表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の椅子  作者: *amin*
四章
49/64

49 計画された犯行

「ひぃっ……助けて、くださ……ぎゃあぁぁああ!!」

「おのれ議員どもが……どこまで見下げ果てた奴らだ!おめぇら何としても全員捕まえろ!捕まえて締め上げるぞ!」

「奴らを逃がすな!逃げ道を全て塞いで包囲しろ!卑怯者どもを1人として城から出す事は許さん!」


逃げようとした議員は力ずくで取り押さえられ、抵抗しようとした議員は騎士によって刺殺されていく。

逃げようとしても出口を塞がれ、議員達は逃げる事も出来ない。

門は封鎖され、何も知らない国民は普段の生活を続けているのに城の中はまるで地獄絵図の様だった。



49 計画された犯行



「俺、止めて来る。ランドルフ達を……!」

「無駄だ。あの状況になったんだ……君1人の力ではどうしようもないさ」


ジェレミーは力なく項垂れて椅子から立ち上がろうとしない。余りの状況にアルシェラとエルネスティも危険だから扉の外に出て行こうとはしない。

何でこんな事になった?そもそもどうして……最初は何が原因だった?なんでこんな事になった……皆国を守りたかっただけだろ?大切な人を守りたかっただけなんだろ?

それなのになんでいがみ合う……確かにバルディナに通じていた議員がいたのは確かだ。でもなぜそれで全てを信用できなくなる。騎士団も議会も純粋に国を想っている奴らは沢山いた。それなのに何で分かりあえないんだよ!?


「ジェレミー!」


ローレンツが扉を開けて中から鍵を閉める。どうやらローレンツは騎士団に見つからずここまで辿り着けたようだ。

力なく顔を上げたジェレミーに机を力いっぱい叩いてローレンツは声を震わせた。


「なぜこのような場所にいるのです?早く止めてください!ランドルフ達は我を忘れている。私達議員全てを潰そうと模索しています!軍団長の貴方が止めなければならないでしょう!?」

「誰にも俺の声なんて届かないよ……」

「届かないにせよ、騎士団の指揮権の全ては貴方にあるんです!貴方がそんな事でどうするのですか!」

「それは……」


「でも詰めが甘すぎると思わないかい?」


ライナの一言で視線が全てライナに向く。

確かに詰めは甘い。本当に議会の仕業ならわざわざ議員が付ける紋章を身につけて行かないだろう。そして皆が利用する休息所を敢えて狙った理由も分からない。

現に神隠しで犯人は未だに見つからないんだ。今まで通りのやり方でいいはずだ。それなのにどうしてこんな事態を招いたんだ?


「あたしから言わせたら騎士団の議会への不信感をわざと煽らせたとしか考えられない。大体議員がそんなヘマするかい?議員だって被害が出てんだろ?今騎士団はランドルフ達も冷静さを欠いた状態だ。どうしても今の状況で何かを起こしたい奴らがいたんだよ。議員達を犠牲にしてでも」

「そんな事言っても……」

「そいつらの目的はこの混乱に乗じて何かをしようとしてんじゃないのかい?」

「まさか……」

「ジェレミー!?」


ジェレミーが走り出して扉を開けて出て行ってしまった。外からは喧騒の音しか聞こえない。でも一体ライナは何を感づいたんだろうか。

ライナは俺をじっと睨みつけている。止めに行けとでも言いたいんだろうか?


「あんたは行かなくていいのか?あたしの感では王子様のピンチだよ」

「な、どう言う事だよ!?」

「前にローレンツ達が言ってたろ?密偵を雇って女王を探させている奴らがいるって……普段騎士団が護衛している女王の家、今は誰が護衛してるんだい?」

「まさかっ……」

「奴らの目的は騒ぎを起こし隙を見て女王をバルディナに売り渡す事じゃないのか?女王の部屋にいるルーシェルだって見つかりゃ捕えられるさ。ある意味……女王より価値が高いからな」


まさか……ライナの言ってた事は本当なのか?だとしたら急がなきゃいけない。

ローレンツだけじゃない、エルネスティとアルシェラも目を見開いている。でもライナの考えでは複数の犯人が事態を作った。

騎士団の議会に対する不信感を煽らせて、そこを付いたんだ。いまなら騎士団は真っ先に議会を疑ってかかる。そして女王の家への行き方を奴らは既に知っている。その事からファライアンでもかなり上の地位の人間だろう。

走り出して部屋を出て行く。ライナは追いかけて来なかった。それもそうだろう、オーシャンの大使であるライナが下手に今の状況で動く訳にはいかない。ライナが万が一怪我でも負ったら、それこそオーシャンとの亀裂に繋がるから。

外の状況は酷い有様だった。逃げ惑って泣き喚く議員を騎士団が取り押さえている。使用人たちは廊下や部屋の隠れる場所に身を小さくして怯えている。

なんとかこの状況を納めなきゃいけないのに、でもまずはルーシェルを助けなきゃいけない。ルーシェルだけは俺が助けなきゃ!


女王の部屋にまっすぐ向かう。でも人が揉みくちゃになってて思うように前に進めない。どけよ、それどころじゃないんだよ俺は!

ジェレミーの姿は見えない。多分俺よりもずっと先を走ってるんだろう。頼むからジェレミーだけでも早く辿り着いてくれ!じゃなきゃルーシェルと女王がっ!


―――――――――――――――――――――――――――

「い、いや……嫌!」

「往生際が悪いですぞ女王陛下。我らファライアンの為、バルディナにその命捧げてください」

「イヴに近寄るな下郎共!生かしては返さんぞ!」

「メリッサ殿、レディが使う言葉にしては美しくありませんよ」


女性の1人が杖を持つ。そしてその杖をイヴに向ける。押さえつけられているメリッサにも剣が向けられた。

恐怖で動けないイヴに議員は忌々しげに見ている。


「汚わしい女だ。前女王に似ている……貴様らの存在のせいでファライアンは壊滅へと追い込まれる。最後くらい御国の役に立つ事だな」

「バイエル議員!見つけました!」

「放せぇ――!放せよぉ!!」

「ルーシェル君!」

「見つけたか。女王とルーシェルを引き渡せばバルディナはファライアンと友好条約を結ぶだろう。大体騎士団がイカれておるのだ。バルディナとパルチナを相手にして敵う訳もない。これでファライアンにある程度の自由は保障される……」


議員は望んでいた。バルディナからの和平条約を。自分の家族を守りたかった、その為に戦争をする訳にはいかなかった。バルディナとパルチナが手を組んだ時点で勝ち目がないと悟ったから。

だから密偵を遣って女王の居場所を探らせていた。そして騎士団と議会の対立が激化している今を狙った。全ては家族を守る為だった。

そして自分に賛同する者を複数集めて今回のクーデターに臨んだ。

神隠しの理由は簡単だ、自分達の行動を見抜いた奴を議会騎士団かかわらず消して行っていただけだ。特にデューク率いる古参の議員は自分を疑っていた、だからこそ今犯行に臨んだのだ。

自分の考えを否定したデュークへの腹いせも含め、デューク率いる議会も騎士団も根絶してしまおうと考えた。

この事が表に出ればファライアン国民は議会の解体を望み、だが虐殺を行った騎士団には畏怖の念を向けるだろう。この2つの勢力は滅びていくしかない。

恐らく自分達は処刑される。それでもいいと思った。

戦争に負ければ過酷な奴隷政策が待っている。だが和平が受け入れれば多少は不自由になるだろうが、今までと比較的変わりない生活が約束される。

勝ち目の無い戦をするぐらいなら女王を引き渡してでも平和が欲しかった。


「私には来月孫が出来る。その孫に奴隷政策を受けさせる訳にはいかん。分かってくれ女王……貴方が犠牲になれば国は救われる、王族と言うのは元々使い捨ての存在だろう」

「そんな……っ」


後ろからは自分と同じ思いを持った議員の悲鳴が聞こえた。間違いない、自分達の目的に気づいて誰かが阻止しに来たのだ。

それが誰なのかはなぜだか容易に想像できた。

バイエルはルーシェルをイヴと同じ場所に投げ捨てる。2人の足元には魔法陣が描かれている。取り押さえられていたメリッサも鈍器で頭を殴られて床に倒れ込んだ。


「メリッサ!」

「大丈夫、気を失っているだけだ。だが彼女はこの後に殺さねばならん。悪く思うな、君の御父上に死体はちゃんと持っていこう」

「どうしてこんな……酷いよ!」

「私を憎みたければ憎め。どうせ私はこの後すぐに殺される。貴方の呪い等恐ろしくも無い。こいつらを転移するのにどこまで運べる?」

「そうですね……ある場所に魔法陣を作っています。そこに移転し、バルディナに連絡を取りましょう」

「いいだろう。それまで匿っておけ」

「御意」


足音はどんどん大きくなり、聞こえて来る悲鳴も大きくなる。奴が来る……奴の出鼻をくじいてやろう。

そして扉を開けて入ってきたのは自分の予想通りジェレミーだった。抵抗する議員達は切り捨てたのだろう。顔にも服にも大量の返り血が付いている。

ジェレミーは女王とルーシェルを見つけて声を上げる。


「女王陛下、ルーシェル王子!」

「ジェレミー!」

「貴、様ぁ……陛下に何をする!?」

「早く転送しろ!」

「はっ!」


ジェレミーがイヴに駆け寄って手を伸ばす。しかしその手がお互いに触れ合うことはなかった。

ジェレミーが伸ばした手は空振り、目の前にいたイヴは一瞬で姿を消した。

その様子を喜ぶバイエルに放心するジェレミー。


「貴様……覚悟はできてるんだろうな」


ジェレミーが剣を向けてもバイエルは恐怖等浮かべなかった。

その表情はどこか誇らしかった。


「あぁ大丈夫だ。私は国を救ったのだ!お前達騎士団からな!」

「死ね裏切り者が!!」


―ダフネside―――――

た、辿り着くのに時間がかかっちまった……でも女王の家の状態は酷い物だった。所々に死体が転がっている。これはもしかしてジェレミーがやったのか?

慌てて家の中に入れば、中は血で真っ赤に染まっていた。吐き気が来そうなほどの鉄の匂いに手で鼻を覆いながら前に進む。そしてリビングへの扉を開けた。

そこにいたのは真っ赤に染まったジェレミーと、足元で動かない状態になっている複数の死体、そして頭から血を流し倒れ込んでいるメリッサがいた。


「メリッサ!」


抱き上げて名前を呼んでも起きる気配はない。かなりの強さで頭を殴られている。それだけじゃない、腕にも傷の跡がある。どうやら手酷荒い歓迎を受けた様だ。

でもこの状況はどうなったんだ?ルーシェルと女王はどうなった!?ジェレミーは放心している感じだった。死体を見つめて何も発することは無い。


「な、なぁジェレミー……女王とルーシェルは?無事、だよな?」

「……」

「なぁ!」

「この状況を見て分からないのか?それとも2人を探してみるか?」


全てが崩れた感覚が広がった。それって嘘、だよな?ジェレミーの言葉だとルーシェルと女王が捕まったって事を認める発言になる。

そんな事嘘だって思いたい。


「なぁルーシェルと女王は……」

「いない。俺の目の前で連れて行かれた。どこかは分からない。転移魔法を使える奴がいたからもうバルディナに行ったのかもしれないな」

「な、どうして……どうして間に合わなかったんだよ!?」


ルーシェルも連れて行かれたのか?守るって決めていたのに、まだ何も俺達は果たしていない。今からしなきゃいけないことが山ほどあった。

それなのにどうしてこんな事になったんだよ!?

泣き崩れるジェレミーに、これ以上責め立てる事が出来ない。ただ俺も泣き崩れ、己の無力さを呪うしかなかった。ライナの感は当たってしまったのだ。

そして暫くしてローレンツが息を切らして走ってきた。


「ジェレミー、これは!?」

「女王と王子は連れて行かれた。裏切ってたのはこいつみたいだ」

「っ!バイエル議員……」

「ふふ、ふ……酷く滑稽だ。こんなにも他人を憎く感じたのは初めてだ。今までファライアンの為と思い、この手を染めてきた。他人を殺しても自分にはちゃんとした信念がある。そう思えていたからこそ、殺人を正当化できた」

「ジェレミー……」

「憎しみだけで人を斬ったのは、これが初めてだ」


これからどうなるんだろうな。でもローレンツは言っていた。女王を引き渡せばある程度の地位を認められると。ルーシェルも連れて行かれたんだ。バルディナはファライアンに友好条約を打診するだろう。

それさえ受ければファライアンは安泰だ。戦に無関係でいられる。

女王とルーシェルと言う犠牲を払って。

クラウシェルもそうだ。国民を救う為にミッシェルをバルディナに差し出した。この方法が一番良かったのか、なぁ……ただ俺達が意地を張ってただけなのかなぁ?


「なぁジェレミー、どっちが正しい?クラウシェルもさ、国民の為にミッシェルをバルディナに差し出した。議員も国の為に女王を差し出した。戦争回避する為にはこれが一番の選択なのかなぁ……」

「知らねぇよそんなの。でも俺達の存在価値はこれで完全に無くなった」


ローレンツは騎士団達を止めて会議を開かなければと言って家を出て行った。でもジェレミーが動く事は無い。

ケタケタと笑いだしたのだ。冷静だった人間が発狂していく姿をその時初めて目の当たりにした。


「殺すのって気持ちいいんだな。憎い相手が地面にひれ伏す姿は何とも滑稽だ」

「ジェレミー……」

「“女王の為”に最初からこうしとけば良かった。くく……ははは!」


女王の為……今日この日、ジェレミーの精神は崩壊した。イヴさんは誰よりもジェレミーが助けてくれる事を強く望んだはずだ。愛している存在を。

国宝石の呪いをジェレミーは強固な意志で跳ね返していた。でもそれが崩れた瞬間だった。

女王を守れなかった事に対しての絶望、それがジェレミーの精神を壊すきっかけになった。もうファライアンはお終いだ。

いや、ファライアンだけじゃない。俺もお終いだ。ルーシェルを守れなくて何が御世話係だ。俺なんてもう死んだ方がいい。

ルーシェルはバルディナに連れて行かれる。全てが終わった瞬間だった。


どうしてこの世界は力でねじ伏せるものが上に立つんだ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ