新シンデレラ プロローグ~~そして幕は上がるかもしれない
戯曲風味です。読み終わって、石をなげないでください。
暗く埃っぽい小屋の中、一人の老婆と中年の派手な女性が話している。
派手:いいかいゴミンダスト、私の小さなときからの夢はね、大きなお城の美しい王子様に見初められ、末長く幸せに暮らすことだったんだ。ところが、何を間違えたか、夫は甲斐性なしの一般人。だからせめて、一人娘のシンデレラには、と、幼い時から私の志を継ぐようにと、教育してきたんだ!
と派手な女はどこから取り出したのか、金装丁の本を掲げた。
派手:かの有名なシンデレラ様の伝記、わが心のバイブル、古シンデレラ物語であるぞ、頭が高―い控えおろう!
老婆:(ぼそぼそと)違うと思う・・・
派手:何か言った?
老婆:(慌てて)いえいえなにも、
派手、気にせず続ける。
派手:ところがよ?そんな邁進するわたくしにある日、不幸がおそいかかったの!―――ちょっと聞いているの?ゴミンダスト!
老婆:も、もちろんじゃ!
老婆、びっくりして顔をあげる。どうやら寝ていた模様。派手、いぶかしげな目つきで老婆をみるが、あまり興味ないのか、さらに続ける。
派手:そう、わたくしの不幸、それは、あの日私が、心のバイブルにならい(とここで件の本を抱きしめる)、裏庭で巨大カボチャに水をやっていたときだったわ・・・
老婆:(小声で)あれは水やりではなく、放水だ
派手:突然、上から小汚い箒とともに、薄汚い老婆が降ってきたのは
老婆:いちいち腹の立つ言い方だな
派手:何か言った?
老婆:年寄りはくりごとが多くての
派手:まあ、いいわ。―――そしてわたくしは、かくも儚く散ってしまったの!!
派手、ドラマチックに両手を広げる。場内、暗くなり、派手にスポットライト。
ライト通常に戻り、老婆不満げに鼻を鳴らす。そして小声でぼそぼそ。
老婆:何が儚くじゃ。誤って、水勢を強力ジェットにして空にぶちまけたおかげで、わしはびっくりして箒から落ちたんじゃ!わしこそ、被害者じゃ!まだ、腰が痛いぞ。しかも、幽体離脱し、執念で魔女を魔法界まで追いかけてくるなぞ、前代未聞じゃ!おお、おそろしや、恐ろしや
派手:それでね、ゴミンダスト
老婆:なんじゃ
派手:わたくしの儚い夢をかなえる義務が貴女にはあるわよね?
派手、壮絶な微笑みを老婆に向ける。老婆、思わずたじろぐ。
老婆:そ、そうかの?
派手:もし、断った時は・・・
老婆:わ、わかったわかった
老婆心の声:また、リフォームしたての我が家で大暴れされのではかなわん。箒は折られたし、杖は焚きつけにされたし・・・薬草園はずたぼろじゃ
派手:よかったわ、恐ろしげな魔女さんだもの、きっと、ひどい目にあうんじゃないかと心配していたのよ
老婆:(小声)わしなどお前に比べれば、生まれたての子猫より無害じゃわい!
派手:んじゃ、よろしく頼んだわよ。―――あー忙しい。これからこっちで仲良くなったジュエルとエステに行って、魔王界でひと花咲かせるために合コンに行かなくちゃね。
老婆:さいでっか
派手:あ、ジュエルが、この前の治療魔法と修繕魔法の代金、はやく支払いなさいよって言っていたわよ。駄目よ~早く払わないと
老婆:誰のせいだ、誰の!!
すでに派手の姿はなし。老婆肩を落とす。
そして、「魔法界 イエローページ」をめくる。
老婆:(「借金」のページを繰りながらぼそぼそと)ジュエルのやつは優秀だが金に汚いからの・・・。それにしても厄介な人間にとりつかれたものよ。シンデレラ、とか言ったか?あの破天荒な女の娘は・・・はてはてどうすべきかな、どうすべきかな
―――幕
ご読了、感謝いたします。