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神様の椅子  作者: *amin*
五章
55/64

55 生贄の花嫁

「ミッシェルすまない。だがアルトラントの為なんだ……」

「うるさい!出てってよ嘘つき!」


守ってくれるって言ったのに、一緒にいてくれるって言ったのに!クラウシェルは嘘をついた。私をバルディナに売り渡した。嘘つきだ、クラウシェルは嘘つきだ!



55 生贄の花嫁



部屋の中の物が少しずつ無くなっていく。パパとママの処刑から2週間後に私はバルディナに連れて行かれる。その為、私の部屋の整理を任されている召使いたちが私の部屋の物を整理して行ってるのだ。

パパとママにねだって可愛い物を一杯買ってもらった。お気に入りの場所に置いていた物が無くなっていく。バルディナに持って行く為に。

この部屋もベッドとカーテン以外は何もなくなった。もうこの部屋は明日から私の部屋ではなくなる。

たった1人でバルディナに連れていかれて、たった1人で生きて行く。パパとママを殺した奴らと家族にならなきゃいけないなんて死んだ方がましだ。

実際死んでやろうと思った。この部屋から飛び降りて自殺してやろうと。でも窓から下を見下ろすと怖くなってできなくなる。そんな情けない自分が嫌い。でもそれ以上にクラウシェルが嫌い。あいつのせいで私は……!


「ミッシェル、いるか?」


クラウシェルの声が聞こえて来る。私がバルディナに連れて行かれるという話を聞いてから、クラウシェルとは会ってなかった。元々私達は軟禁状態だし、私が会いたくなかった。

だってクラウシェルは嘘つきだから。私を守ってくれるって言ったのに、結局は私を捨てた。

いつもなら無視しとけば引き返すのに今回は少し違った。外から声が聞こえて来る。


「そのままでいいから聞いてくれ。お前も守れなかったのは済まないと思ってる。でも分かってくれ、僕は国民を見捨てる事は出来ないんだ……本当にすまない」


初めて聞く様な声、辛そうな……そして泣きそうな声。クラウシェルが去っていく音が聞こえて、私はベッドに泣き崩れた。

本当はね、嫌いなんて嘘だから。八つ当たりしちゃっただけだから。分かってるんだよ、私は王女だから政略結婚に使われる可能性があったって事。国民皆を奴隷政策からある程度解放できるなら、クラウシェルに選択権は無いもんね。分かってるんだよ、でも……


「1人は嫌だよ……」


1人であっちに行くのが怖い。これからどうなっちゃうのかが怖い。あっちで奴隷の様に働かされちゃうのかな?大体クリスティアンって誰なのよ、今まで1回もバルディナの公務に出てきた事ない奴じゃない。そんな奴と結婚なんて……顔も見た事ないのに。

あぁ、怖い。何もかもが怖い。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ミッシェル様……どうかお元気で」


当日、馬車に乗せられた私を見送ってくるセラとクラウシェル。クラウシェルは昨日が嘘みたいに表情を崩さず、私に何かを言う訳でもなく、ただ見つめていただけだった。

兄弟皆離れ離れになっちゃったわね……クラウシェルはアルトラント、私はバルディナ、ルーシェルはファライアン……もう二度と会えないのかなぁ。

私の護衛を務めるのは第3騎士団団長でもあり、皇帝イマニュエル・ネイサンの実の娘でもあるマライア、そしてマライアの背中を任されている兄弟騎士のエリザとエルザだった。3人も馬車に乗り、扉が閉められる。そして馬車が走り出した。


「泣いてもいいのよぉミッシェル様、祖国を離れるのは寂しいですものねぇ」


誰が泣くもんか、クラウシェルが泣かないんだから私だって泣かない。私は絶対にアルトラントに戻って見せる。あんた達の思いどおりなんかになるもんか。

睨みつければ、エリザはクスクス厭味ったらしく笑っている。本当にこいつは気に食わない。

エルザは外を見てるし、マライアは俯いているから表情は分からない。

外から聞こえて来る喧騒、さよならアルトラント……でも私は絶対に戻ってくるから少しの間、待ってて。絶対にクラウシェルとルーシェルが迎えに来てくれるはずだから。それまでの辛抱よ。パパとママを殺した奴らを絶対に許さない、こんな奴らに従うもんか。


民の声も聞こえなくなって馬車が走る音だけが聞こえる。その間、私達の間に会話は無い。それぞれが何を考えているか分からないけど、真面目な顔をしている。あのエリザまでもだ。

でもエリザが何を思ったのか、声を出した。


「ねぇマライア様、クリスティアン様って御生存なさってるの?名前しか聞いた事ないけれど」

「えぇ、ちゃんと生きてるわ。でも病弱だから部屋から出れないのよ。全く……誰に似たんだか」


少し悲しそうに言うマライアにクラウシェルの姿が被る。クラウシェルもこんな顔をしてた。こいつも家族には殺人鬼の顔を捨てて人間の顔をなるんだろうな。だから何だって感じだけど。

村に馬車を止めて宿泊して、再び次の日の朝、馬車に乗る。それを繰り返せば10日程度でアルトラントとバルディナの国境に位置する砦、ブラス城に到着した。

そこに待っていたのは衝撃の物だった。


「何これ……」


今日はブラス城で泊って、ブラス城から1週間程度で皇都ベアトリスに着くらしい。でもそんな事どうでもいい。ブラス城にはアルトラントから連れて来られた子どもたちで溢れていた。それぞれがみすぼらしい服を着せられて、まだ幼いのに仕事をさせられていた。

信じられない光景に冷や汗が出た。幼い子供たちは私に気づいた者たちで溢れかえる。それをエリザとエルザ、他の駐屯してた騎士たちが抑え込んで、私は部屋に連れて行かれる。


「ちょっとマライア、解放しなさいよ!あんな子どもたちに労働とか馬鹿じゃないの!?」

「ミッシェル、黙りなさい」

「マライア!」

「黙りなさいと言ってるでしょう。軽い怪我じゃ済まないわよ」


マライアの威圧感に動く事が一瞬出来なくなった。心臓が大きく跳ねて、目を閉じる事が出来なくなる。マライアはそのまま私の腕を引いて城の中に入って行く。


「これは奴隷政策の一環である同化政策。あの子たちは将来バルディナに尽くしてもらう。その為の政策よ。敗戦国である貴方達アルトラントは何をされても仕方がないのよ」


ふざけてる……ふざけすぎてる!

同化政策って何よ!まだ10にも満たない幼い子供に強制労働させて、一体何がしたいのよ!アルトラントの常識を身につける前にバルディナの常識を身につけさせる。それが同化政策。

そしてバルディナ人の様に育てて未来のアルトラントをどんどん衰退させていく奴隷政策の一環。若い力がバルディナに注がれれば、アルトラントに抵抗する力は無くなる。

負けてたまるもんか。あんた達もアルトラント人なんだからね、バルディナ人なんかになったら許さないんだから!

マライアに部屋に通されて外から鍵をかけられる。また軟禁生活かよ!

そして暫くして夕飯をエルザが持ってきた。エルザは頭を下げてテーブルに夕飯を置いて出て行こうとしたのを引きとめたら、表情を崩さないまま立ち止まった。


「何か?」

「聞きたい事があんのよ。そこにいなさい」

「御意」


エルザはエリザと違って人形みたいだ。無駄な事を1つも言わない、言われた事だけを忠実に実行する。つまらない人間、あんたみたいな奴はつまらない人生で終わんのよ。

そんな事はどうでもいい。質問に答えさせなきゃ。


「クリスティアンって何者なの?本当に生きてるんでしょうね」

「第3皇子はお身体が弱く、西の離宮から出ないよう言われているので俺も皇子を実際に見たのは4年前です。ですがマライア様が仰っているのです、生きておられると思います」

「何でそう思うのよ」

「……マライア様は皇子の為に全てを捧げておられましたから」

「え?」


エルザの辛そうな言葉に、つい聞き返してしまった。クリスティアンに全てを捧げていた?あの性格腐ってそうな女が誰かの為に?

でも確かにクリスティアンの事を語るマライアは辛そうな顔をしてて、本当に心配している感じだった。だとしたら、私なんかと一緒にいないでそいつと一緒にいたらいいじゃない。

私がそいつの奥さんになったら、酷い姑的な奴になるのかしら!?


「マライア様はクリスティアン様のご病気を治される為に女として生きる事を捨て勉学に励みました。騎士として生きると誓いを立てていながら医学の勉強もし、それを両立させました」

「なんでよ、騎士と医者になったら女を捨てるとか、あんた騎士と医者を馬鹿にしてんの?」

「違います。騎士と医学を両立させる為には社交などは最低限の物しか行けません。本来ならば、あの御方は軍服ではなくドレスを着、社交の場で優雅な舞を踊っているはずだった」

「……」

「ウィリアム様との継承権争いを避けるためにマライア様は結婚もせず、子を産まない誓いも立てています。王位継承権を放棄したら政略結婚の駒にされ、クリスティアン様と離れ離れになる。それゆえに結婚しない誓いを立て、騎士になる事でベアトリスに残る道を選んだ。あの御方は特に弟であるクリスティアン様の身を常に案じていた」


子を産まない誓い……そして結婚できない誓い。騎士として生きて、弟の病気を治す為に勉強漬け……確かにそれじゃ楽しい思い出はないかもね。あいつは知らないんだ、遊びまわる事も、お洒落する事も。

でもマライアだけがそう言ってたってジュダスとクリスティアンも同じ誓いを立ててなきゃ意味がない。きっと2人も同じ誓いを立ててるんだろう。


「それはジュダスとクリスティアンもなの?」

「いえ、少し違います。ジュダス様は王位継承権を放棄しただけで結婚もし、子もいらっしゃいます。まだ子どもは貴方と同じ位の年なので騎士ではありませんが、騎士としての教育を受けています。いずれはジュダス様率いる第2騎士団の団長に就任されるでしょう。そしてクリスティアン様はさらに特殊です。あの方にはその制限はかかっていない」

「は?どう言う事?」

「……ご自分でお考えください、クリスティアン様をその目でお確かめになって。話をしすぎましたね、失礼します」


エルザが頭を下げて出て行った。私はまだ出て行けとは言ってないわよ!

外から聞こえて来るのはアルトラントで全く聞こえなくなった笑い声。小さな子供が走り回るのを親が慌てて追いかけている光景。少し前までは私にもあった物なのに……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「随分なお喋りねエルザ」

「……エリザか」

「マライア様を貴方が慕っているのは分かる。だけどお喋りは禁物。マライア様は絶対貴方の物になんてならないんだから」

「俺は別に……」

「そう、ならいいけど。私は貴方を失いたくないわ。下手な事はしないようにね」


分からないんだ。何が正しいのか……バルディナに戻ったらその考えは無くなるんだが、国を離れて国王の姿を見なくなると不安になる。自分たちがしている行為は侵略だと。

だが国に戻ればそれが正しいと思える。一体なぜなのか……

あんな幼い少女をこんな過酷な場所に閉じ込めて皇帝は何がしたいのか。人質などなくても今のアルトラントに抵抗する術は無い、ここまで容赦の無い行動をしなくても……

マライア様だって長期間の遠征で疲れは見えている。クリスティアン様の容体も心配だろう。俺は……マライア様の影でいることを許されれば、それでいい。


「久しぶりに皇都に戻れるわ。ベアトリスの風景が懐かしい」

「そうだな」



なぜ、自分はここにいる……



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