちかする」

「うるさいですわね!そのセリフこそ甘いですわ。アイドルの仕事は常に勝ち負け。そこでヘマをすることなんてありえません」


そういってずんずんとお店の前に歩きだし、岸島のとなりに並ぶ。

 勝負内容は簡単。今日1日だけ軽いお菓子詰め合わせを来場者プレゼントにして、それを配る2人が岸島とスカーレット。お客さんはその好きな方に並びお菓子詰め合わせをもらってから店内に入るという仕組みだ。すなわちお菓子詰め合わせをどちらが多くお客さんに渡せるかが勝負内容になっている。

 それぞれの準備が整い、バトルが始まった。




  RiRiRi。

 電話のなる音がする。暗い部屋で部屋のあかりはついていないが、テレビがついておりそれによってまわりが見えているという部屋だった。

 電話の主は留守、というわけではない。いる。布団にくるまりながらテレビを見ている。


「う、うわ・・・強い・・・この敵強い・・・勝てなさそう、詰んだ・・・もう売っちゃおうかなこのゲーム・・・。だ、だめだめそれは駄目。クリアしてからじゃないと無理・・・それがわたしのぽりしー。頑張れわたし・・・みなぎれわたしのえねるぎー・・・」


 やる気なさそうな声。

 声自身は小さく会話しているわけでもない。独り言でこれら全てを話しているのだ。 


「も、もう少し・・・ぬくぬくした布団にえねるぎー吸い取られてるような気がするけど・・・いける・・・倒せそう・・・。眠い」


 静かにねっころがる。

 その間も携帯の音は鳴り響いていた。あえての無視かそれとも・・・ゲームの音で聞こえていないかのどちらかだ。


「コマンド式だし・・・・落ち着いて考えれば勝てるから・・・自分を信じてわたし」


 カチャカチャとボタンを押す。

 しかし・・・。


「え・・・負けた・・・?」


 画面にはゲームオーバーの文字。

 布団にくるまっていた少女はそのままごろんと完全に寝る姿勢に。


「無理・・・TVゲームは長時間きつい・・・あーだる。やっぱ売ろっかなーこのゲーム・・・わたし考えてみればぽりしーとかそういうのないし。わたしはわたしに従うだけだし」


 そう言いながら電話の音を無視してそのまま眠りについた。





「電話、出ません」


 スーツの女の人だった。その近くには背の低い女の子。


「そう、ありがとう」

 女の子はかわいらしい笑顔を女の人に向ける。しかしそのスーツの女はこれがいい笑顔では無いということを知っていた。なぜならばそのスーツの女は女の子のマネージャーだったからだ。


「無視とはいい度胸じゃない、豚。この私がせっかく誘ってあげようとしてんのに・・・!くそ!くそ!ああ!超腹立つしィ!」


 かわいらしい顔を全力で崩しながらそう叫ぶ女の子。


「いかがいたしますか?」

「あァ!?今からあいつの家行くに決まってんだろうが!はやく車を準備しろ」


 そう叫んでいた女の子であったが・・・車が来てその運転手には。


「ありがとうございますぅ。私体力なくて・・・車ばかり多用してごめんなさいですぅ・・・」


 と高めの声で言い放つ。

 運転手もいいよいいよ全然いいよとでれでれであった。

 スーツの女マネージャーは静かにため息をつきながら一緒に車に乗るのであった。

今回少し短めだったのは元々1話だったものを切り離して2話にしたからです。保存する前に消えてしまったため、こうなってしまいました申し訳ありません。


まだまだ最初ですが、よろしくお願いします。

ではまた次回。

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