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神様の椅子  作者: *amin*
四章
40/64

40 懐かしい再会

「ねぇルーシェル、この文字はママとルーシェルだけの秘密の文字よ」

「どうして?ミッシェルとクラウシェルには教えないの?」

「えぇ、教えては駄目、貴方しか駄目なの。クラウシェルは自己犠牲が強すぎる。ミッシェルだと女の立場を利用される事が多くなる。貴方なら……クラウシェルとミッシェルから守ってもらえる」

「ママ?」

「ルーシェル、貴方には辛い運命を背負わせてしまうわ。でも貴方はダレンへの唯一の道しるべ。貴方を守る為なら、彼は再び英雄として世界を誘導するでしょう」

「難しいよぉ……」

「ふふ……そうね、ルーシェルには少し難しいかもしれないわね。でも貴方だけなの、神様の椅子から動けないダレンを救いだせるのは」



40 懐かしい再会 



「ルーシェル?」


涙を流しながら眠っていたルーシェルが目を覚ました。ルーシェルは俺が側にいた事に安心して笑ってしがみついてくる。

怖い夢でも見たのかな?だったら起こしてやればよかったな。


「あのね、懐かしい夢を見たの。とっても懐かしい夢」

「うん」

「俺がママにね、国宝石の文字を教えてもらう夢。今でもよく覚えてる」

「……そっか」


悲しそうに寂しそうに語るルーシェル。ルーシェルが母親にこの文字を教えられたから、今こんな事になっている。バルディナに狙われる原因を作った人物、とでも言うべきなのかな。

あれから更に数カ月の月日が流れた。騎士団と議会のいざこざは絶えず、国民の不安も徐々に広がっていく。城下町に降りれば、議会と騎士団の事を噂し合う住民達で一杯だ。

ジェレミー達が騎士団を説得し、ローレンツが議会を説得してるけど、ランドルフやオルヴァー達は真っ向から反対し、リューツ議員を慕っていた若手議員達もローレンツの話に耳を傾けないらしい。

その情報が行きわたったのか、エデンの駐屯大使アルシェラとヴァシュタンの駐屯大使エルネスティは眉を顰めるだけだった。

まさかファライアンがこんな状況だとは思ってなかったんだろうな。

その時、扉がノックされて第6騎士団団長のハーヴェイが入ってきた。議員が投身自殺した日以来、ルーシェルは女王の家に缶詰め状態。必然的に御世話係の俺も缶詰め状態だ。

数時間置きのローテーションで騎士団団長自らが護衛についている。今の時間帯はハーヴェイの様だ。


「ダフネ、少しいいか?」

「俺か?」

「あぁ、お前だ」


ハーヴェイに手招きされてルーシェルを再びベッドに寝かせて部屋を出る。ドアを閉めたのを確認したハーヴェイが小さな声で用件を話した。


「今日の午後、空いてるよな。女王の間に行ってほしい。オーシャンから大使が来る」

「え?オーシャンと同盟結べたのか!?」

「あぁ、バルディナとの抗争に助け船を出してくれた事に対するお礼だってさ。オーシャン民族は1度信用したら尽くしてくれるからな。国内もある程度安定したらしいから午後に使者が来る。お前が良く知ってるライナって女が駐屯大使で来るみたいだ」

「ライナが!」


あいつ元気にしてんのかな。ある程度国内は安定したみたいで良かった。あんな残状見てしまって、どうなってしまうんだろうって思ってたから。

カーシーの事も聞かなきゃいけないし、今オーシャンがどんな状況なのかも聞かなきゃいけない。そしてファライアンの事を教えなければ。

ライナと一緒なら、いい案が出て来そうな気がする。何とかしてファライアンを1枚岩にしなきゃな。

頷いたのを確認して、ハーヴェイは軽く手を振って踵を返した。昼からか……まだ時間はあるから大丈夫だな。とりあえずエデュサに軍服借りなきゃなぁ……


「……何で議員達はいないんだよ」


午後になり、軍服に袖を通し、女王の間に辿り着いたのに中には騎士団しかいなかった。一応国からの大使が来るんだから議員も立ち会うのが道理だ。それなのに議員達は1人もいない。

流石に今の時間に来ないのはマナー違反じゃないのか?エルネスティやアルシェラだって一応来てるって言うのに。

キョロキョロと議員を探す俺にハーヴェイはやれやれと首を振った。


「議員は多分ボイコットだな。まぁあいつらはファライアンとオーシャンの同盟を良く思っちゃいねぇからな」

「どうして……」

「大所帯になればなるほど、バルディナとの戦争の色が濃くなってくる。議会はそれが気にくわねぇんだよ。だが孤立してたら、いつ攻められるかわかんねぇからなぁ」


そう言って困ったように笑うハーヴェイは冷静そうだ。やっぱハーヴェイは国宝石の影響をまだ余り受けてないんだろうか。

第5騎士団と第6騎士団は歩兵として戦う事も出来るが、メインは海軍だ。だから団長のエデュサとハーヴェイは長期の海上パトロールに出てる事もあり、ジェレミーやランドルフ達と比較すれば、女王と接する機会は少ない。

だからこそまだ影響が濃く現れていないのかもしれない。それでも議員嫌いなのは変わらないけどな。


「いいさ、奴らがいない方が話しがスムーズに行くってもんだろ」

「お前なぁランドルフ……」


バッサリ切り捨てたランドルフをハーヴェイは呆れたような口調で諌めた。やっぱりこうやって見ると、ランドルフ、オルヴァー、グレインの3人は特に影響が出てるみたいだな。

エデュサは警戒はしてるけど動く気配は今の所なさそうだ。ハーヴェイも同じ。後は……沈黙を守るジェレミーだけ。

ジェレミーは肩をすくめただけで何も言っては来ない。でも表情からして困った顔をしてるから、まだ議会を完全に憎んではなさそうだ。良かった……メリッサの話を聞いてから不安で仕方なかったから。

その時、扉が開き、騎士に案内されて懐かしい奴が入ってきた。褐色の肌に紫の束ねられた髪、勝ち気そうな表情に肩にとまっているオウム……ライナだ。

ライナは俺達の前で止まり、社交辞令で頭を下げる。


「オーシャンの駐屯大使として馳せ参じたライナと申します。此度は同盟と言う形をとっていただいたことを感謝する」

「勇猛な者たちが集う国オーシャン、君達のその猛き心を我らに預けてくださる事を誇りに思います」


ジェレミーもそう返せば、ライナは形だけの社交辞令を終わらせたのか、ニカッといつもみたく笑った。なんだ、やっぱりいつものライナだ。


「ちょっとどう言う事だい?あたしは一応国の代表だよ?騎士団だけしか歓迎してないじゃないか」

「すまないな。今は少しゴタゴタしててな……議会にはあまり近づかない方がいいかもね」


相変わらず痛い所をばっさばっさ切ってくるライナにジェレミーも困り顔だ。でもここで下手な事を言うのはまずい。ここにはアルシェラやエルネスティだっているんだから。

ライナはアルシェラ達に視線を送り頭を下げる。


「あんた達がエデンとヴァシュタンの代表って所かい?」

「オーシャン人は初っ端から馴れ馴れしいわね……まぁそう言う事になるわ。よろしくしてちょうだい」

「ヴァシュタンの駐屯大使エルネスティだ。以後よろしく頼む。気が合いそうな奴が来て助かったよ」


いきなりのライナの態度に呆れたアルシェラと違い、エルネスティは気に入ったのか返事をした後、握手を求めた。まぁライナの性格はヴァシュタンでは受け入れられそうだよな。

でもこれで同盟国は3つになった。後は東天を引きいれればバルディナとパルチナ、ザイナスに対抗できる力が出て来るかもしれない。

バルディナもビアナ、マクラウド、東天、忍びの集落を引きいれる為に何かをしてくるかもしれない。何が何でも先に協力を取り付けなければ。

そしてダレンに会わなきゃいけない。道を示してほしい、過去の大戦の英雄に。


「た、大変です!」


和やかなムードのなったのも束の間、1人の騎士が慌てて扉を開けて入ってきた。その手には書が握られている。

正式な大使が来てるって言うのに、これは礼儀知らずだ。どうやら騎士は第1騎士団の奴らしい、ジェレミーが溜め息をついて、そいつの元に足を運ばせた。


「今は大使がお目見えになっている。話は後で聞こう」

「す、すみません!ですがこれをっ……今しがた届いたものです!」

「今見なければならないのか?」

「はい!特にアルトラントの客人には絶対に見ていただかなければ!」


それって俺の事か?一体何が書かれてるんだ?

ジェレミーが書を受け取ったのを確認して、騎士は深々と頭を下げて部屋を出て行った。ジェレミーはライナに謝ったが、そこはライナだ。そんなの気にしなくていい、と言って笑って返しただけだった。

それよりも書の中身が気になる。ここで開けてほしい。


「ジェレミー、ここで開けてくれよ」

「しかし……」

「あたしの事なら気にしなくていいよ。それにあの騎士もダフネに見てほしいって言ってたじゃないか」


ライナが助っ人に回ればジェレミーは仕方ない、と言ってエルネスティとアルシェラに許可を取った。2人とも書が気になるらしく2つ返事で許可をする。

書が開かれて、ジェレミーが軽く目を通して固まった。なんだ?そんなに可笑しなことが書かれてるのか?


「ダフネ、来月のこの日……アルトラントの国王と后の公開処刑が行われるらしい」

「は?」


全身の血が一瞬で巡らなくなったような感覚がした。身体が一瞬で冷え上がる。待てよ、バルディナは国王と后をあの日から10カ月後に処刑って聞いた。

まだ7カ月しかたってない。まだ処刑は早すぎる!

慌ててジェレミーから書を奪い中身を読み上げる。それと共に広がったのは絶望。


“親愛なるファライアン、我がバルディナは反逆国であるアルトラントの国王と后を正義の名のもとに処刑する事を決定した。ついては来月の今日、午後から取り行う処刑を是非貴方方にも拝見していただきたい。欲望に染まった国王と后の姿を見ていただきたいからだ。そしてもう1つ、第2王子をそそのかし国外逃亡に走らせたダフネと言う青年の両親を厳罰に処する事に決めた。しかし我らはこの事態を決して望んでいる訳ではない。ダフネ自らルーシェル様を連れて戻ってくるのなら、両親と后だけは処刑を取り止めよう。彼が貴国に身を隠しているのであれば、探し出して対応を取っていただく事を望む”


そんな……国王と后だけじゃない、親父とお袋までも処刑するって言うのか?

手の力が抜けて書が地面に落ちる。それをライナが拾い上げて、中の文を読み上げて俺の顔を見た。


「ダフネ……」

「ど、どうすればいいんだ。今こそ声明を!声明を出してくれジェレミー!バルディナを非難する声明をっ!」

「……今はまだ動けない。議会の了承がなければ書は作れないからな」


こんな時まで何言ってやがるんだ!?そんな事言ってたら国王と后が処刑されてしまう!そんな事になったらアルトラントの国民は絶望する。

抵抗する気力すら湧かなくなるだろう。そして俺のせいで親父とお袋までもっ!


「ジェレミーあんたまだ議会を気にしてるのか!?頭可笑しいんじゃないか?あんな売国奴をなんで庇う!声明を出せ、奴らがやってる事は民主主義に反すると!」


グレインの力強い言葉にジェレミーは力なく首を振る。その状況に苛立ったランドルフとオルヴァーがさらに追い打ちをかけた。

その状況を見かねたエデュサとハーヴェイが落ち着かせようとランドルフ達を止めようとしたが、ランドルフはそれを払いのけてジェレミーの胸倉を掴んだ。


「てめぇまさか議会に傾倒してるとか言わねぇよなぁ?てめぇが裏切り者なのか?」

「そ、そんな訳ないだろう!」

「じゃあなぜあいつらを庇う!奴らのせいでファライアンが可笑しい事になってんのが分かんねぇのか!?」

「今のままだと俺達はあの頃に戻ってしまうぞ!今の騎士団は過去のクーデターと同じ道を走ってる!」


やっぱりジェレミーは異変に気づいてたんだ……だから自らを戒めてたんだ。どんな状況でも決して民主主義を無くさない、と。

でもオルヴァーやランドルフ達にとって、ジェレミーの言葉は苛立ちしか湧かなかったようだ。


「俺達が原因とでも言いてぇのか!?やっぱてめぇは議会に通じてんじゃねぇのか!?」

「違う、そんな事は絶対にない!」

「信用出来ねぇんだよお前をよ!オルヴァー、グレイン!ジェレミーを捕えるぞ!てめぇは暫く牢で頭でも冷やしとけ!」

「ランドルフ……」


捕えるだって!?オルヴァーとグレインはジェレミーを捕えようと腕を伸ばす。でもそれをハーヴェイとエデュサが盾になる様に庇った。

ランドルフ、グレイン、オルヴァーとエデュサ、ハーヴェイが睨み合う。


「騎士団まで疑いだしたらキリがないだろう。俺達が1枚岩じゃなくてどうする」

「邪魔すんなハーヴェイ、そいつは議会に傾倒してやがる。内通者かもしれねぇ!」

「女王にあれだけ仕えてきたジェレミーに対して酷い言い分ね。落ちつきなさい、頭に血が上ってるだけよ」

「俺達は正当な事を言ってるだけだ。可笑しいのはあんた達だろ」


睨み合う騎士団達を前にアルシェラとエルネスティは溜め息をついた。


「まさかここまでとはね……5大国家が聞いて飽きれるわ」

「今のファライアンにバルディナとパルチナ、ザイナスは止められない。これは少し俺達も考える必要があるかもしれないな」


このままじゃエデンとヴァシュタンは離れて行ってしまう。そんな事になったら本当にお終いだ。バルディナを止められる国はどこにもなくなる。

ライナは今の状況を茫然として見ている。まさかここまで酷いとは思ってなかったんだろう。騎士団同士までいがみ合う、そんな所まで来てしまったんだ……


「助けて、くれよ……なぁ!アルトラントが、国王たちが殺されるのに……なんでこんな事で争ってんだよ!」


悔しくて悲しくて叫んだ声と共に零れ落ちたのは涙。次第に声も出せなくなり、泣き崩れる俺をランドルフやジェレミー達が呆然として眺めていた。

そんな俺をあやすようにライナが背中をさする。


「ダフネ、ヴァシュタンは声明を送ってやる。恐らくヴァシュタンにも書は届いてるだろう。厳重な抗議をしてやる」

「エルネスティ……」

「そうね、ヴァシュタンにも来てるのならエデンにも来てるかもしれないわね。まぁ私達は公開処刑に参列はしないわ。書もそのまま送り返すつもりよ」

「アルシェラ……」


この2人の方が、今は遥かに頼りになるじゃないか。どうしてファライアンがリーダーシップを発揮してくれない。どうして、どうして……

全て国宝石のせいだ、国宝石が全てを狂わせている。あの女王のせいで……そう思った自分を恥じた。

女王だって好きで継承した訳じゃない。なのに俺は女王を今一瞬でも憎んだ。そんな自分が更に惨めだった。

ランドルフは俺を見て舌打ちをし、ジェレミーから離れて部屋を出て行ってしまった。オルヴァーとグレインもその後を続いて部屋を出て行く。

残された俺達の間に包まれたのは沈黙。


「ダフネ、すまない……けど俺達は過去の過ちを繰り返す訳にはいかないんだ」

「……」

「再びクーデターが起これば、今度こそファライアンは滅亡する。それだけは避けなければいけない」


分かってるよ、分かってるけど……割り切れない。親父とお袋を助けたい、国王と后の処刑を取り止めてもらいたい。

もし処刑なんてなったら直接それを見なければならないクラウシェルとミッシェルにどれほどの心の傷が残るんだ。一生消えない、深い悲しい物になるに違いない。それはルーシェルだって同じだ。

お願いだ、この状況を誰か助けてくれ。誰でもいいんだ、誰か……誰か!

泣いた所で助けてくれる者も現れない。


都合良く奇跡なんて起こりはしない。



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