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神様の椅子  作者: *amin*
四章
51/64

51 宣戦布告

「説明してください、なぜデュークに国を指揮させるのですか?なぜ第1騎士団が護衛をしているんですか!?」

「ジェレミー様は議会のまわし者だったのか?ふざけるな、我ら騎士団を愚弄するな!」


ジェレミーが牢に入り、最高評議委員であるデューク議員が実質の女王補佐に任命され、第1騎士団が護衛を務める事になったニュースはすぐに城内に駆け回った。

騎士団はこの事を当り前だが良く思っておらず、反発していたが何とか第1騎士団がそれを抑えていた。



51 宣戦布告



「大変だな第1騎士団も。確かジェレミーがいない今、副団長のネイハムが団長代行だよな。この騒動の中、良く冷静にやってるな」


城内の喧騒が部屋の中に響く中、エルネスティがぽつりと呟いて茶を飲む。確かにネイハムは良くやってくれている。青に影響されながらもジェレミーの言う事は絶対、だから自分は感情を捨てデューク議員の護衛に徹する。そう言ったあいつの目には決意が宿っていた。

流石に第1騎士団が盾になればランドルフ達も好き勝手に出来ない。他の騎士団はデューク議員が余計な事をしないかを監視するにとどまっている。

実際デューク議員はテキパキと処理をしてるように感じる。今は国内の安定化を第1に考えており、その為に城内の動乱を安定化させようとしている。実際それは成功しており城内はだいぶ落ち着いた。それでも完全に収まったとは到底言えないが。


時間が来てローレンツの容体を見に行く為に医務室に向かう。ジェレミーによってつけられた傷は一命は取り留めたもののかなり深く、ローレンツは未だにベッドに寝たきりだ。

病室に入り備え付けの椅子に腰かけると、ローレンツが困った顔で頭を下げた。


「すみませんダフネ、私の伝言係は面倒でしょう」

「そんな事ないよ、デューク議員は良くやってくれてる。もうすぐある程度国内は安定化するだろうな」

「良かった……」


安堵の表情を浮かべるローレンツ。でもその表情は暗い。それもそうだよな、国宝石の影響とは言え幼馴染であるジェレミーに斬りつけられたんだ。こんな表情になっちまうのも無理はない。そのジェレミーも牢に入ってしまい、どうしようもない状況になってしまってるんだから。

デューク議員が一刻も早く国内を安定化させないと、バルディナは隙をついて来るはずだ。オーシャンに味方した事に対してバルディナは完全にファライアンは敵国だと認識してるはずだから。その為にもデューク議員は大変だろうけど今が堪えどきなんだろう。

これからファライアンはどうなってしまうんだろう。でもファライアンが持ちこたえてくれなければバルディナを止められる国は本当に無くなる。アルトラントは救えなくなってしまう。何が何でも頑張ってもらわないと。

そのままローレンツと他愛のない話をしていたら扉が少し乱暴に開けられた。その先にはランドルフが立っていた。


「ランドルフ……」

「ダフネ、来い。話がある」


どの面下げてここに足を運ばせたんだろう。ローレンツに目もくれずにランドルフは事務的に事を述べた。その表情は少し嫌そうだ。

ランドルフはそのままローレンツに視線を向けている。


「おい、傷はどうだ」

「え?そうですね……だいぶ落ち着きましたよ」

「そうか、早く来い」


結構急いでいる感じがする。ローレンツに頭を下げてランドルフの後をついて行く。その間、お互いに会話は無く、嫌な空気が漂う。一体何の話があるんだろうか?

ランドルフに案内された先には騎士団の団長、そしてデューク議員率いる議員達が数人座っていた。何が始まるんだ……?

与えられた椅子に腰かけた俺にエデュサが書類を渡してきた。読めと言われて目を通せば、そこに書かれていたのは衝撃の内容だった。


「せ、宣戦布告……」

「えぇ、バルディナからのね。ルーシェル王子をファライアンで匿ってた事に対する報復処置だそうよ。ふん、鼻からバルディナは和平なんて考えていなかった。女王と王子を引き渡しても向こうはこの既成事実をでっちあげたくてウズウズしていたようね。議会の暴走のお陰でこんな事になったのよ」


自傷気味にエデュサは笑ったが、そんな事を言っている場合でもない。あいつらの手にルーシェルは渡ってしまったんだ、イヴさんと共に。そしてファライアンもこんな状態だ……どうしようもないだろう。

室内がざわついていく。これからどうするか、国を守れるのか、女王はどうなっているのだ、と。

その空気を切り裂くかのようにランドルフが発言した。


「受けて立つしかねぇだろ。ここまできたらバルディナは譲歩なんか受け入れない。譲歩した所で待ってるのは奴隷政策だけだぞ」

「だが今の国内の状態では戦争などとてもできるはずもない。国内の安定化を最優先にバルディナとは交渉を重ね、時間を稼ぐしかない」

「国を放棄する気かデューク議員」

「戦争はもう避けられん。だが今の状態では負けは目に見えている。国内を安定化させ、同盟国との関係を強化するまでは、ある程度の譲歩を許してでも時間を稼ぐ必要がある。その任は私が全うしよう」

「売国奴の議員達に出来んのかよ」


ランドルフの暴言ともいえる発言に議員達が机をなぐりつけて怒りを露わにする。クーデターの件からデューク議員は裏切った議員達の処理、そして国の安定化、クーデターの鎮静化に努めてた。その働きは誰もが認める所だろう。

今の議会は多分だけど、本当に国を想う奴らしかいない。反逆者達の処理はもう終わってるんだから。それなのにこの発言だ……議会と騎士団の溝は修復できない所まで来てる。


「我らが議会の者たちが招いた惨事……それは甘んじて受け入れよう。だが今は争っている場合ではない。私は国を守る為に全身全霊をかけて職を全うする覚悟だ」

「口だけなら何とでも言えるがな」

「貴様っランドルフ!デューク議員になんて事を!元はと言えばお前達が女王を閉じ込め、国を牛耳り出したのが発端であろうが!過去のクーデターの件と言い、お前たちこそ国を崩壊に向かわせている存在だと言うのが分からんのか!?」

「んだと!?」

「止せ!」


ランドルフとグラン議員の争いをデューク議員が鎮める。2人とも居心地悪そうに椅子に腰かけ、目も合わせようとしない。

デューク議員は溜め息をついた後、ネイハムに向き直った。


「ネイハム、代行とは言え、貴殿が今や第1騎士団団長。ファライアン軍団長なのだ。貴殿の意見を聞かせてくれ」


ネイハムは突然振られた事に焦りの表情を浮かべる。それもそうだ、副団長と言う立場から団長……それもただの団長ではない、ファライアンの軍団長になったのだ。騎士団の中で一番の権力者と言ってもいい。

自分の一言で国が変わる。その責任をネイハムが背負わなきゃいけなくなったんだ。

ネイハムは両手をぎゅっと握りしめ顔を上げた。その手は震えている。


「俺は……デューク議員の意見に賛成だ。国内の安定化、同盟国との関係の強化、そして騎士団と議会の和解を望んでいる」

「ネイハム!」


グレインの非難が響いても、ネイハムは態度を変えなかった。


「俺じゃなくてジェレミー様でもそうする。デューク議員の護衛をしていて分かった。俺達騎士団は冷静に周りを判断出来てない」

「何言ってんだよ」

「女王の為、それに囚われ過ぎている気がする……俺は国と家族を守る為に騎士団に入った。女王の望む未来を与える為に入ったんじゃないっ」

「ネイハム!」


グレインがネイハムに掴みかかってハーヴェイが慌ててグレインを引き放した。

ネイハムは目を見開いたが、再び口を開いた。


「あんた達は何を考えてるんだ?俺にはそれが分からない!女王の命令1つで国を潰すのか?家族を捨てるのか?女王は今いない、もうあんた達だって守るべき者は国と家族だけだろう!?」


ネイハムは項垂れて額を腕にこすりつけた。


「最初から……女王なんていなかったんだよ。女王なんて最初からファライアンには要らなかった……」

「ネイハム……」

「女王の為に過去のクーデターを再び繰り返して、バルディナに宣戦布告されて戦争は避けられない。全部、全部女王のせいじゃないか!」

「ネイハム、それ以上は言うべきではない」


その言葉を発したのは騎士団の奴じゃなくデューク議員だった。目を丸くするネイハム、騎士団の奴らも議会の奴らも同じだ。

デューク議員は手を強く握りしめ、苦しそうな表情で口を開いた。


「私と第1騎士団副団長、ジェレミーの父親と決めた事が全ての発端なのだ。女王は青の国宝石を継承している」


デューク議員の発言に室内が凍りついた。

止めさせようとしたランドルフをネイハムが押さえつける。


「何しやがる!」

「俺は話を聞きたい!女王が青を継承してたなんて聞いた事がない!どうなってるんですか!?」


ネイハムの怒りの訴えに騎士団達は罰の悪そうな顔をしている。自分達が必死になって隠してきた真実をデューク議員は全て話そうとしてる。

でもそれでいいんだと思う、まずは全てを知らなきゃ議会と騎士団は分かりあえない。女王も議会も騎士団も本当は誰も何も悪くないんだ。

ランドルフが席に着いたのを確認してデューク議員は続きを話しだした。


「前女王陛下が首をつって自殺し、前軍団長もクーデターの最中死亡した。そしてそのクーデターを抑える為に娘であるイヴ女王陛下は国宝石を継承した。ゲーティアの魔術の1つが備わっている国宝石を。その魔術は全ての者を魅了する、だからクーデターは自然と鎮静化して行き、国民は姿も現さない女王陛下に魅了されたのだ。その見返りに全てを平等に愛す事を強制し、1人の人間を愛す事、他人を憎むことを禁じる。最初は何も考えていなかった。だが女王陛下の兄、フリック王子が陛下と対立した際、女王陛下は実の兄を酷く憎んだ。そして王子が謎の死を遂げた……急に国宝石の呪いが恐ろしくなった私とジェレミーの父親は女王を箱庭に閉じ込め、1歩も外に出す事を許さなかった。護衛は女王の幼馴染の騎士団に任せ、ジェレミーに役目を担わせた」


議員達は茫然と聞いている。こんな理由があったとは思いもよらなかったからだ。

女王が表に姿を出さない理由はクーデターを鎮める為だった。


「女王は御自分の立場が分かっていたからこそ何も言わなかった。私も最低限の人間にしかこの事を知らせなかった。だが議会と騎士団の仲互いから女王は幼馴染達のいる騎士団に心の重点を置いた。その結果、私達議員の女王に対する呪いは解け、姿を現さない女王に対する不信感が出てきた。次第に騎士団との対立は修復できないほどまで膨れ上がり、女王も私達議会に対する不信感が膨れ上がった。私達は女王に憎まれ、騎士団は愛されたのだよ。かつてのフリック王子と一緒でね。そして再びクーデターが起こり今に至るのだ」


全てを説明し終えたデューク議員は息を吐いて椅子に深く腰掛けた。もう体力は限界なんだろう、ほとんど寝ずに毎日仕事していると言っても過言ではない。それだけ今のファライアンは追い詰められているんだ。

そんな中でバルディナからの宣戦布告だ。こうなりたくもなるだろう。

バルディナだけじゃない、ザイナスとパルチナだっているんだ。パルチナの王国騎士団と王国神聖軍は屈強だ。それとやり合わなきゃいけないんだ。


「私はまだ諦めてはいない。やるべき事を終えるまで休む訳にもいかん。失礼する」


デューク議員が出て行って、室内は静まり返った。

エデュサから渡された書簡を再び読み上げても絶望しかわかない。どうしてこんな事になってしまったんだ。

議員達も話す事がないのか、ぞくぞくと退室していく。残った騎士団達は全てを語られてしまった事に対して呆然としていた。


「結局俺達は女王に操られてたんだ」

「結果論だけ見たらそうなんでしょうね。私達は青の影響を受け過ぎた。でも不思議ね……それが悪い事だと微塵も思えない」


ネイハムが項垂れてエデュサも歯を食いしばった。どうして自分達の行動が後悔できないのか。根拠の無い正義に振り回されてる、それは騎士団も皆分かってるんだ。それでもそれが可笑しいと思えない、それしか考えつかない。

これが青の呪い……

女王を恐れて箱庭に議会と騎士団で閉じ込めた。そして誰にも知らされず、女王と仲の良かった幼馴染のジェレミー達騎士団だけが真実を知らされて護衛に回った。

女王から隔離され、なお且つクーデターの件から騎士団を信じられなくなった議会は女王に少しずつ不信感を抱かれて行って青の効果がなくなり、女王の存在に疑問を感じ始める。

逆に騎士団は女王に近づきすぎた為、女王に愛され青の効果が強く出過ぎた。それが全てだ……どっちも国宝石に操られてたんだ。あんな宝石1つに……


「普通に考えたら俺達は重罪人なのかもな……でも実感湧かないな」

「デュークに言われたら確かにそう感じてはくるけどな。今更どうしようもない」


グレインもオルヴァーもため息をついた。女王に愛され、青の呪いが自分達に濃く降りかかっているのを今分かったのだ。だけどもう行ってしまった行為はどうしようもない。


「これからどうなるんだろうな。俺達もこんな状況じゃ戦えねぇよ」

「戦わなきゃファライアンはどうなんだよ……実際バルディナから宣戦布告が来てんだぞ」

「ぜーんぶ女王のせいでした。それで終わりさ。本当に馬鹿馬鹿しいよ、何もかもが」


ハーヴェイが席を立ちあがり部屋を出て行く。

悔しそうに拳を机にぶつけ、ランドルフが乱暴に扉を開け、ハーヴェイの後を追うように出て行った。そしてエデュサ、グレイン、オルヴァーも出て行き、俺とネイハムだけになる。

ネイハムの肩は小刻みに震えている。泣いているのかもしれない。


「ネイハム……」

「なんで……なんでこんな事になったんだろう。初めは皆、国を、家族を、大切な人達を守りたかっただけなのに……」

「そうだな」

「ファライアンは終わりだ。皆戦意を喪失してる、もう終わりだ……」


そうなのかもしれない。

バルディナの手にルーシェルも渡った今、俺達に出来る事は何もない。もう終わりなのかもしれない。



-―― 愛したら負け。嫌ったら負け。じゃあどうすればいい? ―――





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