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君に嘘を  作者: 氷室 愁
3/4

3彼女の場合


私はあなたの世界から独りはずれている。その世界の外から、私は顎を上げて、貴方を見上げているのだ。



☆★   ★☆



いつも通り、教室はざわざわと騒がしい。よく耳を澄ませていなくては、授業内容が聞こえない状態だ。前の席で、机を囲む女子の固まりが出来てしまっているから黒板すら見えないでいる。とはいっても、ここ二回ほど授業に出ないでいるので、聞こえても聞こえなくても、見えても見えなくても、授業が分からないことに変わりはない。

諦めて、ノートを閉じるか。

「神崎さん、ノート見る?」

不意に、女子の固まりから、ノートが出てきた。次いで、彼の顔も出てくる。

「……」

「はい、ここから……ここまで。君が休んでいたときの分ね」

そのまま彼の顔は集団の中に埋もれてしまった。

「綺麗に……まとめてある?」

チャイムがなり、彼の回りにはさらに固まりが出来てしまった。

それまでにはもう、ノートを写し終えていたので、彼が分かりやすいように自分の机の上に置いておいた。

どうせ前の席なのだから、気付くだろう。

香水に浸かっているような教室から逃げるように、保健室へと向かった。


「47、48、49……」

「50。これは、教室からここまでの歩数?」

「……何でついてきたの?」

振り返ると、やはりそこには彼がいた。いつも通りの笑顔で、いつも通りの距離で。

「何で着いてきたって思うの?」

まさか問い返されるとは思わなかった。

何でと言われても、決まっている。

「……あなたは優しいから」

「ん〜……そんなに優しくないんだけどな……」

「え?」

「何でもない」

ふわりと首を振った彼から、甘い匂いがした。教室と同じ臭い。

そして、それはあまりにも唐突な申し出だった。

「ねぇ、今度の文化祭の冊子、作るの手伝ってくれない?」

「は?」

「よろしく」

そのまますたすたと前を行ってしまう。慌てて後を追うと、前を行く彼から微笑が漏れた気がした。

「……25」

「何?」

「丁度二分の一だね」

それが歩数のことを言っているのだと気付いたのは教室に入ってからで、今日は熱も無かったはずなのに、何故か頬が熱くなった。



☆★   ★☆



きっと彼にとっては何気ないことなのだろう。でも私にとっては――一緒に歩いた一歩一歩が忘れられない思い出となる。

世界から外れた私は、貴方の側にいることは出来ないけれど。


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