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神様の椅子  作者: *amin*
四章
48/64

48 ファライアン崩壊

「無茶をしすぎです」


あの後、無事にシースクエアの前に着いてクレアの転移魔法で船の中に移動し、ジェレミー達が帰ってくるのを待機し、ジェレミーが戻ってきたのを確認して船が出た。

そして俺達に待っていたのはジェレミーの説教だった。



48 ファライアン崩壊



「クレア、君がいたのに止められなかったのか?」

「申し訳ございません」


クレアが深々と頭を下げたのを見てジェレミーもそれ以上言わず、とりあえず無事でよかったとだけ言って表情を崩した。

柔らかくなった空気を確認してルーシェルが安心した様な声を出した。とりあえずジェレミー達もだが俺も疲れた。少し休憩しようかな。

でもその前に聞きたい事がある。


「ジェレミー、少し話があるけどいいか?」

「分かった」


多分俺が何を聞きたいかジェレミーには分かったんだと思う。この話をルーシェルに聞かせても難しくて多分分からないと思うから今は休ませよう。

ルーシェルを寝室に連れて行き、横にすれば20分程度でスヤスヤと寝息が聞こえてきた。

それを確認して起こさないように静かに扉を閉めて船の中にある会議室に向かう。そこには既にジェレミーと副団長のネイハム、そしてライナとクレアがいた。

空いている席に腰かけて、もう今更はぐらかしても意味は無い。真っ向から聞いてみる事にした。


「他の国の反応はどうだった?」

「今回処刑を鑑賞しに来た国はバルディナの同盟国のザイナス、パルチナ。そして一応参加をしたのが俺達ファライアンとビアナ。残りの国は不参加だった。まぁそうだろうな……抗議は直接行ったが、どうも不思議な感じだった。イマニュエル・ネイサンは破壊衝動に駆られていた。国王と后を殺したい、殺したいとうわ言の様に呟いていたから」


イマニュエル・ネイサンは温厚な人柄だって聞いたんだけどな。30年前のパルチナとの南下を阻止する戦争を皮切りにザイナスへの侵略行為も繰り返すようになった。

待てよ、30年前……バルディナには黒の国宝石があるって聞いた。そしてその内容が絶対的な力を手に入れる代わりに破壊衝動に駆られる事になる。まさか……


「ライナ、クレア、宝石の意志が言ってたよな。黒は30年前に継承されたって」

「あぁ、そう言ってたね。それがどうかしたのかい?」

「イマニュエル・ネイサンは温厚な皇帝で名君と言われていた。でもパルチナがアルトラントを狙った南下政策の際の戦争からイマニュエル・ネイサンは変わった。ザイナスに侵略を繰り返し、反乱を起こした村を力でねじ伏せ出した。パルチナとの戦争が丁度今から30年前だ」

「まさか……」

「わかんねぇ、俺の感なんだ。でもあの時バルディナの戦況は不利って言われてた。それを奇跡の大逆転でおさめたって……もしかしたらその時に黒を……」


有り得るかもしれない。その時にイマニュエル・ネイサンは国宝石を継承したのかもしれない。あくまで俺の仮説で感だ。イマニュエル・ネイサンが継承しているとも限らないし、でも30年前からバルディナは変わった。

イマニュエル・ネイサンが皇帝になってからは平和だったのに、急に……

有り得ない話ではない。ジェレミーもそう言ってる。分かった所でどうしようもないが、どうしても気になってしまったから。


「わりぃ、話が逸れたな。んで参加した国はどうだった?」

「バルディナはとにかくヴァシュタン、エデン、オーシャンに不快感を感じていた。書を突っ返したエデンとオーシャン、激しい抗議声明を送ってきたヴァシュタンにな」


エルネスティは俺に言った通り、抗議声明を送ってくれたんだ。なんだかファライアンはあれだけゴタゴタしてたのに、簡単にヴァシュタンはやってのけてしまうんだな。


「俺と同じくビアナの当主イグレシアは処刑が終わった後、イマニュエル・ネイサンに交渉をしていた。その為に来たみたいだ。経済状態を一刻も早く回復させろ。アルトラントにある程度の自由を認め、自由貿易を始めさせろ。ってね」


シースクエアが差し押さえられてからアルトラントからの物資が減り物価は高騰してる。アルトラントは肥沃な土地と温暖な気候のお陰で食い物が美味い事で有名だ。

アルトラントからの物資がないとなると、他の国からの抗議も必死だ。ビアナも頭を痛めているだろう。


「それにしてもパルチナは随分若い王だった。彼はアダム・ワイアットではなかった。いつの間に王位継承した?」

「王位継承?いや、そんな話は聞いてないね。パルチナの国王は50を超える男性だったはずだ。王子2人の継承権争いもまだ決着がついていないはずだ」

「……どちらかが勝ったと言う事なのか?それに自分の事をアダム・ワイアットと名乗っていた。息子の名は確か違ったはずだが……パルチナに名前を受け継ぐと言う習慣は無かったはずだ。俺とビアナだけが状況を理解できなかった。ザイナスとバルディナは何もなかったかのように振る舞っていたが……」


訳が分からない。確かにパルチナの皇帝はアダム・ワイアットで50を超える男だ。でもジェレミーが言うには20代半ばの男だったらしい。

王位継承したと言ってもジェレミーの言う通り、名前を継ぐと言う習慣はパルチナは持ってないはずだ。でもパルチナは情報操作をする国だ。現にマクラウドはその被害に遭ってるし……国王の年齢を偽るとか有り得ないけど、その線が濃厚だよな……ライナが知らないって事は情報屋の中でも知ってる奴と知らない奴がいるんだろう。ライナはそっちの道では中々有名らしいし、知ってる奴の方が少ないはずだ。

訳が分からない。


「とにかくザイナスはなぜかバルディナに異常な忠誠心を見せている。特にグレービスが。伝えれる事はそれだけだ。後ダフネ、君と王子に伝言を預かっている」

「伝言?」

「クラウシェル王子とお付きのセラと言う女性からだ。王子からはヒヤヒヤさせるなボンクラ。セラからは状況を読んで行動しろ、そう伝えてくれと言われた。全くその通りだ」


うぐっあいつらめ!特にセラは身分からして良くジェレミーに話しかけられたな。クラウシェルが御膳立てでもしててくれたんだろうか。それにしたって酷い言われ様だ。

豪快にライナが笑い、クレアはポカンとしてる。ふん、どうせ俺のアルトラントでの立場はこんなもんですよ。でもルーシェルにいい土産が出来た。

船は1週間程度の道のりでファライアンの城の港に到着する。それまではする事も無いからのんびりとするかねぇ。


1週間後、ファライアンに到着した俺達をエデュサとハーヴェイが出むかえた。2人は簡単な挨拶を交わし、船の整備に取り掛かった。

結果の報告は後日騎士団の間で行う事になった。議会とは日程が合わず、議会との対談は1週間後と言う形だった。

ファライアンに戻ってみれば、騎士団と議会が反発し合っており、騒がしさは一層増していた。クレアとは城で別れて、女王の間には連れて行けないからライナとも途中で別れ、ルーシェルと共に女王の間に向かう。でも気になっていたのはライと言う少年。

ルーシェルに聞いてみたかったけど、きっと悪い事を言ったらキレて来そうだったから結局聞けずじまいだ。でもこれからは俺が監視するし大丈夫かな?

まだ子供だ、特に行動も起こす事は無いはずだ。


女王の間に着き、イヴさんに顔を出したら慌てて走ってきて外傷がないか確認した。森の中を進んでいたし獣退治をしてたから、ルーシェルも擦り傷、俺も切り傷などが少しある。

それを見て顔を真っ青にして病院に行かせようとするイヴさんをメリッサが諌めていた。なんだか軽くパニックになってないか?

しばらくしてイヴさんも落ち着いて改めてルーシェルが緑を受け継いだ事を報告した。イヴさんは悲しそうに目を伏せて、ただ「それでいいの?」それだけ質問してきた。

でもルーシェルはハッキリと肯定の意を述べた。それ以上、イヴさんが何かを言ってくる事は無かった。

ルーシェルはイヴさんに任せて俺とメリッサは部屋を出て廊下に移動した。聞きたい事があったから。


「あれから国はどうなんだ?正直2週間以上も離れてると状況が分からなくて」

「最悪よ。騎士団と議会、お互いの疑心暗鬼は過去最悪の事態にまで膨れ上がってる。それに妙なの……騎士団と議会が数人行方不明になってるの」

「行方不明?」

「理由は分からない。でも神隠しに遭ったかのように姿を消した。騎士団は最初議会の仕業だと思ってたみたいだけど、議会でも被害が出てるからどっちも疑心暗鬼になってる」


確かにそれは可笑しい。まさか暗殺されたとかそんな訳じゃないよな?

メリッサは不安を隠しきらない表情を浮かべている。イヴさんの前でこんな表情は浮かべない。メリッサもかなり気を遣ってるんだろう。


「今回の神隠しの件、議会は重く見てる。最高議員のデューク議員が自らチームを立ち上げて捜索するそうよ。ハーヴェイさん達第6騎士団がそれに協力するってなってる」

「良く騎士団が了承したな」

「勿論ランドルフ達は反発したわ。でもお互いの利害が一致してるからハーヴェイさんが押し切った形になってる。お陰でハーヴェイさん、今少し肩身が狭そう」


まだハーヴェイは冷静な視点から物事を判断できるみたいだ。問題はやっぱりランドルフとオルヴァー、グレインが率いる第2、3、4騎士団だろうな。団長があれだから部下もかなりの影響を受けてる。

とりあえず明日あいつらに会うんだ。その時に様子を見るか。

メリッサからしたら幼馴染のランドルフが変わり果てた事が何よりも不安なんだろうな……いち早くランドルフを助けたいって思ってるはずだ。


翌日、騎士団の会議に俺とライナ、アルシェラ、エルネスティも呼ばれて会議室に向かう。

神隠しの件はアルシェラとエルネスティの耳にも届いていたようで2人ともかなり警戒してる。国の大使として派遣されてるんだ。狙われてる可能性だってある。

ライナもそれに関しては慎重だった。今は動かない方がいいだろう。

用意された席に着き、ジェレミーが話を切り出す。国王と后の処刑、そして他国の状況、抗議に対してのバルディナの対応、そしてもう1つ。


「ミッシェル王女がバルディナの第3皇子クリスティアン皇子と正式に婚姻が決まった。ミッシェル王女は近々バルディナの首都、皇都ベアトリスに向かう予定だそうだ」

「ミッシェルが……?なんで、どうしてだよ!」

「クラウシェル王子が正式に発表した。婚姻の際、兄弟国となった証に奴隷政策の規制緩和をバルディナが宣告したそうだ」


クラウシェルは国を、国民を守る為にバルディナにミッシェルを引き渡したんだ。でもミッシェルは向こうでどうなる?過酷な環境が待ち受けているはずだ。

肩身も狭いし、大体第3皇子なんて見た事がない。病弱で表にも出て来ない奴だ。本当に生きてるのか?もう亡くなってる可能性だって……

俯いた俺に皆が同情のまなざしを向ける。そんな視線いらない。だったら助けてくれよ!

その時、グレインが声を出した。


「状況は分かったけど、今回の神隠しの件どうする気?進展はあったのかハーヴェイ」

「いや、だが一昨日議会から1人神隠しに遭ってるって話を聞いた。議員の中でも古参に入るアンソニー議員がいなくなった。デューク議員も頭を悩ましている」

「お手上げ、か……第4からも3人いなくなってる。一体どうなってる……」


第4騎士団にも被害が行ってるようだ。グレインはかなり苛立っている。

結局今回は本当に報告会みたいな感じで、後は神隠しの状況をジェレミーに伝えるだけだった。ある程度の話を終え、皆が息をついた時、1人の騎士が部屋に入ってきた。

かなり慌ててるようだけど急にノックもせずに入ってきた騎士をジェレミーが諌めた。


「今は会議中だ。用件なら後で」

「待ってくれや。あいつは俺んとこの奴だ。おいお前何してる?会議があるって俺はちゃんと伝えたよなぁ」

「で、ですが団長、大変なんです!第2騎士団が十数名、休息所で殺されていました!」


どうやら騎士はランドルフ率いる第2騎士団の奴だったみたいだ。そして騎士から放たれた衝撃的な言葉に皆が目を丸くした。

騎士は感極まって泣き出して、上手く状況を伝える事が出来ない。

その騎士を見かねてランドルフがそいつの元に走り寄って肩を掴んだ。


「殺された?おい、どう言う事だ」

「第2騎士団の休息所に何者かが侵入したと……分かりませんっ!私も10分程度休息所を出ており、戻ってきたら……たった10分少しの間に、なぜこんな……っ」


泣き崩れる騎士にジェレミー達は茫然とするしかなかった。でもその騎士は涙を流しながら第2騎士団団長ランドルフに顔を上げる。

その目は怒りに燃えていた。


「ランドルフ様、無くなった第2騎士団の者たちは相手ともみ合いになった形跡が見られておりまして、騎士の1人が手に争った際に奪ったボタンが握られていました。そこには……」


まさか……嫌な予感しかしない。だってそれだともうこれが……嘘だ、絶対に違う。俺が頭に浮かんだ結末では絶対にないはずだ。


「ファライアンの議員が持つ紋章が彫られていたそうです」


ジェレミー達の眼の色が変わる。でも目撃情報が本当なら、これは間違いなく議会からの挑戦状だ。議会は騎士団に対してクーデターをしかけたという形になる。


「なんだ……それっ?じゃあ神隠しはあいつらの仕業だったんじゃねぇか?他のいなくなった奴らも皆議会の奴らに殺されたんだよ。だってそれなら説明付くじゃねぇか、裏切り者はエデンのはみ出し者で転移魔法のスペシャリストを従えてたんだろ?余計な事を知った奴らを片っ端から消して行ってたんだよ」

「ランドルフ……」

「なんだそれは!あいつら……よくも、よくも!」


ランドルフが走って部屋を出て行った後をオルヴァー、グレインも後を追うように追いかける。残されたハーヴェイとエデュサは固まっていたが、お互いに顔を見合わせて進みだした。

まさか2人まで……

止めようとしたジェレミーをハーヴェイ達は冷え切った表情で見つめている。


「待て、まだ決まった訳じゃない。犯人捜しを始めるんだハーヴェイ」

「お前本気で言ってるのか?目撃情報があるんだぞ。確かに議会が衣服ごときでミスを犯す事は考えづらい、俺達は何者かに踊らされている可能性が高い。だが他に誰を疑える?これは奴らから俺達への挑戦状だ。受けて立ってやる!」

「ハーヴェイ!ファライアンが1枚岩じゃなくてどうする?バルディナの思うつぼだぞ!」

「議会がいる方が思うつぼでしょう?どれだけ私達が煮え湯を飲まされなければならないの?第5騎士団からも被害は出てる。私の大切な部下たちが殺されているかもしれないのよ?議員を1人残らず締めあげて吐かせる方がやみくもに探すよりもずっと確率は高いわ」


ハーヴェイとエデュサまで行ってしまい、ランドルフに報告しに来た騎士もその後を追いかけて行った。残されたエルネスティとアルシェラはその光景を見て厳しい表情をしている。


「ジェレミー、私は一度エデンに戻らせてもらうわ。こんな情勢でこの国にいるのは危険だからね。バルディナに殺される前に同盟国に殺されるなんて笑えないわ」

「俺もそうさせてもらう。ジェレミー、ファライアンは実質バルディナに対抗できる状況じゃない。そんな国と同盟などごめんだ。足を引っ張るだけの存在などいらん。改めて同盟についての協議は書を送る」


アルシェラはまだ一時的な撤退だからいいが、エルネスティに至っては本気で同盟を切る事も考えているんだろう。

そして聞こえてきたの悲鳴と怒声。遂に騎士団が議会への侵略を始めた。

ファライアンは崩壊する、この情報はすぐに国民にまで行きとどいて、国内の治安は一気に悪くなるだろう。



今日、実質上ファライアンは崩壊した。



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