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神様の椅子  作者: *amin*
五章
56/64

56 アルトラント同化政策

ブラス上から再びベアトリスに向かうまでの物資の積み込みや護衛の交代などに時間がかかるから、今日はここに泊まる予定らしい。でもそんな事はどうでもいい、私は確かめなくちゃいけないことがある。

ブラス城の外を歩いているのはアルトラントの子ども達。これがバルディナの奴隷政策の一環、同化政策なのか。



56 アルトラント同化政策



「エルザ、付いてきなさい」

「どこへ向かうおつもりです?」

「お前は黙って従えばいい。護衛なしでの外出はできないんでしょう?」


そう言えばエルザは何も言わず、了解の合図を出した。

護衛としてエルザをつけて与えられた部屋から外に出る。そして案内された道を歩き、ブラス城の外に出た。そこには大量の人が歩いていた。

ブラス城は結構でかい城だから城下町もそれなりに賑わっている。そして気になるのが、所々に歩いているアルトラントの子ども達。大人のバルディナ人に連れられて買い物をしていたり、荷物持ちをしていたり、仕事を手伝っていたり。

バルディナの生活を体験させられている。


「エルザ、同化政策とは一体何がしたいの?」

「同化政策とはアルトラントの子どもをバルディナで約10年程度預かる政策です。アルトラントはバルディナの支配下、常識の身に付いていない子どもにバルディナの生活を身に付けさせることで摩擦を失くす政策です」


随分な綺麗事を言ってるけど、実際は私と同じ人質でしょ。

幼い子どもをバルディナ人として育て上げて、未来の反乱分子を失くす。そして子どもを人質代わりにし、アルトラントに反乱を起こさせないようにする政策だってクラウシェルは言っていた。

子ども達の反応は様々だ。家族の所に帰りたいと泣いている子どももいれば、今の生活にもう慣れたのか、バルディナ人と笑い会ってる子どももいる。

ああやって少しずつバルディナに親近感を持たせようとしてるんだ。バルディナはいい国って……でもアルトラント本国の奴隷政策は酷い。沢山働かされて給料は少しだけ。さらに配給制になったことから満足に皆が食べることができない。

実際、餓死した人間だって居るって聞いた。その状況に比べたら、同化政策としてここに連れてこられている子供たちは少なくともあっちよりはいい生活ができている感じだ。


その中をエルザと黙って歩いていれば、人だかりができている場所があった。エルザが顔をしかめて、その場に向かおうとしたので私も付いていった。どうやら喧嘩をしているようだった。

大の大人が私よりも年が下の子どもを蹴り飛ばしていたのだ。でもその子ども反抗心をむき出しにして、大人に食いついてかかる。子どもを止めようとした大人たちも、その子どもの友達に足止めを食らっている状況だった。


「また彼か……」


エルザがため息をついた。彼ってことは常習犯ってことなのね。

多分この子供はアルトラントの子どもだ。同化政策で連れてこられて反発しているんだろう。

子どもは鼻血を袖で拭って声を荒げた。


「俺は絶対にてめぇの思い通りなんてならねぇからな!てめぇらバルディナ人は俺の親父を殺したんだ!お前らバルディナ人なんか俺が絶対に皆殺しにしてやる!」

「糞ガキが!敗戦国の分際でバルディナに楯突くだと?身の程を知れ!」


多分大人の方は目の前の子供を引き取っているバルディナ人なんだろう、大声を出して拳をあげる。そして子どもも再び大人に掴みかかろうとした。


「止めろお前たち!見苦しいぞ」

「エ、エルザ様……!」


エルザが声を出して間に入れば、大人の方は急に萎縮して頭を下げた。でも子供の方はエルザを睨みつけたまま。


「はんっ!偉そうに。元はといえばてめぇ達が侵略したからだろう!」


子供はエルザにまで食って掛かる。中々根性あるわね……

エルザはため息をついて、子供を睨みつけた。エルザが睨みつけても子供はビクともしない。更に威嚇するかのごとく、フーフーと息を荒げた。


「いい加減にしろヒューゴ、君は少し周りが見え無さ過ぎる。君がこんな行動をとればフィオナの立場も悪くなる」

「姉貴は関係ねぇだろ!俺はアルトラント人だ、バルディナ人なんかじゃない!バルディナ人なんかにならない!」

「あぁ君はアルトラント人だ。バルディナ帝国属国アルトラントのな」

「ふ、ざけるなぁ!!」


エルザに飛びかかろうとしたヒューゴを仲間の子ども達が押さえつける。


「何しやがるジュード!」

「一旦逃げよう。ギャラリーが多くなりすぎてる」


数人の子ども達が逃げて行き、追いかけようとした大人たちをエルザが静止させた。相手はまだバルディナに慣れていない。数年もすれば慣れるだろうと言って。

そしてエルザが戻ってきて頭を下げる。


「すみませんミッシェル様、御見苦しい所を」

「別にいいわよ。属国のアルトラントの姫である私に頭なんか下げなくてもね」


皮肉を言えばエルザの顔を気まずそうな物に変わった。それにしてもあの子供達一体……身分の低いだろう子供たちがバルディナの人間に逆らうのは自殺行為だ。現にヒューゴやジュードは所々に傷を負っていた。

そんな思いをしてまで、敵地であるここで表立って犯行できる奴がいたなんて……


「あの子供達は?」

「ヒューゴとジュードです。同化政策でヒューゴはアレキサンドリアから、ジュードはシースクエアから連れて来られました。今の状況を良く思っていないみたいで、いつもああやって騒ぎを起こしています。あの2人はグループのリーダー格なんですよ」

「グループ?」

「アルトラントの子供たちだけで結成された“解放軍”です」


解放軍……あんな幼い子供達ですら戦ってる。いや、皆戦ってる。クラウシェルもルーシェルも皆。私達だけじゃない、アルトラントの人間は子供から大人まで皆戦っているんだ。

あの2人はアルトラントの開放を願って、日々小さな戦いを繰り広げてるんだ。


「面白いわね」

「笑いごとではありません。実際彼らの手によって数人が病院送りにされているのです。過激なゲリラみたいな物ですよ」

「あんた達とどっちが過激なの?」

「……比較になりませんね」


街を見物しながら歩いていると、女の子2人がこっちに走ってきた。

その内の1人はエルザの前に走ってきて、いきなり土下座をしてきたのだ。驚いて固まった私を余所にエルザがその子を立ち上がらせた。


「フィオナ、そう言うのはいいと言っているのに……」

「いいえ、ヒューゴがまた騒ぎを起こしたと聞いたので!罰なら私が受けます。どうか、どうかヒューゴだけは叩かないであげてください!」


フィオナって確かヒューゴの姉って言ってた奴よね。

涙ながらに罰するなら自分をと言い続けるフィオナに何だかクラウシェルの姿を重ねてしまった。いつの時代も、どこの場所でも兄妹って言うのは上が下を庇う物みたい。

エルザが泣き続けるフィオナの頭をなでてあやしている。こいつはバルディナの騎士の中では比較的温厚なんだろうな。好きではないけれど。


「そんな事はしない。ヒューゴの引き取り手にも話しは付けてある。大丈夫だ」

「エルザ様……本当に申し訳ありません!」

「あぁ、クリアナも少しは協力してくれ」

「私は解放軍所属だもの。アルトラントを開放して、私を故郷マルティアナに返さない限りは協力なんて死んでもしないわよ」


この子も解放軍なのか……マルティアナって確かアルトラントの伝統舞踊発祥の街よね。結構大きい町って聞いた。

フィオナは深々と頭を下げて、仕事があるからと言って走り去って行った。

でもこの様子だとフィアナは解放軍には入ってないみたいだけど……実際の所はどうなんだろう?


「あの子はさっきの子の姉なの?」

「はい、ヒューゴの姉のフィオナです。いつもヒューゴの尻拭いをしている子ですよ。ヒューゴを庇って、いつも自分が罰を受けると言っている……」

「あの子は解放軍には入ってなさそうね」

「そうですね、フィオナはヒューゴを失いたくないという気持ちが強いので、無理をするヒューゴを止めたいと思っている感じですね。マルティアナ出身のクリアナもですが、解放軍に入っているアルトラントの子どもは多い。私達も規制に乗り出してはいるのですが、中々知恵が働くんですよ」


まぁ私達子供は隠れてコソコソ何かやるのは大人よりも上手い。でも驚いた、解放軍がそんなに大きな組織だったなんて。解放軍に入っているアルトラントの子どもはかなり多いみたい。

皆今の現状が不満だから。少し前まで家族と一緒に幸せに暮らしていたのに、いきなり引き離されて知らない奴らと過ごして働かされたら誰だって嫌に決まってる。家族の所に帰りたいに決まってる。

頑張るのよあんた達。私も絶対に負けない、クラウシェルだってルーシェルだって。

いつか私達は皆アルトラントに帰る。前の生活を取り戻す為に。バルディナと戦う未来だって恐れたらいけない。パパとママが愛したアルトラントを私達が取り戻すんだ。


「行きましょうミッシェル様」

「そうね」


その後は大きな混乱も無い。ブラス城の城下町を適当に散策して城に戻った。

自分の部屋に通されて、窓から夕陽を眺めた。

その時、グジャグジャに丸めた紙きれが部屋に入ってきた。私の部屋は2階だけれど、ごみを入れて来る奴がいるとは!

イラついて窓から身を乗り出して怒ってやろうと思ったら、そこにはヒューゴがいた。なんでここに!?ヒューゴはジェスチャーで紙を見ろと言ってきた。

それを開くと、そこには文字が書かれていた。


“ミッシェル様、俺達は絶対にバルディナからアルトラントを取り戻します。絶対にミッシェル様を救いだして見せます。少しの間、辛抱してください。 解放軍一同”


ただただ涙が出た。

窓に身を乗り出して、約束の合図に小指を突き出す。すると向こうも小指を突き出した。指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ますんだからね!

ヒューゴはニッコリと笑い、そのまま草むらに入っていってしまった。あいつ、抜け道を知ってるのね。中々侮れないわね、解放軍……

でもヒューゴの手紙で頑張れる気がした。私を助けてようとしている人がいるのが嬉しかった。


頑張ろう、向こうでも。私は誰にも負けない。


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